Act.8-27 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.7 上
<三人称全知視点>
アクアは『光を斬り裂く双魔剣』を、ディランは『闇を斬り裂く真魔剣』をそれぞれ構えると、今や戦闘の基本となった武装闘気すら纏いもせず、ジャスティーナとリヴァスにそれぞれ斬りかかった。
「……アクアさんがいつものどう見ても似合わない天使化や《月下王国》を使わず、ディランさんも《影》の魂魄の霸気を使わず、それどころか武装闘気すら纏わず攻撃を仕掛けてきた……剣だけの力で白黒はっきりつけたいということなら、確かにお二人らしいと言えばお二人らしいですが、どう考えても不自然です。得体の知れない切り札を隠し持っている可能性がありますわ。リヴァスさん、お気をつけください」
「おう、分かった! サングリッター・アタック・スペシャライゼーション! サングリッター・エンチャート!!」
「――ッ!? おい、誰が天使がミスマッチだって!? 今の俺はどこからどう見たって天使な美貌の女の子だろッ!!」
「短気ですぐブチギレて手が出る女の子のどこが、天使ですか? そもそも、それは自分で言うことではないと思いますわよ? まんまオニキスさん?」
「……うん、まあ相棒はまんまオニキスだからな。……でも、今の相棒は可愛いと思うぜ? それ以上にカッコいいけどな? 男気があって」
「ディラン、それ褒めているのか?」
アクアが『光を斬り裂く双魔剣』で変幻自在の重い攻撃を浴びせ、ディランも楽しさ一色の表情で、全く力むことすらなく軽く撫でるように残像が見えないほどの鋭く、素早く、重い斬撃を『闇を斬り裂く真魔剣』で放った。
その斬撃は武装闘気だけでなく、神攻闘気や神堅闘気を纏っていたにも拘らず腕に猛烈な衝撃を流し、麻痺し掛けるほどの力を持っていた。明らかに、素の戦闘力ではない――いくらアクアやディランが馬鹿力を持っていても、これは流石にあり得ないだろう。
「……一体、どんな細工をしたのですか?」
「えっ……もしかしてまたお嬢様は各国に情報提供をしていないのですか? やっぱり、お嬢様は基本的に各国で模索して強くなることを望んでいるようですね。……種を明かすと、これは求道の霸気とは呼ばれるものだ。外向きに放ち破壊をもたらすものが覇道の霸気なら、内向きに宿し、強化を行うのが求道の霸気ということになるそうだ。鍛えれば、自分に対する敵対者の干渉を無効化が可能な独立した個として存在することができるようになるそうだぞ?」
ちなみに、求道の霸気はアクアが内側に覇道の霸気を纏わせたらどうかと思いついて試して、お嬢様が解析した結果判明したものである。
ローザはこの結果をもとに覇道の霸気や求道の霸気について更なる研究を始めた結果、その極めた果てにこれまでの霸気の能力とはまた異なる効果が隠されていることを突き止めた。
現在、覇道の霸気には大きな区分で第一段階の威圧と昇華、第二段階の改変が、求道の霸気には第一段階の身体強化と特殊能力の付加、第二段階の個立があることがそれぞれ判明している。
恐らく、その極めた果てにあるものこそが、霸気の第三の段階――到達点なのだろう。
それがどのようなものが解明されるのが一体いつになるのか、ローザにも想像がつかない。既に、自分も含め『王の資格』を持つ者は霸気を極めたといっていいほど使いこなしていると考えていたからだ。
「しかし、やっぱり求道の霸気単体じゃ思ったほど強化できないな。ギア上げていこうぜ? 相棒!」
神攻闘気、神堅闘気、神速闘気を纏い、更に武装闘気と覇王の霸気を『光を斬り裂く双魔剣』と『闇を斬り裂く真魔剣』に纏わせる。
「魂魄の霸気――《昇華》、《弱体化》! 【天使之王】――天使化! 天使の加護! 守護天使!」
「魂魄の霸気――《影の甲冑》! 《影の翼》!」
この時点で、アクアとディランが一撃で撃破を狙いに来ていることは明々白々だった。
「図書館の守護者! 月銀の纏光」
「サングリッター・ファイナル・エクステリオン」
「――援護しますッ! 灼熱の連撃弾」
それが分かっているから、ジャスティーナもリヴァスも最初からトップギアだ。
この一撃に全てを賭ける勢いで、ジャスティーナは月属性のオリジナル魔法で光属性魔法に対する耐性を低下させる代わりに強力な身体強化と耐久力強化を行い、銀色の月属性の魔力を纏わせてアクアを迎え撃った。
リヴァスも光り輝く斬撃を拡散させることで前方広範囲に攻撃し、聖なる浄化効果の斬撃領域を展開する最大火力の斬撃を放ち、ディランの斬撃に対抗する。
そして、二人を援護するべくティルフィは【多重詠唱】が付与された『賢者の石と接骨木の杖』で火魔法「火球」を収束させた「ファイアバレット」を無数に放って攻撃する書肆『ビオラ堂』から発売されたエルフの大魔術師マリーゴールド作の『新汎用魔法全書』に掲載された魔法――「灼熱の連撃弾」をアクアとディランに向けて放った。
「――《影の世界》!」
ディランは「サングリッター・ファイナル・エクステリオン」が放たれる直接に影の世界に飛び込み、姿を消す。
「灼熱の連撃弾」はディランに命中せず、背後の森に命中して燃え上がる。
リヴァスの剣から光が消えた直後、陰から飛び出して背後に現れたディランが斬撃を放った。
「――《影軀逆転》」
それもただの斬撃ではない。本来実体の動きに従って動く影という概念そのものに干渉し、影を動かすことで実体を動かすことにより、身体を無理やり操って本来ならあり得ない速度で斬撃を放つ――圓式基礎剣術にすら迫るディランの最速の斬撃だ。
「【城塞之王】!」
咄嗟に防御を固めたリヴァスだが、その防御ごと切り裂かれ、無数のポリゴンと化して消滅する。
一方、アクアはジャスティーナに斬撃を放つ直前に飛翔すると、そのまま灼熱の弾丸を全て躱しながら旋回を続け、天高く上がるとそのまま一気に急降下して落下の速度も剣に乗せ、渾身の一撃をジャスティーナに浴びせた。
司書でありながら騎士と互角以上に渡り合えるジャスティーナも、万全に強化されたアクアの斬撃を受け止めることはできず、傷口から無数のポリゴンが溢れ出して消滅した。
「さて、これでチェックメイトだ。【劇毒之王】――劇毒八岐蛇」
アクアの毒が真紅に染まる。無機物すら汚染し侵食する【劇毒之王】本来の毒が『光を斬り裂く双魔剣』から放たれ、ティルフィを飲み込んで瞬く間に溶かした。
◆
「――旋風」
次々と【創矢工房】で生み出され、『天を穿つ櫟の弓』から放たれる『神水晶の破魔矢』を切り裂きながら森を駆け抜けるプルウィア――その狙いは森の奥に潜む狙撃手――ハルトだ。
「行かせませんッ! ――黒より黒く闇より暗き漆黒の混沌に冀う。灰は灰に、塵は塵に、万象等しく灰塵に帰す焦熱を我は望まん! 破壊の魔の奔流を我が手に宿せ! 灰燼爆裂!」
『大地を砕く勝利の剣』を構え、立ち塞がったターニャが詠唱を終えると、無数の深紅の魔法陣が形成され、巨大な灼熱の火球を放ち、大爆発を巻き起こす。
既存の火属性戦術級魔法ながら、魔力消費が著しく多く、かつ破壊力が高過ぎるために故にほとんど採用されない魔法を容赦なくぶっ放した。
更に【多重詠唱】の効果で「灰燼爆裂」は九発分となっていた。
流石にこれだけの数の爆裂魔法を浴びたら生き残れないと――そう高を括っていたターニャだったが――。
「蜃気楼! 旋風」
「――【超加速】! 【纏黒稲妻】――旋風」
プルウィアは「心を凍てつかせて気配を消し、相手の背後に回り込む」というフレーバーテキストが顕在化した剣技スキルを発動して物理法則を逸脱してハルトの背後に回り込んで背後から真空の斬撃を連続で放って撃破し、プルウィアの僅か後ろを並走していたネーラは爆裂魔法を上回る速度で攻撃範囲を脱してターニャに肉薄し、真空の斬撃を連続で放つ。
「……っ、近過ぎて狙えない」
「おいおい、いいのか? 仲間の援護よりも先にやるべきことがあるだろ?」
いつの間にか、ジェシカの背後にヴァルナーが立っていた。
恐らく、最初から「海魔と暴君の鎧」の透明化で姿を消していたのだろう。
「何故わざわざ姿を現したのかしら?」
「そりゃ、こそこそ隠れてボコボコにするって恥ずかしいだろ? ――ここまで近づいたら逃げられないだろ? さあ、勝負しようぜ?」
「律儀な人ね。それなら、ご期待にお答えしないといけないわね。――お手合わせ願いますわ! 【氷竜之王】――絶対零度の咆哮」
『永久凍土の竜杖』から猛烈な吹雪が放たれる。スティーリアのブレスに比べれば大きく見劣りするが、それでもなかなかの威力だ。
「海魔の渦撃」
対するヴァルナーは水の渦を纏った『海鬼の聖槍』に武装闘気を纏わせると、真正面から吹雪に向けて水の渦を構成する激流を解放する。
激流は纏った武装闘気のおかげで冷気で凍りつくことなく吹雪を圧倒し、ヴァルナーの突きがジェシカの心臓を刺し貫いた。
「――雷撃魔術展開・雷光の剣」
【纏黒稲妻】で黒稲妻を纏わせ、プルウィアの剣技を放つネーラに対し、最後に残ったターニャは雷属性の魔力を纏わせるとネーラの剣に真っ向から勝負を仕掛ける。
長年暗殺者として鍛えられてきたネーラと、本業は治癒師で『大地を砕く勝利の剣』を手に入れてから剣術を独学で学び始めたターニャ――剣の腕で見れば圧倒的にネーラが有利な戦いだが、蓋を開けてみればほぼ互角のまま戦闘が続いていた。
「……武気衝撃、厄介なものを使うんだね」
現在はほとんど武装闘気を硬化させて使うものが大半だが、ターニャは武装闘気を硬化せず、直接相手に触れずに武装闘気を衝撃波として放つことで吹き飛ばす武気衝撃を軸に剣術を組み上げていた。
刀剣と刀剣が切り結ぶ瞬間に武気衝撃を放って吹き飛ばし、その隙を狙い雷撃を放つ。その雷撃を上手く躱して再度攻撃しようとすると、その瞬間には新たな魔法剣が構築されていて、武気衝撃で吹き飛ばされる――その繰り返し。
「ネーラ、手伝おうか?」
「……大丈夫、なんとか突破口を見つけて倒すから!」
「ヴァルナーさん、できれば一人ずつ掛かってきてもらいたいわ。ネーラさんに加えてプルウィアさんとヴァルナーさんまで加わったら絶対瞬殺されてしまいますから」
ターニャの魔力も無尽蔵にある訳ではない。「灰燼爆裂」を後三発放てばターニャの魔力は底を尽きるだろう。
剣の腕もプルウィアやネーラには遠く及ばないターニャでは魔力が尽きれば勝ち目はなくなる。
三人同時に相手をして勝利を収める作戦も一応用意こそしているが、リスクが大き過ぎる。願わくば、一人ずつ相手をして確実に勝利を捥ぎ取っていきたいと思っているターニャにとって、このネーラの提案は願ったり叶ったりであった。
「……このままでは埒が明きませんので、ここからは私の全力をお見せ致しますわ。三発放てば私の魔力はすっからかん。全て防げばネーラさん達の勝利ですわ」
ターニャの剣に猛烈な魔力が宿っていくのをネーラ達は目にした。
「――黒より黒く闇より暗き漆黒の混沌に冀う。灰は灰に、塵は塵に、万象等しく灰塵に帰す焦熱を我は望まん! 破壊の魔の奔流を我が手に宿せ!」
詠唱は「灰燼爆裂」――先程森の一部を猛烈な炎で包み込んで灰塵に帰した火属性戦術級魔法だ。
その魔法が全て『大地を砕く勝利の剣』に収束されている。
「ネーラ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私には秘策があるから!」
圧倒的な魔力の奔流を前にし、ネーラは一切気負いなく最愛の姉に笑みを返した。
「――灰燼爆裂・斬」
「【攻撃裁断】!!」
「灰燼爆裂」が真っ二つに両断され、ネーラの横を擦り抜けて爆発する。
あらゆる攻撃を両断するスキルが「灰燼爆裂」を切り裂いたのだ。
予想外の状況に頭が真っ白になり、隙を見せたターニャにネーラは黒稲妻を纏わせた斬撃を浴びせる。
斬撃を浴びたターニャは無数のポリゴンと化して消滅した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




