Act.8-39 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.2 甲
<三人称全知視点>
第二回戦第二試合が始まった。
戦いの火蓋が切られて早々、エイミーンが本陣で「第四防衛術式」を張って身を守り、ラインヴェルドとオルパタータダ、ヴェルディエ、ディグラン、バダヴァロート、ピトフューイ、カノープス、メネラオス、レジーナとミーヤがそれぞれ敵本陣を目指して各々行動を開始する。
一方、琉璃のパーティも戦闘開始早々に行動を始めていた。リィルティーナ、レミュア、マグノーリエとプリムヴェール、カリエンテ、スティーリア、ラファール、ナトゥーフとオリヴィアがそれぞれ敵本陣のある森の最奥を目指して行動を開始したのだ。
さて、この森の中での遭遇戦――最初に激突したのはリィルティーナとヴェルディエだった。
「……私一人で獣皇様と戦って本当に勝てるのでしょうか?」
「さぁのぉ? じゃが、儂程度に勝てなければ優勝は夢のまた夢じゃぞ? ……お主も転生者なのだそうだな? しかも、空と光魔法を使える聖女じゃという。虚空属性に通ずる空属性の使い手相手に勝てるようにならなければ、儂も万全のリーリエ殿に勝てる可能性は皆無じゃからのお。ここでしっかりと鍛えさせてもらうぞ」
とんでもない相手と初っ端から遭遇してしまった(とはいえ、相手には恐ろしい師匠やら、師匠と昔パーティを組んでいた伝説の冒険者な国王陛下達やら、ブライトネス王国の毒剣の二世代の当主やら、もっと厄介な化け物達が犇いているので、それに比べれば幾ばくかマシだが)、リィルティーナの表情は優れず、もう一方のヴェルディエは目指す高みへの通過点としてこの戦いを見据えていた。
「聖纏掌脚」
『真龍の籠手』と『真龍の脛当て』を装備した腕と脚に聖なる魔力が宿る。
ヴェルディエはその上から「震雷八卦掌」を発動して黒い稲妻を纏わせた。
前世で古流武術を齧った経験のあるリィルティーナは一瞬にして直接の手合わせすれば勝ち目がないことを実感――『聖翼の神杖』を構えて「月堕とし」を放った。
「ほう、これが噂の『月堕とし』か。なかなか恐ろしい魔法じゃな」
――なんで動けるの!? 百倍の重力が掛かっているんだよ!? と内心叫びながら、聖なる光を収束した破魔矢で敵を穿つ「穿ち突き立つ月輪の矢」を放つリィルティーナ。
対するヴェルディエは覇王の霸気の黒稲妻を黒い風に変化させ、「巽風八卦掌」を放った。
「聖光浄弾」
「ならば、こちらも応じるとしよう。聖光浄弾」
黒い竜巻を躱し、浄化の力を持つ聖光の弾丸を放ったリィルティーナに対し、ヴェルディエも同じ魔法で応じた。
神聖魔法は聖魔法を、聖魔法は光魔法を包括する――聖人に至ったヴェルディエに光魔法を使うことなど雑作もない。
聖属性が付与された「聖光浄弾」はリィルティーナの光属性の聖光浄弾」を上回る火力を見せ、確実にリィルティーナの聖光浄弾」を消し飛ばした。
いくつかの聖光浄弾」がリィルティーナに迫るが、リィルティーナはその全てを回避する。この圧倒的な回避には見気による未来視が大きく貢献していた。
「聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾、聖光浄弾」
「……少し鬱陶しくなってきたのぉ。震雷八卦掌」
纏っていた黒い風を再び黒い稲妻――覇王の霸気本来のものへと変えると、ヴェルディエは放たれる聖光浄弾全てを見気を駆使して躱し、瞬く間にリィルティーナに肉薄した。
「穿ち突き立つ月輪の矢」が使えないほどの距離まで肉薄されたリィルティーナは淡い青黒い輝きを放つ骨格から肉や皮膚の形成を経て狼の姿形をした鎧のようなものを纏う《狼》で防御に転じようとするが、それよりも先にヴェルディエの掌底がリィルティーナに命中した。
「……くっ……大快癒光」
「ほう、この状態でまだ治癒術を使えるのか。だが、それではただ僅かに延命しただけじゃ」
そして、二度目の「震雷八卦掌」が放たれる。まだ完全に治癒が終わっていない状態で放たれた掌底は今度こそリィルティーナの身体を無数のポリゴンへと変えた。
◆
「焔獄孤空連斬!」
魔法剣に宿した焔を孤月状の斬撃として連続で放つレミュア――その標的はドワーフ王のディグランだ。
「英雄覇纏! 朧黎黒流・疾風覇薙」
覇王の霸気と武装闘気、更には英雄覇気という抵抗力が弱ければ術者に屈服して心酔してしまうほどの圧倒的な魔法闘気を魂魄の霸気《英雄王》によって武器に纏わせ、聖属性の魔力を纏わせると横薙ぎすると同時に解放して猛烈な光の真一文字斬りを放った。
孤月状の焔は瞬く間に両断され、猛烈な光の真一文字がレミュアに殺到するも、レミュアは土の壁を作り出す「土塁防壁」を囮として利用して攻撃から身を守った。
(…………やっぱり、魔法では勝ち目がないわね)
レミュアは第一回戦の試合を見る中で、自分の魔法の限界を感じていた。
自分の持つ火、水、土の魔法ではこのトーナメントを勝ち上がるのは不可能だろうと。
(ここでお披露目……まあ、次に当たるならローザさん達だし、既にネタが割れているんだから出し惜しみしない方がいいわよね)
「――汝、六属性の一角を担う火の精霊王よ! 今こそ契約に従い、我が下に馳せ参じ給え! 精霊召喚・イフェスティオ!」
レミュアの手の甲に赤い魔法陣のようなものが浮かび上がり、呼応するようにレミュアの目の前に灼熱の渦が生じた。
現れたのは赤髪の女性だ。燃え上がる炎でできた扇情的なドレスを身に纏っている。
本来、精霊はその姿を捉えることができない。
マグノーリエの魂魄の霸気によってその姿を捉えることができるが、その姿は小さな球のようなもので、このような人型の姿は取らない。
しかし、高位の精霊となれば様々な姿を取るようになる。このユーニファイドに現れる精霊のほとんどは実は微精霊と呼ぶのが適切な下級の存在なのだ。
この事実をローザ、ミーフィリア、レミュアの三人が知ったのは今から三年前――ミーフィリアから幼いレミュアを拾ったという森に案内してもらい、古い集落跡を探索した時のことだ。
緑霊の森を遥かに超える巨大な集落だった……が、何らかの事情により滅びを迎えたらしい。
残っていた文献は古代北部派エルフ文字で書かれていて、エイミーンであっても解読は不可能だったが、ローザが自力で内容を紐解き、結果としてサンクタルクが【世界樹の森林都市】の王族の血を受け継ぐ者であることと、精霊の棲家、或いは精霊の世界の存在が明らかとなった。
精霊力が極めて満ちた場所に存在するという精霊の門を通った先に存在する世界――それが、精霊の棲家や精霊の世界と呼ばれる場所だ。
六大精霊と呼ばれる火、水、風、土、光、闇の精霊の住処が別々に存在し、精霊を認識する力が無くともその姿を捉えることができる精霊王と呼ばれる存在が君臨している。
文献にもその詳しい場所に関する記述は無かったが、その中の一つがヴォルガノン火山にあることがカリエンテからの情報で判明した。
その精霊の門を通った先で出会ったのが火の精霊王イフェスティオだったのである。
精霊王と契約できる者は精霊王が認めたエルフに限られる。……約一名、ローザは人間でありながらも適性があるとのことだったが。
結果として、エイミーン、ミスルトウ、マグノーリエ、プリムヴェール、レミュア、ミーフィリア、ローザは全員契約しても構わないという判定を受けたが、やはりエルフの中で火の精霊に対する忌避があるらしく、結局、ローザ、ミーフィリア、レミュアの三人がイフェスティオと契約することとなった。
ちなみに文献によれば、残りの精霊王は水色の髪を持つ美しい少女――水の精霊王イセリア・リヴィエール・ファンテーヌ、風を纏う魔槍を持つ、碧玉色の髪の女性――風の精霊王シュタイフェ=ブリーゼ、ドレス姿の妖艶な茶髪の女性――ロイーゼ・ヴラフォス、二対の金色の翼を持つ銀髪の女騎士――光の精霊王アレクサンドラ、華奢な手足に童女のように小柄な体格をした、美しい夜色の髪と漆黒の瞳を持つ漆黒の翼の生えた少女――闇の精霊王クロノワール・アッシュベリーということらしい。
『久しぶりだな、レミュア。力を貸せばいいのだな』
「ええ、どうしても勝ちたい戦いなの。……相手は強敵だわ」
『確かに強敵のようだな。……ドワーフか。かつて戦ったことがあるが……敵意はあっても害意はないようだが?』
「ディグラン様は同盟を組んでいる国の盟主なのだけど、今回は優勝賞品を目指したトーナメントで違うチームとして参加しているの。優勝するためには勝たないといけないのよ」
『……なるほど、よく分からないが勝てばいいのだな?』
あまり状況は理解していないが、イフェスティオはレミュアを勝たせるために武器型の精霊武装と衣装型の精霊衣装に形態変化した。
炎と化したイフェスティオは『妖精剣士の彗星細剣』とレミュアの独創級の装備の服を変化させ、灼熱の炎を纏った真紅の細剣を持った真紅の焔でできたドレス姿となる。
「紅煉の断罪」
精霊武装と化した『妖精剣士の彗星細剣』の剣先が真紅に輝くと共に猛烈な熱量を持つ荒れ狂う劫火を解き放った。
「なかなかの熱量だな。……燦く星、宙より堕ちる」
猛烈な聖なる光が凝縮され、一つの天体のように変化すると、そこから収束された光が放射された。
聖属性獲得者に対し、ローザが贈ったこの奥義級の聖属性魔法は真紅の劫火と僅かに拮抗したものの、すぐに劫火を上回ってレミュアに迫る。
『これほどとは……まさか、ドワーフがここまでの力を持っているとは。古の時代の戦いでもここまでの力を持っている者はいなかったぞ』
「種族の限界を突破した聖人という領域に到達しているそうよ。……ところて、聞き捨てならないことがあったけど、昔はエルフとドワーフは戦争をしていたの!?」
『私が最後に召喚された時はエルフとドワーフの戦争の時代だった……っと、そんなことよりも今は戦いに集中した方がいい』
「そうね。――紅煉の断罪」
再び剣先が真紅に輝くと共に猛烈な熱量を持つ荒れ狂う劫火を解き放つレミュアだが、「燦く星、宙より堕ちる」から再び放たれた光条が進路を切り開いた。
「――ッ!」
「朧黎黒流・覇道雷光!」
その隙を逃さず、ディグランは覇王の霸気と武装闘気、更には英雄覇気という抵抗力が弱ければ術者に屈服して心酔してしまうほどの圧倒的な魔法闘気を魂魄の霸気《英雄王》によって武器に纏わせ、聖属性の魔力を纏わせた『剛地鋼剣ドヴェルグティン』で斬り上げを放ち、そのまま振り下ろした。
一度目の攻撃を辛うじて火の精霊王の炎を固め、武装闘気を纏わせて作り出した即席の盾で防ぐも、二度目の振り下ろしには耐えきれず、レミュアは盾諸共切り裂かれた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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