Act.7-54 真の謁見の間での死闘〜強欲と皇帝と武闘派八賢人と〜 scene.1 下
<一人称視点・リーリエ>
「機始皇帝」を纏い、見たこともない皇牙と思われる剣を大きな右の掌でアンバランスに構える皇帝と、莫大なエネルギーにより構築された槍を油断なく構えるノイシュタイン。
……相対的にノイシュタインの方が強そうに見えるのは気のせいかな? ノイシュタインを召喚したの、皇帝なのにねぇ。もはや威厳も皆無に等しい……元々、前皇帝を暗殺して玉座についた卑怯者な小物だから威厳もへったくれもないんだけど。
『管理者権限・全移動』
そして、卑怯にもボクの真後ろに転移し、思いっきり右の剣を突き刺して来ようとする皇帝……やることなすこと小物臭が漂うなぁ。それだけ強い武装があるなら、真正面から戦えばいいんじゃないの?
「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒!」
刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を顕現し、その剣が一斉に降り注がせる侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義とも言える最強の物理系範囲攻撃スキルを発動し、無数の巨大な剣が降り注ぎ、「機始皇帝」を串刺しにした。
「…………こ、皇帝ビーム」
「名前がダサい!」
「機始皇帝」の額につけられた宝石から赤いビームが放たれる。
「《八咫鏡》」
魂魄の覇気――《天照》の派生《八咫鏡》で攻撃を反射、「機始皇帝」の核を撃ち抜いた。右手から剣を回収する――串刺しになって地面に釘付けになっているし、これは一旦放置でも問題なさそうだねぇ。とりあえず、赤いビームを放つ宝石だけ砕いておこうか?
剣の解析は後回しにして、統合アイテムストレージに投げ入れておく。
……皇帝の始末と『管理者権限』の回収はどうやら後回しになりそうだねぇ。ノイシュタインが槍を持って迫ってきた。
ノイシュタイン=フォーラルニィ=エスタットィスは裾を持ち上げるか引き摺るかしなければ歩くこともままならない豪華な黒のドレスを身に纏っている貴婦人風の魔法少女という見た目をしている。
八賢人の中では比較的真面な性格で《魔皇會》にも身分を隠して参加していた生粋の武闘派で、この戦い向きではない見た目でも他の現身に匹敵する戦闘力を誇る。
戦闘狂達のサークルの中で更に磨かれた戦闘スタイルは、魔法抜きでも手練れの領域に達している。そこに、現身魔法少女の人並外れた身体能力とチート級の固有魔法が加わる訳だから、呪いを解いて支配から解放する――つまり、殺さずに倒すというのはなかなか難しい。正直、火力の暴力で制圧したほうが楽。
その強さは、当然召喚勇者を凌駕するほど。正直、単純な魔族討伐を狙うなら鳴沢高校二年三組を召喚するよりも、この人一人召喚する方が確実なんじゃないかな? 「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」レベルの化け物だけど、それが敵に回るってなかなか恐ろしいものだねぇ。
「もういっそ、殺して蘇生した方が早いかもしれないねぇ。君ほどの相手に手加減なんて、愚かにも程がある!」
「どのような方法を取ろうとも我は一向に構わんぞ? 次は突きを放つ。当たれば戦奴と成り果てるからな。――絶対に躱せ」
バックステップで後ろに飛びながら、「光刃円杖」を鞘から抜き去り、一閃――イメージは圓式基礎剣術でスティーリアの魂魄の覇気――《暗殺者》の「殺戮者の一太刀」を放つイメージ。
「圓式-同心円殺戮撃-!」
「聖槍の聖撃!」
「《大八咫鏡》ッ!」
ボクが全力の攻撃を仕掛けたように、ノイシュタインも聖槍の破壊の力を宿した黄金の光線を放ってきた。
何者よりも速く、絶対標的を逃さず、当たれば一撃必殺の聖槍の力の具現化を、ボクは自分自身に時間加速を重ね掛けすることによって圧倒的速度を制し、巨大な《八咫鏡》の顕現によって跳ね返した。
流石は八賢人の現身、自分の攻撃を跳ね返されたくらいでは消滅しないか。
でも、《暗殺者》の「殺戮者の一太刀」を耐え切ることはできなかったみたいだねぇ。更に一定確率の即死効果も発動し、ノイシュタインを完全に死に追いやる。
皇帝が召喚に組み込んだ呪いはどうやら首輪ではなく全身を支配していたみたいだねぇ。
その支配を「殺戮者の一太刀」で粉々に切り裂くことで、皇帝の支配を無力化した。……まあ、そもそも呪い自体掛けられた本人が死ねば効果を失うみたいだったし、普通に一度殺害すれば呪いは解けたんだけどねぇ。
「蘇生術式」
神官系四次元職の施療帝が習得可能な蘇生魔法でノイシュタインを蘇生する。これで、今回の戦いの勝敗は決した、と言っても過言ではないだろうねぇ。
◆
「よもや、我を本気で殺すとは思っておらなかったぞ。……お主が蘇生の力を持っていて本当に良かった。神界にも存在しないその強大な魔法、戦いが終わったら詳細を聞きたいな」
「……まだ完全に終わった訳ではないよ。満身創痍とはいえ、皇帝はまだ死んでいない。『管理者権限』を取り返してようやく戦いはひと段落するんだよ……まあ、その後に戦後処理が残っているけどねぇ」
「大変じゃな。そういった政治的な話は苦手だ。我は槍一つで戦っていた方が性に合っておる」
「……そんなんだから、派閥の連中にいいようにされてきたんだろうけどねぇ」
「……返す言葉も見つからんな」
残る主な武装は「機始皇帝」ただ一つ。
その「機始皇帝」も身動きが取れないように串刺しにされ、内部の皇帝も一緒に串刺しになった。この状況でも死んでいないのは、流石というべきか。
「……我は……我は死なん! ぜっ……絶対に……唯一神となる……」
「哀れな男じゃな。お主の敗北は明明白白、潔く奪ったものを返還し、眠りにつくべきだ。死を受け入れろ……お主はもう負けたのだ」
「うるさい……召喚された奴隷の分際で! 俺は皇帝だ……ルヴェリオス帝国の現人神だ! こんなところで死ぬ訳にはいかん! 我の覇道は、始まったばかりなのだァ!!」
串刺しになった満身創痍の身体で、「機始皇帝」から這い出した皇帝は「反帝器」の指輪を嵌めた右腕を捥がれ、腹や胸に複数の穴が開いた凄惨な姿だった。各所から血も吹き出し、風穴が虚しく開いている。……よくこんなんで命を繋いでいられるものだねぇ。
『我は皇帝……世界を支配する皇帝! 我は止まらぬ! 我がこの世の術で支配するまで!!』
皇帝の体が己から発生した闇に呑まれる。世界支配への執念と、『真の唯一神』、支配者になりたいという渇望が、遂に皇帝という枠を破って氾濫したということなのだろう。
暗黒の身体。六枚の翼を背に持ち、無数の背輪を背負った無貌の神という姿と化した皇帝は、神威の篭った声を発した。
『ヒレフセ』
たったその一言で逆らい難い圧倒的な圧力がボクの身に襲い掛かる。まあ、ノイシュタインにかけられたプレッシャーとそう大差ないし、ノイシュタインに関しては全く効果を受けていないみたいだけど。
「加勢した方がいいか?」
「……まあ、多分大丈夫だと思うけど、危なくなったら手伝ってくれると嬉しいかな?」
「まあ、その必要はないだろうがな。先程の小物臭漂う皇帝に比べたら力は増したようだが、ようやく我のレベルに追いついた程度だ。我よりも強いお主の領域には到達すらできんだろうな」
「全く……どんな期待だよ。過度な期待し過ぎじゃ無い? ボクは君達みたいな魔法少女や魔法使いを統べる神としてデザインされた人造魔法少女と違って、混じりっ気なしの普通の人間なんだけど!」
「それは嘘だろうが、まあそういうことにしておこう。……それより、仕掛けてきたぞ」
闇を固め、暗黒の剣を無数に放ってくる暗黒神と化した皇帝。その剣は一撃一撃が負の膨大なエネルギーを持ち、一撃でも浴びれば取り込まれて死ねる。まあ、一撃でも浴びればゲームオーバーってのは、ノイシュタインと大差ないし、難易度がアップしたとは言い難いけど。
見気によって全ての攻撃を見切りながら、統合アイテムストレージに「光刃円杖」を戻す。『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』の二刀を両翼のように広げ、無音の踏み込みと共に暗黒神に肉薄――僅か一呼吸の間に両刀で無音の十八連撃を叩き込んだ。
斬撃を浴びた暗黒神は身体を維持できなくなり、無数の闇の塊と化して地面に落下し始める。その中から『管理者権限』をなんとか回収すると、闇の塊に向けて「マキシマムセレスティアルレイ・フェイク」を放ち、二度と復活できないように消し去った。
「……終わったようだな」
「終わったねぇ……さて、戦いの顛末やノイシュタインさんの話もしないといけないし、まずは仲間と合流したいところだけど……」
ここに辿り着くまでに通った、あのオーレ=ルゲイエがいたあの迷路……あそこは簡単には突破できないからねぇ。アクアとか紛れ込んでいないといいけど。
今回の作戦に参加した仲間達に端末からメッセージを送ると、ショートカットせずにそのまま謁見の間に戻るべく逆走を始めた。
◆
<三人称全知視点>
『ご主人様が皇帝を撃破したようですわね。作戦はこれにて終了ですわ。この後はシャドウウォーカーのアジトで合流し、成果報告と祝勝会、今後の話し合いを行うそうです。……ご主人様も紹介したい人がいるそうですし、戦線に新たに二人加わったそうなので、当初の予定人数よりも三人増えたみたいですわね。ラファールさんをお連れすることをご主人様に伝えておきました。既にナトゥーフさんから話を聞いていたそうですわね。祝勝会に参加して構わないそうです』
『……もう終わったのね。革命と聞いていたからもっと時間はかかると思っていたのだけれど』
『ご主人様はお仕事の手際がいいですからね。今回も最適な位置に最適なメンバーを配置して、倒すべき敵をそれぞれ各個撃破することで、速やかな革命を完結させた。……問題はここからですわね。革命を成功させた後は治める人を失った国に新たな為政者を置かなければならない。革命軍と帝国に分たれていた国を再び一つにして治めていくためにはしなければならない仕事が沢山ありますし、多種族同盟への加入をするにしてもそちらはそちらで手続きがあります。……もうしばらくはブライトネス王国には戻れないでしょうね』
こういった治世に関わる話は、残念ながらスティーリアには手伝うことができない。
またしても自分が発端だから仕方ないと笑いながら必要以上に面倒ごとを抱え、本人は関わりたくもない政治に関わることになってしまう主人に胸を痛めながら、スティーリアはラファールと共にシャドウウォーカーのアジトに向かった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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