Act.7-14 潜入・ルヴェリオス帝国 scene.7
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>
フォルトナ側では危険種が全く出現しなかったのは幸運だった。万が一、強力な危険種が出現して、アクアとディランが武器を抜かざるを得ない状況になってしまったら大変だったからねぇ……折角の素材が無駄になってしまうという意味で。Sランククラスのカルカロドントサウルスや一つ目玉のグライアイフローター、バーサーカーオノドリム、グレートスキュラや、ナトゥーフの魔力を色濃くかて生まれたバラウルみたいな強力な魔物が多発する地域だったからアクア達は十分満足したみたい。
『精霊の加護持つ馬車』は山を進み、山頂へと近づいていく。
「まさか、神嶺オリンポスの山頂にこのような城があるとは――」
膨大な魔力によって変質した樹木生茂る樹海を抜けると、そこには巨大な西洋風の城が姿を現した。
「……廃都ゲルニカの旧ゲルニカ城だねぇ」
フォルトナ王国のかつての隣国でニウェウス王国の首都、廃都ゲルニカ。
国が腐敗し、第一王女が見切りを付けた後にフォルトナ王国に併合されたかつての王国の首都は、その後戦いで功績を挙げた伯爵の持ち物となったが、謎の竜が出現して一夜にして城を持ち逃げされてしまった……という噂があった。まあ、まず間違いなく犯人は――。
「あっ、ローザさんだ! パパ! ローザさんが来たよ!」
『んん? ローザさんだって? 大変だ、おもてなしの準備をしないと』
馬車を見て気づいたのか、将又小窓から顔を出したボクの顔を見て気づいたのか……といっても、塔の上の部屋の小窓からこっちを覗いていて、とてもボクの顔を認識できるとは思えないんだけど。
「ローザ、まさかあれがナトゥーフ殿とオリヴィア殿の家か?」
「そうみたいだねぇ。まあ、まず間違いなくレジーナさんの故郷、ニウェウス王国の旧王都ゲルニカにあった王城だよ。随分昔に一夜にして巨大な竜に持っていかれた、って噂を聞いていたけど……まさか、オリヴィアを育てる家のために城一個を丸々神嶺オリンポスに移動させちゃうとはねぇ」
そういえば、ナトゥーフが『昔は祠に住んでいたんだけど、オリヴィアが人間らしく暮らせる場所が必要だったから新居を調達したんだよね』って言ってたっけ?
オリヴィアはルヴェリオス帝国の神嶺オリンポス付近の村出身なのだそうだ。古代竜を恐れた人間によって築かれた麓の祭壇に放置されていたところを当時ナナシだったナトゥーフが発見し、当初は家族の元に返そうとしていたらしい。しかし、オリヴィアの母親は彼女を産んですぐに死亡しており、父親も全く父親の自覚がなく、オリヴィアを疎ましがって竜の子供だと信じ込ませて捨てた挙句、純粋に嘘を信じてしまったオリヴィアを馬鹿にするような発言をしている姿を目撃したため、オリヴィアを自分の手で育てることを決めたそうだ。
それ以来、ナトゥーフは麓の村にも近寄っていない。それに、いつの間にかルヴェリオス帝国側には魔物とは異なる強大な力を持つ存在が出現するようになり、次第に山を降りることも無くなって行ったらしい。唯一山頂だけはナトゥーフを魔物達や危険種が恐れ、近づかないみたいだから、ここを拠点にしつつ、時々オリヴィアに出会う以前に各地を飛び廻り、その中で特に好んだドラゴネスト・マウンテンを含む様々な場所を移動しながら生活していたみたいだねぇ。……まあ、その結果として特にナトゥーフが好んでいた場所の生態系はナトゥーフの魔力によって少しずつ変化していったみたいだけど。
まぁ実際、山を降りずともこの山頂にはナトゥーフの腹を満たすために必要な量の魔力や、僅かな山菜も、オリヴィアが来てから必要となった食料のほとんども揃っていた。わざわざ村のあるところまで降りる必要もなかったんだろうけどねぇ。
◆
ゲルニカ城の東の塔の使われている部屋の一室で、ボク達はナトゥーフとオリヴィアから歓迎を受けた。
温かい紅茶とお菓子が人数分用意された席でまず行われたのは互いに顔を知らないメンバーの顔合わせ。……意外といるからねぇ、先代ラピスラズリ公爵家の人間以外にもナトゥーフとオリヴィアの二人と面識がない人って。
紅茶は最近では優雅にお茶の時間を楽しむのが趣味になっているスフィーリアも『なかなか美味しい紅茶ですね』と評するほどの美味しい紅茶だった。
『ところで、ローザさんはどうしてわざわざ神嶺オリンポスまで来たの?』
自己紹介を終えたところで話題はボク達の目的へとシフトしていった。
ナトゥーフは一見天然な性格に見えて、実は頭の回転が早く、論理的に話を進めることもできるからただ思いつきで話したいことを思いついたまま話す人よりも随分話がしやすい。……まあ、そんな人、滅多にいないけどねぇ……フォルトナ王国にはそういう性質の人間が割と多いように思えるけど。
「この神嶺オリンポスが二つの国に面しているのは知っているよねぇ?」
「はい! フォルトナ王国とルヴェリオス帝国ですね!」
元気よく答えたのはオリヴィアだった。まあ、ナトゥーフも人間の姿でオリヴィアを立派な人間に育てるために様々なものを調達していたみたいだしねぇ。……同じ七歳の子供の中でもオリヴィアは博識な方なんじゃないかな?
「……ちょっと生々しい話になっちゃうけど、大丈夫かな?」
『オリヴィア、どうしたい?』
「オリヴィアは大丈夫だよ?」
「しっかりしているねぇ……。まず、これからのお話は国家秘密の扱いを受けているものだから広めないようにお願いできるかな?」
『そんなことボクはしないよ!』
「オリヴィアも!」
「うん、じゃあ始めよっか? かなり最近の話なんだけど、フォルトナ王国内部で事件が起きてねぇ。フォルトナ王国も隠蔽したし、先代公爵家も情報を得ていないんじゃないかな?」
ジーノは気を利かせて先代公爵家に情報を提供しなかったんじゃないかな? 反応からして、帝国に敵意剥き出しって感じじゃなかったし。
「フォルトナ王国で起きた事件は……いや、起きる筈だった事件というべきかな? 内容は国王と第一王子、及び第三王子の毒殺と、国王派の騎士団の壊滅。これはあるフォルトナ王国の内部の人間、それも国の中枢の人間が暗殺者を雇い起こした事件だった。アクアとディランが経験した前世で実際に起こってしまった事件で、ボク達はその解決を一つの目標としてきたんだけど……その事件を引き起こした暗殺者はかつてブライトネス王国の正妃に雇われ、側妃の一人を産後の体力低下による衰弱に見せかけて殺害した暗殺者と同一人物だった」
「……なんだと? 側妃暗殺事件……まさか、メリエーナ妃はまさか暗殺されたということか? その犯人が……シャルロッテ王妃だったのか!?」
「ちなみに、シャルロッテ王妃はもうこの世には居ないよ。君達もいずれ掴むだろうから先に話しておくけど、シャルロッテ王妃とラウムサルト公爵家は全滅した。情報は伏せられるだろうけど、証拠品の仮面から犯人は裏の世界の情報屋として知られていた灰色の怪人だと断定されている。彼にはシャルロッテ王妃を殺害するだけの強い動機があったことと、灰色の怪人はカノープスによって葬り去られたことだけ明かしておくよ。ただ、一つだけ言えるのは君達にその犯人探しをする大義名分はない。君達は【ブライトネス王家の裏の剣】でありながら、メリエーナ妃を守れなかった。そんな君達にシャルロッテ王妃を殺した犯人を糾弾し、その家族に対し報復する権利があるだろうか? ボクはないと思うねぇ。それに、この事件の隠蔽は国王陛下の意思でもある。……【ブライトネス王家の裏の剣】も完璧ではない。特に内部に入り込んだ鼠に対してはこれほどまでに意味を為さないからねぇ。……まあ、済んだ話は別にいいよ。問題はこの凶手――【濡羽】グローシィ=ナイトメアブラック。彼女は帝国所属の暗殺者兼医療術師だった。ブライトネス崩しやフォルトナ崩しの中核となった暗殺の仕事はあくまで趣味を兼ねたバイトだったそうだが、その情報は彼女が崇拝する皇帝陛下にも伝えられ、しっかりと連携が取れていた。しかし、ブライトネス王国は大した亀裂を入れられなかったことと、帝国から遠いことから断念され、フォルトナ王国の支配もボク達が未然に防いだことで失敗に終わった。しかし、帝国も領土拡大を諦めた訳ではない。……まあ、帝国の狙いはボクの持つ『管理者権限』であり、帝国の皇帝の正体は世界女神ハーモナイアから『管理者権限』を奪った現人神トレディチ=イシュケリヨト。つまり、今回の遠征はボク達にとってはフォルトナ王国とブライトネス王国にちょっかいを掛けたことに対するお礼参りと、奪われた『管理者権限』の奪還のための戦いであり、帝国にとってはボクから『管理者権限』を奪い、世界神になるための戦いということになるねぇ。ただし、前にも話したけどこれは大義名分になるか微妙な話。他国には帝国に侵攻して領土拡大を狙うブライトネス王国とフォルトナ王国と映る可能性が高い。だから、表向き帝国内部で起こった革命によって皇帝が倒されたという形にしたいって訳」
「なるほど……これでようやく合点がいった。フォルトナ王国に暗殺者を送り込まれて好き放題されそうになったとは聞いていたが、まさかそこまで踏み込まれていたとはな。……しかし、これは到底許せた話ではないな。そうか、ブライトネス王国を混乱に陥れようとした帝国か……」
メネラオス達にはブライトネス王国での事件については話していなかった。だからどんなに友好国でも所詮は他国の話――それよりも重視すべきは将来ブライトネス王国を破滅させるかもしれないボクの方だったんだろうけど、敵がブライトネス王国を破滅に導こうとしていたとなれば話は別だろうねぇ。
……多分、気持ちの入り方が大分変わるんじゃないかな? 勿論、この話を知らなくても手を抜くつもりはなかっただろうけどねぇ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




