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Act.7-48 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.9

<三人称全知視点>


 ディランの対峙したアクルックスは帝器「精神銃砲(マインドカノン)」の使い手である。

 この「精神銃砲(マインドカノン)」という武器は高威力ビーム砲を放つロングバレル、小刻みに連射可能なマシンガンバレル、遠距離狙撃用のスナイパーバレルと換装が可能で自由度も高いが、狙撃武器の領域を逸脱することができず、中・長距離の戦闘に適している。


 対するディランは魂魄の霸気である《影》や、【虹柱】や【積嵐雲】などの遠距離攻撃をいくつか保有するが、戦闘技術の根幹は漆黒騎士団副団長として培った騎士剣術――つまり、近距離攻撃にあった。


 ここまで聞けば、この戦いはディランが得意分野である近距離戦闘(ショートレンチ)に持ち込めば確実に勝利できるものに思えてくるものだが、最初に『闇を斬り裂く真魔剣フェイタル・エリュシデータ』を振るって近距離戦闘(ショートレンチ)に持ち込んでからこれまでの十分間、ディランはアクルックスを撃破することができず、二人は拮抗に近い戦いを演じることになってしまっている。


 その原因はアクルックスのもう一つの武装――敏捷を上昇させる特殊な靴型の皇牙「韋駄天走(スピードスター)」によるものだった。

 奥の手に空中歩行の効果を持ち、圧倒的な速度で走ることを可能にするこの靴を利用して、アクルックスはディランに近づかれる度に距離を取り、遠距離戦闘(ロングレンチ)から攻撃を仕掛けた。

 一方で、ディランもそのままアクルックスのペースに巻き込まれまいと、神速闘気を駆使して近距離戦闘(ショートレンチ)に近づいて一太刀浴びせることを狙う。


「たく、面倒な奴だな。とっとと片付けて相棒に会いに行きてぇのに!」


「遠距離攻撃から攻撃すれば簡単に勝てると思いましたが、なかなか遠距離攻撃への対策も心得ていらっしゃるようですね。あはは、これは誤算だ。――しかし、私はピンチになるほど強くなるのですよォ!」


 ディランの放った【積乱雲】を、ロングバレルの「精神銃砲(マインドカノン)」で上空に向けて放った精神砲で吹き飛ばし、更に剣から伸ばした【虹柱】の実体を持つ虹の刃も「精神銃砲(マインドカノン)」で打ち砕かれてしまう。


「ちっ、【虹柱】と【積乱雲】もダメか。やっぱり《影》を使うしかねぇか」


 ディランは剣士としての戦い方に拘るのをやめ、魂魄の霸気を前面に押し出した戦いにシフトした。

 相手の武装からして使わなくても十分に勝てるだろうと踏んでいたため、魂魄の霸気を使用しなかっただけであり、そこに拘って使用を躊躇うようなことは一切ない。


 《影の錐塔》を放ち、無数の影の円錐を顕現するディラン。

 対するアクルックスは、「韋駄天走(スピードスター)」を駆使して器用に攻撃を躱しながら「精神銃砲(マインドカノン)」の引き金を引いていくが、ディランは見気と《影の翼》を駆使して三次元的に攻撃を回避し、右の手から放った影から《影撃部隊》を生み出した。


 アクルックスそっくりの影達が一斉に「精神銃砲(マインドカノン)」型の銃らしき影の引き金を引く。刹那、猛烈なエネルギー砲がアクルックスに殺到した。


「まだまだ、これからだぜ! 《影の世界》!!」


 自らの影に《影の翼》を駆使して急降下しながら突っ込んでいくディラン。

 ディランが影の中に消え去ったのと、アクルックスに攻撃が殺到したのはほぼ同時だった。


「――ッ! 韋駄天走(スピードスター)ァァ!」


 ほぼ全方位からの砲撃を前に、アクルックスは唯一砲撃が無かった東側に向かって「韋駄天走(スピードスター)」を限界を超えて稼働させると、全ての砲撃を躱した。

 結果として、「韋駄天走(スピードスター)」がオーバーヒートしてしばらく使用不可能になってしまったが、あの場で砲撃を食らっていれば間違いなく今この場にアクルックスはいなかったのだから、あの危機を前にした時の撤退という思い切った作戦は正しかったと言えるだろう。


 捨て身戦法であれば、あれほどのピンチを利用してディランに「精神銃砲(マインドカノン)」が破損するほどの強烈な一撃を叩き込むこともできた。しかし、肝心のディランは戦場から姿を消してしまったのでは、攻撃を放つことはできない。

 「少々勿体無かったな」と感じつつ、アクルックスは危機を脱した安堵感を噛み締めつつ、一方で未だ討伐するに至らないディランを探し始めた。


 結論から言えば、アクルックスは危機を脱してなどいなかった。

 そもそも、あの《影撃部隊》の砲撃に致命的とも言える穴があったのは何故か?

 何故、一度砲撃に失敗した《影撃部隊》が第二撃を放たないのか?


 少し考えれば分かることだったが、アクルックスはあれほどの危機を脱したという余韻に浸ってしまい、無自覚に気を緩めてしまっていたのだ。

 本人は決して警戒を緩めたつもりは微塵もないだろう。しかし、彼の心に生じた達成感は、彼も知らぬ間に大きな隙を作ってしまっていた。


 そしてディランの狙い通り、自らも気づかぬうちに大きな隙をつくってしまったアクルックスに、本当の危機が訪れる。


 ディランは砲撃から逃げ去った直後に現れた。――アクルックスの背後に、全くの気配なく。

 そして、鞘から圓にしてようやく捉えられる速度で白刃を引き抜き、神速の斬撃が放たれた。


「《影軀逆転》」


 アクルックスは、ようやく背後を取られたことに気付いたが、振り返ることすら敵わず頭と胴を切り離された。

 本来実体の動きに従って動く影という概念そのものに干渉し、影を動かすことで実体を動かすことで、身体に掛けられたリミッター関係無しの超高速攻撃を放つディランの最強の一太刀――その圓式基礎剣術に迫る斬撃を無防備で、しかも背後から放たれて躱せる筈がない。


親友(ローザ)、俺だってやるときはやるんだぜ? ……えっと、この銃みたいなのと、後はこの靴も何か細工がありそうだな? この二つを持っていけばいいんだな」


 アクルックスの死体から「精神銃砲(マインドカノン)」と「韋駄天走(スピードスター)」を回収すると四次元空間に放り込み、「待ってろよ! 相棒!!」と叫びながらディランは謁見の間を目指して全力疾走した。



 『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』において、ヴェガス=ジーグルードの転生体である男主人公/女主人公は皇帝を殺し得る唯一と言っても過言ではない存在だった。

 このヴェガスの転生体の登場によって、革命軍と帝国の均衡は破られ、帝国崩壊が崩壊し、皇帝に死が訪れる。


 皇帝は異世界化に伴い神となった。しかし、神と言ってもその基盤は皇帝(カエサル)トレディチ=イシュケリヨトというゲームのラスボスである。

 神となったことで世界を超越した存在になったトレディチだが、ヴェガス=ジーグルードによって殺されるという運命が果たして消えたのだろうか? 消えたと断言する材料はどこにも存在しない。


 世界を俯瞰する言わば神の視点に至った神は運命を変えられる。自らに迫る死の運命も回避することはできるだろう。

 だが、それでもヴェガスの転生体が持つ影響力を百パーセント消し去ることは難しい。ならば、その危険な芽を事前に摘んでしまえばいい。


 しかし、このやり方は当の本人――トレディチが真っ先に思いつき、そして否定した。それでは芸がないと。

 それに、トレディチにはもっと厄介な存在がいた。創造主――百合薗圓の存在だ。

 『管理者権限』を集め、再び完全な『管理者権限』に戻すために、いずれ圓はトレディチの前に現れるだろう。だが、それがいつになるか、どこで相見えるのかまでは分からない。


 ならば、自分が全力を出せるタイミングで、全力を出せる場所で――つまり、このルヴェリオス帝国(ホーム)で戦えるように圓を誘き出せばいい。


 圓を誘き出す囮として、シャドウウォーカーはあえて壊滅させなかった。

 だが、何も手を打たなければ圓がルヴェリオス帝国を訪れる前に革命が成功してしまう。

 そこで、皇帝はヴェガスの転生体を始めとするシャドウウォーカーを討伐するために様々な手を講じることにした。

 特に自分を殺し得るヴェガスの転生体に対しては念入りに……。


 皇帝はヴェガス達を暗殺した後、かつての隊長ヴェガスの死体を入手し、そのデータを抜き去った。

 と同時に、『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』の内部データの中に存在しながらも、この世界には絶対に生まれ落ちることはない可能性――もう一人の主人公の転生体のデータも使用し、二人の切り札を完成させた。


 それが暗黒騎士ガーナット――ルヴェリオス帝国の新たな英雄である。


 通常、ヴェガスが死に、その転生体として男主人公が女主人公のどちらかが生まれる。

 もし仮に男主人公が生まれた場合、女主人公という存在はこの世に存在しないことになる。至極当たり前の話だ。


 本来、どちらかが生まれればどちらかが生まれない、まるでコインの表裏のような関係にある二人。

 そのどちらもが同時に存在することはなく、片方の可能性が存在すれば、片方の存在が否定される。少なくとも我々人間が認知できる範囲は世界一つであり、その世界とは様々な可能性を否定することで成立している。もし、女主人公が存在する世界があるとすれば、それは男主人公の存在を否定することによって成立している。


 だが、これは物理的な世界においての考え方だ。異世界ユーニファイドという世界の法則に照らし合わせて考えた場合、このコインの表裏を矛盾なく同時に存在させる方法が存在している。

 これは、ローザ=ラピスラズリと百合薗圓が、アクア=テネーブルとオニキス=コールサックが、或いはディラン・ヴァルグファウトス・テネーブルとファント=アトランタが同一時間軸に存在できる理由そのものである。


 このユーニファイドの世界の法則では、本人であるとの判断はまず身体に依存する。例えば、何者かの魂が憑依をして体を乗っ取ってしまっていても、世界的に見れば身体の元の持ち主がそのまま存在し続けていると定義される。

 つまり、ローザと圓、アクアとオニキス、ディランとファントは同じ魂を有していたとしても、身体のデータとしては別人として扱われているのだ。


 この法則に則って考えれば、転生体であるイリーナと同時に、ヴェガスや男主人公が存在することもできる。三人とも身体のデータ上は別人なのだから。

 同一世界上に全く同じデータを持つ人間が二人以上存在してはいけないというルールには、魂の有無は関係ない。


 皇帝はデータからヴェガスと男主人公の身体をこの世に矛盾なく生み出した。しかし、ここで完璧な二人のヴェガスの創造を狙ったとすれば、一つ大きな問題が発生する。

 それは魂の存在。ヴェガスの魂は既にイリーナへと転生しているため、ヴェガスの魂は存在しないのだ。仮にヴェガスの身体を創造しても、そこに入れる中身がないのであればただの器に過ぎない。


 皇帝の目的は魂を持った二人のヴェガスの創造ではなく、ヴェガスの転生体を倒すための切り札の戦士であったため、肉体に染み付いたヴェガスの体術の記憶、それさえあれば十分だった。

 暗黒騎士ガーナットとは魂――意思無き戦闘人形。思考もなく、ただ身体に染み付いた動きによって帝国の敵を滅ぼすためだけの破壊兵器。


 この皇帝によって考案されたデータからの故人の蘇生、魂無き人形のデータからの創造、そして同一世界上に全く同じデータを持つ人間が二人以上存在してはいけないという動かせないルールは、他の神々へと受け継がれ、広められ、二人の(太陽神)女神(悪役令嬢)によって大いに利用されることとなる。

 暗黒騎士ガーナットと呼ばれる存在は、この極めて科学的な死者への冒涜の最初の犠牲者となった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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