Act.8-28 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.7 下
<三人称全知視点>
エナリオス海洋王国の第一王子で、同時に戦となれば最前線に赴いて戦う『戦士』でもあるソットマリーノは、王族でありながら軍務省の長官を務める武闘派のバルトロメオに親近感のようなものを抱いていた。
今回、チーム編成でバルトロメオに同行したのも、その親近感に従った選択だったのだが、ソットマリーノは早速その選択を後悔していた。
「おっと、敵発見だ! ジャンロー、ディルグレン、ダールムント……なかなかバランスがいいな! で、俺は早速暴れてくるが、ソットマリーノ殿下、お前はどうする?」
「私は……このままゆっくりと近づいて臨戦態勢に入ろうと思う」
「俺が先に獲物を全滅させたからって文句言うんじゃねぇぞ! それじゃあ、俺は先に行っているからな!!」
バルトロメオは『深海の主の聖剣』を構え、魂魄の霸気《剣》が【再解釈】によって変化した《戦騎士》の戦騎士の鎧型のエネルギーを纏う《幻騎士》と無数の剣を顕現し、縦横無尽に攻撃を仕掛けることができる《剣》を発動すると、満面の笑みでジャンローに斬りかかった。
ブライトネス王国の王族の血を濃く受け継ぐ由緒正しきエタンセル大公家、シンティッリーオ大公家、フンケルン大公家、アストラプスィテ大公家の四摂家と呼ばれる四つの大公家に、新たに五つ目の家として加わったアグレアスブリージョ家の当主――王弟バルトロメオ=ブライトネス、又の名をバルトロメオ=アグレアスブリージョ。
国王陛下と第一から第六の王子達、第一から第三の王女達、正妃と側妃三人に至るまでたった一人も残らず毒殺された事件に運良く生き残ったものの、王位を継ぐ野心を抱かず、早々に王位継承権を放棄して分家したこの王弟は『英雄色を好む』を地で行くような人物で、城内でもセクハラ紛いのことを多々している。
いつも恋の噂が絶えない人物で隠し子や婚外子がいつ現れたっておかしくないと言われているほどの恋多き男だ。
しかし、真に厄介なところはあの国王と血を分けた弟であるということだろう。
戦闘狂で、面白いこと好きで、脱走癖のある問題児――ブライトネス王国は、かの問題児大国に比べれば遥かにマシな人材が揃っているが、この王弟を含め国王、大臣、王弟は例外で度々脱走やトラブルを起こして文官達の胃をキリキリさせている。
マイペースで戦闘狂、協調性のカケラもない王弟殿下――果たして、そんな相手と連携を取ることなど可能だろうか?
「――海王子の波斬」
ソットマリーノは二振りのサーベルに武装闘気と覇王の霸気を纏わせると、その上から水を纏わせてディルグレンに向かって走った。
「【極寒之王】」
「【暗黒之王】」
ジャンローは吹雪を剣に纏わせ、ディルグレンは闇を剣に纏わせると、それぞれ氷の槍と闇球を作り上げ、バルトロメオの《剣》へと放った。
「――俺の剣は止められないぜ!! 【水流噴射】!!」
バルトロメオは全ての《剣》に武装闘気と覇王の霸気を纏わせると、戦闘開始前のミーティングで初めて知り、見様見真似で初めて纏った求道の霸気に加え、神攻闘気、神堅闘気、神速闘気、武装闘気、覇王の霸気を纏わせると【水流噴射】で足元から水流を背後に噴射し、ジェット噴射で加速して、正当な王室剣技で豪快にジャンローと斬り結んだ。
ジャンローとディルグレンの放った氷の槍と闇球は縦横無尽に駆け巡る《剣》に切り裂かれ、次々真っ二つにされていく。
その強化に強化を重ね掛けしたバルトロメオの斬撃は一度斬り結んだだけでジャンローを吹き飛ばした。
斬撃の威力にジャンローが耐えきれなかったのだ。
豪快な一撃を浴びて吹き飛ばされながらも、ジャンローは【極寒之王】を発動して無数の氷弾をバルトロメオに放つ……が。
「終焉齎す断魔の紅炎劒!」
『深海の主の聖剣』に炎が宿り、天空まで伸びるほどの巨大な焔の剣と化し、そのままジャンローに向けて振り下ろされた。
「終焉齎す断魔の紅炎劒」はブライトネス王家に代々伝わる王族口伝魔法の一つだ。
ブライトネス王家の王族は必ず四大属性もって生まれる。この王族口伝魔法はそんなブライトネス王家に長きに渡って継承され続けてきた魔法だ。
バルトロメオも王子だった頃に先代国王からこの魔法を教えられていた。
ジャンローは摂氏八万度の高熱を浴びて一瞬にして焼き尽くされた。
ジャンローが放った氷の弾丸はバルトロメオが展開した無属性障壁魔法によって阻まれ、全て地面に落下する。
この無属性障壁魔法「守護光障壁」はローザが神職系職のダメージ遮断の障壁を解析して完成させた魔法だ。
『新汎用魔法全書』に掲載されている他、ビオラ商会の子会社である『ビオラ魔道具店』で販売されている『護りの指輪』にも搭載されており、現在は汎用の護身用魔法として幅広く浸透している。
「――地の底に燃える冥界の獄焔よ、地上に顕現し、一切合切を焼尽せよ! 熾炎熱地獄!!」
ダールムントは上位の魔物に対峙した時に切り札として使う地獄の業火を顕現する大魔法を一切の躊躇なく放ってみせた。
この高火力魔法を躊躇なく放ったのは、トーナメントのフィールドでは決して死なないため手加減の必要がないから……という訳ではない。
今放てる全力であるこの魔法でなければ、バルトロメオを撃破できないと心のどこかで理解していたからだ。逆に、この魔法が通らなければダールムントに勝ち目はない。
「【大海嘯】!」
その地獄の業火は『溟渤貴公子の軍務長官』に込められた【大海嘯】のスキルにより生じた激流に飲み込まれて消え去る。
ダールムントが杖を構え、新たな魔法の呪文を詠唱をする中、バルトロメオは大きく肉薄すると、『深海の主の聖剣』を振りかざし、ダールムントを両断した。
◆
バルトロメオがジャンローと最初に斬り結んだのとほとんど同時にソットマリーノはディルグレンと斬り結んでいた。
闇を纏った剣で斬撃を放つディルグレンと水を纏わせた双剣を振るうソットマリーノの戦いはソットマリーノ優勢で進んでいる。
二人の戦いに大きな差を生み出しているのはソットマリーノが覚醒した魂魄の霸気である《海握》だ。
この魂魄の霸気は液体を掌握する能力で大気中や海中、生物内の水に干渉して水の内部に衝撃波を伝達させることができる。
使い方によっては、液体である水を掴んであたかも固体のように扱うことができるが、今回は二振りのサーベルに纏わせた水伝いに絶えず強力な衝撃を流し込んだ。
衝撃を流し込む度にディルグレンは少しずつ疲弊していった。
ローザであれば、上手く衝撃を受け流す術を駆使してソットマリーノの攻撃を無効化できただろうが、ディルグレンはそのような技術を持ち合わせていない。
「武気衝撃!」
故にディルグレンは直接相手に触れずに武装闘気を衝撃波として放つことで吹き飛ばす武気衝撃に頼った戦闘を繰り広げるしか無かった。
水伝いに衝撃を流される前に武気衝撃で吹き飛ばし、体制が崩れたところを狙って相手の身体に直接武装闘気を流し込むことで内部から敵の身体を破壊する武流爆撃を剣越しに放とうとするも、ソットマリーノはすぐさま体勢を立て直し、水伝いに衝撃を流し込んでくる。
「――海王子の波斬」
水を纏わせたサーベルを振るい、水の刃を連続で放つソットマリーノ。
武装闘気と神光闘気が注ぎ込まれた水刃をディルグレンは見気を駆使して全て紙一重で躱してみせた。
「――海王子の海流突き」
ソットマリーノの右の手に持つサーベルの纏う水が渦を成し、激流を纏った突きがディルグレンへと放たれた。
ディルグレンは当然、武気衝撃で攻撃を防ごうとする……が、放った武気衝撃は呆気なく無力化され、激流を纏った突きが『闇に染まりし勝利の剣』に受け止められ、剣越しに神光闘気と衝撃が流れ込んだ。
「……一体、何をしたんだ」
「武気衝撃を武気衝撃で相殺した。……同じレベルの武気衝撃をぶつければもしかしたら、と思ったが、ぶっつけ本番で上手くいって良かった」
焼け爛れた手から『闇に染まりし勝利の剣』がカランと落下する。
「――海王子の波斬」
武器を失い、無防備となったディルグレンにソットマリーノが水を纏わせた二振りのサーベルを振り下ろす。
咄嗟に武装闘気を纏わせたディルグレンだったが、武装闘気と覇王の霸気を纏わせたソットマリーノの斬撃は容易く防御を破り、ディルグレンに深々と十字の傷を刻んだ。
傷口から無数のポリゴンが溢れ出し、やがてディルグレンの身体は全てポリゴンと化して天へと消えていった。
◆
森の最奥部に設けられたヴァケラーパーティの拠点。
そこに一番乗りしたのはイリーナとクラリスであった。
「モブキャラの俺にルヴェリオス共和国の「真紅騎士団」の団長と元シャドウウォーカーメンバーの大官吏さんの相手を同時に相手しろとか酷っすよね!? ……見逃してもらえないですか? ……ですよねェ」
丸と棒線だけで似顔絵が完成しそうなモブ顔とアンバランスなモヒカンで片目にアイパッチをつけた世紀末風な格好をした男だが、ブライトネス王国の王都の冒険者ギルドではアネモネやアネモネがスカウトした猛者達を除けば最上位に位置する実力を持ち、ローザ直属の時空騎士の一人に選ばれている猛者である。
「……ローザさんから話には聞いていたが、改めて対峙するとよく分かる。……強敵だな。クラリスさん、様子見せず最初からトップギアで仕掛けた方が良さそうですね」
「そうね……好きを見せたら簡単にやられてしまいそうだわ」
「イリーナさん、クラリスさん、このどこからどう見てもモブ顔の俺にそんな風に警戒心向けられても困るんですが。俺、そんなに強くないですよ?」
勿論、ヴァケラーのそれは謙遜か、仮にそう本人が思っているのであれば自分に対する評価が歪曲しているだけである。
ヴァケラーはアネモネと出会う以前から冒険者ギルドのスカウト課に所属する有力な冒険者として知られていた。
「……まあ、みんなも頑張って戦っているでしょうし、俺だけがむざむざ敗北する訳にはいかないっすからね。……本気出させてもらいますよ」
『雷光鬼神の金砕棒』が聖なる光に包まれる。
これまでの戦闘を全て観戦してきたイリーナとクラリスは、それが聖人に至った者のみが獲得可能な聖属性魔法であることに気づいた。
「――それじゃあ、行くっすよ! 雷霆覇勁・猛打衝」
裏の武装闘気が収束して野球ボール程度の大きさの球と化し、覇王の霸気を纏ったヴァケラーは思いっきりフルスイングで球を打った。
冒険者ギルドのスカウト課として仕事をする際には封印しているヴァケラーの本気技の一つだ。
「雷光の竜撃!」
しかし、どんなに強力でも攻撃範囲が狭い技でいる以上、避けるのは簡単だ。
狙われたクラリスは見気を駆使して球を回避すると、強大な雷の体を持つ竜をヴァケラーへと放つ。
「マナフィールド・霹靂の領土」
更にマナフィールドを発動して戦場の魔力を支配し、指定した領域に雷を一斉に奔らせて焼き尽くす戦術級魔法でヴァケラーに連続で雷撃を浴びせる。
「アンチマナフィールド! 豪焔焦熱散弾魔球っす!」
しかし、クラリスのマナフィールドはヴァケラーがマナフィールドを展開したことで崩壊し、放った雷撃も全て避けられてしまった。
ヴァケラーは全ての雷撃を躱すと、『雷光鬼神の金砕棒』を左手に持ち替え、小さな火球を掌の上で作り上げ、思いっきり振りかぶって投げる。
ヴァケラーがアネモネと出会う以前から取得していた「火魔球魔法」――「豪焔焦熱魔球」のバリエーションの一つであるこの魔法の特徴は、投げた瞬間に無数の火球へと分裂する点にある。
他のバリエーションである、投げると同時に消え、命中する直前で出現する「豪焔焦熱消滅魔球」と組み合わせれば、消える無数の火球を作り上げることも可能だ。
「【超加速】――【攻撃裁断】!」
「霹靂の半球」
これに対し、イリーナとクラリスが取った対応は大きく異なっていた。
イリーナは【超加速】を発動してヴァケラーに高速で迫りながら、放たれた火球を全て【攻撃裁断】で切り裂いていく。一方、クラリスはオリジナルの雷のドームに武装闘気を纏わせ、敵の攻撃から身を守る防御技で火球から身を守った。
前衛のイリーナが攻撃が攻撃し、後衛魔法職のクラリスが身を守りながら魔法で前衛を援護するいつもの戦法だ。
「防御魔法ですか、なら、これならどうっすか! 魂魄の霸気!」
ヴァケラーの手にブーメランが現れる。釘バットと共に長年愛用してきた遠距離武器――ブーメランの形状をした魂魄の霸気《飛去来》は百発百中でどんな風に投げても必ず手に戻ってくるという因果干渉の効果を有する。
そのブーメランがクラリスに向けて放たれた。
武装闘気と覇王の霸気を纏ったブーメランはクラリスの「霹靂の半球」を容易に引き裂く力を秘めている。
そのことを一瞬にして見抜いたイリーナは魂魄の霸気《箱猫》を発動して、クラリスに干渉した。
ここで大いなる問題が発生する。絶対に狙った相手に命中するという因果干渉能力を持つブーメランと、重ね合わせの事象から望んだ結果を選び取るという因果干渉能力を持つ《箱猫》――二つの因果干渉能力が激突した時、果たしてどうなるのか。
その結果は、双方の因果干渉の無効化――因果干渉の消滅、或いは因果干渉の相殺と呼ばれる現象の発生であった。
ブーメランに付与された「絶対に命中する」と「必ず持ち主の手に戻る」という因果干渉が消滅し、《箱猫》も無力化されたために重ね合わせの事象から望んだ結果を選び取ることもできない。
ブーメランは「霹靂の半球」の内部にいたクラリスを狙って放たれたもののあっさり回避され、そのまま「霹靂の半球」を突っ切って反対方向の森の木をメキメキと貫きながら飛んでいった。
「雷霆覇勁・猛打衝」
攻撃を躱されてしまったヴァケラーだが、クラリスだけに攻撃を集中させる余裕はない。
『宵鋼双刃-吸血剣・小烏丸打ち直し-』を構えたイリーナがすぐ間近に迫っているのだ。
覇王の霸気を纏ったヴァケラーは武装闘気を纏わせた『雷光鬼神の金砕棒』を振り被る。
ヴァケラーはイリーナの重い斬撃を受け止め、パワーで押し切るつもりだったのだ。
「【血冥九頭龍】」
しかし、『宵鋼双刃-吸血剣・小烏丸打ち直し-』から血液の九頭龍が放たれ、頭の一つに飲み込まれたことで、ヴァケラーの視界は真っ赤に染まり、一気に血液の奔流に呑まれたことで呼吸しようとすれば、鼻や口から血を吸い込んでしまうような状況に陥り、攻撃を放つ余裕が失われてしまった。
この【血冥九頭龍】はローザによってこの五年の間にイリーナの『宵鋼双刃-吸血剣・小烏丸打ち直し-』に追加されたスキルであり、実戦でも数度使った程度だったため、ヴァケラーの情報網にも引っかかっていなかったのだ。
完全に予想外の攻撃を喰らい、勢いを失ったヴァケラーに、イリーナが武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『宵鋼双刃-吸血剣・小烏丸打ち直し-』で袈裟斬りを浴びせる。
傷口からポリゴンが溢れ出し、やがてヴァケラーは無数のポリゴンとなって消滅した。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




