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Act.7-39 帝国崩壊〜闇夜の下で絡み合う因縁と激戦に次ぐ激戦〜 scene.2 下

<三人称全知視点>


骸兵強襲ネクロ・アサルトフォース


 「死者冒涜の妖刀・玉梓(ブラスフィーマー)」に封じられていた骸兵が八体召喚され、戦場に降り立った。

 人間五人、危険種三人で構成される骸兵の中にプルウィアとネーラと同期の暗殺者の姿を見つけ、プルウィアの表情に僅かに影が差す。


 伸縮自在の鎌を武器とし、接近戦や遠距離攻撃、広範囲への攻撃と隙がない暗殺部隊の仲間だったヴァジェット=ナテリィエファ以外にも骸兵には強敵が揃っている。


 エスメラルダ=シークァ。

 生前はルヴェリオス帝国の隣国で【凍将】が主導した作戦によって壊滅した小国シュラディエ王国から送り込まれた女性の暗殺者。

 二丁拳銃で高い実力を有し、巧みな銃捌きをする。


 デモネッシユ=ランヴェフェンダー。

 生前は帝国の南東を拠点とする南の異民族の生き残りで、トリッキーな大型のマシェットと呼ばれるナイフをそのままにしたような刃物を二本用いた攻撃で相手を翻弄して襲う。


 ヴァッケンザルト=プラシフドール。

 元帝国の将軍の男性で、ピトフューイの師匠でもあった。生前は帝国内でも数少ない良識派の将軍でピトフューイが離反してから暫くして、反乱軍に寝返ろうとしていたが、ネーラに暗殺されてしまった。

 武器は蛇腹剣を使用し、将軍に選ばれるほどの高い実力を持つ。


 ラージス=フォセッケ。

 隻眼隻腕のスキンヘッドの男。生前は革命軍の初期メンバーの一人で帝国の腐敗を無くし、民が幸せに暮らせる国になることを願っていた。

 武器は光をほとんど反射しない特殊な強化ガラスの剣と盾を扱う。


 ギガンテストピテクス。

 身長四メートルに達するゴリラの様な姿をした霊長類型A級危険種で、個体の中でも特に能力が高く、ネーラからは脳筋だけど使いやすいと評されている。


 グニェーヴザウルス。

 ティラノサウルスの骸骨の姿をしている。生前は帝器の材料にもなるほどのティラノサウルスのような姿のS級危険種で、生半可な攻撃では傷一つつかず、口からは破壊光線を放つなど強大な戦闘力を有する。


 カミーリャン。

 大きなカメレオンのような姿のA級危険種で、風景と同化する擬態能力を有する。

 攻撃手段は舌を主に使い、高速で伸ばして鞭のように扱う。


「――行きなさいッ!」


 ネーラの指示に従い、ヴァジェット達が一斉に攻撃を開始した。

 その狙いはプルウィアだけでなく、樒やヴァルナーと戦うプリムヴェールも含まれている。


『あらあら、そうせっかちなのはいけませんわ。仲間を信じて託すということも大切ですわよ。――樹法秘術・木千手掌』


 プリムヴェールに迫るギガンテストピテクスと姿を消して近くカミーリャン、樒に向けて口を開け、破壊光線を放とうとしていたグニェーヴザウルスを床を割るように現れた無数の木の掌が掴み、万力の如き猛烈な力で床に体を押し付けた。

 更に木の腕は後から後から際限なく床から生え、三体の骸兵を押し潰し、引き千切り、腕一本一本に纏わせていた霊力によって浄化して消滅させていく。


「樒殿、忝い!」


「ネーラ、俺の方は大丈夫だ。……俺は足手纏いにはならねぇよ! こっちの相手は任せな!」


「うん、分かった。ヴァルナー」


『あら? 予想以上にお二人の仲は親密になっているようですわね。嬉しい誤算ですわ』


「あァ!? 何をごちゃごちゃ言っている!? この女剣士を倒したら次はお前をぶっ倒す! テロリスト共に好きにはさせねぇぞ!」


「余所見とは随分余裕そうだな。ファンタズマゴリア! 月の力よ、我が武器に宿れ――ムーンライト・スティング」


 S(災禍)級危険種のカリュズティスを素材とした「海魔化身(タイダリア)」の副武装――三叉槍型の「海鬼の槍(オーシャン)」を構え、翼を使って空中からプリムヴェールに迫るヴァルナーに対し、プリムヴェールは無数の小さな幽霊を顕現してヴァルナーを擦り抜けさせ、防御力を大幅に低下させると、翠妖精(エルフ)化して翼を生やし、『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』に月属性の魔力を宿してヴァルナーを迎え撃った。


「奥の手・海魔の渦撃タイダリア・ボルテクス


 奥の手の効果で水の渦を宿した「海鬼の槍(オーシャン)」と『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』が衝突する。


「ルナティック・バースト!」


「――なんだとッ!?」


 拮抗するかに見えた戦いはプリムヴェールが打った一手によって大きく変わった。

 「ムーンライト・スティング」から瞬時に「ルナティック・バースト」に切り替えたことで月属性の魔力を圧縮したビームが「海魔の渦撃タイダリア・ボルテクス」の渦を吹き飛ばし、更に鎧にダメージを与えた。


「――ッ! 透明化「遅いッ! ムーンフォース・コンプレッション」


 透明化して仕切り直そうとするヴァルナーに、月属性が内包する重力干渉性質を応用し、超強力な重力場を発生させる魔法が容赦なく襲い掛かり、地面に縫い付ける。


「リヴァスと同じ重装甲槍使いタイプだから幾許かやり易いかとは思っていたが……魔法を使えるか使えないかの有無はここまで大きな違いになるのだな」


 リヴァスの新装備はヴァルナーの「海魔化身(タイダリア)」と副武装をイメージして作られた。そのコンセプトは多少違うが、プリムヴェールにとっては慣れ親しんだタイプの相手だったと言えるだろう。

 だが、リヴァスとヴァルナーには一つだけ決定的に違う部分があった。それは、魔法――使えるか使えないかで戦術の幅が大きく変わる異国の概念だ。


 プリムヴェールは強化期間中、ずっと魔法を戦術に加えたリヴァスと戦ってきた。そのため無意識にヴァルナーをリヴァスに匹敵する強敵と認識して戦っていたのだが、プリムヴェールが上方向に実力を見誤って過大評価をしてしまったが故に、予想以上に早く決着がついてしまったのだ。


『プリムヴェールさん、もう魔法を解いて大丈夫ですわ』


 地面から角材のようなものがその見た目に似合わない柔らかい動きでヴァルナーを束縛し、完全に動きを封じた。

 ヴァルナーの動きが完全に封じられたことを確認すると、プリムヴェールは「ムーンフォース・コンプレッション」を解除する。


『ヴァルナー様、よくお聞きください。その上で、貴方が望むのならその拘束を解除して差し上げますわ。……その前に一つ確認させて頂いてもよろしいでしょうか? ヴァルナー=ファーフナ――貴方にとって、ネーラ=スペッサルティンとはどんな存在ですか?』


「ネーラは俺の大切な仲間だ」


『なるほど、それを聞いて安心しました。ヴァルナー様、貴方はどうやらネーラ様とプルウィア様の関係をご存知ないようでございますね? お二人は同じ孤児院で育ち、帝国の暗殺部隊で戦ってきた元仲間です。プルウィア様は帝国の闇を知り、離反して革命軍側につきましたが、今でも二人の関係は深いもののようです……随分と歪んでおりますが。ネーラ様は、帝国と仲間を裏切ったプルウィアを恨みながら同時に愛し、骸兵にして永遠に一緒にいられるようにしようと願っています。一方、プルウィア様は、ネーラ様を斬ることで救おうとしている――両者の目的は一致している訳です。まあ、プルウィア様も本当はネーラ様を殺したくないようですが。……ネーラ様を救いたいというのは、ネーラ様の気持ちを踏み躙る行為に他なりません。まあ、私はそれがお姉様のご意志とあらば遂行しますが。ネーラ様は強力な薬物によって身体強化をしております。もう身体はボロボロ――普通の医療では治療は不可能でしょう』


「……お前の話を百歩譲って信じるとしてだ。……そのお姉様っていう人はネーラを救う方法を知っているってことか? じゃなかったら、ネーラを救うことはできねぇからな」


『えぇ、一つはローウィ=デュマガリエフを殺し、彼の持つ「万種薬品オールカインド・メディッシス」を使って毒物を中和する。禁断症状まではどうしようもないでしょうが、身体を治すことは充分に可能な筈です』


「ローウィの帝器か。……だが、殺さなくてもいいだろッ! 薬を使ってくれと頼めば」


『本当に貴方は仲間がどのような性質の人間達なのかよく理解していないようですね。お姉様はその本質を見極めた上で線引きをしている。貴方とネーラ様は生存させるべきと考えている一方で、ローウィは殺さなければならない。その理由は彼もまた吐き気を催す邪悪だからです。まあ、その線引きも恣意的なものではありますが。しかし、こちらの案はどうやら捨てざるを得ないようです。ローウィを倒して薬を届けてもらうとなると時間が掛かりますから。……もう一つがこの薬を使うことです』


「神聖薬――死以外のあらゆる状態異常と傷を治す神水を素材とした霊薬だな。確かに、その薬なら薬物により蝕まれた身体を癒すことができるだろう」


『この薬をヴァルナー様に進呈させて頂きます。信じるも信じないもどうぞご自由に』


 神聖薬を詰めた瓶を置き、樒は拘束を解いた。


「……俺はネーラを助ける。そんでもって、ここを脱出したら仲間達も助ける!」


『どうぞご自由に……どうせ止めても無駄でしょうがね。ただし、これだけは覚えておいてください。仲間を信頼することは大切ですが、手放しで信頼し、擁護に回るのはあまりよろしいことではありませんよ。信頼していた仲間が実は極悪人だった、なんてことも世の中ありますからね』



 少し時間を巻き戻し、プルウィアとネーラの戦いに視点を戻す。

 こちらも、戦いは一方的なものになりつつあった。


「【水神顕現-龗-】!」


 戦いの明暗を分けたのは「小太刀-霧雨-」と呼ばれるローザが生み出した小太刀だった。

 剣先から生み出された多頭の水竜はエスメラルダを、デモネッシユを、ヴァッケンザルトを、ラージスを、次々と噛み砕いていく。

 更に水竜内部に流された神光闘気が骸兵を浄化していく。


「……すまない」


 神速闘気を纏ったプルウィアが駆け抜け様に神光闘気を纏った「小太刀-霧雨-」でヴァジェットを切り捨てた。

 この時点で骸兵は全滅――ネーラは数的優位を失ったと言える。


「――葬るッ!」


「――まさか、ヴァジェットまで!? でも、今の私は超強化薬で強化を――」


 しかし、ネーラとプルウィアの剣が拮抗することは無かった。

 圧倒的なパワーによってネーラは押し負け、壁まで吹き飛ばされる。


『神攻闘気、神堅闘気、神速闘気の三神闘気による基本強化と、武装闘気派生の武気衝撃を組み合わせた一撃ですわね。もう勝敗は決したと言っていいでしょう。……プルウィア様、この勝負、この私にお預けしてくださいませんか?』


「……話は聞いていた。……ローザ殿には借りがある。それに、本音を言えばネーラを殺したくはないからな。……よろしく頼む」


『ええ、お任せください』


 プルウィアの一撃で意識が朦朧しているネーラから「死者冒涜の妖刀・玉梓(ブラスフィーマー)」を掠め取り、口に神聖薬を流し込んだ。


『こちらはお姉様から回収するように仰せつかっています。……これで問題ないでしょう。後はヴァルナー様にお任せしますわ』


「……ああ」


「だ、駄目だよ……帝国を抜けるなんて……」


『既に勝敗は決しましたわ。武器を奪われ、強化薬も掠め取られた――貴女にもう攻撃手段はないでしょうが、下手に暴れられても面倒ですからね。お姉様から預かっている呪物を使わせて頂きます』


 東洋呪術の一つ「呪言」を込めた符をネーラに貼り、込められた呪いを流し込んだ。

 「言縛齎死」完成の過程で生み出され、卑弥呼の娘である臺與の時代から盛んに研究され始め、卑弥呼と臺與の子孫で邪馬家の創始者でもあった邪馬銅鏡が最も得意とした術とされているこの呪いは言葉によって対象を縛る呪術だ。つまりは言葉の持つ強い暗示によって相手を支配する術である。


 樒が預かった符に込められたのは「永遠の眠り」をもたらす呪いが込められたもの――その解除のためには特定の条件を満たさなければならない。


『ご安心ください、ネーラ様は寝ているだけです……ただ、このままでは永遠に目を覚ましませんが。ネーラ様には帝国を裏切れない暗示が掛けられています。解除したい気持ちはありますが、生憎と私は精神干渉分野に関しては門外漢でどうしようもありません。お姉様が治療を施すまで眠らせて頂きました。……解除方法はありますのでご安心ください。それでは、戻りましょうか? しっかりお姫様(・・・)を抱えてくださいね、王子様(・・・)


 スースーと寝息を立てるネーラを預けられ、樒の所業に怒りを覚えたヴァルナーは両手が塞がれ何もできなくなってしまった。

 《蒼穹の門(ディヴァイン・ゲート)》の光に包まれ、何も言い返せないままヴァルナーは眠り続けるネーラと共に治安維持組織詰所に帰還した。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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