Act.7-51 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.12
<三人称全知視点>
ジェスター=ヴェクトゥルはダートム=アマルガムが持ち込んだ魔法技術を基にオーレ=ルゲイエが開発した人造魔導士である。
改造手術の副作用として精神に異常をきたしているが、戦闘力は高く宮廷魔法師にも匹敵する力を持つ。
その強大な魔法の力が今、三柱の神へと姿を変えて顕現した。
「アヒャアヒャ! 焔獄の鬼神、凍界の魔神、雷裁の女神! 破壊破壊破壊破壊ィ!! この世を地獄に変えろォ! アヒャアヒャ!」
「……狂っていますね、この人。しかし、魔法の力は本物のようです。凄まじい力を秘めています」
「厄介な相手ね……まさか、こんな強敵を帝国が隠し持っていたなんて。雷光の螺旋!」
雷の螺旋を「凍界の魔神」に向けて放つクラリスだったが、魔神が一撃で砕け散ることはなく、氷の身体の一部を砕くのが精々だった。
「デリュージ・カノン!」
マグノーリエは『妖精女王に捧ぐ聖天樹杖』の杖先を「焔獄の鬼神」に向けた。圧縮した激流が杖先から放たれる。
激流は「焔獄の鬼神」の灼熱によって蒸発することなくその身体を貫通し、中心を穿たれた「焔獄の鬼神」はその身体を維持できなくなり、消滅する。
「アヒャアヒャ! 炎の十字架!」
「デリュージ・カノン!」
スペードの槍を向け、槍先から炎の十字架を放つヴェクトゥルに対し、マグノーリエは圧縮した激流が杖先から放って応戦する。
激流は炎の十字架を容易に消しとばし、そのままヴェクトゥルに迫るが――。
「氷の十字架」
スペードの槍の槍先から今度は青い十字架が放たれ、十字架に触れた激流が命中した地点から次々と凍り始めた。
命中した相手を凍てつかせる青い十字架を放つ氷属性魔法――その凍結能力は激流を蝕んでいく。マグノーリエは咄嗟に「デリュージ・カノン」を停止することによって激流ごと杖が凍結する最悪の事態を回避することに成功した。
「雷の十字架!」
しかし、ヴェクトゥルの攻撃はこれで終わらない。今度は青白い電撃を固めた十字架を放つ雷属性魔法を発動し、マグノーリエに向けて放つ。
更に、「凍界の魔神」と「雷裁の女神」の同時攻撃が二人に迫ろうとしていた。
「第四防衛術式!」
魔力そのもので複雑な術式を編むことで大規模な事象改変を可能とする五大術式の一つが既の所で顕現し、時間的、空間的な断絶が「凍界の魔神」の殴打攻撃と、「雷裁の女神」の雷撃攻撃、ヴェクトゥルの雷の十字架を全て防ぐ。
「雷光の竜撃」
強大な雷の体を持つ竜が間髪入れずに六体、クラリスの手から放たれる。雷竜は次々と顎門を開いて「凍界の魔神」に喰らいつき、その氷の巨大を打ち砕いた。
「【森土支配】――大樹の千手」
クラリスが「凍界の魔神」を撃破したのとほぼ同時に、マグノーリエが「第四防衛術式」を維持したまま『妖精女王のドレスローブ』の【森土支配】を発動し、その力によって顕現した樹木を腕へと変化させ、「雷裁の女神」を掴む。
武装闘気を纏わせた樹木は猛烈な電流によって焼けることなく、女神の像と化した雷を引き千切った。
「――【妖精乱舞】!!」
青や赤、緑や黄色、紫や橙色――色とりどりのデフォルメしたような妖精が武装闘気によって真っ黒に染まり、『妖精女王に捧ぐ聖天樹杖』の杖先から放たれた。
「心無き天使の破滅の翼! いい加減滅びろ! ぼくちゃんの力の前で泣き叫んで死ねぇ!!」
光から生み出された天使の翼を生やし、ヴェクトゥルは飛翔した。
そして、天井近くに到達したのと同時に、翼を最大まで広げ、そこから無数の羽を雨のように降らせる。
羽一つ一つが小さな天使へと変形し、縦横無尽にマグノーリエとクラリスへと殺到した。
「……この『第四防衛術式』もそれほど長くは維持できません。なんとか倒す手段を見つけないと」
「このままだとジリ貧ね。マグノーリエさんはこれ以上同時に魔法は使えないし、私がやるしかないわね! 雷光の竜撃」
宛ら天使の如く空を支配し、哄笑を響かせるヴェクトゥルに、クラリスが雷竜を放つ。
「――ッ! ぼくちゃんの楽しみを邪魔するなァ!」
雷竜をその身に浴びたヴェクトゥル――しかし、全く痛痒に感じた様子はなく、すぐさま新たな魔法を発動する。
そのカラクリは彼の「骨牌装甲」にあった。攻撃力の高いスペードから防御型のダイアに切り替わっていたのだ。
「よくも怒らせたなァ! これで滅びろォ! 妖星降嵐」
猛烈な魔力がヴェクトゥルから吹き上がった。
魔力が上空で形を成していき、無数の岩の塊が――小さな星が生まれた。
その星が一斉に地上へと降り注ぐ。「第四防衛術式」によって守られているマグノーリエとクラリスはこのヴェクトゥルの保有する最強の魔法攻撃から身を守ることができたが、この鉄壁と言える防御魔法もいつまで維持できるか分かったものではない。
「……雷光の竜撃が効かないとなると、もう霹靂の領土しかないわね。でも、それだとマグノーリエさんの第四防衛術式が維持できなくなってしまう……どうすればいいのかしら?」
「……その手があったわ! クラリスさん、今から第四防衛術式を解くわ」
「でも、それだとあのピエロの攻撃に対処する方法が――」
「無くならないわ! マナフィールドよ! 私達二人で同レベルのマナフィールドを発動すれば、マナフィールドの拮抗でこの部屋全体の魔力を二人で支配できる。そうすれば、あのピエロさんは魔法を使えなくなるわ……マナフィールドを使えたら状況がまた変わってくると思うけど」
「名案ね。……心配なことはあるけど、失敗してもその時はその時よ。いきましょう!」
「第四防衛術式」が解除され、ヴェクトゥルがニヤリと笑った。
「いい心がけだ。そうだ! 私に殺されればいいのだ! 妖星降嵐」
……しかし、何も起こらない。ヴェクトゥルは何度も魔法の名を叫んだが、何も起こらなかった。
いや、それどころではなかった。ヴェクトゥルはようやく自らが落下していることに気づく。背中にあった筈の光の翼が消滅してしまったのだ。
「ぼ、ぼくちゃんの! ぼくちゃんの魔法が! 貴様ら、何をしたァ!!」
「さあ、何をしたと思う? ……マグノーリエさん、行きますわよ!」
「これで終わりです、ピエロさん!」
「暴狂の下降気流!」「霹靂の領土!」
そして、マグノーリエの戦術級魔法とクラリスの戦術級魔法――二つの強大な魔法がヴェクトゥル、ただ一人に向けて放たれる。
ヴェクトゥルの頭上から大量の雷が降り注ぎ、猛烈なマイクロバーストがジェスター=ヴェクトゥルを襲った。
「骨牌装甲」最強の防御力を誇るダイアでも到底殺しきれないほどの圧倒的な威力の攻撃を浴び、ヴェクトゥルは絶命した。
「…………何とか勝てましたね。ピエロさんがマナフィールドが使えなくて本当に良かったです」
黒焦げとなったヴェクトゥルから「骨牌装甲」を回収すると、二人はローザ達が消えていった先と進んでいく。
◆
「我が魔法はあの時よりも更に強くなった。あの時のようにはいかんぞ、【庭園の魔女】!」
ダートムの手から無数の金属が生み出される。だが、それはレジーナとユリアのよく知るダートムの魔法「鋼鉄巨人」ではない。
無数の歯車が組み合わさり、現れたのは「鋼鉄巨人」以上の巨体を持つ機械仕掛けの巨人。
「これこそが、我が新しい魔法――機械仕掛けの巨人だ。だが、それだけではない」
機械仕掛けの巨人の隣に赤い魔法陣が顕現し、灼熱の巨人が姿を現す。
「…………そんな……ダートム、何故お前がその魔法を使えるのよ」
ダートムは金属性のみに適性を持っていた筈だった。金属性の魔法を極め、戦乱の時代に宮廷魔法師にまで駆け上がり、【錬成の魔術師】の称号を得た叩き上げだった。
ユリアが驚いたのは、使えない筈の火属性魔法を使えた……からではない。
その魔法にユリアは見覚えがあった。
自分にとっての天敵であり、ダートム一派の策略により、レジーナと婚約を結ぶこととなった炎魔法を得意とする魔法師の名門の一族――ドゥリンダナ家の次期当主、【業火の魔術師】ヴァリアント=ドゥリンダナ。
この炎の巨人は、ヴァリアントが最も得意とした彼を象徴する魔法だった。
「あの惰弱な魔法師の魔力変換器は私が有効活用させてもらった。あのような雑魚よりも、より有効に活用できる私の元にあるべきだろう。あの男も本望な筈だ、最強の国を作れるのだからな」
「ヴァリアントの望んでいた国と、お前の望む国は全く違うね。彼は彼なりに国を思っていたよ。しかし、翻ってあんたはどうだい? 国のためと言いながら、結局は国を滅ぼし、どこに向かっているんだい? あたしには、戦場という最も活躍できる場所で戦い続け、出世したいという願いのために、その他全てを切り捨てる生きる価値のない外道だと思うけどね。そうは思わないかい? ユリア」
「……一生の不覚です。あの時にしっかりと始末できていれば」
「【庭園の魔女】、かつて私はお前を侮った。戦いに役立つことなどない、平和ボケしたニウェウス王国を象徴する魔法としては力を持っていたようだ。だが、戦乱の時代を経験してきた私には到底敵わん。今度はお前が最も苦手とする炎の力も相手だ。たった一人、非力な王女が加わって何になる」
「ユリアやヴァリアントが惰弱なら、あんたは情弱で暗弱だね! 結局、最後まで偏見は消し去れない。相手を軽んじ、情報を収集せず、己の判断だけで突き進む。まあ、あたしにしたらどうでもいいことなんだけどね! あんたにはここで死んでもらうから。……あんたによって運命を狂わされた、殺された全ての人の仇、あたし達が取るわ!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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