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Act.7-49 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.10

<三人称全知視点>


 ヴェガスと男転生者――その間には優劣は存在しない。

 しかし、皇帝はイリーナに対する切り札として暗黒騎士ガーナットを最大限利用するために、表に出す暗黒騎士ガーナットを一人に限定し、もう一人の暗黒騎士ガーナットをガーナットの影武者とした。


 ヴェガス=ジーグルードの遺品、帝器「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」は蒼の長髪と血のような真紅の瞳を持つヴェガス=ジーグルード自身から作られた暗黒騎士ガーナットではなく、赤い髪と紫紺の瞳を持つ男主人公から作られた暗黒騎士ガーナットに与えられ、現在も男主人公を素体とした方の暗黒騎士ガーナットが保有している。


 二人の共通の装備である漆黒の鎧は、どちらも「海魔化身(タイダリア)」を基に生み出された災禍級危険種のタイラントの変異種であるダークタイラントを使った皇牙「黒の暴君(ダーク・タイラント)」である。

 素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化するが、やがて使用者を取り込んでしまうという危険性を持つ。


 ヴェガスを素体にした暗黒騎士ガーナットは「黒の暴君(ダーク・タイラント)」の副武装である「暴君の剣タイラントツヴァイハンダー」を愛刀としている。こちらも「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」の素の強さに匹敵する強さを持ち、決して侮ることはできない。


「さて、敵は二人、味方も二人。イリーナさん、どうします?」


「アクアさん、「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」を持っていない方の暗黒騎士ガーナットの相手をお願いします」


「――了解」


 皇帝が万全を期して用意したイリーナ撃破の切り札は――しかし、皇帝も予想外のローザの仲間によって悉く無意味なものとなる。

 イリーナの援軍としてアクアが加わったことで、イリーナvs暗黒騎士ガーナット二人という勢力差は覆った。


 女主人公イリーナと男主人公を素体とした暗黒騎士ガーナット――二人の戦いの行方は分からなくなった。


「――【天使之王】――天使化!!」


 一方、もう一人の暗黒騎士ガーナットを請け負うことになったアクアにとってもこの戦いは気を抜けないものとなっていた。

 相手は伝説の騎士団「真紅騎士団(グラナートロート)」の騎士団長――ヴェガス=ジーグルードその人である。魂を持たない、幾多の戦いで身体に刻み込まれた肉体的戦闘記憶のみを有する存在であるとはいえ、その戦闘記憶は英雄に相応しいものである。


 対するアクアも、オニキスとして誰よりも戦ってきた。大切な仲間のために、フォルトナ王国の国王をしている大切な友人のために――その戦闘経験ではヴェガスに劣っているとは思っていない。

 転生によって女性となったアクアは、オニキスの時よりもどうしても身体的に劣る。体力面、筋力面、同年代の女性よりも遥かに高い身体能力を持つアクアだが、それでも全盛期のオニキスには遠く及ばない。しかし、その劣る面も闘気などの力によって埋めることは可能だ。今回の戦いで身体面は大きな問題にはならないだろう。


 問題は暗黒騎士ガーナットが保有する鎧である。『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』には無かったこの鎧に関しては全くの情報がなく、その効果は未知数だった。アクアとイリーナにとって不安要素になったと言っても過言ではない。


 アクアはこの鎧を警戒して、最初から本気で仕掛けることにした。

 ローザと出会い、彼女から受け取ったオニキス時代には無かった新たな力――アクアだけの力を駆使し、暗黒騎士ガーナットの撃破を目指す。


守護天使ガーディアン・エンジェル! 天使の加護エンジェル・プレッシング!」


 【守護天使ガーディアン・エンジェル】の効果で防御力を上昇させ、【天使の加護エンジェル・プレッシング】で自身に聖属性を付与したアクアが、『光を斬り裂く双魔剣(カレドヴールッハ)』の切っ先を暗黒騎士ガーナットに向けた。


「【劇毒之王】―― 猛毒八岐蛇(ポイズン・ヒドラ)!」


 『光を斬り裂く双魔剣(カレドヴールッハ)』から猛毒の九つ首の竜が生まれ、暗黒騎士ガーナットに殺到する。

 猛毒の竜は鎧の僅かな隙間から侵入し、暗黒騎士ガーナットの本体にジワジワとダメージを与え始めた。


「……鎧になるべくダメージを与えないように攻撃したつもりだが、ある意味失敗だったかもしれないな」


 暗黒騎士ガーナットに変化が生じたのは猛毒を受けて暫くしてからだった。

 猛毒を浴びてダメージを受けたような反応を示していた筈の暗黒騎士ガーナットが、突如として何事もなかったように斬撃を放ってきたのだ。


「――ッ! 重いッ!」


 その斬撃に、馬鹿力が取り柄なアクアも思わず声を上げる。

 人間の膂力ではあり得ない重い斬撃――「黒の暴君(ダーク・タイラント)」の素体となったダークタイラントの力を、しかしアクアは神攻闘気、神堅闘気、神速闘気、武装闘気の四つの闘気でその身を強化することで防ぎ切った。


「もしかして戦いの進化しているのか? だったら早いこと終わらせないとな!」


 いつも通り双剣を逆手で構え、右の剣で弾くと同時に地を蹴って加速――スカートが太腿のギリギリまでめくれ上がっていることにも全く頓着せず、武装闘気と覇王の霸気を纏った双剣で全身全力の一撃を叩き込んだ。


「【劇毒之王】――劇毒八岐蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ!」


 更に渾身の斬撃で作った大きな傷から真紅の劇毒の竜を流し込む。

 進化によって毒耐性を得ていた「黒の暴君(ダーク・タイラント)」だが、その耐性を上回る劇毒には耐えられなかったのだろう。長期間の使用で完全にダークタイラントと同化して、強靭な進化能力をその身に宿していた暗黒騎士ガーナットも、その一撃によって生き絶えたようだ。


「さて……倒したはいいが、どうしたものか」


 鎧には大したダメージもない。このレベルなら修復は可能だろう。だが、鎧は劇毒塗れで、毒を無効化できるアクア以外が触るのは自殺行為になるほど汚染されていた。そのまま四次元空間に放り込めば、四次元空間にしまってあるものも汚染されてしまう。


「仕方ない。……見なかったことにするか」


 劇毒に塗れた「黒の暴君(ダーク・タイラント)」を纏った暗黒騎士ガーナットの遺骸を放置し、アクアはイリーナともう一人の暗黒騎士ガーナットとの戦いに視線を向けた。



 暗黒騎士ガーナットの武器は血を吸うたびに切れ味を増し、吸収した血液を操作することができる流星刀の帝器「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」である。

 この武器はヴェガスが所有する以前から既に多くの使い手の手を渡り歩き、多くの血を吸っていた。ヴェガスの手に渡ってからは多くの戦乱の中で使われ、これまで以上に多くの血を吸った。この時点で「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」は伝説の妖刀クラスの切れ味に至っているが、暗黒騎士ガーナットによって更に使われ、ヴェガスが使っていた当時よりも更に力を増している。


 一方、イリーナが使用するのは「宵鋼-小烏丸打ち直し-」――独創級に分類される剣で【刀身透明化】、【真空刻斬】、【攻撃裁断】、【破壊成長】のスキルを持ち、「打ち合った武器の耐久度を減少させる」というフレーバーテキストを有している。


 肉体に染み付いたヴェガスの剣術の記憶を持つ暗黒騎士ガーナットを相手に、致命傷を与えて勝利することが不可能なことは、イリーナにも分かっていた。

 体格差と体力差、そこから生じる基礎能力の差を闘気によって埋めることは可能だが、それでも暗黒騎士ガーナットを凌駕するほどの圧倒的な差を生み出すことはできない。


 イリーナは「宵鋼-小烏丸打ち直し-」によって「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」の耐久力を減らす長期戦を覚悟してこの戦いに臨んでいた。


 「宵鋼-小烏丸打ち直し-」に武装闘気と覇王の霸気を纏わせたのとほぼ同時に暗黒騎士ガーナットが動いた。

 「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」から血液が吹き出し、弾丸を形作る。


「――ッ! 最初から『血雫(ブラッド・ショット)』か」


 その数四千発――血液の弾丸の雨が同時にイリーナに迫る。


「覇王の霸気!」


 黒い稲妻が発生するほどの猛烈な威力で覇王の霸気を放ち、更に撃ち落とし損じた血液の弾丸を見気を駆使して全て回避したイリーナ。


 この『血雫(ブラッド・ショット)』はヴェガス時代から重要な戦いに限定して使用していた技だった。「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」は血を吸う度に切れ味を増していくが、貯蔵できる血液に関しては使用すれば当然無くなっていく。

 その血液という限りあるリソースをこのように大胆に使った経験はヴェガスにはない。


「……あの暗黒騎士は確かにもう一人の私を素体にしたのかもしれないが、体術や剣技、使用できる技が同じという訳であって、その使い方までは継承していないのか?」


 暗黒騎士ガーナットは、確かに男主人公のポテンシャルを持つが、それは身体的な話であって、判断力といった内面的なものまでは継承していなかった。

 魂の不在と、それを埋めるためのプログラミング――暗黒騎士ガーナットとは、ヴェガスの高い身体能力を持つ一方で、それを制御し、正しく扱う思考や判断力を持っていないチグハグな存在であることをこの一瞬でイリーナは見抜いた。


「それならば、付け入る隙があるかもしれないな」


 大きく形勢をひっくり返す方法を思いついたイリーナは、「宵鋼-小烏丸打ち直し-」無しで真正面から攻撃を仕掛けた。

 対する暗黒騎士ガーナットは全く驚くことなく(そもそも、全く感情というものを持ち合わせていないので、驚きようがないのだが)、真っ直ぐ迫り来るイリーナ目掛けて斬撃を放つ。


 その斬撃は確かにイリーナを切り裂いた……筈だった。

 何故か無防備に斬撃を浴びた筈のイリーナは、突如として歪み、消えていく。

 それと同時に、暗黒騎士ガーナットが斬撃を放った剣――「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」そのものが利き手の右手ごと無くなっていた。


「……魂魄の霸気――《箱猫》。決まったな」


 重ね合わせの事象から望んだ結果を選び取る、つまり一パーセントでも可能性があれば、その確率を百パーセントにすることが可能な魂魄の霸気が発動されたのだ。

 暗黒騎士ガーナットとの対峙した際の可能性の中に、暗黒騎士ガーナットの利き手を切り裂くことができる可能性が一パーセント以上あった。その一パーセントを百パーセントに変えることで自分へのダメージを無効化し、暗黒騎士ガーナットの利き手を切り落とすことに成功したのである。

 当然、その時点で暗黒騎士ガーナットが斬撃を放った場所にイリーナはいないのだから、その斬撃が通ることはない。


 暗黒騎士ガーナットから奪った手から「血飢えた吸血剣グリーディー・ブラット」を抜き去り、「宵鋼-小烏丸打ち直し-」と共に二刀流の姿勢で構える。


「さて、決着をつけるとしようか! 暗黒騎士ガーナット」


 剣を奪われ、無防備となった暗黒騎士ガーナットに、利き手を奪って距離を取っていたイリーナが再び迫る。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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