Act.6-34 ドゥンケルヴァルトの開拓村と、魔女の森の魔女の女王様と弟子 scene.1 下
<一人称視点・アネモネ>
魔女の森は希少な薬草と見慣れぬ黒系統の葉が生茂る不気味な森だ。
この奇妙な黒系統の葉が生い茂る樹木はこの魔女の森のみに自生する黒幹というもので、木材としては高い強度を誇る黒檀をも上回る圧倒的な強度、葉には複数の効用がある生薬としての価値がある……まぁ、そんなような設定をした記憶があるけど、実際に鑑定したら設定通りだった訳だから問題ないよねぇ。
ちなみに場所を選ぶ樹木のようで、魔女の森がある地点を境に荒野に変わるのは、黒幹と相性の悪い土壌に変わるからということらしい。確認したけど、ユーニファイドの精霊の数は黒幹の生えている地域と生えていない地域でほとんど変わらないから精霊の量が黒幹の生育の差に影響を与える可能性は低いだろうねぇ。……まあ、緯線経線で定規を引いたような国境線みたくここまできっちり境界が分かれているから例の如く例のように乙女ゲームのボツ設定の影響を受けているっていう説が今回も一番信憑性が高いだろうけど。つまり既存の物理法則に当て嵌めようと方が愚かってことだねぇ。どこぞのドイツ帰りの陸軍軍医が細菌学で脚気を解決できるという幻想を信じ続け、疫学や農学の見地から提案された麦飯や糠といったものを摂ることで脚気を防ぐという方法を悉く否定し続けたっていう話があるけど、一つの法則に固執して型に嵌めようとしたところで誤っていれば嵌らない訳だから、執着せずにあらゆる角度から、時に常識に囚われずに考えてみることも重要だと思うんだよ……特に、こういうご都合主義が含まれた模倣品の世界では。
ルイスによると、【森の賢者様】と呼ばれる魔女の女王様は五歳くらいの弟子の女の子と大きな黒猫と三人で度々開拓村の結界の修復に訪れるらしい。
この開拓村、一見外界との接続が絶たれているように思えるけど、開拓された場所ではしっかりと農耕が行われていて村の収入源になっている。申し訳程度だけど雑貨屋、鋳鐵師、薬屋といった商業施設のようなものもあり、森に引き籠もっているレジーナにとっては外貨獲得と生活用品の購入の場になっているんだと思う……まあ、金なら冒険者時代の貯蓄が腐るほどあるだろうし、ニウェウス王国時代にあった隠し財宝が発見されていないという話も聞いたことがあるからレジーナに持ち逃げされたという可能性もあるんだけど……まあ、こっちは徳川埋蔵金みたく豪遊で溶かされたんじゃないかなぁ?
まあ、外貨どうのこうのは別として魔女の森では手に入らないものを得るための重要な場所になっているのは間違いない。
しかし、大きな黒猫……ねぇ。魔女と魔女の弟子と黒猫って思いっきりあれを連想しちゃうけど。まあ、確かに『スターチス・レコード』の災禍級の魔物の中に黒猫はいたけど……いやぁ、そんな偶然起こるとは思わないじゃん。そもそも魔女の弟子もボクが設定した訳じゃないし。
やっぱり、この世界は既に創作者達の手を離れて一人歩きし始めているなぁ。
「……魔物の気配がするねぇ」
「だなぁ……魔女の森って強力な魔物が出現するって聞いたんだが、こいつらってそんなに強くねぇだろ? 相棒と二人でも余裕で殲滅できそうだぜ? なっ?」
「コイツら相手ならディランの力も必要ないと思うけどなぁ。お嬢様、コイツらってゴブリンの亜種ですよね?」
「なんだぁ、残念なのですよぉ〜。今時、ゴブリンに敗北を喫するなんてあり得ないのですよぉ〜。ちょっと色が違っても弱いのに変わりはないのですよぉ」
「お母様、流石に初めて遭遇する魔物相手に舐め過ぎだと思います。……でも、確かに弱そうですよね」
「長く薄気味悪い髪に燃えるような赤い眼、突き出た歯に鋭い鉤爪を具えた、醜悪なゴブリンの色違いか。……確かに、全く怖れを抱けないな。最近だと相手の前に立てば目の前の敵が猛者かどうか分かるのだが、全く気迫が感じられん」
「プリムヴェール、比較対象が間違っている気がするが。……しっかりと心得ているとは思うが、相手の実力が劣るからといって舐めていたら足を掬われるぞ」
「しかし、見たことがない魔物ですね。魔女の森だけのオリジナルの魔物でしょうか?」
「なんだろう? ここにいる全員の感覚がおかしいせいで誰もボケにツッコミ入れて回収しないからカオスなことになっているねぇ。まず、アクア一人でもディランさん一人でも、なんならここにいるメンバーの誰か一人でもあのレッドキャップの群れは余裕で殲滅できるよ? エイミーンさん、古いゲームだと絵柄の使い回しで色違いが発生することがあるけど、色違いだからって舐めて掛かると大変なことになることは往々にしてあるからねぇ? それから、ゴブリンが弱いって話だけど、ボクの従魔の翠小鬼はたった一匹でウィルフィンの森のフィールドボスの初心者殺しと呼ばれた犬狼牙帝を余裕で殲滅できるレベルだったからねぇ。ボクみたいな特殊な強化方法を使ったものや、可能性が低いけど突然変異によって発生した個体はゴブリンでも十分厄介な存在になり得るから。それから、プリムヴェールさんとマグノーリエさんはエヴァンジェリンさん辺りと無意識に比べていると思うけど、彼女はSSSランク――フルレイドクラスのレイドボス級の魔物だからねぇ? 通常の魔物は強化して初めてその域に到達するから、あれほどの強さは迷宮に潜らない限り滅多にお目に掛かれないよ。最後に、レッドキャップは魔女の森だけのオリジナルの魔物……という認識で多分正しいと思うよ。英蘇威愛四王国連合の民間伝承にある極めて危険な妖精の一種レッドキャップがモデルだけど、ボクも魔女の森にしか出現しない設定にしていたし、ゲーム時代には魔女の森そのものがボツになって未登場ステージと化したからねぇ。まあ、初めてみるけど討伐は簡単にできると思うよ? ただ、ミスルトウさんの言うように相手が格下だと高を括って敗北したら話にならないからねぇ。誰が相手でも舐めて戦うのはあんまり良くないと思うよ?」
「相変わらず真面目だなぁ。全部突っ込むとは思わなかったぜ。……で、どうする? 誰が戦うんだ?」
「なんかみんな乗り気じゃなさそうだし、こいつらの殲滅はボクが受け持つよ。――契約応用式召喚魔法・琉璃。――契約応用式召喚魔法・真月」
召喚の魔法陣が二つ地面に顕現し、中から琉璃と真月が飛び出した。
「琉璃、真月。お願いできるかな?」
『了解です、ご主人様!』
『真月達に任せて!』
魔物の討伐を二体に任せ、ボクは「E.DEVISE」を使って大量の創作の仕事を進める。……えっ、人遣いならぬ琉璃と真月遣いが辛いんじゃないかって? 二人とも最近は暴れさせていなかったからさ。久々に呼んで好きに暴れてもらおうかと思ってねぇ。まあ、その分魔力や霊輝がガクガク減っていっているから一応ボクも何もしていない訳じゃないんだよ?
「お嬢様、いつの間にそんな力を?」
「あれ? 説明していなかったっけ? 割と最近習得した技術なんだけど、まあ、召喚士系が習得する召喚魔法の応用みたいなものだよ」
召喚士系が習得する召喚魔法には大きく二種類が存在する。イベントやレイドの報酬によって契約を行い、魔物が召喚可能になる『従者召喚魔法』と、指定した魔物を召喚する『魔物召喚』と召喚した魔物と契約を結ぶための『召喚契約』という二つの特技によって成り立つ『契約召喚魔法』の二つだねぇ。
『従者召喚魔法』という特技は召喚士系一次元職の召喚士が最初に習得する。この特技を持っていると従者召喚を結ぶことが可能になるんだけど、従者召喚を強化する特技はそれ以降取得することはない。
一方、『契約召喚魔法』は三つ存在し、召喚士系一次元職の召喚士が習得する『無作為性魔物召喚』、召喚士系二次元職の大召喚士が習得する『魔物群指定魔物召喚』、召喚士系四次元職の召喚帝が習得する『指定魔物召喚』のいずれかによって召喚した魔物と召喚士系一次元職の召喚士が習得する『召喚契約』によって契約を結ぶんだけど、契約の際には『召喚契約』のランクや超越者自身のレベルなどが関係し、条件を満たせなければ召喚した魔物と契約を結ぶことはできない。
例えば、ペルちゃんを召喚した時には『指定魔物召喚』で呼び出し、『召喚契約』で契約を結ぶ形で契約した。以降、ペルちゃんはボクの召喚獣として扱われ、召喚士が習得する特技――例えば、召喚士系四次元職の召喚帝が習得する『主従入れ替え』などの特技の対象にもなるようになる。
『契約召喚魔法』と『従者召喚魔法』という別々のプロセスを踏んでも、結局同じ召喚獣という扱いになるからねぇ。
さて、問題はこの『契約応用式召喚魔法』というもの。これは『召喚契約』の特技を解析し、召喚獣以外の存在と契約を結ぶことで一時的に召喚獣と同じ扱いとして効果の対象に置くというシステムの穴をついたというか、拡張したものというか、まあそんなところなんだよねぇ。
これにより、従魔の欅達や琉璃や真月、紅羽を召喚獣と同じ扱いで呼び出し、召喚士系特技の対象として扱うことができるようになったという訳。
例えば、琉璃はボクが勝手に顕在概念と呼んでいるグループに分類されるけど(魔物じゃないし召喚獣でもないし、扱いが難しいんだよねぇ)、『契約応用式召喚契約』を結ぶことによって遠距離から召喚することが可能になるし、例えば召喚士系三次元職の召喚王が習得する精霊系の召喚獣を従えている時に使用できる範囲魔法攻撃特技『エレメンタルバースト』の使用条件を満たすこともできる。まあ、他にも召喚士系攻撃特技はあるんだけど。
「しかし、本当にそんなこと可能なのか? いくらローザが賢いといってもそう簡単なことではないだろう?」
「まあ、プリムヴェールさんがそう思うのも無理はないよねぇ。召喚魔法っていうのは、割とジャンル分けが難しくて、属性に落とし込んで汎用的に使えるってものじゃないからねぇ。シャマシュが使ったものも座標指定、空間と時間に干渉する時空魔法、こういったものを纏めて構築した『召喚魔法』をシャマシュ教国に神託として流し、膨大な魔力を使って召喚させたみたいだけど、これとボクの使う召喚魔法は全くの別系統の能力だからねぇ。仕方がないから召喚魔法のプログラムを全部解析して、時空魔法なんかも組み合わせながらなんとか汎用システムに落とし込むまで一年と三ヶ月ちょい。完成したのは本当につい最近だよ。ボクの場合は直接術式の通りに魔力で魔法陣を描くことで発動しているけど、予め魔法陣を刻んだ触媒を使うことで誰でも召喚魔法を使うことはできる……まだ実験はしていないけど」
「それじゃあ、私がその実験の最初の被験者になってもいいのですよぉ〜! 寧ろやりたいのですよぉ〜! 魔物を使役するってずっと憧れていたのですよぉ」
「まあ、今日は別の目的があるしまた今度ねぇ。……しかし、魔物ねぇ、エイミーンさんの場合は魔物じゃない方がいい気がするけど」
やたら上機嫌になったエイミーンと、嫌な予感を抱いて「面倒ごとを増やさないでくださいよ」とこっちを見てくるミスルトウ、プリムヴェール、マグノーリエの三人……いや、面倒ごとに巻き込まれているのはいつもボクの方じゃないかな? まあ、大丈夫だって。エイミーンが飽きて世話を押し付けるようなことがないように、ちゃんといい方法を考えているからねぇ。
……さて、この辺りの魔物と比べたら遥かに大きな魔力反応も出たし、そろそろ気を引き締めないといけなさそうだねぇ、別の意味で。
草叢の奥から大虎並みの大きさの両肩から長い触手を二本生やした漆黒の魔物――『黒い虐殺者』の異名を持つクァールが警戒心剥き出しの視線を向けていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




