Act.8-6 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.2 上
<三人称全知視点>
ジーノ率いるパーティは、現ラピスラズリ公爵家の戦闘使用人五人、先代ラピスラズリ公爵家使用人三人、フォルトナ王国の司書二人という構成だ。
彼らが戦うヒース率いるパーティも、現ラピスラズリ公爵家の戦闘使用人七人、先代ラピスラズリ公爵家使用人二人、ラピスラズリ公爵家次期当主とラピスラズリ公爵家に関わる者達が多く構成されている。
いずれの戦力もジーノが良く知る者達だ。未知数なのは他国の司書であるヨナタンとジョセフの二人くらいで、敵チームであればエリシェアは孫娘で他の者達は現同僚や元同僚という立ち位置――今回は先代の戦闘使用人と関わりが深いジーノの方がやや有利に思える。
しかし、今回の模擬戦は経験がモノをいうもの……という訳ではない。
ジーノもネストも彼らが指揮官の細かい指示に従うよりも、目的を与えてそれに向かって各々行動させることが最も彼らの力を生かすことに繋がることを長い付き合いから理解していたからだ。
鬱蒼と茂る森のフィールドで、互いが選んだのは遭遇戦。自分の強さに絶対の自信を持っていたジーノは誰一人護衛を置くことなくヘレナ、ヘイズ、サリア、ジェイコブ、マナーリン、マイル、クイネラ、ヨナタン、ジョセフの九人を放ち、一方のネストも護衛として側に置いたフィーロ以外のブルーベル、アンタレス、シュトルメルト、エリシェア、カレン、ナディア、ニーナ、クララを放った。
「あら、これは因果な巡り合わせかしら?」
「……クイネラ先輩」
クイネラ――エリシェアにとっては同じハーフィリア家出身の忍であり、先輩にあたる人物であると同時に足技の師でもある人物だ。
この師にエリシェアは苦手意識がある。何故なら、彼女は「狩る側の人間が狩られる側に回った時に見せる絶望の顔が、ドSが苦痛と緊迫に顔を歪めて、嫌がるさまを見るのが好きな天性のドS」だからだ。当然、彼女にとっての大好物はシューベルトのようなドSであり、エリシェアのようなサディストではない人物はストライクゾーンから大きく外れているが、だからといって一切手を抜くことはなく、忍時代もラピスラズリ公爵家の使用人引き継ぎの際にも徹底的にボコボコにされた。
エリシェアは狂人の多いラピスラズリ公爵家の戦闘使用人の中でも比較的真面な部類であると実感している。ナディアやニーナ、アルバート、フェイトーンといった狂人の代表格と同僚であるということに内心辟易しながらも戦闘使用人としてラピスラズリ公爵家に仕えてきたエリシェアだが、それでも先代のラピスラズリ公爵家に比べれば平和的な部類だと感じている。
「…………はぁ、仕方ありませんね。ネスト様から夕食にたっぷりのポークカツレツを用意して頂けることになっていますから、その分はしっかりと働かなければなりません」
「……もしかして、食べ物で買収されたの? それなら、ジェイコブのいるジーノさんのチームでも良かったんじゃないかしら?」
「ジーノ様からお声が掛からなかったのと、今回は久しぶりにシュトルメルトさんのポークカツレツを召し上がりたかったので」
「……あの料理するとは思えない手術着の料理人、確かに料理の腕はジェイコブを凌駕しているところもあるわよね。特に、肉料理や動物の血を使った料理は比肩する者が……ローザ様は軽々と凌駕してしまいそうね」
「盲点でした。優勝した暁にはローザ様にポークカツレツを作って頂きましょう!」
「……貴女、どれだけ肉に飢えているのよ。昔からそうよね。……さて、気を取り直して久々の戦いね。貴女がどこまで強くなったか、見せてもらうわよッ!!」
互いに『闇を征く使用人の飛翔ブーツ』に武装闘気を纏わせて地を蹴る。神攻闘気、神堅闘気、神速闘気をその身に纏った二人の脚から放たれた蹴りの交錯は互いに互いの防御を突破できずに仕切り直しとなった。
「裏武装闘気-苦無嵐撃-」
無数の武装闘気が苦無の形へと変化し、クイネラに殺到する。
「その程度の攻撃では私は落とせないわッ!」
空気の擦過で燃え上がった『闇を征く使用人の飛翔ブーツ』で回し蹴りを放ち、その風圧で全ての苦無を落とすと同時に加速――灼熱の蹴りをエリシェアに向かって放つ。
対するエリシェアは『黒刃天目刀-濡羽-』を抜き払い武装闘気を纏わせると、空気の擦過で燃え上がった炎の斬撃をクイネラの脚目掛けて放った。
猛烈な衝撃波が戦場を駆け巡る。互いの武装闘気の練度が勝敗を握る戦いの行方は、エリシェアがクイネラの片足を斬り落とすという形で決着した。
「――ッ! まだよッ! 裏武装闘気――黒脚!」
しかし、そこでまだ諦めないクイネラはポリゴン化しての失った自分の脚を裏武装闘気で補填し、再び渾身の蹴りを放つ。
「裏武装闘気-全方位苦無嵐撃-」
脚を落とされたくらいではクイネラは止まらないと確信していたエリシェアは全方位に裏武装闘気の苦無を展開すると同時に、『黒刃天目刀-濡羽-』を振り下ろした。
クイネラの回し蹴りが『黒刃天目刀-濡羽-』を受け止めると同時に『黒刃天目刀-濡羽-』を鞘から抜き払ったクイネラが斬撃を放つが全方位の全ての苦無を防ぐことはできなかった。
神攻闘気と神光闘気が込められた苦無が突き刺さり、神堅闘気を貫いた苦無から猛烈な火傷するほどのエネルギーが流れ込み、動きが大きく鈍ったところにエリシェアの斬撃が炸裂し、大きな袈裟懸けの傷を刻み付ける。
ポリゴンが傷から溢れ出し、致命傷を負ったクイネラは無数のポリゴンと化して消滅した。
「……なんとか勝利できましたね。さて、ポークカツレツのためにもう少し頑張りますか」
『黒刃天目刀-濡羽-』を鞘に納めたエリシェアは最高のポークカツレツを味わう瞬間を脳裏に思い浮かべながら、新たな獲物を求めて森の奥を目指して突き進んでいく。
◆
「……私は何を見せられているのでしょうか?」
長い鈍色の髪を振り乱しながら、薄く面積も少ないその下着のような頼りない『天空侍女のエプロンドレス』姿のよく似た双子のメイド――ナディアとニーナが淑女の面影もなく歪んだ笑みを浮かべながら『災禍の死神鎌』を振り回し、『明星の星球式鎖鎚矛』を放つ。
そんな双子の攻撃を、『王国騎士の剣』を軽く構えた鬼畜双子少年――否鬼畜双子青年司書のヨナタンとジョセフが心底楽しそうに笑いながらシューベルトの斬撃にも匹敵する鋭く重い斬撃で捌いていく。
四者ともドSで戦闘狂という一部の(モネのような)者達以外には地獄に見える戦場を目の当たりにしながら、ラピスラズリ公爵家の戦闘使用人一の常識人を自負する赤いリボンのついたカチューシャを身につけた深緑色の髪を三つ編みにした大人しめな見た目のメイド――クララ=ホグウィードは溜息を吐いた。
ラピスラズリ公爵家に籍を置きながらも、その瓶底眼鏡を愛用する暗殺者は戦闘を好んではいない。変装の達人で高い化粧技術を持ち、潜入のスペシャリストであるクララの本職は潜入と暗殺である。勿論、戦う技を持たないという訳ではないが、このように表立って武器を振り回して戦うような野蛮な戦い方はナンセンスだと感じていた。
暗殺者を育成する裏世界とも繋がりのある孤児院で育ち、暗殺者として糊口を凌いできた彼女は殺人自体には嫌悪感を抱かないほど感覚が麻痺している彼女が常識人かどうかと問われれば勿論否であろう。……無論、彼女は自分の感覚が麻痺しているなどとは思ってもいないだろうが。
派手な戦いで欲望を満たすために暴れるドSな戦い方に溜息を吐きたくなるのも合理性を求める自分の暗殺の理想と大きくズレているからであり、第三者から見ればどっちもどっちだが、彼女はそれに気づかない。
「クララさん、どうしたの?」
「サリアさん……その、あの四人の戦いを見ているとゾッとして」
「……た、確かに怖いよね。あそこには僕も混ざりたくないかな」
会話からは友好的な雰囲気を感じるも、二人は距離を取り、互いに互いを警戒している。
サリアはジーノのチーム、クララはネストのチームに所属している。つまり、敵同士だ。
同僚であるからこそ、互いに互いと強さを理解しているからこそ、二人は相手の一挙手一投足に気を配り、一切油断なく対峙している。
「……サリアさんは厄介ですね。正直苦手な部類です」
「僕なんて、全然強くないよ」
見た目こそ少女のような可愛らしい顔をした、蜂蜜色のふわふわとした髪と潤んだブラウンの瞳を持つ少年だ。自分以上に『天空侍女のエプロンドレス』が似合っている小動物のようなサリアだが、だからと言って油断すれば返り討ちにある強敵であることをクララは知っていた。
二本のナイフを使った早業と高い投擲能力、小さな暗殺武器を駆使した高い戦闘能力を誇り、『黒刃天目双短刀-濡羽-』を手に入れてからは更に戦闘能力が上がっている。
ローザという化け物の登場で霞んでこそいるものの、かつては誰よりも気配に敏感な【無音の暗殺者】として知られていた化け物――当然その事実を知るクララは一切油断なく剣を構えている。
「だからこそ、私も正面切って戦うつもりは更々ありません。風の触手」
圧縮された風が透明な触手へと姿を変え、全方向からサリアに殺到する。
瓶底眼鏡が逆光に反射し、その表情は窺えない。だが、微かに口元が勝利を確信したように歪んでいた。
「――ッ! 厄介な攻撃を!!」
サリアから可愛らしい気配が消え、刮目して『黒刃天目双短刀-濡羽-』を振り回す。
高い気配察知能力に見気が加わり、不可視の風の触手攻撃すらも見切ることが可能になったサリア――しかし、徐々に増え、切手も切っても周囲の散った空気を凝縮してすぐさま再生する触手は圧倒的にサリアと相性が悪かった。
「普段は暗殺用の針や剣を使っていますから、私が魔法を使えることはご存知なかったようですね。私は風の魔法の使い手――それも、風属性の造形魔法に秀でています。完全にこの場の魔力を支配しない限り永遠に再生する風の触手、それが私の唯一にして最大の切り札です。……私はあまり痛ぶるのは趣味ではありませんし、美少年を触手責めにする趣味もありません。これで決着をつけましょう」
「――ッ! 舐めるな!」
『黒刃天目双短刀-濡羽-』を闘気で全身を強化して投擲するが、地面から生えてきた新たな風の触手が攻撃を阻む。
「……まさか、自分の足元から直接の風の触手を作り出して魔力を供給している!? だから、すぐに再生するの!!」
「あら、見破られてしまいましたか。通常、風属性の造形魔法は空気を固める形ですが、魔力によって固めることが困難になったり、攻撃を受けると崩壊しやすくなります。しかし、直接私自身と魔法に物理的なパスを繋いで絶えず魔力を供給すれば壊れた部分をすぐに修復することができるようになりますよね? それが、再生する風の触手の真相です」
無数の風の触手がドリルのように回転しながら全方向からサリアに殺到する。武器を失ったサリアにその攻撃を防ぐ手立てはなく、無数のポリゴンと化して消滅した。
「…………ドS対決の結果は全滅ですか? チームに二ポイントずつということはここでの結果は私達のチームが一歩リードというところでしょうか?」
ヨナタンが死闘の末にナディアを撃破し、ナディアに気を取られていたヨナタンをニーナが撃破、残ったニーナとジョセフも死闘の末に相討ちになって沈んだようだ。
彼らの戦いが行われていた方向に目を向けたクララの耳朶を激しい爆発音が打った。
「ジェイコブ料理長ですか……相手は、私のチームメイトですね。一応増援に行った方がいいでしょうか?」
『黒刃天目刀-濡羽-』を構え直すと、クララは爆発音がする方に向かって駆け出した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




