Act.7-55 帝国崩壊後の戦後処理〜ルヴェリオスの黎明〜 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>
当たって欲しくない勘に限って、なぜ当たってしまうのか。
案の定、ブライトネスのアホ共は他のメンバーを巻き添えにして、オーレ=ルゲイエがいたあの立体迷路で迷っていやがった。
ディランがアクアとイリーナと合流し、更にメネラオス、スピネル、チャールズ、カルメナ、リヴァスを巻き込み、マグノーリエとクラリス、ユリア、レジーナと次々とメンバーを雪だるま式に集め、あの迷路で全員迷ったらしい。見気では全部の層の把握はできないし、床型のエレベーターが上か下かどっちに動くかも分からない。そりゃ、迷うよな。
全員を回収したところで、ボク達はシャドウウォーカーのアジトに『全移動』を使って転移した。
まず戻ってきたのはスティーリアだった。一緒にナトゥーフとスティーリアからそれぞれ連絡があったラファールという緑髪の美女を連れている。……どうやら、ナトゥーフが声を掛けた古代竜の一体で、ボクという人間を見定めに来たらしいんだけど……。
『お初にお目に掛かります。私はラファール=ウラガン=トゥールビヨン、風の国ウェントゥスの霊峰トゥールビヨンに棲む古代竜の一体です。古き友人のナトゥーフさんから、貴方様に助力をして頂きたいとお願いされたのですが、古代竜は強大な力を持つ存在――その力が一箇所に集まるというのは大変危険なことです。不敬極まりないこととは存じますが、私は貴方様が危険な存在かそうでないか、その人となりを確認させて頂きたいと思い、この地を訪れた次第です』
『……と、いうことですわ。ご主人様を疑うなど不敬極まりないことでございますが、彼女は武力による支配を嫌い、人間個人や一国に肩入れをすることなく、常に中立を保ってきた調停者――その力を一個人に貸すことに抵抗感を覚えるのも仕方ないことだと思われます。ご気分を害されたとは思いますが、どうかラファールを寛大な心でお許しください』
「……君も最初は似たり寄ったりだと思うけどねぇ、スフィーリアさん。最初、ボクの話を信じられないと勝負を挑んできたじゃないか? まあ、ラファールさんの対応は正しいと思う。スティーリアさんだって住処に踏み込まれた訳だし、迎撃するのは当たり前だよねぇ。まあ、相手の力量も分からないまま勝負を挑むのは愚かだけど。避けられる戦いは避けるべき――死んだら元も子もないからねぇ。……さて、大体の話は聞いていると思うけど、この世界は古代竜ほどの力があれば百パーセント生き残れる保証がある世界じゃない。特に、『管理者権限』を持つ神が相手となれば、勝利は厳しいんじゃないかな? 正直、各々が自衛をするなら、それで問題ない。自己責任の一言で片付けることもできるからねぇ。ただ、この世界の異変、未知なる脅威に対し、各国、各種族が手を取り合って協力し合う相互助力組織の設立をブライトネス王国主導で進めていた。古代竜との交渉も、古代竜を一種族と考えた上で、協力しあった方が互いの利益になると思ったからなんだけど……カリエンテさんには一方的に戦いを挑まれ、スティーリアさんともいつの間にか軍門に降るかここで生き絶えるかの選択を迫られ……結果として当初の予定からは大幅に外れているんだけどねぇ。別にカリエンテさんやスティーリアさんのようにボクの従魔になる必要はない。正直、従魔になることで強化の恩恵を受けられるということはあるけど、後は衣食住が保証されることくらいかな? 正直、ラファールさんがボクの従魔になる必要はないと思うけどねぇ」
正直な話、お友達関係が結べるなら、それでいいんだけど?
『一つ質問させてください。全ての『管理者権限』を手に入れた時、貴方は何を望むのですか?』
「何を望むか、ねぇ。このユーニファイドは本来、ハーモナイアが唯一神の座について管理する世界だった。全ての『管理者権限』が手に入ったなら、それは本来の持ち主のもとに戻るべき。ボクに何かをする権利はないよ。……ただ、そうだねぇ。この世界に神様はいてもいいと思う。でも、神様は世界に干渉するべきじゃないと思うんだ。世界の持ち主はこの世界の住民達なんだから、この世界に住む各種族がそれぞれの地を統治し、生活を営んでいくべきだと思う。……ただ、ボクはハーモナイアが見せたかったボクが一度は目指した理想、その景色を彼女と二人で見たいとは思っている。ゲームという枠に囚われない、対等な相手となったキャラクター達の世界で、ボクは好きなことをして生きられたら、それでいいかな? 別に世界をどうしたいとか、そんな野望はないし、なんでそんな面倒なことしなきゃならないんだ? 支配したら、その地の管理をしないといけないじゃないか?」
『なるほど……決心が付きました。ローザ様、私は貴方様の配下にお加えください。その理想は私のものと極めて近く、仕えるに相応しいお方だということがよく分かりました』
「……いや、風の国ウェントゥスはどうする? 神の不在はまずいでしょう?」
『私は居ても居なくても関係のない、中立の存在ですから問題は生じないでしょう。……武力は平和と相入れないものですが、一方で大切なものを守るために、その力が必要になることがあることも承知しています。会話の通じない外敵存在が現れた時、渡り合うためには力が必要です。……私の理想は、様々な違いを抱えた種族が、上下関係なく互いに分かり合える世界です。そして、その中に私も古代竜ではなく、一人のラファール=ウラガン=トゥールビヨンとして加わりたい、兵器ではなく、力の象徴でもなく、一人の女性として。それが願いです。ローザ様に、その願いを叶えることはできますか?』
「さあ、ねぇ? それを叶えるのはボクじゃないよ? 誰かがこうしなさいと指示したら意味がないんだって。この世界の人々がそれを望むなら、争いがない世界だって作れるかもしれないねぇ。まあ、確実にその流れはできてきていると思うよ?」
最初は亜人種族を差別していた人間と、人間を危険視していた亜人種族――相入れなかった種族の関係は、少しずつ変わってきている。勿論、偏見が完全に消えるってことはないけどねぇ。
……特に国の中枢は顕著で、種族の垣根を越えて「ラインヴェルドとエイミーン、オルパタータダの暴走君主トリオvs各国文官」という構図が出来上がりつつある……それがいいとは全く思えないけど、偏見が薄まるという意味ではいいんじゃないかな? とは思っている。最近はよくお疲れさん会を一緒にしているみたいだし。
と、まあこんな感じでボクの気持ちは全く考慮されず、ラファールが従魔になった。……まあ家族になった以上、責任は持つけどさぁ。
もうちょっと、お友達関係とかから始める、なんてことは……無理ですよねぇ。
なんで、古代竜には極端な奴しか居ないのだろうか? 正直、ナトゥーフさんみたいな人がいいです!!
◆
ラファールとの話が決着したところで、椛、槭、楪、櫻がトネールを連れて戻ってきた。
彼女達とほぼ同着でシェルロッタ、プリムヴェール、欅、梛、樒、フレデリカ、ジャスティーナ、リスティナ、アンタレス、シュトルメルト、ピトフューイ、プルウィア、ホーリィが眠り姫となったネーラをお姫様抱っこしたヴァルナーを連れて戻ってきて、最後にマナーリン、マイル、クイネラが戻ってきて全員揃った。
といっても、メンバーが全員揃ったからすぐに成果報告会兼祝勝会兼今後の話し合いを進めることはできないんだけどねぇ。
現在、革命軍側にも帝国側にもつくことなく、中立の立場を維持しているトネールは、今後の帝国の行く末を決める話し合いの間にボク達や革命軍を見極めることを宣言している。
ラファールの要件も終わり、ノイシュタインに関する紹介は帝国との戦いの振り返りの途中でする予定なので、先に済ませてしまわなければならない要件は残り一つとなった。
シャドウウォーカーのアジトの一室で眠る眠り姫。
そんなネーラを心配そうに見つめるヴァルナーが、静まり返った部屋で口を開いた。その顔には未だに警戒心が残っている……まあ、シャドウウォーカーと同盟を組んだ他国の間者を信じられる訳がないよねぇ。
「なぁ、本当にネーラを助けられるのか?」
「既に身体は助かっているよ、君の飲ませてくれた薬のおかげでね。……問題は、ネーラさんに帝国を裏切れない暗示が掛けられていることだねぇ。ボクはこの暗示の解除をする……でも、人格に影響を与える可能性があるから記憶への干渉は行わない。帝国のために多くの人間を斬った、その罪の意識に苛まれることになるだろうねぇ。それに、「死者冒涜の妖刀・玉梓」の死者への執着心も残っている。「死者冒涜の妖刀・玉梓」は回収させてもらったけど、その執着心から取り返そうとするかもしれない。結局、暗示を解除したところで状況は変わらない。……流石に殺意を向けてきた相手まで助けるほどお人好しじゃないんでねぇ。彼女本人が望んで罪を背負った訳ではない、帝国の歪みが彼女のような存在を生み出した――そのことを理解していたとしても、挑んでくるなら容赦はしない」
「ふざけるなよ! ネーラを助けてくれるっていったじゃねぇか! だから俺は――」
「それは君次第だよ、ヴァルナー。……何故、君はネーラに執着する? 仲間だからか?」
「……最初は変な子だと思っていたんだけどな。仲間として一緒に戦っているうちに、色々なことを知っていって……それでも仲間として大切だと思っていたんだけどな。……ネーラを失うと思った時、目の前が真っ暗になったんだ。怖かった……まさか、自分がこんな感情を持っていたなんて思わなかったぜ。……俺は、知らないうちにネーラに惹かれていたみたいだ。俺はネーラのことが好きだ……仲間としてじゃなくて、女として好きだったんだ」
「ほうほう、ちなみにどこで好きになったんだい? お姉さん兼お兄さんに聞かせなさい」
「……いつからっていうか、長い間一緒にいて任務をこなしている間に気づいたら……って、何言わせるんだ! ってか、俺の思いがネーラと何の関係があるんだよ!」
「何って……君がネーラを説得するんだよ。君の気持ちを伝えて、帝国の呪縛から解放するのは君の役目だ。彼女の戦意を削ぎ落とせ、それができたなら、ネーラは殺さないで済む」
「……本当か?」
「ボクは嘘は言わないよ。言っておくけど、チャンスは一回。一世一代の大告白だ! 玉砕は死だぞ! 頑張れ青年!」
「他人事だと思って囃し立てやがって! ああ、やってやるぜ!! ネーラは殺させやしねえ!!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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