Act.7-47 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.8
<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・ S・ペンドラゴン>
銀河のような星々の集まりなど存在しない不規則な小さな星のような光が点々と輝く擬似宇宙のような空間を抜け、辿り着いた先には巨大な螺旋状の機械仕掛けの塔があった。
――カチカチカチカチ。
時計の針が時を刻む音が、塔の至るところから聞こえる。
機械仕掛けの塔というより、時計の塔か。しかし、随分と脈略のないステージ変更だねぇ。
宇宙にぽっかりと浮かぶ塔は天を突き、とても頂上が見えない。
塔の中に一歩踏み出すと、無数の時計と歯車に彩られた眩しいほど輝いた世界が広がっていた。二重螺旋状の階段がぐるぐると回っていき、天井に吸い込まれるように最上階と接続していた。……つまり、あそこまで歩いて行けと。
しかし、あれだけ暗い世界からこういう無駄に煌びやかな世界にガラッと変わると、目が疲れるよねぇ。……もしかして、狙った?
小細工なしに螺旋階段を上っていく。丁度中腹に辿り着いた頃、携帯端末がピコンと鳴った。
ハーメルンの思考を読み取った後に送ったメッセージの返信が来ていた。どうやら、必要な役者はこれで全員揃えられそうだねぇ。
しかし、こんな夜遅くだけどよく起きていたねぇ。……寝ていてもおかしくはないのに。
もしかして、お楽しみでしたか?
四六時中雨が降り雷が鳴り続ける平原のBGMのアレンジ版か、光の力を集めて造られた塔のBGMのアレンジ版が流れそうな機械仕掛けの塔を登り切り、辿り着いた先に待ち受けていたのは機械仕掛けの聖なる審判者ではなく、槍の石突きを床につけて仁王立ちしていた青みが暗く鈍い青緑色――鉄色の髪と、濁った鈍色の瞳を持つ偉丈夫。
「ふん、随分と遅かったな」
懐中時計を懐に戻し、ニウェウス王国の裏切り者――【錬成の魔術師】ダートム=アマルガムは不快感を滲ませた表情を見せた。
「ニウェウス王国の裏切り者が、まさかルヴェリオス帝国に亡命しているなんてねぇ」
「裏切り者か……ニウェウスの人間でもない貴様に何が分かる! 戦争は世界を豊かにする! 技術を革新させ、男達を駆り立て、共通の敵の存在で国を強固たらしめる! 周辺国と和平を結び、ニウェウス王国は惰弱と化した。私は国王陛下の正気を疑った、何が平和だ! 武力を放棄した先に待ち受けていたのはなんだ!! 弛みきった民、栄誉ある宮廷魔法師には【庭園の魔女】を始めとするしょうもない魔法の使い手が抜擢される。そんな軟弱な態度で隣国――フォルトナを始めとする諸国に攻められれば、見るも無残な結果となったことは容易に想像がつく! 挙げ句の果てに、この私が、宮廷魔法師として国に貢献してきたこの私が、事務処理を司る窓際部署の名ばかりの所長に追いやられるだと!! だからこそ、私は穏便に、国王を暗殺し、武闘派の名門宮廷魔法師と第一王女を婚約させ、誉れ高い武国ニウェウス王国を築こうとしたのだ。……全てはあの女だ、あの女さえいなければ! 私はあの理想のニウェウス王国を再興することができたというのに! 【庭園の魔女】が、ユリア=ウィリディスさえいなければァ!!」
激情を迸らせたダートムだけど、一通り叫ぶと何事も無かったように冷静な表情に戻った。
「だが、それもどうでもいい話だ。私はルヴェリオス帝国に亡命し、ニウェウス王国を捨てた身だ。もうあの国は私の仕えるべき国ではない。いや、もう既に地図上には存在しない国に仕えるなど物理的に不可能だがな。――私のこの思想を皇帝陛下も肯定くださった。武力による支配こそが至高なのだと。皇帝陛下もそれを御所望だ。圧倒的な武力と新たな魔法の境地――お前も見たであろう? あの人造魔導士の力を。今のままでは副作用で精神が崩壊してしまうが、いずれは完璧な兵を、魔導士を作り上げることができるであろう。ニウェウス王国でもなし得なかった魔法の新たな領域に、遂に我々人間が踏み込むことができるのだ。全く、皇帝陛下とオーレ=ルゲイエには感謝しかないな」
あのジェスター=ヴェクトゥルってのは、人造魔導士の試作品ってことか。
要は、わざわざ猛者の候補を新たに見繕うよりも、強化術を生み出して強い兵を量産した方が建設的だって話なんだろうねぇ……最終的に皇帝をも裏切って世界を崩壊させる神になったりしないといいけど。
「今の私はルヴェリオス帝国宮廷魔法師長だ。今は私一人だが、いずれ最強の人造魔導士軍を引き連れて各国を手中に収めてやろう」
「残念だけど、その夢は叶わない」
「――ふん、お前が私を倒すというのか? それは無理な話だ。何故なら、ローザ=ラピスラズリ、お前は私が倒すからだ。皇帝陛下への手土産に創造主の首、頂くとしよう。いくら力を持つといっても所詮は戦いを知らぬ小娘だ。男に守られることでしか生きられない女に、この私が負けるとでも思ったか」
「随分と男尊女卑の思想に染まっているようだねぇ。女が男に守られなければ生きられない? 随分な言い草だねぇ。戦いの世界に男も女も関係ない――相手を軽んじた者から死んでいくものさ。そういうくだらない思想はとっとと捨てた方がいい。――ボクは先に行かせてもらうよ。君の相手はもっと適任がいる。君の相手はかつて君が貶めようとした王女と、君がかつて弱き固有魔法と軽んじた魔女にお任せするとするよ」
ダートムの目が僅かに驚きで見開かれる中、顕現した白い羽の意匠が施されたナイフが光り輝き――。
「久しぶりだね、クソ野郎。今やどうでもいいことだけど、あたしの国を滅茶苦茶にしてくれた落とし前、ここでつけさせてもらうよ!」
「今度は逃しませんわ、ダートム。――今度こそ貴方を倒します」
「……レジーナ王女に、【庭園の魔女】か。ニウェウス王国の残党が今更何ができる。こんな小娘共に私を倒せるなどと片腹痛いわァ! いいだろう、この私の手で精算してやる。どの道、あの国との繋がりを絶たない限り、私は前に進めないのだからな」
ボクは二人にこの場を任せ、真後ろにあった通路から先へと進む。
ボクが部屋を出た丁度その時、三人の魔法のぶつかる音が耳朶を打った。
◆
……また、景色が一変した。
螺旋状の機械仕掛けの塔の金色の世界から、今度は近未来的な青白い線が金属の壁を走る機械的な空間に変わった。
石の床と金属の壁が彩る近未来的空間か。……ってか、どういう基準で世界創造しているんだろうねぇ。脈略なんてあったものじゃないし。
……しかし、これ、最後のフロアが月とかないよねぇ? 月っていうと、『End of century on the moon』の領分だと思うけど。
これまでの一本道から打って変わって、複数の色違いの床が上への移動手段になっているみたいだねぇ。イメージ的には浮遊する床型のエレベーターってところかな?
無数の壁に仕切られて一種の迷路になっているみたいだけど、見気を使えば前後四、五階までは把握できるからさしたる問題もない。的確に正解ルートだけを選んで上へ上へと昇っていく。
そして、到達したのは地下六階……いや、塔って普通は上へ上へと昇っていくものじゃない? 地下があることは見気で調べたけど、こっちはフェイクと思うじゃん。
ちなみに、最下層は地下十三階、上は二十階建てで浮遊する床を使って行き来しながら辿り着いた先が地下六階だったんだけど、なんかこの中途半端な感じは一体なんだろうか? ……しかし、この地下六階ってどっかで聞いたことがあるような。
……うん、途中から面倒くさくなって【練金成術】で床に穴を開けたい衝動に駆られたけどねぇ。真面目に攻略したけど。
地下六階に待ち受けていたのは強い外斜視で焦点の合っていないギョロ目に白髪の背の低い白衣の老人――「皇帝の魔剣」の最後の一人――オーレ=ルゲイエだねぇ。
「き、貴様、ローザ! いつの間に! まさか、他の「皇帝の魔剣」を倒してきたというのか!!」
「……いや、いきなり初対面で『貴様、ローザ』って馴れ馴れしくない?」
「創造主ならば、ワシのことも知っておるだろつ!」
「……いや、ゲーム時代にもいなかったから本当に知らないよ? そもそも、たとえ知っていたとしても、名乗らずにいきなり相手を呼び捨てにするってのは良くないんじゃないかな?」
……まあ、ボクも実は情報を得ているんだけどねぇ。相手よりも一方優位に立つためには情報は多く得ておいた方がいいから事前の情報収集は寧ろ推奨なんだけど、知っていても初対面なら知らないフリをして、互いに自己紹介をするのが礼儀じゃないのかな? まあ、これから倒す相手だし、別にどっちでも関係ないんだけど。
「ヒャヒャヒャ! ワシの名はオーレ=ルゲイエ! 皇帝から新時代の帝器たる皇牙を作成する力を持つ『管理者権限』を与えられた天才科学者じゃ! 人はワシを「皇帝の魔剣」最強と呼ぶ。だが、ワシもいずれは「皇帝の魔剣」最強から更に出世し、皇帝の力をも手中に収めてワシの科学帝国を建国する! そのために、まずは創造主をこの手で葬ってやるのじゃ!」
「……色々と突っ込みどころ満載だけどねぇ。人って誰だい? 国の中でも存在が隠されている「皇帝の魔剣」に言及する人なんてほとんどいないだろうし、他のメンバーも他人を立てるような性格じゃなさそうだからねぇ。それって本当に客観的事実に基づくものなのかな? 科学者ともあろうものが、主観だけで物事を判断するなんてことはないよねぇ? っていうか、皇帝すらも倒してルヴェリオス帝国を乗っ取るって要するに謀反じゃん。こんな奴に『管理者権限』の一部を譲渡するとか、皇帝もアホだねぇ。まあ、皇帝も使い潰すつもり満々なんだろうけど。まあ、ボクにとっても好都合、皇帝と戦う前に『管理者権限』を奪えるっていうのは願ったり叶ったりだからねぇ」
「ふん、その減らず口、ワシが二度と聞けないようにしてくれるわァ! へ〜んし〜〜〜ん!」
老人の皮が内側から破れ、中からガイコツ型のサイボーグが姿を現した。
『ヒャヒャヒャ! これこそがワシは完全体じゃ! 「修羅道《修羅の装甲》」を基にしたパワードスーツのシステムが組み込んだワシそのものもまたワシの皇牙の一つなのじゃ! 奴らはワシの皇牙が「創造者の御手」を基にした「創造者の千手」だけだと思っているようじゃが、実際は違う! 「逆転領域」、「治療方陣」、「精神砲腕」、ワシは五つの皇牙を扱う最強の皇牙使いなのじゃ! その圧倒的な力を前にして死ね! 逆転領域!』
機械と化したオーレ=ルゲイエのブレスレットから金色の立方体が出現し、部屋全体に広がっていく。なるほど、このブレスレットが「逆転領域」ってことか。
他にも、「精神銃砲」や「蒼焔大鎌」のノウハウを活かしたと思われる二つの武装と、名前からして回復効果を持つ「治療方陣」……なるほど、回復こそが攻撃となる皇牙に相性ぴったりだねぇ。だけど。
【万物創造】を使い、作り出した小瓶をサイボーグと化したオーレ=ルゲイエの頭上目掛けて投げた。そして、素早くナイフ一本を作り出して投擲し、オーレ=ルゲイエの頭上で瓶を割る。
『ヒャヒャヒャ、何をしようと無駄なこと――ギィギィ……そんな、馬鹿な……ワシは、こんなところで』
まあ、こんな感じでオーレ=ルゲイエは結局何もできないまま自慢の皇牙を全く活かせず砕け散った。機械の身体にヒビが入り、砕け散った中からオーレ=ルゲイエをオーレ=ルゲイエたらしめていた身体の一部が露出し、それすらも激しい出血とともに爆砕する。
残ったオーレ=ルゲイエの死体から『管理者権限』を抜き取り、オーレ=ルゲイエの残骸から「逆転領域」、「治療方陣」、「精神砲腕」の三つの残骸を回収――【錬金成術】を用いて修復した。『管理者権限』があれば、皇牙や帝器にも修復や改造といった干渉が可能になるからねぇ。
やれることの幅が広がるけど、実際に取り掛かるのは皇帝を倒した後になる。戦闘にはちょっとした嫌がらせくらいしかできないだろうし、普通に『管理者権限』の階級を利用したプロテクト貼っていそうだからねぇ……まあ、皇帝倒してから本物手に入れても然程変わらないんだけど、回収できるものは回収しておきたいし、幅も広がるからねぇ。
必要なものだけ回収すると、ボクは設置されていた淡い光を放つ床に乗り、最後のエリアへと転移した。……ってか、転送装置あるなら動く床とか使わずに最初から全部これにしちゃえば良かったんじゃないかと思うけど。
あっそういえば、オーレ=ルゲイエを倒した方法を説明しなかったねぇ。まあ、容易に想像がつくだろうけど、ボクはただ神水を投げつけただけ。
欠損部位を完全に修復してHPとMPを全回復するアイテムを「逆転領域」で使った時、どうなるか。結局、やったことはオーレ=ルゲイエが「治療方陣」を使って彼自身がやろうとしていたことと全く同じなんだけどねぇ。
……しかし、やることなすこと最強の四天王の配下の改造大好きなマッドサイエンティストそのものみたいな奴だったんだけど、さっきの機械仕掛けの時計塔といい、世界観変わりまくってない?
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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