Act.8-41 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.2 丙
<三人称全知視点>
「メガロマニア! ホワイトリリィ・スパイラル!」
自身の刀身に月属性の魔力を宿す効果と自身の月属性魔法攻撃の威力を上昇させる効果を付与するという月属性の特殊な付与術式を発動させたプリムヴェールはオルパタータダに肉薄すると同時に白い魔法陣をラインヴェルドの足元に展開し、魔法陣から螺旋を描くように回転する無数の純白の魔力を打ち上げた。
聖属性魔法「ホワイトリリィ・スパイラル」――闇属性魔法「ブラックリリィ・スパイラル」と対をなすプリムヴェールのオリジナル魔法だ。
「《蒼穹の門》!」
ラインヴェルドは《蒼穹の門》を展開して魔力の奔流を回避しつつ、マグノーリエ付近へと転移して騎士プリムヴェールの防御を回避する。
「そろそろ決めさせてもらうぜ! 審判の王権」
ラインヴェルドが発動したのは、ブライトネス王家に伝わる口伝戦略級魔法だ。無秩序を秩序によって支配する魔法と言われる消滅属性魔法で、火、水、風、土の四属性からなる。
発動にはブライトネス王家の血を色濃く受け継いでいる必要があり、全ての魔力を消費する。
火、水、風、土の魔力を強引に重ね合わせることで生み出した虚数エネルギーを広範囲に放つ。完全に制御することで狙った敵のみを消滅させることが可能だが、ラインヴェルドは当然、そのレベルに達している。
「――ッ! ダークマター・カンタフェイト! ムーンフォースピラー・コンセクティブ! ムーンフォース・メテオライン! ムーンフォース・コンプレッション!」
この時点で、プリムヴェールは自分の生存が絶望的であることを察した。
狙いをオルパタータダに定めると道連れにするべく、圧縮した暗黒物質を剣先から飛ばし、敵の足元に命中させると同時にそこから暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げる闇属性魔法、無数の月光の柱が戦場に顕現する戦術級魔法、月光の流星を降らせる戦術級魔法、月属性の魔力で相手を押し潰す大魔法をほぼ同時に発動する。
「――《冥府門》」
しかし、オルパタータダは攻撃が命中する前に闇の魔法陣の中に溶けていき、プリムヴェールの攻撃は届かなかった。
「第四防衛術式」
マグノーリエは時間的、空間的に断絶を一時的に発生させることで一切の攻撃を遮断する究極の物理防御によって消滅の魔力の奔流から身を守った……が、消滅の光が消えた時、プリムヴェールの姿は当然ながら跡形もなく消えていた。
「……第三魔滅術式!」
「おっと、やべぇ!!」
虎の子の魔力を解放し、マグノーリエが範囲内の魔力同士を対消滅させることで大規模な破壊をもたらす魔法を発動する。
《冥府門》から地上へと戻ろうとしていたオルパタータダは一目散に闇の中に戻り、ラインヴェルドは聖紋、神堅闘気、武装闘気、覇王の霸気、更には求道の霸気をも駆使してラインヴェルドのでき得る最善の防御を行った。
ラインヴェルドの防御は異常なほどの強固さを誇った。圧倒的な高熱を伴ったエネルギーの奔流からラインヴェルドを守ったのだ。
無傷とは言い難いが、その強大な力に確実に耐えている。
「水竜の激流!」
だが、これで終わりでは無い。ラインヴェルドが耐えることはマグノーリエの中では予測の範囲内だったのだ。
ラインヴェルドにトドメを刺すのは「第三魔滅術式」ではない。その役目を与えられたのは、想像を絶するほど増幅された神光闘気と武装闘気、覇王の霸気が込められた精霊術法の激流がラインヴェルドに命中して防御を打ち砕き、猛烈な神光闘気がラインヴェルドの体内へと流れ込んだ。
ラインヴェルドの身体が流れ込んだ神光闘気によって焼け爛れ、ズタズタに破壊され、血液を通って心臓に辿り着くと同時に破裂させる。
「……か、勝ったわ。リベンジとプリムヴェールさんの仇は」
「残念だったな? 俺は死んでないぜ?」
そこには五体満足のラインヴェルドの姿があった。
確かに殺した筈だ。ポリゴンと化して消滅する筈にも拘らず、その兆候はない。
「種を明かせば、神聖完全蘇甦を使ったんだ。万が一に備えて自分が死亡したタイミングで発動するように仕組んでおいた」
火、水、風、土の四大属性に光属性を加えた五属性を扱えるラインヴェルドと火、水、風、土の四大属性に結晶属性を加えた五属性を扱えるオルパタータダ――実はその情報は古いものだ。
実際はラインヴェルドが使えるのは火、水、風、土、神聖の五属性、オルパタータダは火、水、風、土、聖、結晶の六属性。
そう、もうお分かりだろうがラインヴェルドもオルパタータダも聖人の領域に到達していたのだ。
「神聖完全蘇甦」は聖属性の低級蘇生魔法「聖燦蘇甦」の上位互換のような魔法で死者を蘇生させると同時に傷を癒す効果がある。
ラインヴェルドに折角与えたダメージも全て回復されてしまった。マグノーリエの魔力が底をついた今、攻撃手段は『聖天樹の大杖』に込められたスキルしか存在しない。
「【妖精乱舞】!」
「――悪いが今度こそ決着だ!」
色とりどりのデフォルメしたような妖精を顕現した直後――闇の魔法陣から飛び出したオルパタータダが武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『国王陛下の月影双剣』を振るい、マグノーリエを両断した。
◆
「闇黒六砲」
小さな六つの闇の球が生じ、一斉に上空を飛ぶ本来の姿へと戻ったカリエンテへと襲い掛かる。
カリエンテは華麗に上空を飛びながら無軌道で襲い掛かる闇の球を躱すと、口から炎の球が放った。
『裁きの焔降!』
上空で炸裂した炎の球は無数の炎の塊と化して降り注ぐ。
神速闘気を纏ったメネラオスはその全てを一切無駄のない動きで躱した。
カリエンテは森の中を敵本陣に向かって人間の女性の姿で歩いていた。その彼女が古代竜本来の姿で遭遇したメネラオスと戦っているのか――その理由は、【ブライトネス王家の裏の剣】であるラピスラズリ公爵家の当主が極めて接近戦での暗殺術に秀でているからだ。
竜の姿に比べればスペックが劣る人間の姿で高い暗殺技術を誇る先代当主と相対しながら闇魔法や暗黒魔法に警戒するのは厳しい。
これがかつてのカリエンテならば人間体でメネラオスと戦っていただろう。不利であっても力で捩じ伏せるのが古代竜らしい、自分らしい戦いであると考えていたからだ。
ローザと出会い、敗北したカリエンテは戦術というものがいかに大切かということを学んだ。カリエンテも実は成長しているのだ。
……といいつつも、実は九割ほどはこれまで同様に力押しで決着をつけているのだが。
『焔の槍雨!』
カリエンテの周囲に赤い魔法陣が出現し、そこから大量の炎の槍が雨のように降り注いだ。
『火竜帝の咆哮!』
更に武装闘気と覇王の霸気、神光闘気を練り込んだ猛烈な溶岩流のブレスをメネラオスに向けて放つ。
「漆黒暴奔流砲」
地面から漆黒の魔力の奔流が噴き上がり、溶岩流のブレスに命中――拮抗する。覇王の霸気の黒い稲妻が迸り、覇王の霸気の衝突による衝撃波が戦場に広がった。
『我のブレスに拮抗するとは……やはり、侮れんな。先代ラピスラズリ公爵』
「流石は最古にして最強の竜種――古代竜だな。やはり、一筋縄ではいかないか。……今のは私の闇属性魔法の切り札だったのだがね」
勿論、今のメネラオスの切り札ではない。かつて、暗黒属性魔法を取得する以前にメネラオスが切り札としていたのがこの魔法だ。
メネラオス達【ブライトネス王家の裏の剣】の暗殺は直接的かつ皆殺しにして口を封じる強引なものだ。暗殺ではできる限り証拠を残さないために大規模な破壊魔法は使用しない。
しかし、メネラオスが魔法を使わないという訳ではない。魔法が求められる暗殺対象というのは魔法大国ブライトネス王国にいれば必ず存在する。カノープスやメネラオスが強力な魔法を習得しているのはそのためだ。
実際、カノープスにとって暗殺対象の中でも強者だったカルロスは得意の近接暗殺術だけでは暗殺することはできなかった。
「さて、いい加減頭上から見下ろされるのも鬱陶しくなってきた。ここからは対等な位置で戦わせてもらうことにするよ」
カリエンテの顔が引き攣った。メネラオスが空を歩き始めたのだ。
『まさか、ローザ嬢から八技を教えてもらっていたのか!?』
「ローザは教えてくれなかったよ。どうやら、私達が敵に回る可能性は今でも考えているようだからね。だから、見て学んだ。……寧ろ教えてもらえるということの方が稀有だ。門外不出の技術というのは見て学び、習得するものだからね」
瞬く間にカリエンテの目の前まで移動した、メネラオス。
「さあ、見せてあげよう。これが私の魂魄の霸気だ」
メネラオスの魂魄の霸気《創怨魂》――その力は擬似的に魂魄を作り上げるというものだ。
「暗黒魔法-鬼哭怨喰」
この魂魄の霸気を駆使して放つのはメネラオスの奥の手の暗黒属性召喚魔法。
これまでに殺害した者達の魂を「虚無の怨霊」へと変化させて鬼哭門に閉じ込め、発動することで「虚無の怨霊」によって相手の記憶と存在を抹消するというこの魔法だが、これには発動と同時に鬼哭門の内部に閉じ込めていた魂魄を消費してしまう、つまり一度しか使えないという制約があった。
その制約を魂魄の霸気《創怨魂》を使うことによって無くすことができるのだ。
『――ッ! こうなれば仕方ない! 火竜帝の急降下突!』
全身の鱗に炎を纏って遥か上空まで飛翔して「虚無の怨霊」の奔流を躱すと、そのままメネラオス目掛けて急降下した。
武装闘気と覇王の霸気を纏ったカリエンテと異様に厚みのある黄色く鋭い爪に武装闘気と覇王の霸気を纏ったメネラオスが激突する。
『…………ゴボッ。我の負け、か』
歪んだメネラオスの幻影と背中に深々と突き立てられた『黒刃天目刀-可変-』の感触から敗北を悟ったカリエンテはそう呟くと無数のポリゴンと化して消えていく。
闇属性魔法「黒闇幻影」――自分と瓜二つの幻影を作り出す魔法をメネラオスは発動していた。
カリエンテが激突……否、擦り抜けたのはこの幻影だったのだ。
幻影を囮にしてカリエンテの攻撃を躱したメネラオスは上空から武装闘気と覇王の霸気を纏わせた剣を突き立て、カリエンテを撃破した――それが、二人が衝突する一幕に起きていた全てだ。
「さて、次の戦いに赴くとするか」
カリエンテの消滅を見送る間もなく、メネラオスは次の強敵との戦いを求めて森を歩き始めた。
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