Act.7-22 影の歩行者達との邂逅 scene.3
<一人称視点・ラナンキュラス/ビクトリア・ S・ペンドラゴン>
スティーリアが地下牢のような場所から連れ出した奴隷達は男性七人、女性六人の全部で十三人。
ボクの予想した通り、この地下牢のような場所は連れ去った奴隷を一時的に保管していた場所に過ぎなかった。ここから移送された先で奴隷として調教されて出荷されるという保管所の役割を果たしていた場所だったため、心の傷はまだ浅く、「記憶消去魔法」でも十分治療が可能な状態だった。
プルウィアとリヴァスによれば、奴隷として暗殺対象に買われていた人々をはじめとする身寄りのない被害者を保護し、自立した生活を送れるように促す革命軍の下部組織も存在するらしい。
今回の被害者達には、「記憶消去」をして日常に戻るか、革命軍の保護組織の世話になるか、いっそブライトネスに亡命するか、という三つの選択肢があることを伝えた。結果として、「記憶消去」をして日常に戻る男性五人、女性三人、このうち帝都で再出発したいという人が男性四人、女性一人、ブライトネスに亡命したいというのが男性二人、女性三人という結果になった。
流石に帝国外に地元からの再出発希望者を直接送り届ける時間はないから、「記憶消去魔法」と便宜上呼んでいる「記憶取り出し魔法」を使って地元の記憶を複製させてもらい、その記憶伝いに「空間魔法」で送り届ける、ということになった。
ところで、詳しくは説明していなかったけど、「記憶消去魔法」とは相手の記憶を儀式と呪文を駆使して取り出すというもので、取り出した記憶を飴玉のようなものとして保管することができるというのが本来の形で、正式には「記憶取り出し魔法」と呼ばれている。
この飴玉を複製し、舐めることで記憶の一部を取り込むことができる。自分自身の記憶の飴玉を舐めれば記憶を取り戻したということになり、他者の記憶の飴玉を舐めれば他者の記憶を自分のものにした、ということになるねぇ。専ら、使われるのは他者の記憶を取り込む後者の方法で、拷問に頼ることなく必要な記憶情報を抜き取ることができるとして重宝されていたそうだ。前者の方法は、逆に知られたくない情報を飴玉として保管するっていう使い方かな? 記憶が抜け落ちているなら、いくら拷問しても情報は出ないだろうし。
また、かなりレアケースだけど強者の記憶を抜き取って自分のものとして、戦いの幅を広げるという使い方もある。ただし、法儀賢國フォン・デ・シアコルの魔法使いは身体能力の面では人間とほとんど変わらないから、その記憶を十全に使いこなすことはできないし、高い身体能力を有する魔法少女は固有魔法特化型で魔法使いの扱う魔法は使えない上に、魔法使いは魔法少女を見下している風潮があるから、イマイチ噛み合っていないんたよねぇ。魔法使い出身の魔法少女が引き起こした連続殺人事件で、その魔法少女が「最強の剣士」や「最強の格闘家」の記憶をコピーして取り込み、その力を我が物にしていたっていう実例は確かにあるけど……魔法使い出身の魔法少女ってのはかなり肩身の狭い立場だからねぇ。その総数は変身前が男の魔法少女よりも遥かに少ないんじゃないかな? 変身前が動物の魔法少女よりはまだ居そうな気がするけど。
まあ、「記憶消去魔法」に関する説明はこれくらいにして、何故「空間魔法」で送り届けるという選択をしたのかって話もしないといけないか? 『管理者権限・全移動』を使えば魔力を消費せずに転移は可能なんだけど、問題は一度行った場所にしか行けないという点にあるんだよねぇ。
これは物質的な意味での行ったところということだから、生前に行ったことがあるとか、テレビで見たことがあるとか、その場所に行った記憶があるとか、そういったものでは移動できない。ただ、『管理者権限・全移動』で移動できる場所は、行ったことがある場所の実際に物理的に通った場所のみに限定される訳ではなく、その周辺――周囲数百メートルも記録され、移動が可能になるんだよねぇ。
帝都でやり直したいという男性四人、女性一人を奴隷として連れて来られてからの記憶を消して帝都の表通りに送り出し、故郷に戻ってやり直したいという男性一人、女性二人を記憶を消してから故郷に連れて行き、ブライトネスに亡命したいというのが男性二人、女性三人を記憶を消してからアレッサンドロス教皇に託した。
この男女五人はドーガの取り巻きの女性達と共に修道施療院で生活することになる。……ところで、現在猛スピードで地方の教会の改築を行って修道施療院を作っているらしいんだけど、ボクも手伝いに行った方がいいのかな?
◆
壁に突き刺さった「妖刀・叢雨」は持ち主のプルウィアが回収した。こっちは特に刃が欠けることもなくそのまま使えるだろうけど、問題は「光刃細剣」の刃の方。
「光刃細剣」の刃はヒヒイロカネを使った貴重品で、刃は残り二本しかない。壁から「光刃細剣」の刃を引き抜いたリヴァスは「あははは……」と乾いた笑い声を上げていた。
「親友……もしかして、俺、やっちゃったか?」
「まあ、やっちゃったのは間違い無いだろうねぇ。これから共闘する相手の武器の刃を一本お釈迦にしちゃったんだから。……しかも、帝器ってプロテクトが掛かっているから改造や加工も今の状態じゃできないんだよねぇ。当然、傷の修正もできない……【万物創造】で刃だけ作るのも無理だし」
だけど方法が無い訳じゃない。リヴァスの持つ刀身を対象に「時間遡行魔法-クロック・アップ・ストリーム・リバース-」を掛けて刀身をディランとの戦いで壊れる前の状態に戻した。……やっぱり、時間干渉への耐性は持っていなかったか。
「……はっ? 何が起きたんだ? 確かにヒビが入っていた筈だが、見間違いだったのか?」
「まあ、治ったんならそれでいいんじゃないかな? さて……ここからだけど、暗殺集団シャドウウォーカーのアジトにはボク、アクア、ディランさん、プリムヴェールさん、マグノーリエさん、スティーリアさん、シェルロッタさんの七人で向かう。欅さん、梛さん、櫁さん、椛さん、槭さん、楪さん、櫻さんの七星侍女、スピネルさん、チャールズさん、カルメナさんのチーム極夜の黒狼、お爺様、お婆様、マナーリンメイド長、マイルさん、クイネラさん、アンタレスさん、シュトルメルト料理長の先代公爵家チーム、フレデリカさん、ジャスティーナさんの隣国チームには情報取集をしつつ、リストにある暗殺対象の暗殺が可能なら暗殺してもらいたい」
「一ついいかな? このリストの何人かに書いてある『でき得るなら討伐せずに説得して、鞍替えをさせたい』というメモ書き……これは、暗殺対象ではない、ということでいいのかな?」
「この腐った帝国にも稀に真面な人はいるからねぇ。大将軍クラスなら【雷将】トネール=フードゥル、まあ、この人に関してはかなり大変だろうけど、国を大切に思っている人であることは間違い無いからねぇ……同じ愛国心でも、【熔将】アルバ=パテラの帝国の腐敗を見逃す愛国心とは違うから説得する価値はあると思うよ。それから、元帝国海軍所属のヴァルナー=ファーフナ、他にも何人か欲しい人材はいる。こっちは革命後の帝国のためとかじゃなくて、単純にボクが欲しい人材ということになるけどねぇ……いずれ当主に就任するネストの家族の候補か、ボクの裏の戦力の増強か。どちらにしろ、表の戦力にはなり得ない人材だからねぇ。ただ、殺しちゃうのは勿体無いなぁって。……【凍将】グランディネ=サディスト、カルマ=スパルダやアルゴン=レイリー、サンセール=ジュライ、セリュー=アンテン辺りみたいな吐き気を催す邪悪って訳じゃないし」
まあ、この吐き気を催す邪悪っていうのも結局は個人個人の主観でしかない。結局、悪か、悪じゃないかってのはどう捉えるかによって変わってくるような曖昧なものだし、その線引きも主観に従って行われる確実性がないものでしかない。
暗殺集団シャドウウォーカーだって、味方を変えれば殺人行為を行う悪の集団だし、彼らが行う邪悪という線引きも、線引きされる側にとっては邪悪じゃないかもしれない。当然、ボク達と暗殺集団シャドウウォーカーの最終目的が違うし、討伐しなければならない悪の線引きも変わってくる。
「まあ、最悪死んだことにしてこっち側に引き込んでしまえばいいだけだしねぇ……シャドウウォーカーの皆様には迷惑を掛けるつもりはないから安心していいよ」
シェルロッタが「どっかで聞いたことがある話ですね」と呟いたけど、どっかも何もお前じゃん。……いや、戦力としてこのまま見殺しにするのが惜しかったから、ってだけじゃなくて他にもちゃんと理由があるんだけどねぇ。
◆
持っていない面々には通信端末を手渡し、何か報告することがあったらその都度通信端末で連絡し合うことを約束して、滞在費と白い羽の意匠が施されたナイフを手渡してから、それぞれのグループがそれぞれの任務をこなすために行動を開始するために分かれた。
今後はそれぞれのチームがそれぞれで拠点を決め、帝都で暗躍をすることになる。
最悪の場合は白い羽の意匠が施されたナイフを使ってブライトネス王国のボクが保有する屋敷の一つに転移できるようにはしてあるけど、これはあくまで最終手段――皇帝との戦いが終わるまでは基本的にボク達は帝都から帰国しないつもりでいる。
まあ、フォルトナ王国の時と違って長期戦にはならないだろうからねぇ。暗殺集団シャドウウォーカーと情報を擦り合わせた時点で一気に闇に紛れて制圧ってことになるだろうし。
とにかく、今のボクの手元には異世界化する前の情報しかない。……その先はボクの推測になってしまうからねぇ。その推測もどこまで正しいか分かったものじゃないし。
暗殺集団シャドウウォーカーがどれくらいの情報を持っているか、情報と擦り合わせてどれくらい異世界化の影響があるのか、その情報が掴めればかなり今後の戦いが有利になると思う。……面倒な敵とか、増えていないといいんだけどなぁ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




