Act.8-19 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.5 乙
<三人称全知視点>
その異変に真っ先に気付いたのは、レジーナと戦いを繰り広げていたオルフェアであった。
突如、魂でも抜かれたかのように一切の動きを止めた真月。
その真月にゆっくりと近づいていくミーヤ。
「どうしたんだい? あたしは片手間で相手できるほど雑魚のつもりはないんだけどねッ! 影箒」
レジーナの影が歪み、箒の形へと姿を変えて地面から浮き上がってくる。
実体ある影の箒と化したレジーナの影は武装闘気を纏って強固な意思を持つ武器と化して次々とオルフェアへと襲い掛かってくる。
「水晶魔散弾」
オルフェアは『E・M・A・S』の宝石属性魔法の指輪に周囲の魔力を吸わせると、小さく尖った大量の半透明の結晶の破片を生み出して影箒達へと飛ばしながら真月の方に視線を向ける。
ミーヤが背中から生じさせた二つの触手に武装闘気を纏わせた。その触手に『発火能力』と『放電能力』で炎と雷を纏わせると、『念動力』の不可視の念力で真月を固定し、二つの触手で連撃を加えながら、空いた二つの手でクァール本来の放射線を操る力を駆使して数百億~数千兆電子ボルトにまで加速された電子が青白い光となって放たれ、直撃した物質そのものを消滅させる大技が真月を跡形もなく消し去った。
「……一体どういうことですか? 何故、あれだけ優勢だった真月殿が一撃で」
「簡単なことだよ。ミーヤは『催眠術』を使って真月を催眠に落とし込んだのさ。催眠に嵌った真月は自分にとって都合のいい夢の中でミーヤ相手に戦っていたんだろうね。だけど、夢の中でいくらミーヤを倒したってミーヤ本体には何一つダメージはない。こうやって無防備を晒している間に逆に倒され、目を覚ましたら負けている。恐ろしいだろ? これがあたしのミーヤの新しい力さ」
ミーヤが『黒い虐殺者』と呼ばれる強力な魔物であることはオルフェアも知っていた。人間並みかそれ以上の高い知能を有し、仔猫の頃にレジーナに拾われたからか、かなり世話焼きで常識をわきまえているが、本来は残忍で狡猾な性格であると。
一度本気で戦うとなればその力を遺憾なく発揮し、強力な敵として立ちはだかることは明らかだった。電磁波や放射線を操る力や、触手による攻撃、空間転移能力……確かに、それはどれも警戒する必要のある大きな力だが。
真月が倒され、オルフェアはその危険度を更に大きく引き上げる必要に迫られた。
数百億~数千兆電子ボルトにまで加速された電子を用いた消滅攻撃など、野生のクァールであればまず行えない。
それに加え、真月を文字通り無防備にしてしまう『催眠術』を始めとする驚異的な超能力妖術も有している。
更に、真月が倒され、二対一という劣勢に立たされたこともオルフェアを追い詰めていく大きな要素となった。
――勝ち目など、ある訳がない。
「さて、二対一だ。大人しく降参するかい?」
「……ご冗談を。私達にはこの大会で優勝して叶えてもらわなければならない悲願がありますから」
「あたしがアンタの立場なら即負けを認めるけどね。そこまでして叶えたい悲願とは一体なんだい?」
「……有給連休でございます。仕事詰めな生活でなかなか家にも帰れず、ユミル自由同盟に戻って家族と過ごしたいのです」
切実過ぎるオルフェアの願いを聞き、同情的な視線を向けるレジーナとミーヤ。
ちなみに、パーティメンバーのうちミスルトウ、メアレイズ、サーレはオルフェアと同じ「有給連休」を検討している。各国の文官達の仕事環境は相も変わらずブラックなのだ。
余談だが、メアレイズが引っ張ってきたラーフェリア、メラルゥーナ、ヤオゼルド、ガルッテの四人は願いを検討中で、真月は「お腹いっぱい美味しいものを食べたい」である。真月はやっぱり真月だった。
「水晶大魔槍」
結晶属性魔法で半透明の結晶の槍を生成し、武装闘気を纏わせて放つ。
ミーヤはレジーナを守ろうと一歩踏み出そうとしたが、レジーナはそれを制して武装闘気と覇王の霸気を纏わせた「自律氷塊」を放ち、全ての結晶の槍を撃ち落としてみせた。
「水晶角柱」
レジーナの足元から先の尖った水晶が発生し、そこから急成長を遂げて巨大な水晶の柱と化す。
尖った水晶が生まれた瞬間にオルフェアの狙いに気づいたレジーナは素早く攻撃範囲から離れる。その直後にレジーナを串刺しにすることを狙った水晶柱が突き上げた。
「熾焔の騎士像!」
レジーナの火属性と空属性のオリジナル複合魔法で感応魔術を施した炎の騎士像を生み出すと、武装闘気と覇王の霸気を纏わせて嗾けた。
「水晶波濤」
オルフェアの足元から次々と結晶が広がっていき、結晶が剥がれるように次々と先端の尖った小さな柱の連なりのようなものへと成長していく。
武装闘気を纏った小さな水晶の柱は武装闘気と覇王の霸気を纏った熾焔の騎士像を足止めし、貫こうと上へ上へと成長していく。
武装闘気同士が激しいぶつかり合いをし、覇王の霸気が黒い稲妻を迸らせて水晶を破壊していく……が、「水晶波濤」で折られた水晶は更に成長を重ね、破壊と再生を繰り返しながら熾焔の騎士像を飲み込んでいく。
やがて水晶は熾焔の騎士像達を閉じ込め、六角形の水晶の牢獄と化した。
回復魔法で本来は修復できない無機物も治癒が可能になる《修復》という魂魄の霸気を有するレジーナだが、その力では熾焔の騎士像を水晶の牢獄から解き放つことはできない。
「仕方ないねッ! ミーヤ、力を貸して」
オルフェアはその瞬間、考え得る中で最悪な展開に突入したことを察した。
レイドランクとなった真月を下したミーヤとの従魔合神――レジーナ一人だけでも倒すに至らなかったオルフェアに果たして勝ち目があるだろうか。
「だが、それでも! 水晶魔散弾!!」
武装闘気を纏わせた水晶の破片を飛ばすオルフェアに対し、レジーナは『賢者の石と接骨木の杖』の杖先をオルフェアと飛んでくる破片に向けた。
これまでとは違い、【多重魔法】のスキルが組み込まれた『賢者の石と接骨木の杖』を向けられたことに嫌な予感を感じたオルフェアが「水晶壁」を展開し、分厚い水晶を武装闘気でコーティングして備えたが、その抵抗を一笑に付すようにレジーナが魔法の名を紡いだ。
「光球爆烈」
レジーナの杖先から九つの圧縮した膨大なエネルギーを持つ光弾が放たれ、最も後ろの光弾が炸裂して迫り来る水晶の破片全てを消し飛ばした。
従魔の圧倒的な力をその身に宿したことでジェーン=ドゥとの連携技――「向日葵の大地獄」を凌駕する光の洪水はオルフェアを守る水晶を一撃で粉砕し、オルフェア諸共一瞬にして蒸発させてしまう。
「ぶっつけ本番だったけど、なかなかの威力だったね。……この状態でもちゃんとユリアと連携技出せるか確認してみないといけないわ。庵に戻ったら早速誘ってみましょう」
ユリアと「向日葵の大地獄」を放つ姿を想像して乙女乙女するレジーナを従魔合神を解いて黒猫の姿に戻ったミーヤが優しい眼差しで見つめていた。
◆
二対の『霹靂の可変戦鎚』を構える元獣人族の最弱――兎人族のラーフェリア、メラルゥーナ、ヤオゼルド、ガルッテと対峙したディグランは一切油断なく剣を構えた。
聖人――侏儒仙に至ったドワーフ王がこれほどの警戒を向けるのか、その理由は四対一という圧倒的数的不利などでは断じてない。
多種族同盟の議長にして、ディグランの盟友――ローザに戦いの技を教えられ、最弱を脱したという獣人族最強の兎人族。その中でも最強と言われる三文長メアレイズの姿こそいないが、この場にいるのは四人全員がローザから直々に戦う術を教えられた猛者ばかりだという。
ディグランは強者との戦いが好きだ。この対戦カードが決まった時、ディグランは是非ローザの弟子達との戦いを期待していたのだ。
まさに、願ってもない対戦相手だった。猛者との戦いを前に緊張感が高まっていくが、同時に猛者との戦いへの期待で僅かに口角が上がっている。
「さあ、どこからでも掛かってこい」
ド=ワンド大洞窟王国の秘宝『剛地鋼剣ドヴェルグティン』を構えた。
「兎人族が一人、ラーフェリア=白風=アンゴラ=ラゴモーファ――押して参りますわッ!」
武装闘気と神攻闘気、神堅闘気、神速闘気を纏い、更に神境智證通、金剛智證通、剛力智證通で強化を重ね掛けしたラーフェリアが『霹靂の可変戦鎚』を構えて一瞬にして距離を詰めると、二つの戦鎚を同時に振り下ろす。
【暴虐者】で回避不能の物理ダメージの追加に、【破壊王】の攻撃力と筋力を通常の三倍上昇、【崩壊者】による衝撃波による範囲攻撃に、【蹂躙王】の低確率即死効果、【重量操作】で攻撃のタイミングで重量を重くして、トドメに【霹靂之王】で雷を纏わせて追加ダメージを狙う『霹靂の可変戦鎚』二刀流の厄介なコンボをディグランは素早く後方に飛んだことで運良く回避することに成功した。
更にディグランが退避と同時に設置した聖属性の魔法陣が天を突く光の柱を生じさせるが……。
「なかなかの耐久力であるな」
「当然でございますわ!」
聖属性魔法をほぼ無傷で耐え切ったラーフェリアが再びディグランに肉薄し、両手の『霹靂の可変戦鎚』を同時に振り下ろす。
更に『霹靂の可変戦鎚』を銃撃モードに変形させたメラルゥーナ、ヤオゼルド、ガルッテの三人が銃弾の雨をディグランへと放った。
「朧黎黒流・覇道雷光」
武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『剛地鋼剣ドヴェルグティン』で斬り上げを放ち、『霹靂の可変戦鎚』の木殺しを思いっきり打ち上げた。
ラーフェリアはその斬り上げの威力を利用して上空に飛び上がると、ディグランに無数の銃弾が殺到する。
「朧黎黒流・疾風覇薙」
ディグランは『剛地鋼剣ドヴェルグティン』に聖属性の魔力を纏わせると横薙ぎすると同時に解放して猛烈な光の真一文字斬りを放った。
更に聖なる魔法陣が次々と展開され、中心から聖なる光が吹き出すと次々と弾丸を飲み込むように光の柱を構築していく。
「……やはり、聖人相手だと生半可な攻撃は通用しませんかッ! ならば、常夜流忍術・影分身!」
ヤオゼルドは緩急のあるステップを素早く行うことによって残像を発生させ、自然エネルギーで補強することで残像を実体に近い状態で固定する常夜流忍術で七体の分身を生み出すと同時に武装闘気で強化すると、分身と共に神境智證通で一瞬にして距離を詰め、八人全員で二振りの『霹靂の可変戦鎚』を振り下ろした。
更に上空からは自由落下を利用して位置エネルギーを運動エネルギーに変換したラーフェリアが威力を高めた渾身の『霹靂の可変戦鎚』による振り下ろしを放ってくる。
「英雄覇纏! 朧黎黒流・疾風覇薙」
覇王の霸気と武装闘気、更には英雄覇気という抵抗力が弱ければ術者に屈服して心酔してしまうほどの圧倒的な魔法闘気を魂魄の霸気《英雄王》によって武器に纏わせ、聖属性の魔力を纏わせると横薙ぎすると同時に解放して猛烈な光の真一文字斬りを放った。
弾丸の雨を切り裂くために放った斬撃が手加減だと思えてしまうほどの圧倒的な光の奔流に呑まれ、ヤオゼルドは分身諸共一撃で蒸発してしまう。
「朧黎黒流・覇道雷光」
一撃で失われた聖なる魔力を補填したディグランが斬り上げを放ち、猛烈な光の奔流がラーフェリアへと迫る。
咄嗟に耐魔智證通と金剛智證通を強化して防御を固めるも、ディグランの斬撃はラーフェリアの防御を軽々と打ち破ってポリゴン化する間もなく消滅させた。
「さあ、残るは二人であるな。どこまで我を楽しませてくれるか楽しみだ」
ラーフェリアとヤオゼルドを続け様に撃破したディグランを前に、メラルゥーナとガルッテの表情が更に緊張で強張った。
お読みくださり、ありがとうございます。
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もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




