Act.8-23 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.6 乙
<三人称全知視点>
イフィス達が作戦会議を終えた頃、アゴーギクは森の一角でゴリオーラと遭遇した。
「猛狒の剛拳ッ!!」
「うわ、遭遇して早々に攻撃してくるんですかッ!? ほら、なんというか、あるでしょう!? ちゃんと向かい合って態勢を整えて、いざ勝負とか!?」
「そんなものはないッ! 戦いは先に殴り殺した方が勝つ!! 奇襲でもなんでも勝てばいいんだよォ!!」
武装闘気を纏ったゴリオーラの拳をアゴーギグは回避しながら後方に下がっていく。
ゴリオーラは決して後へは下がれないと言わんばかりに、馬鹿正直にアゴーギグへと拳を振るいながら攻め込んでいく。猩々人族から袋鼠人族にでも転職したのだろうか?
「……まあ、確かに奇襲でもなんでも勝てばいいっていうのは同意しますけどね。正々堂々なんて言って命懸けの戦場で制限に制限を重ねていたら勝てるものも勝てませんから。でも、そういうのは搦め手を駆使して戦える人達が搦め手の一つとして使うものであって、そうやって馬鹿正直に突っ込むことしか知らない人がやっても意味がないですよ」
――そもそも、気づかれている時点で奇襲になっていないし、もしかして俺って舐められているのかな? チャラ男だから軟弱そうに見えたとか? だったら本気で傷つくなッ!? などと心の中で叫びながら、アゴーギグは冷気を収束して一振りの剣を作り上げた。
「凍魔の白雪剣」
その一振りに武装闘気を纏わせ、ゴリオーラを迎え撃つ……かに見えたが、アゴーギグは全く動かず剣をだらしなく切っ先を地面に向けて垂らし、構えすらしなかった。
「舐めてくれるなッ! くたばれッ!!」
ゴリオーラがアゴーギグに拳を振おうとした瞬間――無数の青い魔法陣がアゴーギクの足元から上へと包み込むように昇っていき、一瞬にしてゴリオーラは氷付けにされた。
「俺が何も仕掛けていない訳ないでしょう? 馬鹿正直に突っ込みすぎじゃないかな? とりあえず、真なる凍結――成功」
物質の性質問わず均一に凍結させるアゴーギクのオリジナル減速系統氷属性魔法を仕掛けた魔法陣を踏ませることに成功したアゴーギグはゴリオーラに向かって袈裟斬りを放つ。
ゴリオーラの身体は切り裂かれ、断面から無数のポリゴンと化して消滅した。
◆
同刻、森の一角にて――。
ケプラー……アンジェリーヌは狼人族のウルフェスと対峙していた。
「う、狼突進!」
「あらあら〜積極的ね」
神速闘気を纏い、最高時速七十キロの本気走りで突進するウルフェスだったが、アンジェリーヌはその突撃攻撃を全て紙一重で躱しながら最低限の動きで翻弄していく。
それをかれこれ十八分程度……既にウルフェスの体力は底をつきかけていた。
通常、狼は時速三十キロメートル前後なら七時間以上獲物を追い回すことができる体力を持ち、最高時速七十キロでも二十分間は走ることができる。それは、狼人族も例外ではない。
その最高時速七十キロが神速闘気で幾重にも強化された本気の走りでもアンジェリーヌを捕らえることは敵わなかった。そして、野生の狼とは違い途中で諦めるということをしないウルフェスの体力はみるみる減っていき、遂に限界に達する。
「あらあら、本当に作戦通り上手く行っちゃったわ」
アンジェリーヌが選んだのは消耗戦。最低限の動きでウルフェスを翻弄し、体力を減らしていく。
そして、体力が無くなり身動きが取れなくなったところを一気に叩く――という作戦だった。
しかし、そう上手くはいかない。どこかでこれが作戦だとバレてしまうのではないかと考えたアンジェリーヌは、「後ちょっとで倒せる」という演出を様々な形で出した。
あえて攻撃を浴びせかけられそうになってみたり、転びかけてみたり、警戒に警戒を重ねてバレるかバレるかのギリギリラインでウルフェスを罠に嵌めようとした……が、そんなことが杞憂であってと言わんばかりに、ウルフェスは馬鹿の一つ覚えのように単純な軌道で何度もアンジェリーヌに突進攻撃を仕掛けてくる。
だって莫迦だから。
流石にこれにはアンジェリーヌの内心苦笑していた。
「これでトドメよ! 骨喰の焔華・焔球」
体力が底をつき、息も絶え絶え地面に膝を突いていたウルフェスに骨まで焼き尽くすほどの超高温な炎を操るケプラーのオリジナル火属性魔法によって生じた火球が放たれ、一瞬にして焼き尽くした。
◆
同刻、森の一角にて――。
ヒョッドルは熊人族の族長ヴォドールと対峙していた。
ヴォドールが爪に武装闘気を纏わせ、ヒョッドルは異様に片側だけ目が隠れるほど長い髪を掻き上げ、流し目を向けながら魔法陣を足元から頭上へと流していく。
「魔導武装。ふっ、これがエレガントな僕の魔法だよ」
ナルシシストでとても戦うような身なりをしていないヒョッドルだが、彼のオリジナル無属性魔法――「魔導武装」は極めて実戦向きな魔法である。
身体の内部の筋肉の動きを魔力で補助しつつ、外部にも魔力装甲を纏うことで身体能力と防御力を格段に上昇させることができる。更に、装備している武器にも魔力装甲の防御を付加することもできるのだ。
現在は武装闘気という手段があるが、闘気という概念の登場以前は身体強化と防御力上昇を同時に行える魔法として重宝されていた。
武装闘気登場以降は、代用の技術があることから以前ほどの価値は有さなくなったが、闘気と重ね掛けをすることができるため、武装闘気と併用する形で使用されている。
「そしてッ! 分子裁断――ふっ、必勝の方程式は全て揃った」
そして、ヒョッドルには防の「魔導武装」と対を成す攻の魔法――「分子裁断」がある。
こちらは分子間力に干渉して分子結合を破壊し、対象を両断するという対物魔法で、愛用している特殊警棒に纏わせて使う。
「熊・撃・爪!!」
武装闘気を纏った爪で放つ引き裂き攻撃を危なげなく躱し、特殊警棒で袈裟斬りを放つ。
熱したナイフでバターを切るように、骨と肉をあっさりと断ち、ヴォドールの身体に深々と斜めの傷が刻まれた。
そこから無数のポリゴンが溢れ出し、やがて身体全てがポリゴンとなって消滅した。
◆
「――ッ! どこにいきやがった!!」
同刻、森の一角にて巨大な斧を振り回しながらギュトーは叫んでいた。
先程まで目の前にいた筈の標的――シュピーゲルがいつの間にか姿を消していたのだ。
といっても、別に敵前逃亡をしたとかそういうことではない。
シュピーゲルは極めて存在感が無く傍に居ても他者から認識されにくい性質を持ち、更に方向音痴の病的な迷子体質を持つという魔法省特務研究室一の問題児である。フォルトナ王国のウォスカー=アルヴァレスと張るほどの問題児といえば、その問題児っぷりも伝わるのではないだろうか?
前者の性質は極めて暗殺者向きだが、後者の方向音痴の迷子体質のせいで全てを台無しにしており、外での任務に参加する際は常に迷子紐で縛られている。それでも姿を消して迷子になることが多く、シュピーゲルを伴った任務の最初の仕事はシュピーゲルを探すことになることが大半だ。
それでもシュピーゲルが特務研究室の特務騎士に選ばれているのは、トップクラスの頭脳と高い処理能力を持つからである。
流石に何百手先を読んでいるのか予想もつかない妖怪・百合薗圓や、策士の上位に位置するラインヴェルドやオルパタータダ、その他問題児な王族や各国首脳達、直属の上司のスザンナから見れば数段劣るが、シュピーゲルは自ら策士であると名乗っても問題がないほど知略に秀でている。比較する相手が悪過ぎるのだ。
そのシュピーゲルが何故ギュトーと接触できたかというと、別にギュトーの動きを読んでいたとかそういうことでは断じていない。そもそも、ここは誰? 私はどこ? 状態なのだから。
ギュトーと出会えたのは偶然だったが、遭遇した以上は完璧に撃破する筋道を立てる。シュピーゲルはできる子なのだ。
「酸性雨」
シュピーゲルは慌てることなくオリジナル酸魔法と水魔法の複合魔法を使い、酸性の雨を降らせる。
シュピーゲルは自分の性質をよく理解していた。存在感のない自分なら、相手に気づかれず魔法も行使できる。
「酸性霧」
更に酸性の霧を発生させるシュピーゲルのオリジナル酸魔法と水魔法の複合魔法を発動し、酸の霧を発生させた。
酸の雨と霧に襲われ、ギュトーの装備や雨に触れた皮膚が徐々に溶け、爛れていく。
「ど、どこだッ! 出てこい、どこにいやがる!!」
「酸性槍」
そして、トドメとばかりに三つ目のオリジナル酸魔法と水魔法の複合魔法を発動する。
この魔法は「酸性雨」あるいは「酸性霧」を発動している間にのみ行使できる魔法だ。
「酸性雨」あるいは「酸性霧」の酸の成分を抽出し、瞬時に槍を生み出して攻撃するこの魔法によって、酸の霧と雨に襲われていたギュトーは無数の酸の槍に差し貫かれて撃破された。
◆
「高速錬金術式」
巨大な二本の剣を構える巨大の馬人族の族長――バトーウと対峙するカトリーヌは小柄な身体と不釣り合いな巨大な剣を作り上げ、構えた。
頭や制服に沢山のリボンを着け、可愛いネイルや愛されメイクも施したカトリーヌが「可愛くない」と評する金属性錬成魔法。
「おう、ちっこい嬢ちゃんだと思っていたがなかなか厄介な武器を使えるみたいだな! まあ、それを使いこなせたところで俺は倒せないけどな! 俺の方がでかいし強い! デカくて筋肉がある奴が勝つのが物事の通りってもんだ!」
「ローザさんから『ただの脳筋でバカだから倒すなんて余裕余裕』、メアレイズさんから『あれはきっと脳味噌まで筋肉が詰まっているのでございます! 筋肉がジャスティスだって思っているただの勘違い野郎で策を弄する前に殴るタイプでございますから簡単にボコボコにできるでございます』とお聞きしていましたが、案外頭も回るのですわね」
「んだとッ! ネメシアとメアレイズがそんなことを言ってやがったのか?」
「あら? いいのかしら? ネメシアさんは獣帝で兎人姫ネメシア教の女神なのでしょう? 呼び捨てにしちゃって」
「ふん。俺はまだ認めていない、あれはまぐれだ! デカくて筋肉があって強い奴が勝つ、それが物事の通りだ。貧弱な女が巨体の俺に勝てる訳ないだろ?」
「…………ふっ、ふふ。女が、貧弱……ね。その認識、改めさせて差し上げますわ」
カトリーヌは作り上げたミスリル製の大剣に武装闘気を纏わせ、投擲した。
その得物を手放すという予想外の攻撃にバトーウは驚きながらも二本の剣で防ぐ……が、その瞬間にはカトリーヌが二つの大剣を「高速錬金術式」で作り上げ、武装闘気を纏わせて斬撃を放った。
十字斬りを浴びたバトーウの傷口からポリゴンが溢れ、やがて無数のポリゴンと化して消滅した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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