Act.7-50 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.11
<三人称全知視点>
右手に「血飢えた吸血剣」を、左手に「宵鋼-小烏丸打ち直し-」を構えたイリーナは両刀に武装闘気と覇王の霸気を纏わせると、神攻闘気、神堅闘気、神速闘気の三つの闘気でその身を強化して、肉薄した。
対する暗黒騎士ガーナットもボーッと突っ立ってイリーナの攻撃をただ拱いていた訳ではない。
皇牙「黒の暴君」の副武装「暴君の剣」を召喚してイリーナの攻撃を真っ向から迎え撃つ。
「暴君の剣」には「血飢えた吸血剣」のような遠距離手段はなく、その重い斬撃以外に警戒するところは無かった。
ダークタイラントと融合し、人間離れした膂力を得た漆黒騎士ガーナット相手に、イリーナは「宵鋼-小烏丸打ち直し-」を駆使して巧みに攻撃を捌きながら斬り結いでいく。
一撃一撃は重く、イリーナも常に気を張って耐えなければ押し負けてしまうような状況だったが、それでもイリーナは耐え抜いた。そして遂に、「打ち合った武器の耐久度を減少させる」というフレーバーテキストが「暴君の剣」の耐久力を紙レベルまで低下させ、イリーナの斬撃で砕け散った。
「もう武装がない。……後は本体だけか」
とはいえ、暗黒騎士ガーナットにはまだ体術がある。
強固で頑丈な「黒の暴君」の鎧は、格闘面においてはそのまま攻撃力や破壊力にもつながる。相手が無手だからと油断すれば、ここから形勢逆転もあり得る。
暗黒騎士ガーナットの右ストレートを見気を駆使して回避し、「宵鋼-小烏丸打ち直し-」を胸の中心に向かって突き刺した。
激しい黒い稲妻が迸り、「黒の暴君」の鎧の一部が砕け散る。暗黒騎士ガーナットはイリーナを組み伏せようと手を伸ばすが、組み伏せられる前に刃が暗黒騎士ガーナットの心臓を貫いた。
データから作られても実体を持った人間であることに変わりはない。危険種と混じり合い、人間離れしていた暗黒騎士ガーナットも急所を一刺しされてしまえば絶命するしか無かった。
暗黒騎士ガーナットの全身から力が抜け、頽れる。
「……もう少し手間取ると思っていたんだけどな」
この一撃では流石に倒せないだろうと予想していたイリーナは、何度も同じ部分を攻撃することでフレーバーテキストの「打ち合った武器の耐久度を減少させる」によって鎧の耐久力を削り、「黒の暴君」を突破して急所を貫き仕留める予定だった。
しかし、予想に反して「黒の暴君」の耐久力は武装闘気と覇王の霸気に勝るほど高く無かったのだ。イリーナにとっては嬉しい誤算である。
「さて、この鎧を回収しないといけないのか……こっちの方が骨が折れそうだな」
幸い、予想以上に呆気ない幕引きで暗黒騎士ガーナットとの戦いは終わったが、まだ皇牙の回収の仕事も残っている。
「おっ、そっちも終わったか? ……ところで、イリーナさん。すまないが、この毒を魔法で洗い流してくれないか?」
申し訳なさそうに劇毒塗れの鎧を指差すアクアを見て、イリーナは疲れがどっと押し寄せた気がした。
その後、アクアが毒塗れじゃない方の鎧を回収し、イリーナが習得しておいた水の原初魔法で劇毒を洗い流し、二つの「黒の暴君」の回収に成功した。
「さて、行きますか!」
「謁見の間はこっちだったな……アクアさん、行きましょう!」
アクアとイリーナは謁見の間を目指して走り出す。丁度その頃、ディランもアクルックスを撃破し、アクアとイリーナの後を追うように謁見の間を目指して走り出していた。
◆
一方、アクア、イリーナ、ディランの三人が目指す謁見の間でも壮絶な戦いが繰り広げられていた。
敵は宰相ハーメルン=オーガストと宰相の息子ヴェーパチッティ=オーガスト。
それに相対するのはメネラオス、スピネル、チャールズ、カルメナ、リヴァス――帝城突入メンバーでは最も数の多いパーティだ。
「……なるほど、人数的には確かにこちらの方が不利ですね。しかし、私は「煌光宝石」と「闇引宝石」をその身に宿した存在――物理的な攻撃は一切通用しませんよ」
「……もう既に仕掛けは張り巡らせました。すみません、後はよろしくお願いします」
スピネルが眼鏡を輝かせた。ほんわかな気配が消え、冷たい意志の光を眼鏡の奥の瞳に宿している。
ハーメルンはスピネルの言葉に疑問を持ち、周囲を見渡すと無数の糸が張り巡らされていた。
その糸はハーメルンとヴェーパチッティの動きを封じているが、一方で自分達が接近して攻撃できる余地を残すように器用に設置されている。
「なるほど、なかなかの手際の良さですね。しかし、私には通用しませんよ」
「残念だったな。スピネルさんの『万物切断千変万化-ドラゴーンプラティナクロース-』には武装闘気が纏っている。この武装闘気は例え光に変化していても、その実体を捉えてダメージを与える。動かない方がいいだろうね」
メネラオスの解説に、ハーメルンの顔が歪む。
「――ッ! おい、親父! こいつらやべえぞ! ここは一旦逃げて態勢を整えた方がいいんじゃねぇか!」
「戦場ってのは、弱気と迷いを見せた奴から負けるものだぜ! 撤退するなら撤退するで、即断即決しねぇと死ぬもんだ」
「宰相の息子ヴェーパチッティ――お前が最初の息子という立場を使って、罪のない人々を次々と殺して暴虐の限りを尽くしてきたことは俺達も掴んでいる。ここで死んでもらうぞ! サングリッター・エンチャート! サングリッター・ファイナル・エクステリオン!!」
「転移法陣」を発動して脱出を図ろうとしていたヴェーパチッティに光り輝く斬撃を拡散させることで前方広範囲に攻撃し、聖なる浄化効果の斬撃領域を展開するリヴァスの必殺技と、チャールズの投げ槍に変形した『武装変化-マスターウェポン-』がヴェーパチッティを貫き、一撃で絶命させた。
『光条の断罪! 暗黒の放射!』
ハーメルンの右半身が光、左半身が闇へとそれぞれ変化し、右手から光条が、左手から闇の放射がそれぞれ放たれる。
「――させるかッ!」
チャールズとリヴァスの二人に向かって放たれた光と闇の攻撃に、二人の前に割り込んだカルメナは『大地鳴動-アスタディザスター-』を振りかざして発動した【地割れ】の応用で生み出した壁で対抗する。
壁には武装闘気が練り込まれ、高い強度を誇っていた。光条と闇条を受けても貫通することなく弾かれ、拡散して消失してしまう。
『……これはまずいですね。あの息子は皇帝陛下の素晴らしさを理解していませんでしたし、そもそも次の子を作ればいいだけのことなので、さしたる痛手ではありませんが、身動きを封じられ、遠距離攻撃以外の手段を持たない私が貴方達五人を……特に、そちらの貴族様を相手にしなければならないというのは骨が折れそうです』
「ならば、ここは私一人でお相手しようか? 私の感情の根源は全てを殺す愉悦にある。このまま誰も殺せないのなら、わざわざ遥々このルヴェリオス帝国を訪れる意味が無かったからね」
『貴方のような外道を、何故ローザ様が処断せず仲間に引き入れたのか、理解に苦しみます。正直に申せば、この国には様々な外道がいます。私もその一人に数えられるでしょうし、【凍将】グランディネ=サディスト辺りはその筆頭と言えるでしょう。貴方からは私達と同じ外道の匂いがします。……貴方のような人間は生き残り、何故我々は殺されなければならないのか? 全く理不尽な話ですな』
「私は国王陛下とその一族のための毒剣として仕えてきた。綺麗事だけでは国は維持できない。無論それが決して褒められたことではないことも理解しているし、言い訳をするつもりもない。何が違うか、だったか? 敵対する立場にあるか、そうではないかという違いしかないだろうな。私達ラピスラズリ公爵家はローザに敵として認識されなかった。目的が対立することはなく、私達はブライトネス王国に憂いをもたらしたルヴェリオス帝国を文字通り滅ぼし、復讐を果たすためにここにいる。何が正義で何が悪か、極めて難しい問題だ。一言で悪といってもグラデーションがある。私はラピスラズリ公爵家がブライトネス王国にとっての必要悪であると信じているが、見方を変えれば外道そのものだろうな。……正義の対義語は別の正義だという。私には私の信じるものがあり、お前にはお前の信じるものがある。しかし、矛盾したその二つを互いに突き通そうとした時、どちらかが砕け散るしかない。それが、エゴを貫く戦いというものだ。私もいずれ報いを受けることになるだろう。その覚悟を常に持って生きている。……スピネル殿、チャールズ殿、カルメナ殿、リヴァス殿、この戦い私に預けて欲しい。それから、糸を解いてもらってもいいか?」
スピネルの糸が解除され、ハーメルンは束縛から解放された。
「ブライトネス王国に憂いをもたらす存在を生かしておく訳にはいかない。ここで死んでもらう」
『これからルヴェリオス帝国はもっと発展していく――その障害となるお前には死んでもらいます』
かくして、二人の悪が謁見の間で激突する。
『光速移動。光闇の滅旋撃』
光の速度でメネラオスに肉薄したハーメルンが右手の光と左手の闇を融合し、光と闇の螺旋攻撃を放つ。
このハーメルンの最強の技に対し、メネラオスは「暗黒魔法-鬼哭怨喰」――これまでに殺害した者達の魂を「虚無の怨霊」へと変化させて鬼哭門に閉じ込め、発動することで「虚無の怨霊」によって相手の記憶と存在を抹消する、人間の命を犠牲にして儀式を行う禁忌の術の中でも最も醜悪なメネラオスの奥の手の暗黒属性召喚魔法を使って対抗する。
光と闇の螺旋攻撃は一時的には「虚無の怨霊」に拮抗していたが、やがて「虚無の怨霊」の中に飲み込まれていく。しかし、そのままハーメルンを「虚無の怨霊」に飲み込ませることはなく、光と闇の螺旋攻撃を消滅させたところで綺麗さっぱり消え去った。
それと同時に、今度はメネラオスがハーメルンに肉薄する。鋭利に尖っていた爪を含め、筋肉の筋がビキリと立って脈打っている右腕全体に武装闘気を纏わせ、容赦なくハーメルンの心臓を握り潰した。
「さて、ローザはハーメルンの持つ帝器を回収して欲しいといっていたな」
ハーメルンの死体から「煌光宝石」と「闇引宝石」を抜き去ると、メネラオスは四人と共にローザ達が消えていった玉座の裏の通路へと足を踏み入れた。
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