Act.8-14 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.4 丙
<三人称全知視点>
ディーエルの援護は期待できない。ディーエルはシモンと合流し、プリムヴェールとマグノーリエと相対しているからだ。
よって、最強の魔竜ナトゥーフと竜の巫女オリヴィアを撃破するための戦力はロックスとシャードンの二人しかいない。
しかし強敵二人に臆さず、微塵も勝ちを諦めずに相対した。
「食いしん坊な鮫特攻」
挨拶代わりにシャードンは「怒りの鮫特攻」よりも二回りほど小さな鮫達を放った。獰猛な空泳ぐ鮫達はナトゥーフとオリヴィアに喰らい付こうと殺到する、が。
『竜暴食』
大きく口を開けたナトゥーフが猛烈な吸引力で吸い込みを始めると同時に獰猛な空泳ぐ鮫達が無数の魔力へと還元されて瞬く間に飲み込まれてしまった。
「……おいおい、竜暴食は周りの魔法まで魔力に分解して吸収してしまうような能力だとは聞いてないぞ?」
『ボクも日進月歩だけど着実に強くなっているからね』
ナトゥーフもまたローザの力を借りてこの五年の間に自らを強化していた。
名前:ナトゥーフ=ドランバルド
種族:古代竜、魔竜王、太祖竜、覇王竜
所有:ナトゥーフ=ドランバルド
HP:20,000,000
MP:20,000,000
STR:35,000,000
DEX:50,000,000
VIT:90,000,000
MND:90,000,000
INT:10,000,000
AGI:50,000,000
LUK:10,000,000
CRI:10,000,000
『ローザさんは言っていたよ。ボク達、古代竜でも対処できない脅威がいつ現れてもおかしくないって。ボクは大切な娘のオリヴィアを守りたいから、そのために強くならないとって』
「シャードン殿、かなりまずい状況だ。あらゆる魔法が効かないとなれば、闘気や物理攻撃だが、ナトゥーフ殿を相手に並みの攻撃は通用しない」
「ああ、確かに魔法は効かないようですね。ですが、何故か分かりませんが今の俺は全く負ける気がしないんですよ!」
剣に炎を纏わせ、シャードンはナトゥーフに斬りかかった。そのあまりにも予想外な行動にナトゥーフ、オリヴィア、ロックスの思考が一瞬だが停止する。
『――パパッ!』
『はっ!? 竜暴食!!』
オリヴィアの声で正気に戻ったナトゥーフが魔力を喰らう力を行使する……が、シャードンの剣から焔が消えない。
『魔法じゃないのッ!? こうなったら、龍神の怒號!!』
完全に竜化し、オリヴィアを庇うように立つと渾身全力のブレスを放つナトゥーフ。
しかし、シャードンが剣を振り下ろした瞬間――圧倒的な威力のブレスが文字通り真っ二つに分断された。
『ボクのブレスを、斬った!?』
「やっぱり、負ける気がしないな!! 炎の殺戮剣!!」
シャードンの剣に宿っていた燃え盛る炎が振り下ろされるのと同時に無数の鰐へと姿を変え、ブレスを切り裂きながらナトゥーフに殺到する。
「――パパを傷つけるのは許さないッ! 極大付与術ッ!」
オリヴィアの付与によってナトゥーフのブレスが水へと変化する。
その激流は鰐型の炎の斬撃を先程のブレスを切り裂いていた猛威が嘘のように思えるほど簡単に消し去ってしまった。
『オリヴィア、ありがとう』
「パパ、無事でよかった!」
「……全く、折角勝てると思ったのに。しかし、この炎の殺戮剣、一体なんなんだ? 食われなかったってことは魔法じゃないってことだよな」
何故か絶対に勝てると確信していたシャードンだが、その自信の源が一体何なのか、シャードンは理解していなかった。
それに気づいたのは、ロックスだった。側近としてその力に覚醒したディグランの側にいたロックスには、その力が一体何なのかを客観的な視点から見て、可能性を検討することが可能だったのである。
「シャードン殿、その剣に覇王の霸気を纏わせてみてくれないか?」
「ロックス殿、何を言っている? 覇王の霸気はバダヴァロート陛下のような『王の資質』を持つ者だけが獲得できる力だ。俺のような者が持つ訳がない」
「オリヴィアもパパも持っているよ?」
「古代竜や竜の巫女が持っているのは大して驚かない。だが、俺みたいなただの魚人が『王の資質』を持っている訳がない。……きっと、何かの間違い」
できてしまった。シャードンの剣に黒い稲妻――覇王の霸気を象徴する膨大な力が宿っている。
「……どうやら、シャードン殿も『王の資質』を持っていたようだな」
「嘘だろ……俺が、『王の資質』を?」
「そのナトゥーフ殿に食われなかった炎の一撃もシャードン殿の魂の形なのではないか?」
シャードンはロックスに言われ、己の心を、魂を見つめ直してみた。
三角帽を被った男のシルエットが、炎の灯った剣を振るう姿が見えた、気がした。
こことは別の遠い世界――もしかしたら、自分はそこで剣を振るい、戦ってきたのかもしれない。
もし、ローザがシャードンの話を聞けば恐らくこう答えるであろう。「例え記憶が消えても、魂にまで刻まれた剣技は消えないってところじゃないかな? 君、サーベルを武器に選んだ時とか、技に名前をつけた時とかに自然としっくりくる物を選んだり、名前が出てきたことってないかな?」、と。
記憶を持つ転生者は総じて魂の強度が高いとされる。また、魂の強度が高い者は『王の資質』を持つ傾向がが強いという説もある。
シャードンもまた、転生者だった。しかし、その記憶は転生する時点で失われ、自分が転生者であることを認識すらしていなかったのだ。
しかし、僅かばかり強度が高ければシャードンもまた記憶を保ったまま転生した可能性があった。――大切な仲間達と共に七つの海を、空を旅した伝説の海賊の魂を。
シャードンの前世は、異界の大海賊ティーチ・ジーベック・ロッコ――とある王国に認められた鰐の名を持つ伯爵家の分家に生まれた元貴族の空飛ぶ海賊船長。その象徴は、一撃必殺の燃え盛る炎と鰐――その二つがシャードンに万物を切り裂く燃え盛る炎の斬撃――魂魄の霸気《鰐》として宿っていたのだ。
「炎の殺戮剣!」
武装闘気と覇王の霸気をサーベルに宿し、シャードンがオリヴィアを庇うように立つナトゥーフへと次々と斬撃を放つ。
シャードンの魂魄の霸気《鰐》は極めて特殊な力だ。その斬撃はあらゆるものを切り裂くが、斬撃が焔によって構成されているという性質から水を唯一の弱点とする。あれほどナトゥーフのブレスをいとも容易く切り裂いていた斬撃があっさりと消滅してしまったのはそのためだ。
ナトゥーフは属性を持たないが故に全ての属性の魔力を喰らうことができる魔竜――そのため、オリヴィアの「極大付与術」の力を借りなければシャードンの魂魄の霸気《鰐》を無力化することができない。
シャードンはこの戦いの鍵を握るのがオリヴィアであると見抜いていた。オリヴィアが倒れれば、この戦いの形勢は一気にシャードンとロックス側に傾くことになる。
「ロックス殿、オリヴィアさんを――」
「なかなか難しいことを言ってくれますね。しかし、それしかないのなら仕方ありません。――シャードン殿、ナトゥーフ殿の相手、よろしくお願いします!」
ロックスが裏武装闘気で二刀を生み出し、ナトゥーフとオリヴィアの背後へと走った。
「……パパ」
『大丈夫、オリヴィアのことは必ずボクが守るから』
オリヴィアの「極大付与術」によってナトゥーフのブレスが激流へと変わり、シャードンの斬撃を消し去った瞬間――背後を向いたナトゥーフが真っ向から斬り掛かるロックスに向かって渾身のブレスを放った。
ロックスの裏武装闘気の鎧と二刀はその圧倒的なエネルギーに耐えきれずに砕け散り、無防備になったロックスも跡形もなく消え去った。
「炎の殺戮剣が二度も無効化され、オリヴィアを撃破する筈だったロックスが撃破され、二対一……相手は古代竜と竜の巫女。ああ、分かった分かった、俺の負けだ。一思いにやってくれ」
『うん、それじゃあお言葉に甘えて勝ちを拾わせてもらうよ』
ナトゥーフの口から放たれたブレスがシャードンをポリゴン化する間もなく一撃で消し飛ばした。
◆
一方、ディーエルはシモンと合流し、マグノーリエとプリムヴェールと対峙していた。
「Dear my homeland. For my homeland. Allegiance to my homeland. Devote to my homeland.」
四つのオリジナル身体強化魔法を発動し、一度目で魔力操作によって身体能力の底上げと筋力強化を行い、二度目で自己治癒力と耐久力を上昇させ、三度目で敏捷性を上昇させ、四度目で身体のリミッターを外し、限界を越えた力を出す。
「シモン王国宮廷近衛騎士団騎士団長は【献身の近衛団長】の異名を持つ強化魔法のスペシャリストと聞いている。身体強化と敏捷力の向上で高い回避力を誇り、仮に命中しても向上した耐久力で耐え抜き、強化された自己治癒力で自らの傷を癒す無敵の守護者だと」
「次期族長補佐でエルフ最強の魔法剣士と謳われるプリムヴェール様に覚えて頂けているとは、恐悦至極にございます。……しかし、私はタフでございますよ? 貴女は剣士でありながら大規模な魔法を使うとお聞きしていますが、私はその全てを耐え抜く自信があります。我が祖国への忠誠は決して砕くことはできないのです! Loyalty to my homeland.」
そして、五年前までは存在しなかった五つ目の魔法が発動し、シモンに魔法威力上昇と魔法耐性強化が加わった。
身体のリミッターが外れたことで限界を超えた力を引き出し、更に身体能力強化、筋力強化、耐久力向上、魔法威力上昇、魔法耐性上昇、敏捷力上昇、自己治癒力上昇――あらゆる面で強化されたシモンは護国の最強の守護騎士として絶対に負けることがないと自信満々にプリムヴェール、マグノーリエの二人と対峙した。
「マグノーリエ様、お願いしていた通り……」
「分かっているわ。タイプの違う魔法剣士二人と戦ってみたかったのでしょう? 私は手を出さないから楽しんできて。私は信じているから、私の騎士は絶対に誰にも負けないって」
マグノーリエに微塵もプリムヴェールの勝利を疑わない笑顔に送り出されたプリムヴェールは『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』を構えて不敵に笑った。
「マグノーリエ様の剣、プリムヴェール=オミェーラ――推して参るッ!」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




