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Act.8-29 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.8 甲

<三人称全知視点>


「……何故、私はドロォウィン先輩と行動しているのでしょうか?」


 遠い目をしながら、シルフスの街の領主で漆黒騎士団の騎士の一人でもあるバチスト=シルフス伯爵は溜息を吐いていた。

 その隣には筋肉を躍動させ、ボディビルダーのようにポーズを取り続ける筋骨隆々な騎士(脳筋)の姿がある。


(……こんなことなら、無理を言ってでもアクアさんとディランさんのいるパーティに入れてもらえらよかったな)


 バチストは騎士になり、漆黒騎士団に配属が言い渡されたその日から、この筋肉馬鹿の騎士のことだけがどうにも好きになれなかった。

 知性を全く感じさせない筋肉任せの脳筋戦術と常に筋肉をこれでもかとアピールしてくる暑苦しさ――同じ脳筋でも空気が読めず、思考回路が迷宮入りしているウォスカーの方がまだマシだと思っていたほどだ。


 いや、寧ろバチストはウォスカーやファイスといった問題児達の暴走に振り回される日常を気に入っていた。

 当時は「毎回毎回なんで騒ぎを起こすんだよ!」と常識人枠のレオネイドと共に叫んでいたが、領主となって漆黒騎士団を抜けた際にはその騒がしい日々を思い出しては感傷に浸っていた。


 しかし、領主となり、漆黒騎士団が懐かしい存在となった時にもバチストの中でドロォウィンは嫌いな存在のまま変わらなかった。

 たまに夢に出てきてはこれでもかと筋肉をプッシュする悪夢を見せる存在として、寧ろ漆黒騎士団時代以上にトラウマとなっていた。


 ところで、今更だがバチストは漆黒騎士団所属の騎士に戻っていた。

 その理由の一つは、漆黒騎士団に未練を持っていたバチストを気遣った妻や執事長が背中を押したということもあるが、大きな理由は漆黒騎士団そのものが解体されたことにある。


 五年前、オルパタータダによって突如解散宣言がなされ、漆黒騎士団は解散した。

 白氷騎士団、銀星騎士団も同時期に解散している。その理由は、王宮内外で起こした問題が積もりに積もってその責任を取った……などということではなく、単にオルパタータダが主導した人事異動によるものだった。


 まずは、【白の魔王】シューベルト=ダークネス――彼は総隊長に就任した。

 部下だった元漆黒騎士団員のモネ=ロータスはそのまま総隊長補佐の職についている。


 ちなみに、総隊長はフォルトナ王国の全軍を指揮する武の頂点である。これまで同格だったオニキスやファンマンよりも年若い彼は、総隊長になったことで実質二人の上司となっていた。

 以前の総隊長は暴走する一部騎士団を止められるほどの力を有していなかったが、漆黒騎士団や銀星騎士団と互角にやりあえる【白の魔王】シューベルトを総隊長に配置することについて実力面から異論は上がらなかった。

 また、シューベルトは公爵家の生まれである。下賤な貧民上がりよりも、貴族の方が総隊長に相応しいと貴族達も考えたため、貴族達からの批判も上がらなかった。


 続いて、銀星騎士団騎士団長のファンマン=ロィデンスは各騎士団の解体と再構成により、総隊長の指揮する中央軍の銀氷騎士団の第一師団に就任していた。

 ちなみに、元漆黒騎士団員のフレデリカ=エーデヴァイズは第二師団長、蒼月騎士団のポラリス=ナヴィガトリア騎士団長は第六師団長、元漆黒騎士団員のドロォウィン=シュヴァルツーテは第十一師団長に就任している。あのドロォウィンも今や団長格なのだ……まあ、実際は仕事のできる副団長が指揮を取っていて、ドロォウィンは暇がなくても筋トレをし続け、戦場に立てば副師団長や総隊長の命令も聞かず、本当に好き勝手暴れるという問題児のようだが。


 他のメンバーを見ていくと、レオネイド=ウォッディズは据え置きで騎馬隊を統べる騎馬総帥のまま。

 ジャスティーナ=サンティエは王立図書館の図書館長に就任し、ジョゼフ=サンティエはサンティエ公爵家を正式に継いだ。


 そして、兄のヨナタン=サンティエはなんと、フォルトナ王国で信仰を集めているフォティゾ大教会の大司教に就任していた。

 フォティゾ大教会の序列は最高司教、枢機卿、大司教、司教・司祭・助祭となっている。この大司教に敬虔な信徒でもないヨナタンが任命された裏には、最高司教のレイティア=ベネディクトゥスがオルパタータダの古い友人でいることに関係するという。


 フォティゾ大教会の内部では五年以上前から不審な動きが起きていた。

 それは、一部の聖職者がグローシィ=ナイトメアブラックを招き入れ、バックアップをしていたのではないかという小さな噂だ。

 神に仕える身である聖職者達は、人を疑ったり違和感を覚えるのは、自らの修行が足りないせいだと自分に言い聞かせることもある。そのため、その些細な違和感には長年誰も触れてこなかったが、最高司教のレイティアはどうやらその違和感に薄々気づいていて、五年前の暗殺者騒動でそれが確信に変わったようだ。


 だからこそ、ヨナタンに大司教の地位を与え、組織の内部からその違和感の根源を探らせようと考えたのだろう。


 もし、フォティゾ大教会の内部にグローシィ=ナイトメアブラックを招き入れた存在がいるのであれば、未だ解決されていない「どのようにグローシィがブライトネス王国やフォルトナ王国に潜り込んだのか」という問題が解決されることになる。

 ブライトネス王国とフォルトナ王国は同盟関係にある。この二国間であれば、身分証を確認せずに出入りが可能だ。グローシィの拠点が仮にフォルトナ王国にあったとすれば説明がつく。


 しかし、なんのためにフォルトナ王国やブライトネス王国に大きな傷を残すような作戦に協力したのか? という疑問が残る。

 ルヴェリオス帝国側のグローシィにはルヴェリオス帝国の領土拡大という目的があったが、フォティゾ大教会の裏切り者側にはどのようなメリットがあって協力したのか? その問いの答えはヨナタンが裏切り者を捕らえればきっと明らかになるだろう。


 オルパタータダの友人でアトランタ公爵家の三男であるファント=アトランタは、宰相アルマン=フロンサックと共に国を支える立場の大臣に就任し、元副団長補佐のファイス=シュテルツキンは大臣ファントの手駒として様々な任務をこなしているという。

 ……と言っても、ファントは度々重要な会議を抜け出して『逃亡癖の大臣』として知られているようだが。

 似たような境遇のアーネストとアルマンの絆はファントの大臣就任で、より一層硬く結ばれたようだ。


 そして、ウォスカー=アルヴァレスは近衛騎士団の騎士団長になっていた。

 ドロォウィンと同じく不安が残るが、その点は上手く部下がフォローしているのだろう。


 最後に、オニキス=コールサック。彼は表向き漆黒騎士団団長を辞職して一兵卒となった。

 騎士としての教育も受けていない傭兵出身が圧倒的に多い漆黒騎士団はフォルトナ王国の有力貴族達から「野蛮だ」と嫌われていた。

 世界で共通して不吉とされる濁った赤の瞳を持つオニキスの容貌やお世辞にも綺麗とは言い難い戦い方も相まって漆黒騎士団は恐れられ、嫌われていた。市民から支持があったものの、それだけではどうにもならないこともある。


 漆黒騎士団の解体には、フォルトナ王国の有力貴族達の顔色窺いといった側面もあったが、貴族の意向など笑いながら無視できるオルパタータダが何故、大人しく貴族達の意向に従ってそのようなことを行ったかといえば、オルパタータダにとってもメリットがあったからであった。

 今のオニキスは実はどこにも所属していない。つまり、総隊長の命令を受けないフォルトナ王国の唯一の騎士となっていた。

 オルパタータダのみが命令権を有し、己の判断で行動できる唯一の騎士というのが、実際のオニキスの立場であった。


 こうして、漆黒騎士団は表向き解散したが、実は騎士団を超えた組織として今でも漆黒騎士団はフォルトナ王国に残っている。

 かつて、所属バラバラの者達が集結して臨時班を構築していたように、元漆黒騎士団員が所属を超えて任務をこなすことがこの五年の間にも何度かあった。

 この新たな漆黒騎士団にバチストもシルフス伯爵領領主からの出向という扱いで所属させてもらえるようになったのだ。既に何度かオニキス達と共に任務も遂行している。


(……もう仕方ない。こうなったら一刻も早く敵を倒してこの第一回戦を終わらせる。そして、オニキス隊長達の臨時班に入れてもらお……って、相手パーティのメンバー発見! やった、とりあえず気まずい状況はこれで脱せる)


 敵パーティのカムノッツ、ペコラ、フィルミィを発見し、内心テンションが上がるバチスト。


「おっ、早速バトルか! 俺の筋肉を見せる時が来た!」


「おい、ちょっと待……まあいっか」


 『王国騎士の剣(エスカリボール)』を構えて突撃するドロォウィンにバチストは一瞬静止の声を掛けようとしたが、あれはもう止まらないと判断すると諦めた表情で『王国騎士の剣(エスカリボール)』を鞘から引き抜いた。


 カムノッツ、ペコラ、フィルミィの三人は金剛智證通、耐魔智證通、剛力智證通を発動して万全の体制を整えると、神境智證通を発動して一気にドロォウィンと距離を詰める。

 いずれも解脱に至って仙人に到達しており、その仙術の練度はただの獣人族だった時から考えれば天と地ほどの差が生じるほど上がっている。


「劈拳!」


「鑚拳!」


「崩拳!」


 三人が放つのは形意拳と呼ばれる異世界の拳術だ。

 鉈を振り下ろすように拳を打ち込む劈拳、錐のように拳を突きあげ、ひねり込む鑚拳、槍で突き刺すように拳を打ち出す崩拳、片方の腕を上段受けのように上に引きながら、もう片側の拳で突く炮拳、拳にひねりを加えながら、内から外へ半月上の軌道で打ち払う横拳の五つからなるこの五行拳は兎人姫ネメシア教の女神ネメシアが手ずから三教主や信者達に教えた技であり、ネメシアの名でビオラ商会から出版された五行拳についても書かれている『武術のススメ』は聖典と共に兎人姫ネメシア教の経典となっている。


「筋肉こそジャスティス!!」


 馬鹿力を発揮し、暴風が生じるほどの『王国騎士の剣(エスカリボール)』から放たれた斬撃とカムノッツ、ペコラ、フィルミィの拳が激突した。


「……なんてパワーだ」


 そのあまりの衝撃に、武装闘気を追加で纏っていたカムノッツ、ペコラ、フィルミィが顔を顰める。

 攻撃そのものは洗練されていないが、その暴力的なまでの力が厄介だった。


 ドロォウィンの強烈な薙ぎ払いを浴び、カムノッツ、ペコラ、フィルミィは後方に飛ばされる。

 しかし、三人とも武術の使い手――上手く衝撃を流して受け身を取り、『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を四次元空間から取り出して構えた。


 三人は同時に三方向からドロォウィンに『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を振り下ろす。

 【暴虐者】で回避不能の物理ダメージの追加に、【破壊王】の攻撃力と筋力を通常の三倍上昇、【崩壊者】による衝撃波による範囲攻撃に、【蹂躙王】の低確率即死効果、【重量操作】で攻撃のタイミングで重量を重くして、トドメに【霹靂之王】で雷を纏わせて追加ダメージを狙うという『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』の王道の戦法に流石のドロォウィンも耐えきれず、纏っていた武装闘気諸共打ち砕かれる。


 しかし、ドロォウィンもただではやられず、裏の武装闘気で剣を矛の形状に変化させ、真ん中の立ち位置で二振りの『霹靂の可変戦鎚ドリュッケン・ミョルニル』を振り下ろしてきたペコラを両断した。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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