Act.8-34 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.9 下
<三人称全知視点>
「……そうですか。ホーリィさんが一撃で」
ラピスラズリ公爵家の人間ではないため、リスティナはその強さがどれほどかということは具体的には知らなかったが、革命軍傘下の暗殺集団シャドウウォーカー所属の暗殺者であることを踏まえれば相当な手練だったということになるだろう。
そもそも、十全に闘気を使える者が猛者とそうでないものを分ける一線となりつつあるこのコミュニティで、闘気を使える者が一撃で撃破されたというのはそれだけで衝撃的な出来事なのだ。
少なくとも敵は闘気使いを一撃で撃破できるほどの手練れ――そう考えると討伐の難易度は大きく跳ね上がる。
「より具体的な説明すると、シャチのような魔物がバリアになんらかの干渉を行い、その後氷のゴーレムの殴りで一撃で沈められたという状況です」
「カッペ、報告ありがとう。……さて、困ったわね。中途半端なメンバーで行ってもむざむざと負けに行くようなものだし、いっそ全員で仕掛けた方がいいかもしれないわね」
本来、トーナメントのシステム的には倒されれば即負けが決定するチェスでいうところのキングの立場にあるリスティナが自ら戦場に向かうことはあまり好ましいことではない。
しかし、仮にこのままリスティナを置いて残るメンバーで仕掛けても敵の勝利が揺るがなくなり、リスティナ一人では敵を仕留め切ることが難しい状況なら、いっそ全員で仕掛けるのもありなのではないかと考えていた。
戦力を出し渋るよりも一気に仕掛けた方がいい――暗殺貴族であるリスティナにとっては不本意な物量戦だが、相手が正攻法以外許さない布陣を組んでいる以上はそれに応じる他にないのだ。
「それでは、参りましょう」
◆
『黒刃天目刀-濡羽-』を鞘から抜き払い、構えるヒース、『黒刃天目刀-濡羽-』を構えて戦意で瞳をギラつかせるスティーブンス、『黒刃天目刀-濡羽-』を構えて無表情で足を進めていくジミニー、『黒刃天目刀-濡羽-』を鞘に収めたまま見気を駆使して警戒しつつ、いつでも鞘から剣を抜けるように手を添えるアルバート、幻想級の備中鍬をスキルで作り上げて構えるカッペ、PGM ウルティマ・ラティオ・ヘカートIIをスキルによって作り上げて担いで運ぶヘクトアール、飢えた肉食獣のような目をした『黒刃天目刀-濡羽-』を抜き払い、歩みを進めるフェイトーン。
そして、『黒刃天目刀-濡羽-』に「光聖剣」を付与して、更に左手で「光聖剣」を作り出して二刀流の構えを取るリスティナ。
その力で一国を落とすことすら可能な【血塗れ公爵】に立ちはだかるのは、地上スレスレを空中を泳ぐように進むシャチ、シャーベットのゴーレム、大きなカエル型の魔物、橙色の衣装の魔法少女風の魔物、そして青のビキニの上からカーディガンを羽織り、下は青のミニスカートという出で立ちの神祖の海棲人の女性と、その胸元に抱えられている可愛くデフォルメされたペンギンの氷像のような魔物。
「……あのペンギンとか、どう考えても愛玩系だし、橙色の可愛い女の子と美しい海賊女帝さん以外は正直そこまで強そうじゃねぇんだけどな。……しかし、本当にとんでもない美形だよな」
「ただ、そう見せかけてというのがローザお嬢様ですからね、ヘクトアールもご存知でしょうが。……シャチとゴーレムに関しては相当な強さということでしょうし、他も同等の強さと考えるべきでしょうね」
アルバートの真面目な返答に「だよな……」と現実逃避気味な表情を浮かべるヘクトアール。
内心では今すぐ尻尾を巻いて逃げたいと思っているのだが、ここで陣頭指揮を取っているのが先代の【血濡れ公爵】夫人ということもあり、ヘクトアールは完全に退路を絶たれていた。
リスティナ達はそれぞれの方法でペンギン、シャチ、シャーベットのゴーレム、大きなカエル型の魔物、橙色の衣装の魔法少女風の魔物、橙色の魔法少女、海賊女帝に襲い掛かろうとした……のだが。
海賊女帝が抱えていたペンギンを空へと放り投げた。
投げられたペンギンは飛べない鳥にも関わらず空を飛び、リスティナ達の丁度頭上に達する。
その瞬間――ブリザードが大きく翼を広げ、猛烈な吹雪を地上へと放った。
猛烈な吹雪は一瞬にしてリスティナ達を氷漬けにしてしまう。
咄嗟に凍結対策の神光闘気を迸らせるリスティナ達だが、まるで効果がない。
全く溶ける様子のない永久凍結に追い込まれ、無防備を晒したリスティナ達にDelphiniumが『海賊女帝の湾曲刀』で強烈な斬撃を浴びせ、シャーベットが吹雪を纏った拳でストレートパンチを放ち、オルカが「キゥィイー!」と鳴きながら噛み砕き、バトラコが猛毒の舌を鞭のように操り、柑橘の魔女シトラスクイーンが武器のボウガンから放った橙色の矢が無数に分裂して襲い掛かり、瞬く間にリスティナ達は全滅した。
◆
「あ〜、流石にこうあっさり全滅させられるとそこまで勝負事に興味がない俺も心が折そうなんだけど……。なんというか、ラピスラズリ公爵家の暗殺者の矜持が傷ついたというか……」
「へぇ、ヘクトアールさんにもラピスラズリ公爵家の暗殺者の矜持があったんだねぇ」
「酷えな、ローザお嬢様」
戦いに負けず、控えの部屋に戻ってきたリスティナ達は皆消沈していた。
気配一つなく部屋に入ってきたローザはリスティナ達に次々と飲み物を手渡すと、最後にヘクトアールに手渡した。
「まあ、今回はかなり高い基準の相手を選定したからねぇ。COMのAIもかなり高精度に設定しておいたし、そもそも陽夏樹さんは従魔を含めれば『白百合の楽園』内でも上位の実力者だから……まあ、今回参加しているパーティの中でも優勝候補筆頭のつもりで出したから、そう気を落とすこともないと思うけどねぇ」
「……マジか。なんでそんな難易度設定にしたんだよ」
「……いやぁ、ただの雑魚だとラインヴェルド陛下やオルパタータダ陛下に『つまらん』って言われそうだからねぇ。それに、超越者やオーバーハンドレッドレイドボスクラスの敵相手に貴重な戦闘経験を積むことができたと思えば儲けものじゃないかな?」
「……そういうことじゃ、俺は何も言えないなぁ」
国王陛下とその一族を最上とするラピスラズリ公爵家の使用人である以上、国王陛下の気持ちを慮ったローザのサプライズを否定することはできない。
例え、それが理不尽の如きサプライズだとしても一使用人であるヘクトアールに何かを言う権利はないのだ。……もし、万が一そのようなことを口走れば、どのような目に遭わせられるか想像もつかない。
「……なんか、せめてヒントみたいなのはもらえないか? 俺達の負けが無駄になるってのはちょっとなぁ」
「今回はきっちりと君達で攻略方法を見出して貰いたいと思うけどねぇ。……まあ、どうしてもっていうならヒントをあげてもいいけど」
「いいのか!?」
「まあ、君達も実際に戦う中で察していたみたいだし、今回はその答え合わせをしようと思ってねぇ。シャチの魔物――ハッキングオルカのオルカだけど、特筆する能力は耐久力0.00000001%の障壁の上書き、リキャストタイムの回復を阻害するジャミング攻撃、後は強化によって獲得した速度上昇スキルがあるねぇ。更に速度と魔法防御力のパラメータが規格外なレベルまで達しているから、並の魔法攻撃は通用しない。……つまり、弱点は物理ということになるねぇ」
リキャストタイムの回復を阻害するジャミング攻撃は『Eternal Fairytale On-line』の特技に対するもので今回のトーナメントには関係ないが通称バリア潰しと呼ばれる障壁の上書きや速度上昇バフは今回の大会でも猛威を振るうことになるだろう。
「なるほどなぁ……物理弱点なのか」
「ただ、陽夏樹さんは従魔の数こそ五体しかいないけど、バランスが取れているからねぇ。魔法だけ、物理だけで勝てるものではないよ。ただ、陽夏樹さんは僕のギルドの中で最も一途に自分の魔物を愛していた人かもしれないからねぇ。……少なくとも、ボクは彼女に勝てる自信はないよ」
ローザ自身も自分の従魔達を愛し、育ててきた。その姿勢は欅達との関わり方を見ればよく分かるだろう。
だが、それでも陽夏樹に敵わないとローザが認めるのは、多くの魔物にバランス良く愛する自分の姿勢をローザがあまりよく思っていないからとも言えるだろう。
平等に愛すると言えば聞こえがいいが、それは一人に対する愛を減らすことを暗に示している。
一方、陽夏樹は本当に大切な五体を一途に愛するという姿勢を貫いている。それが、ローザにとっては眩しく見えるのだろう。
「ローザ様って生真面目過ぎるよな。そんな色々考えなくたってお嬢様を慕う人達はお嬢様のことが好きなんだから、そんな身構えずに、申し訳ないなんて思わない方がいいと思うけどなぁ、俺は。何度も明言しているんだし、お前を慕っている奴らだって分かっているだろ? まあ、それが分かった上で特別を目指すって奴も多かれ少なかれいるんだろうけどな。でも、そいつらだって覚悟の上でだから気に病むことはない。……たまには肩の力を抜くことも大切だと思うぜ」
「そうだねぇ……ヘクトアールさんの言う通りだよ。いつまでも敵わないねぇ、ボクは君に」
ヒース達から一斉に「サボり魔の癖に」と視線を向けられて針の筵にされるヘクトアール。
「お嬢様、笑ってないで助けてくださいよ! お嬢様が変なことを言うから」
その懐かしい光景と、一方引いたところにいつも居て、余裕をもって状況を見て何をするべきかを判断することができる、頼れる大人のヘクトアールの姿を目にしたローザは柔らかい笑顔を浮かべた。
「――だからお嬢様! 助けてくださいって!!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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