Act.6-35 ドゥンケルヴァルトの開拓村と、魔女の森の魔女の女王様と弟子 scene.2 上
<一人称視点・アネモネ>
「……Sランククラスの魔物クァールか。しかし、魔女の森に生息しているもんなのか? 旧ニウェウス王国領でももっと北――エルメラルダ大山脈辺りに生息している凶暴な魔物だった筈だ気がするが」
「まぁ、この魔女の森の生態系の頂点に立つ魔物であることは間違いないだろうねぇ。ただ、ディランさんの知識は正しいよ。さっきルイスさんが言っていた話を思い出せば分かるんじゃないかな?」
「まさかお嬢様、このクァールが魔女様の使い魔の黒猫だと思っている訳ではありませんよね?」
「アクア、大正解。ということでクァールさん、魔女様の――レジーナ様のところに案内してもらえないかな? ねぇ、そこの草叢に隠れている君からもそう伝えてもらえないかな?」
草叢に隠れている人影はボクが存在に気づいていたことに驚いたみたいだけど、見気使えるメンバーは全員君の存在に気づいていたからねぇ。
草叢から現れたのは桜色がかった金髪を腰まで伸ばし、翡翠色の瞳をした超絶美少女。年齢は五歳くらいかなぁ? しかし、可愛いねぇ、思いっきりドストライクゾーンだよ!
アクアもその可愛さに撃沈していたけど、何故かディラン達の反応は薄かった。
「なんでみんなそんなに反応が薄いの?」
「いや……美女って言われても、リーリエやアネモネなんかと比べたら霞んじまうだろ? なんというか、最近親友の美貌が普通に思えてきちまっているからなぁ。……というか、見た目よりも性格だろ? 波長が合う奴と楽しくやっているのが一番だと思うぜ?」
非戦闘員のため大幅に影が薄くなっているモレッティも、エリオール、エイミーン、ミスルトウ、プリムヴェール、マグノーリエも大体似たような理由らしいけど……ボクのアカウントはそりゃ美少女や美女揃いだよ? そうやって設定しているんだからねぇ。
それに、美形揃い過ぎて美の価値観が別の領域になっていそうなエルフからすればそれほど驚くような美貌じゃないのかもしれたいからねぇ……エイミーンとか黙っていれば絶世の美女だし(口を開いた瞬間からどんどん墓穴を掘っていくタイプだけど)。
「初めまして、私はアネモネと申します。フォルトナ王国国王のオルパタータダ陛下からドゥンケルヴァルトを治める領主に任命されましたので、ご挨拶をと思いまして。【森の賢者様】ことレジーナ=R=ニウェウス様にお会いしたいのですが、ご案内頂けないでしょうか? 魔女のお弟子さん?」
「……えっと、領主様ですか? 私のこともご存知なのですね? はぁ……構いませんが、不快な気分になられても文句は言わないでくださいね」
クァールは魔女の弟子と話している間に姿を消していた。クァールは魔女の使い魔――恐らく、主人たるレジーナの元に向かったんだろうねぇ。
魔女の弟子――リィルティーナ=レイフォートンと名乗った――に案内され、森の中を歩いている間、エリオールの表情が曇っていた。歩みも少しずつ遅くなっている。
「……ようやく気づいたみたいだねぇ。魔女の森に拒否反応を示さなかった時点でなんとなく察してはいたんだけど、本当にその後を知らなかったとはねぇ」
「お嬢様、どういうつもりですか。私は……私はもう関わらないと決めたんです。……私は王女様に、レジーナ様に嘘をついていました。あの頃は庭園を担当する宮廷魔法師として仕えていましたが、私がジェーン=ドウであることは隠していました。……最後まで隠して、結局本当のことを告げることができないまま、私はあの方の元を去ってしまった。……合わせる顔がないんです。きっと、もうレジーナ様は私のことを知っています。きっと幻滅したでしょう……もう、あの頃には戻れないんです。だから……」
そこには冷徹な暗殺者も、掴みどころのない庭師の女性も、ラピスラズリ公爵家に仕えるイケメン庭師の姿も無かった。
そこにいるのは過去に縛られ、後悔を隠したまま忘れるために仕事に没頭し続けてきた一人の――ジェーン=ドウという人間がいた。
「ボクは自分がお節介な人間だって自覚している。人の心の中に土足で足を踏み入れて口を出す嫌な奴だってねぇ。ただ、ボクは頑固で、一度決めたことは簡単に曲げられない不器用な人間でねぇ……後悔を抱えていたり、心のどこかに悲しさを隠していたり、そう言った人のことを見て見ぬ振りをすることはできないんだ。お節介だとは思うけどさ……折角ここまで来たんだから、実際に会って、会って話をするべきだと思うよ。思考ってのは捏ね繰り返している間に遠くなってしまうこともあるからねぇ……互いに誤解があるかもしれないし、黙ったままなら、逃げたままなら絶対に伝わらないこともあるんだ。……もう、いい加減に逃げるのはやめなよ。そんな悲しそうな顔、見せられている方が気分が落ち込むよ。美人さんには笑顔が似合う、それは男も女も関係ないからねぇ」
エリオールは言葉を返さなかったけど、その足は少しずつ元のペースに戻っていった。少しは前向きになってくれたみたいだねぇ。
「やっぱり、お嬢様ってイケメンだよなぁ」
「親友ってイケメンだなぁ」
ボクを見てアクアとディランが「イケメンだなぁ」って言っていたけど……今のボクは女の子だからイケメンって褒め言葉になっていないよ?
◆
森の奥深くにある小さな庵――そこが、大魔導師レジーナ=R=ニウェウスの隠れ家のようだ。
庵の外にはさっきのクァールが丸っていて、ボク達を見るなり庵の中に入るように促した。
「面倒な奴を入れたみたいだねッ! しかもぞろぞろぞろぞろとッ! 弟子なら師匠の優雅な引きこもり生活のために門前払いするべきじゃないか。あたしのところに無能な奴はいらないからねぇ! ……まあ、ミーヤも危険じゃないって判断したから仕掛けなかったんだろうし、見知った顔もあるから良かったけど、知らない人を家に入れるなって前世の親に言われなかったのかい! そんな判断もできないなんて、一から常識を叩き込まないといけないのかッ!」
庵に入るなり、庵の主人はリィルティーナの顔を見つけてマシンガントークで説教を始めてしまった。
ラインヴェルドとオルパタータダと同年代の、黒いフード付きのローブを纏い、節くれだった長杖を持った白銀色の髪の魔女風の女性だった。使い込まれた安楽椅子に座り、あーだそーだ説教をしている姿は偏屈な魔女のイメージそのものだけど、老人と呼ぶには歳が若過ぎると思うんだけどねぇ。
「相変わらずうるさい説教だな。ポラリスの説教並みに耳を覆いたくなるぜ。……しかし、あの頃から見た目以外はあんまり変わってねぇな。年相応に歳はとったみてえだけど。時が経つってのは残酷だなぁ」
「あたしゃ、まだまだ若者のつもりだけどね! ディラン、久しぶりにあったっていうのにいきなり老人扱いかい。全く昔からデリカシーがない奴だね! それで、何年もお互い不干渉を貫いてきたっていうのに今更何のようだい? あたしゃ、面倒ごとに巻き込まれるのはごめん被るからね!」
「……そういえば、ディランってレジーナさんと知り合いだったのか?」
「そういや、相棒は会ったことねぇよな。前世はオルパタータダが王位についてから漆黒騎士団が設置されたし、レジーナさんが冒険者やっていたのは二人が王子で、レジーナが国を脱出してからしばらく経った頃だからな……あの頃は俺もちょくちょくうちのクソ陛下に非公式の形で無理矢理冒険に連れて行かれたし、カノープスも尾行していたしなぁ……今思うとカオスだよな。まあ、表向きは三人で冒険していたってことになっていたみたいだけどよぉ」
ラインヴェルドに無理矢理連れて行かれたディランと、ラインヴェルドの身辺警護のために尾行していたカノープスか……想像はできるけど、随分と濃いパーティだよねぇ。
「今日は俺の親友のアネモネがレジーナさんに挨拶をしに来た。俺達はその付き添いとこの後の親友の仕事関係で呼ばれたメンバーと、後は賑やかしだな」
「プリムヴェールさん、私達って賑やかしの扱いなのかな?」
「確かに……否定はできませんね」
「賑やかしって誰なのですよぉ〜?」
「エイミーンさんのことだねぇ」
「「エイミーンさんのことだろ?」」
「……私もエイミーンさんだと思います」
「どう考えてもエイミーンさんです」
「絶対にお母様です」
「間違いなくエイミーン様です」
「なんでこういう時ばかり無駄な連帯感出すのですよぉ〜!!」
……ボク達ってどこぞの協調性の欠片もない臨時班(オニキスと愉快な仲間達)と違ってちゃんと連帯していると思うけどなぁ……えっ、お前に関してはほぼソロプレイじゃないかって? 気のせいじゃない??
「お初にお目にかかります。私はアネモネと申します。ブライトネス王国でビオラ商会という商会の会長をしておりまして、この度、フォルトナ王国のクソ陛下から爵位を押しつけられまして、ドゥンケルヴァルトの領主になりましたので、ご挨拶をと思いまして……表向きはそういう目的で参りました」
「若いのによく分かっているじゃないか。……しかし、随分と勿体ぶった言い方だね! あたしゃ忙しい、時間の無駄は嫌いだから単刀直入に言っておくれよ!」
「まあ、そっちの方が助かるからここからは遠慮なく本来の口調に戻させてもらうよ。まず、表向きはさっきも話した通り、ドゥンケルヴァルトの領主としての挨拶だよ。まあ、挨拶ついでにドゥンケルヴァルトの改革に関して説明をして承諾を得ようと思ってねぇ。ボクが領地を任された以上、しっかりと税をフォルトナ王国に納め、その上で利益を出さないといけないからねぇ。ここをボクのビオラ商会の直接管理する土地にして、様々な実験を進めようと思ってねぇ……でも、改革を始めてから文句を言われてもどうしようもないからねぇ。だから、事前に説明しておこうと思って。ここはかなり開拓村から離れているけど、万が一騒音で迷惑を掛けたら申し訳ないし、何かと勝手が変わって迷惑を掛けるかもしれないからねぇ。そこで、迷惑料の意味も込めて、レジーナさんにもいくらかお支払いさせてもらおうと思ってねぇ。具体的には、フォルトナ王国と同じ額を」
「そっちがあんたの素ってことかい。随分と取り繕ってみたいだね。……しかし、フォルトナ王国に収める額と同じって随分思い切ったことを言うねぇ。あたしは別に構わないけど」
「フォルトナ王国の税は領地の価値――元々の生産性に税を掛けられているからねぇ。一応、フォルトナ王国的には不毛な土地を押し付けたって取られてもおかしくない状況だし、仮に土地の価値が上がったとしてもフォルトナ王国側に文句を言う権利はない。とはいえ、この理論でいくとフォルトナ王国に納める税は土地そのものの価値で大した額にはならない。領地の運営の仕方も特殊な方法を採用するけど、その計算だと納めない税金分のお金が出てくることになる。それに、ドゥンケルヴァルトの面積の半分以上は魔女の森だからねぇ、レジーナさんにも納めるのが筋というものでしょう? だから源泉徴収を半分にして、フォルトナ王国とレジーナさんにそれぞれ納めるっていう方法を思いついてオルパタータダ陛下に提案したら抱腹絶倒しながら採用してくれてねぇ。レジーナさんが問題ないならそれで行こうかなっと思って」
「相変わらず莫迦な奴だねぇ……もし、莫大な利益が得られるとしたらその半分をみすみす手放すことになるじゃないか。あたしゃ、疑うことから始める人間でねえ、まあ、そんな夢物語みたいな話、信用しちゃいないけど貰えるものは貰いたいし、その契約で構わないよ」
リィルティーナが「やっぱり図々しい人だなぁ、師匠は」って思っているけど……これ、レジーナが見気を習得したらボコボコにされるんじゃないかな? ……大丈夫かな? まあ、この弟子は弟子で図太そうだし大丈夫だろう。自分をブタクサと信じて疑わない絶世美少女と同じ匂いがするし。
「さて、建前はこれくらいにして、本題に入りましょう。……ユリア=ウィリディスさんってご存知ですか?」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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