Act.8-8 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.2 下
<三人称全知視点>
ドリームマッチトーナメントには面白い趣向がなされている。
その一つが、ここのチームの得点を各チームに提示しないと言う点だ。
そのため、各チームは誰が敗北したか、誰が生き残っているかという状況をリアルタイムで知ることができず、その把握も各々の仕事となる。
例え見気を使ったとしても状況を知るだけで一苦労。また、通信技術を保持していなければ遠くにいる仲間に指示を飛ばすこともできず、指揮官の思惑通り戦場を動かすこと難しくなる。
これは、消極的な戦闘回避を防止するために圓が組み込んだ仕様だが、これにより思いがけない対戦カードが生まれることになる。
本陣にたった一人残り、戦場を俯瞰していたジーノは、自らのもとに一人のメイドが近づいていることを感じ取った。
「……クララさんですか。まさか、彼女が一番乗りとは思いませんでした」
解脱することで手に入れた仙氣によって構成される仙人の身体に武装闘気を纏わせ、ジーノは天眼智證通を開眼した。
見気を使ってジーノの位置を察知し、遠距離からパスを繋いだ風の触手で攻撃してきたクララに対し、金剛智證通と耐魔智證通で更にその身を強化したジーノは剛力智證通を発動した右手で文字通り触手を粉砕する。
「なるほど、この程度の強度ですか? それなら、無視しても差し支え無さそうですね」
再生した触手に見向きもせず、「宿纏烈火」の最終形態――「宿纏烈火・焔魔王」を発動して全身に巨大な炎を纏うことで炎の魔人と化すと、連続で鞭のように攻撃を仕掛けてくる風の触手を全て無力化して見せた。
「…………より一層化け物っぷりに磨きが掛かっていますね、執事長」
「クララさん、聞こえていますよ? 烈火魔弾」
武装闘気を纏わせた炎の弾丸が宛らマシンガンのようにクララに殺到する。
森を焼き尽くしながら迫り来る弾丸を前にクララは武装闘気を纏わせた風の触手を盾にして身を守ろうとするが、より精度の高いジーノの炎の弾丸をコーティングしていた武装闘気がクララの武装闘気を上回り、風の触手を貫通してそのうちいくつかはクララに命中した。
「…………地獄耳過ぎます。……っ、これで勝ったと思わないでください……風の触手・螺旋」
急所を外しながらも灼熱の弾丸はクララの身体に留まり、その身を焼いていく。体内にも武装闘気を浸透させて防御に転じているが、それでもジーノの弾丸の熱を全て遮断することができない。
熱に蝕まれながら、クララは無数の風の触手をドリルのように回転させ、更に武装闘気を纏わせて炎を纏うジーノへと放った。
「無意味な攻撃です。千手灼掌」
「宿纏烈火・焔魔王」から生まれた無数の炎の手が武装闘気を帯び、無数の掌底を放って無数の風の触手を粉砕、無力化する。
クララの全力の魔法を駆使してもなお、ジーノにダメージを与えることはできなかった。
「これで終わりです。爆発しなさい、烈火魔弾」
「烈火魔弾」に内包された膨大な魔力が解放され、クララの身体の内部から発生した無数の爆発がクララの身体をバラバラになるまで破壊し、焼き尽くした。
◆
ところ変わってネストの本陣に近い森の一角――その地でジーノチームのヘレナとヘイズ、ネストチームのアンタレスとシュトルメルトが死闘を繰り広げていた。
ヘレナは『黒刃天目刀-濡羽-』の【銃火器創造Ⅹ+Phantasmal】で生み出したデザートイーグルを構え、ヘイズは猛毒を塗った『黒刃天目刀-濡羽-』を構え、アンタレスは『天空庭師の庭師服』の【コンツェシュ創造 Ⅹ+Phantasmal】で生み出した串刺し専門のコンツェシュを、シュトルメルトは『天空料理人の料理人手術着』の【手術メス創造 Ⅹ+Phantasmal】によって生み出したメスをそれぞれ構えて睨み合っている。
「それじゃあ串刺しショーを始めるよ!」
武装闘気を纏わせたコンツェシュを細腕からは想像もつかない速度でヘレナとヘイズに投げるアンタレス。
ヘレナとヘイズは見気を駆使して躱すと、ヘレナはシュトルメルトと、ヘイズはアンタレスとそれぞれ距離を詰めて対峙する。
ヘレナの放った弾丸をシュトルメルトは慣れた手つきで武装闘気を纏わせたメスで切り刻んだ。
武装闘気を纏わせた弾丸ではないとはいえ、最強の拳銃の一つから放たれた弾丸らしい威力も速度も桁違いの一撃だった。それを熱したナイフでバターを切るように両断する技術は、流石は未来視にも到達した見気と高い執刀能力を持つシュトルメルトというべきか。
「それで終わりですか? ならば、今度は私の番です。その美しい肢体、より映えるよう美しく捌いて見せましょう」
「お断りですわ。……勝負はまだまだこれからです」
バックステップで後方に撤退し、ヘレナが新たに生み出したのはKBP OSV-96とアキュラシーインターナショナル AW50の対物ライフル二丁だ。
その銃口をアンタレスとシュトルメルトに向けると同時に引き金を引き、武装闘気を纏った12.7x99mm弾と12.7x108mm弾が銃口から放たれる。
「――ッ! ――回避を!!」
「させませんよ! 劇毒魔法――ヒドラ・ヘッズ」
ヘイズの薬指に嵌った紫色の指輪が怪しく煌めく。
瞬間、劇毒の竜がKBP OSV-96の弾丸を回避したアンタレスに食らいついた。
毒使いとして長年憧れていたライクライト伯爵家の秘宝――毒魔法。そのスザンナが継承した術をローザを通じて提供されたヘイズは最もライクライト伯爵家の奥義魔法を再現する形でアンタレスへと放ったのだ。
劇毒に蝕まれてその身体を溶かされていくアンタレス。一方、アンタレスを撃破したヘイズはというと……いつの間にか投擲されていた武装闘気を纏わせたコンツェシュによって肋骨を器用に避けて心臓を的確に一刺しされていた。
あまりにも予想外のタイミングでの一撃、かつ目にも止まらない早業で寸分の狂いのない投擲――勝利を確信したヘイズの一瞬の隙をついた神業と呼ぶべき一投はヘイズを確実に死へと誘った。傷口から無数のポリゴンが溢れ、内部から瓦解するようにヘイズが消えていく。
「……まさかこんなにあっさりとアンタレスが逝くとは。次世代もなかなかお強いようですね。裏武装闘気・大楯重壁」
裏武装闘気によって無数の分厚い壁のような盾を生成し、アキュラシーインターナショナル AW50の弾丸を複数の壁を駆使して防ぐと、壁の上を駆け抜けてヘレナに迫る。
武装闘気を纏ったメスを構えて迫るシュトルメルトに対し、アキュラシーインターナショナル AW50では打ち取るのが困難だと悟ったヘレナはM134を想像して闘気の練度を更に高めて地面に固定し、弾丸の雨を放った。
「裏武装闘気・大楯重壁」
大盾の上に更に盾を重ね、武装闘気を纏った弾丸の雨を無力化するシュトルメルト。
階段状になった盾を防弾に使いながらヘレナの目前まで壁を張り巡らせると、そのまま飛び降りると同時に二本のメスを構え、ヘレナに斬りかかった。
一方、ヘレナもコンバットマグナムを生み出すとシュトルメルトの脳天を狙って発砲した。
「裏武装闘気・小壁」
その一撃を裏武装闘気で生み出した小さな盾で器用に防ぐと、そのままメスを駆使して瞬く間にヘレナを切り刻む。
着地と同時にヘレナの身体が綺麗な断面で刻まれた箇所から崩れ去り、無数のポリゴンと化して消滅した。
「さて……後はどれだけ残っているのでしょうか? 捌き甲斐がある方が生き残っているといいのですが」
血液で汚れたメスを捨て去ると、新たなメスを生成し、シュトルメルトは新たな獲物を狙い動き出した。
◆
ここまでの戦闘経験者で唯一生存しているシュトルメルトだが、彼の戦いの機会はここで終わりとなった。
ジーノの本陣に近づく二つの影――その正体はチームネストの大将ネストと、ネストの護衛役として残ったフィーロである。
「おやおや、お坊っちゃま自らお越しになられるとは……そのつもりだと知っていたら事前に私の方から出向きましたのに」
「ジーノさん、お気遣いは無用だよ。……フィーロさん、お願いできるかな?」
「分かったわ」
打ち合わせ通り、フィーロが『万物切断千変万化-レットドラゴーンプラティナクロース-』を張り巡らせた。【自動設置】によってフィーロが一切動くことなく設置され、【武装透明化】によって透明化した糸はジーノの動きを確実に制限した。
「これで、ジーノ執事長の得意な肉弾戦は封じられた。僕はお父様から暗殺術の手解きを受けているけど、まだまだ執事長に勝てるようなものじゃないからね。遠慮なく得意分野で攻撃させてもらうよ」
「なるほど、なかなか考えましたね。しかし、それで肉弾戦を封じたとお思いですか? 宿纏烈火・焔魔王」
炎の魔人と化し、ネストを牽制するジーノ。実体を伴わないジーノの炎は糸を貫通して顕現することができる。
「……っ、厄介だね。フィーロさん、撤退よろしく」
「本当にいいのね?」
「このままここに居て万が一やられたら得点になっちゃうからね。大将同士、ここで決着をつけるのが無難じゃないかな?」
無数の糸をそのままに撤退を開始するフィーロ。
「……本当によろしいのですか?」
「ああ、これで僕が勝ってもジーノさんが勝ってもこれ以上戦いが継続されることはないでしょう? 後は仲間の頑張りを信じるだけだ」
「素晴らしいお考えですね。……では、参りましょうか? 烈火魔弾・劫火連撃」
無数の火球がジーノの手から放たれた。その全てが武装闘気によって硬化されている。
「エアリアル・ウィンドテンペスト」
対するネストは乙女ゲーム『スターチス・レコード』において、ネストがレベル99で習得する固有最上級風魔法「エアリアル・ウィンドテンペスト」を発動して無数の竜巻を発生させる。
武装闘気を纏った竜巻はジーノの火球を吹き飛ばして無力化して見せた。
更に竜巻は威力が全く衰えないままジーノに迫る。
「仕方ありません……奥の手を使うしかありませんか」
「なら、僕も全く同じ手で押し通らせてもらうよッ!」
小さな竜巻を「エアリアル・ウィンドテンペスト」の竜巻へと次々と放つネスト。
一方、ジーノも武装闘気にその力を掛け合わせ、更なる力を得た竜巻に対抗する。
竜巻と炎の魔人に黒い稲妻が迸る。二人が使った奥の手――その正体は『王の資質』を持つ者だけが到達できる選ばれた者の闘気、覇王の霸気だ。
竜巻と炎の魔人――二つの武装闘気と覇王の霸気を掛け合わせた魔法が衝突し、激しい衝撃を発する。無数の黒雷が迸る中、二人の魔法は互いに一歩も譲ることなく戦場は膠着状態に陥る。
「魂魄の霸気――《移火》」
だが、ジーノとネストがその膠着を許す筈がない。
戦いが滞り、不毛な時を過ごすならば先頭を動かしてかき混ぜればいいというのが二人の見解の一致だった。
実際に動いたのはジーノ――無数の炎を背後に飛ばし、炎から炎へと飛び移る《移火》を駆使して糸の牢獄から解き放たれると、そのままネストに向かって炎の拳を振るった。
武装闘気を纏った拳がネストの身体を粉砕する……かに思えた、がその攻撃はネストの身体を擦り抜ける。
「……まさか、残像?」
「その通りです。僕の魂魄の霸気――《陽炎》。その力は視界内の何処かに転移すると同時に、その場所に自分の残像を設置すること。そして何らかの衝撃を加えない限り残像は破壊されないという、まあそのようなものです。見た目だけは本物と寸分違わず、見気を使ってもなお見切れないのですから、見分けられなくて当然です。寧ろ、見分けられてしまったら悲しくなってきますよ」
遥か後方に移動したネストが、不敵な笑みを浮かべている。背後を取ったにも拘らず全く攻撃の素振りを見せない、その異様な状況にジーノは辺りを見渡し、そして発見する。
「僕なりに解釈した姉さんの魔法――ご賞味あれ! 烈旋空針暴颶嵐域」
そして卵が羽化するように小さな風の球が弾けた。
発生した巨大な暴風の領域で風を数百ナノメートルサイズという微小な刃状に形態変化させ、領域に存在する全ての切り刻むローザのオリジナル風魔法――ネストの固有魔法「エアリアル・ウィンドテンペスト」をも上回るネストの知る最強の風魔法に更に武装闘気と覇王の霸気が加わった最強の一撃は、ジーノを包んでいた強化された炎の魔人すらも一瞬にして切り裂き、身体を両断した。
ジーノチーム、大将ジーノ戦闘不能。得点七対得点十二で、Aブロック第一試合、ネストチームの勝利。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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