Act.7-33 Somewhere……♪ scene.2 上
<三人称全知視点>
帝国の宮廷――帝城インペリアルの謁見の間。
その帝座の背後の壁に隠されている隠し部屋の奥深く――皇帝のプライベート空間で、皇帝は珍客と相対していた。
『Eternal Fairytale On-line』の『唯一神』アイオーンの使徒とされる八体の神々からなる真聖なる神々――その存在は、エクレシアと名乗った。
女性の神性であるらしく、神でありながらもその全貌を正しく認識することは叶わないほどの膨大な情報量を持つ豪奢なドレスらしきものを身に纏っている。絶世と言えるほどの美貌を持っているのだろうが、皇帝の力ではここまでの情報を引き出すことしかできなかった。
常人ならば見ただけで一瞬で発狂どころか消滅するほどのエネルギーを湛え、発狂させる側の外なる神ですらも一発で正気度が0になってしまうほどの存在だ。そうならないのは、エクレシアの存在が理解不能というフィルターによって慈悲深く隠されているためである。
『アイオーン様から言伝をお願いされました。ローザ一行によってアザトホートのコケラ・ラメッドが撃破された模様。既に帝国に彼女達が侵入している可能性があるようです』
「……奇妙だな。革命軍のリーダーから報告は上がってきていないが」
『皇帝陛下も思い当たることがあると思いますが、百合薗圓は私達と同じ神側の存在です。シナリオを知る彼女が革命軍に情報が流れるような愚行をするとは考えられません』
「……確かにそれもそうだな。警戒を強めておく方が賢明だろう」
『それともう一点。同盟関係にあるシャマシュ様とメランコリー様からそれぞれ助力を得られることになりました。シャマシュ様からは秘儀を、メランコリー様からは援軍に関する情報をお預かりしております。秘儀はこちらの魔法書に書かれておりますのでまずはこちらをお受け取りくださいませ』
「……うむ」
『メランコリー様からは『強欲』を派遣するということでした。是非ご活用ください、とのことです。それでは、失礼致します』
現れた時と同様に、エクレシアの姿が何重にもブレ、綺麗さっぱりと姿を消す。
「……いよいよ、戦いか」
皇帝はハーメルンを召集するべく、プライベート空間を後にした。
◆
「帝国の中に潜む鼠の炙り出し」という目的で【凍将】グランディネ=サディストを中心に帝国の対革命軍の最高戦力となる治安維持組織「ヴァナルガンド」は、ローザ達が帝国に入る数週間前に顔合わせが行われ、結成されていた。
メンバーは、リーダーであるグランディネを除いて全部で九人。
ネーラ=スペッサルティン。
エナメル質の黒いセーラー服を着た、黒髪に真紅の瞳が特徴的な少女。
物心つく前に既に両親と死別していた彼女は殺部隊と関係の深い辺境の孤児院で育でた。その後暗殺部隊の実力選定試験に合格し、その後は帝国の暗殺者として帝都に言われるままに仕事をこなし、暗躍してきた。
任務で多くの仲間を失った結果、仲間に対しては強く歪んだ執着心を持っており、いつまでも一緒にいるために帝器の刀で斬り殺し自分の人形とすることでずっと一緒にいたいと考えている。
帝器は斬り殺した相手を八人まで骸兵として操ることができる「死者冒涜の妖刀・玉梓」。彼女の骸兵の中には殺された暗殺部隊の仲間のものもあった。
ヴァルナー=ファーフナ。
義に厚く、仲間を大切にし、純粋に人々のために戦おうとする帝国では珍しい好青年。
元帝国海軍所属で長らく海軍の本拠地である故郷の港で暮らしてきたが、配置換えにより帝都に来たため、田舎と都会の違いに戸惑いを覚えている。
配属初日から個性的な同僚たちに戸惑い、仲間達の言動ら帝都の雰囲気から帝都の異常さを感じているが、恩人に報いるために軍人としての役目を全うする決意を固めている。
帝器は災禍級危険種のカリュズティスを素材とした「海魔化身」。剣型の鍵を使用して召喚することが可能で、翼による飛行能力と透明化能力、生成した水を渦状に操る能力を持つ。副武装として三叉槍型の「海鬼の槍」が存在する。
サンセール=ジュライ。
帝国警備隊に所属している女性隊員で、笑顔が可愛らしい少女。 ドーガを正義の警備隊長として尊敬している。「警備隊は絶対の正義」と信じており、帝国を混乱の渦中に落とす革命軍や暗殺集団シャドウウォーカーを激しく憎悪している。
異常なほど「正義」に傾倒し、「悪を裁く」ことを無上の悦びとしている。情状酌量などという文字は彼女の辞書にはなく、自身が「悪」であると断定すれば、それが例え脅しによる加担だったとしても容赦なく正義を執行し処刑する。その歪んだ正義は表情にも現れており、正義を執行する際の彼女の表情は可憐な美貌を破壊するほど醜い。
グランティネが治安維持組織「ヴァナルガンド」を組織した際には、帝国警備隊から「ヴァナルガンド」に移籍している……が、その後も帝国警備隊の警備任務に協力しており、完全に関係が切れている訳ではない。
帝器は六道の名がつけられた六つの兵装からなる「六道兵装」。
カルマ=スパルダ。
丈の長いボロボロなコートを着たボサボサの髪の男。中性的な美貌を持ち、身嗜みに気を配れば貴公子然とした姿となる。
物静かな人物で起きている大半の時間を読書に費やしている。元帝国の資料科の職員で書物を愛しているが、それと同じくらい壁を愛しており、常に壁際の席を選んで座っていた。実は無機物至上主義であり、壁や書物を愛するのはその片鱗に過ぎない。
帝器は縦二メートル掛ける横二メートル掛ける奥行き一メートルの岩の壁を出現させる力を持つ指輪「壁」。壁の範囲に巻き込まれたものは有機物・無機物問わず壁と融合してしまう。
アルゴン=レイリー。
常にお腹を空かしている幼い容姿の雀斑だらけの垢抜けない麦藁帽子の赤毛の少年。
天真爛漫な性格で善悪の判断がつかず、自分の芸術のためにはいかなる犠牲も許容されると思っている「芸術家」。
帝器は床や壁に描いたものを実体化させる真っ赤なチョーク「魔法の白墨」。能力の相性のいいカルマとコンビを組んでいる。
セリュー=アンテン。
常に白いドレス姿で、帽子と日傘で顔が隠れている令嬢風の女性。豪奢な黄昏の光が反射した稲穂に例えられる金髪を持つ。
帝器は生物型で物体の影を切り取り、切り取った影を変形させることで逆説的に物質を変化させる力と影の操作能力を持つ狸のような危険種を素体とした、「塔の狸」。
実家は帝国の侯爵家。奴隷を拷問したり、薬漬けにして壊れていく姿を楽しむサディスト一族の長女で、人間が壊れていく姿を見るのが何よりの幸せという性格破綻者だった。「塔の狸」の力で姿を変えられて醜悪な姿になっていく人間に美を感じており、その美を正当な形で楽しむために治安維持組織「ヴァナルガンド」に所属している。
フィーロ=トラモント。
真っ赤な露出度の高い魔女のような衣装を纏った赤毛の女性。抜群のプロポーションであるが羞恥心が皆無で、下着姿で歩くこともしばしばある。大酒飲みな一方で酒に滅法弱く、飲むと全く使い物にならなくなる。
帝器は危険種の体毛で、魔女のような衣装に変化している真紅の糸「斜陽紅絲」。圧倒的な強度と切れ味、耐久性、耐熱性、耐寒性に優れており、糸を使って相手を拘束・切断する他、周囲に張り巡らせることでセンサーとして利用するなど様々な使い方が可能。
貧しい村の出身。貧しさを脱するために、高給な仕事がしたかったという理由で帝国に仕官した。帝国内部に蔓延る男尊女卑の思想には最初こそ嫌悪感を抱いていたが、次第にそういうものだから仕方ないと割り切るようになった。美味しいお酒が飲めて、楽しく生活が送れればそれで十分なため、帝国軍に所属することに執着がある訳ではない。
ブルーベル=ヒュミラティ。
腰辺りまで届く水色の長い髪を伸ばした、青い眼の幼い顔立ちの少女のような容姿の三十代女性。黒いコート以外には何も着ていない。ヘビースモーカーにして酒豪であり、いつも酒瓶と灰皿を持ち歩いている。
帝器は飲むことにより体を液化させることができる特殊なスライム型危険種の血液である「洪水」。適合するかどうかは実際に口にしてみるまで判別不能であり、相性が合わなければ自我のないスライムになってしまうというリスクがある。この生き血を服用する量はグラス一杯程度で十分であるが、彼女はより強力な力を得られるよう全量を一気飲みして力を得た。
帝国を内部から変えるために仕官したが、仕官したばかりの頃に幼女好きの上司に犯されそうになったことがある(その上司は「洪水」で殺害した)。幼い容姿にはコンプレックスを抱えており、煙草を吸い始め、酒を飲み始めた切っ掛けも、大人っぽい生き方をしたかったからだった。
ローウィ=デュマガリエフ。
キャソックを身に纏った男。特定の教会に属さないチャップレンでの司祭で、専ら神父ローウィと呼ばれる。
表向きは心優しく敬虔な神父だが、一方で人体実験を好む狂人であり、元罪人を改造した凶禍兵を数多く引き連れている。帝国軍に所属する以前は鼠の持つ良質な蛋白質に注目し、筋肉成長酵素を含む生物を急速に成長させる水薬を含む多数の薬品からなる帝器「万種薬品」を使った肥大鼠の大量生産を行い、様々な食肉に加工する食肉加工の事業を行い、研究資金を貯めていた。
使用する帝器は「万種薬品」と装備した者の手先の精密動作性を大きく引き上げる手袋型の「創造者の御手」。
ちなみに、このうちローザが勧誘を狙っているメンバーはネーラ=スペッサルティン、ヴァルナー=ファーフナ、フィーロ=トラモント、ブルーベル=ヒュミラティの四人。
このうち、帝国の中で唯一善人の部類に入れられるヴァルナーを除けば、いずれも善人とは言い難い者達ばかりだが、ローザの物差しの中では吐き気を催す邪悪ではない、欲しい人材に区分されるような者達である。……というより、この四人よりもよっぽどラピスラズリ公爵家の方が邪悪と言えるだろう。
さて、ローザ一行と治安維持組織「ヴァナルガンド」のファーストコンタクトを語りたい……ところだが、その前に「ヴァナルガンド」のメンバーが一堂に集まった結成の日を振り返るとしよう。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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