Act.8-5 ローザ・ラピスラズリ十歳の誕生日会二次会の参加者達 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>
「王太后様、ルクシア殿下、遅ればせながら昨日に引き続き私の誕生日会にようこそお越しくださいました」
戦闘狂共のために会場の設営を行い、第一回戦のジーノチームとネストチームが「L.ドメイン」の内部に入っていったことを確認した後、ボクは誕生日会会場に残っている参加者への挨拶回りを始めた。
まずは、ビアンカ、ルクシア、ノクト、ニーフェ、ペチュニアのブライトネス王国のグループから。
「私達の前で公爵令嬢ローザを演じる必要はないわ。改めまして百合薗圓さん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。……では、お言葉に与えて元の口調に戻させてもらうねぇ」
「さて、今日参加させてもらったのは貴方に王女宮の筆頭侍女を務めてもらいたいから、その引き継ぎをしようと思ったからなのだけど……本当は発起人のラインヴェルドがやるべきなのよね。本当に困った子だわ」
「あの人の性格上、これだけ人数が揃っていたらバトルに興じたくなる気持ちも分かるけど」
「あら、もしかして貴方も?」
「まあ、事前に多少用意していた以上、ボクの中にも戦いたい意欲があったということを否定することはできないでしょうねぇ」
正直、他国との連携を磨くという意味では今回のドリームチームマッチはかなり良いものになるんじゃないかと思っている。
それに、本気で戦いたいという気持ちは常に持ち続けているからねぇ……ボク自身が戦闘狂だってことも否定することは難しいし。
「それじゃあ、後はペチュニアさんにお任せしてしまってよろしいかしら?」
「承知致しました。改めまして、王女宮の筆頭侍女を務めているペチュニアと申します。長きに渡り王女宮に仕えてきまして、そろそろお暇を頂戴したいと思っていたところで陛下から後任の紹介があり、大変嬉しく思っております。行儀見習いからいきなり王女宮筆頭侍女となれば大変なことも多くあると思いますが、よろしくお願い申し上げます」
まあ、確かに行儀見習いでやって来た公爵令嬢がいきなり王女宮の筆頭侍女になれば多方面から十中八九睨まれるよねぇ。
今回の誕生日会といい、ラピスラズリ公爵家の令嬢は立場を理解していないのか? と思われても仕方ないと思う……悪い意味で目立っているし。
それを覆すには真面目に働くしかないだろうねぇ。……まあ、受けちゃった仕事だしグダグダ言うつもりは更々無いけど、事情を知る側からすれば申し訳なく思うのが普通なのかな? ……ラインヴェルドはそのあたり露ほども思っていなさそうだけど。
「後ほど、王女宮筆頭侍女の仕事について纏めた資料をお送りさせて頂きます」
「畏まりました。では、その資料の内容を覚えて行儀見習いに望ませて頂きます。資料作成、ありがとうございました」
「そうそう、一つだけ伝えておかないといけないことがあるわね。ラインヴェルドが行儀見習い関連でまた何か企んでいるみたいだわ」
「……まあ、あのクソ陛下が何も企んでいない訳がないとは思っていましたが、いくつか可能性を検討して警戒しておいた方が良さそうですね」
とはいえ、ラインヴェルドも利益のない行動はしない。多少強引でも一石三鳥、一石四鳥を狙ってくるような人だから……そうだねぇ、乙女ゲーム関連者を十把一絡げに王女宮に放り込んでくるとか? あり得そう。
「ご挨拶が遅くなってすみません。ローザさん、お誕生日おめでとうございます」
「ルクシア殿下、ありがとうございます」
「遅くなりましたが、帝器「万種薬品」の提供ありがとうございました。あの薬のおかげで魔法薬学の研究が大きく進んでいます」
「……まあ、あの薬は魔法薬というより帝器薬と呼ぶべきものだけどねぇ」
「それから、化野先生の薬学本もありがとうございました。科学と魔法薬学の組み合わせは未開の領域ですのでどこまで力が及ぶかは分かりませんが、頑張ってみようと思います」
ルクシア殿下からお願いされて化野さんが書いた薬学入門書をプレゼントしたんだけど、気に入ってもらえたみたいだねぇ。
今後、魔法薬や回復魔法に頼っていた医療分野が一気に成長するかもしれないねぇ。『薬学の神童』のルクシアがどこまで研究を高められるのか個人的にとても楽しみにしている。
しかし、この人もヴェモンハルトも王位継ぐ気更々無いとなると、やっぱり次期国王はヘンリーに継がせようと考えているのかな? まあ、そこが落とし所としてはベターだよねぇ。
◆
ビアンカ達への挨拶を終え、次に向かったのはルーネス、サレム、アインス、イリス、シヘラザード、アルマンのいるフォルトナ王国の王族や宰相が集まっているグループ。
まあ、順当な流れだよねぇ。
「ローザお姉ちゃん! 会いたかったよ!!」
ロケットダッシュからのジャンプで飛び込んでくるアインスをキャッチ。
抱きしめて頭を撫でてから下ろしてあげると嬉しそうに笑った。そんなアインスの姿を微笑ましいような、羨ましいようなそんな感じで見ている二人。
「ルーネス様とサレム様も飛び込んできて良いですよ?」
「いえ、私達は――」
「……もうそんな歳でもありませんし」
「まあ、恥ずかしいと思うのも当然か。アインス様みたいに素直に甘えたいと思っているんじゃないかと思っていたけど、恥ずかしいなら仕方ないよねぇ」
結局、諦めきれずに飛び込んできた二人を優しく抱きしめてヨシヨシしてあげると二人とも頬を赤らめたけど嬉しそうだった。
そんな三人をイリス、シヘラザード、アルマンの三人が微笑ましそうに見つめている。
「……ローザお姉ちゃん。まだ僕諦めた訳じゃないからね。必ずお姉ちゃんに相応しい男になって迎えに行くから」
「アインス様には申し訳ないけど、ボクは男の人を恋愛対象としては見られないからねぇ。それに、ルーネス様もサレム様もだけど、可愛い教え子ではあるかもしれないけど、やっぱり恋愛対象にはなり得ないから」
追加効果で二人の心をグサグサと抉った気がしないでもないけど……そもそも明言してあったよねぇ。
「アインスだけではないわ。ルーネスやサレムも諦めてないわよ? ルーネスはフォルトナ王国の国王になってローザさんを正妃に迎えたいと、サレムは宰相になってローザさんに相応しくなってからお嫁さんに迎えたいと思っているわ。私もシヘラザードさんも、三人を応援することにしてしまったから、どうにもできないわよ?」
「イリス様、そこは変な風に玉砕しないように対策を打っておくべきではないでしょうか?」
全く、イリスもシヘラザードも何を考えているのか。
脈ゼロなら諦めてもっと相応しい人探しなって、何度言わせれば……。
「ローザ様には悪いが、私もサレム殿下のことを応援しているからな。三人とも応援しているが、やはり次代の宰相になるべく勉強を頑張っている姿を見ていると応援したくなってしまうものだな」
「そこは心を鬼にしてくださいよ、アルマン宰相。ボクも三人が悲しむ姿は正直見たくないからねぇ」
「ならば、三人とも婿として貰うという誠意を見せてもらいたいな」
「それ、誠意じゃないですからね! そもそも、ボクは月紫さん一筋だって何度言ったら……これ以上は不毛なのでやめておきます。イリス様、シヘラザード様、アルマン様、三人のためにも相応しい方を見繕っておいてくださいね」
「うふふ、だから見繕っているじゃないの。三人に相応しいのはローザ様しかいないわ」
ダメだ……六人とも分かっていない!
このままだと本気でフォルトナ王国が次代で終わるぞ? こんなよく分からない公爵令嬢なんてとっとと忘れるべきじゃないかな?
◆
次のグループは……と会場を見渡していると、なかなか面白い光景を目撃した。
ジェーオ達とアーロンは多少交流はあることは知っていたからなんとなく分かっていたけど、そこにキャプセラ、ハイン、シリェーナ、ヴィアベルが混じっているなんて面白い取り合わせだねぇ。
まあ、キャプセラは主人であるエイミーンが戦いに行っちゃったし、ハインはドワーフの上層部で唯一の非戦闘員だし、シリェーナも夫や息子が戦場に行っちゃったし、ヴィアベルも非戦闘員で、それぞれ少数ずつだからどうせなら集まって親睦を深めてもいいかな? ってノリかな? ブライトネス王国やフォルトナ王国みたいに一定の人数で固まっていないのもこの面白い取り合わせの要因かもしれないねぇ。
「「「「「「「「「「「「「ローザ様、お誕生日おめでとうございます!」」」」」」」」」」」」」
「ありがとうねぇ」
「……ローザさん、本当に大丈夫ですか? 誕生日なのに昨日に引き続いて今日もホスト役で」
「大丈夫だよ? まあ、こうなることは大凡察しがついていたし、心の準備もできていたからねぇ。……これから贈られたプレゼントの整理や、参加した方々へのお礼状の作成、誕生日プレゼントのお礼の用意なんかもあるし、まだまだお仕事はここからが本番って感じなんだけど」
「ローザさん、本当に休んでください! 折角の誕生日くらい……」
「ラーナさんが言うと説得力がないねぇ。アザレアさんとアゼリアさんから聞いたよ? 新作を作るためには元祖・服飾雑貨店『ビオラ』の工房に篭って寝食忘れて働き詰めで倒れていたって。……気持ちは分かるけどねぇ、ラーナさんの身に何かあってからじゃ取り返しがつかないから、本当に自分の身を大切にしてねぇ」
押し黙ってしまったラーナ。……なんとなくブーメラン発言な気がしないでもないけど、ボクはちゃんとぶっ倒れるところまで計算して行動しているからねぇ、リスクマネジメントをしっかりしてやっているから大丈夫なんだよ? 本当に仕事のために身を削って無自覚に無理をしているラーナとは違うんだよ? だから、ラーナ以外の全員でジト目向けるのやめてねぇ。
「しかし、ローザさんのお誕生日会なのに優勝賞品をローザさんが用意するのは道理が合わないと思います。……毎回賞品をローザ様が自腹を切って用意しなくても私達に頼ってくれれば」
「アンクワールさん、それはダメだよ。商会の長がその特権を濫用するなんて前例を作っちゃダメだからねぇ。私人ローザと商会長アネモネの間にはしっかりと一線を引いておかないと、節操が無くなるからねぇ」
「……ローザさんって本当に真面目だよな」
……まあ、そこは長年付き合いのある商会の幹部達――これ以上食い下がることは無かった。
ジェーオ達が「本当にどうしようもない商会長さんだぜ」と心の中でヤレヤレと言っている。
「今回は商会に貢献できそうな報酬じゃなくて本当にごめんねぇ」
「ローザさん、公私混同しないんじゃ無かったの!? さっきと言っていることが違うよ!」
「まあ、個人的には普段は任せきりにしてしまっているビオラ商会に少しでも貢献したいからねぇ。前回のバトルロイヤルはビオラ商会の金券を用意していたんだけど、今回はどうせならもっとインパクトのあるものを用意しようと思ってねぇ。……もしかしたら、ビオラ商会の金券を欲しい願う人もいる……かも?」
「私達のことは別に気にしないでいいですから……それに、ビオラ商会の中で一番働いているのはローザさんです。貴女が頑張っているからビオラ商会はこの国を代表する大きな商会になったのですから。引目なんて感じないでください、貴女の頑張りはみんな知っていますから」
モレッティ達の気持ちは嬉しい……でも、やっぱり自分が手をつけた商会の仕事をみんなに任せ切りにしてしまっていることに罪悪感は感じているんだよ。
だから、せめて会長の仕事はしっかりとこなさないと業務を続けてきたんだけどねぇ。……まあ、ここ数年は投資などの本来の業務も再開して胸を張って仕事しているって言えるような職務も遂行できるようにはなって来たんだけど。
「今回は願いを叶えるでしたっけ? かなり優勝賞品としては破格なものですが、本当に大丈夫ですか?」
「キャプセラさん、ご心配頂かなくても大丈夫ですよ? 今回は優勝チームのみですし、ボクのチームも参加します。それに、厄介な強敵も用意しましたし、勝ち上がるのは不可能に近いです。報酬をあげるつもりは更々ありませんよ?」
「……何となく分かっていましたが、ディグラン陛下に勝たせるつもりは更々ないのですね」
そんな絶望しなくても……あの人達は報酬よりも過程の戦いの方が欲しい人達だから報酬は二の次だと思うけどねぇ。要は戦える口実が欲しくて、それをボクが用意したってただそれだけだし。
勿論、貰えるものは貰いたいというのが本音だと思うんだけど……。
「まあ、あれだけ戦力を揃えたドリームチームなら優勝できるかもしれないと思いますよ?」
……今回のチームで一番可能性があるのはラインヴェルドのチームだと思うよ? まあ、それでも叩き潰すつもりではいるけど。
「ローザ様、遅ればせながらシレーヌへのプレゼント、本当にありがとうございました」
「いえいえ、シレーヌ様に喜んで頂けているようなら何よりです。……あの時は、かなり怯えさせてしまいましたから、その埋め合わせをと思いまして」
「まさか、シレーヌの趣味が絵を描くことだとは私達も知りませんでした。私達は家族でありながらシレーヌのことを本当はよく理解していなかったのですね。あれからシレーヌと趣味の話もするようになり、ずっと距離が縮まりました。ローザ様には感謝してもしきれませんわ」
元々家族仲は悪くは無かったけど、あれから更に良くなったみたいだねぇ。
シレーヌの趣味も無事打ち明けられて理解を得られたか、良かった良かった。
これからイラスト描きという趣味が一歩を踏み出す大きな力になってくれると嬉しいんだけど、まあそれはシレーヌ次第、強要するべきことじゃないからねぇ。……それこそ、無理矢理外の世界に出して恐怖症を発症したら彼女が心に大きな傷を負うことになる。そんなこと、誰も望んでいないからねぇ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




