Act.6-24 対帝国前哨戦〜フォルトナ王国擾乱〜 vs『怠惰』の枢機司教 scene.6 中
<一人称視点・リーリエ>
混沌の魔力を持つ者だけに見える不可侵の黒手――《神の見えざる手》。
それが何故四、五十本だと分かるのか……まあ、見えていなければ分からないよねぇ?
前にも話した気がするけど、この世界は電脳世界と物質世界が重ね合わせになっている。
もし、物質世界において不可視だったとしても、情報世界にはログが残る。
『管理者権限』を経由して『異世界ユーニファイドサーバー』にログインした「E.DEVISE」を介してならそのログを見ることができる。
この時点で不可視は不可視では無くなった。《神の見えざる手》敗れたりィ! って、言いたいところなんだけど。
……これ、どこぞのペテ公のものよりもタチが悪いんだよねぇ。
『怠惰』が持つ権能は二つ、《神の見えざる手》と《万象劣化の魔手》……問題は当然後者の方。
森だろうと岩だろうと悉く破壊し、人体を触れただけで容易く抉るほどの威力を持つ程度の魔手が、触れた瞬間に生物・無生物・エネルギー問わず塵と化す権能を得て大変身。触れた瞬間に相手を一髪で消滅可能な魔手二桁以上とのリアル鬼ごっこに……これ相手によく勝てたなぁ、主人公。
その他、粘着質の混沌の魔力によって発動可能な虚反属性魔法があるけど、《万象劣化の魔手》の壊れっぷりを考えたらあってないようなもの。……よって、勝負は《万象劣化の魔手》をいかに攻略するかが鍵となる。
記憶領域から「暗号式」を転写し、左右の手に「暗号式」を顕現して解き放った。
遠くの戦場でミスルトウが僅かに怯えたのを横目で確認しつつ、心の中で「別にミスルトウさんに向ける訳じゃないし、そんなに怯えなくてもいいんじゃないかな?」と呟きながら、円に囲まれた百合をモチーフとした紋章が顕現し、その中から飛び出した「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」のコントロールに思考領域の一部を割いた。見気を使いこなせるミスルトウならきっとボクの声が届いた……筈。
「一斉強制初期化!!」
「……なんだか嫌な予感がするデスね。『管理者権限・GM権限――非破壊物質化」
……勘のいい『怠惰』だねぇ。そのまま怠惰してくれていたら仕留められたかもしれないのに。
六掛け六マスに合体した「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」が初期化のビームを放った。その攻撃を咄嗟にシェルターのように《神の見えざる手》してガードするスロウスと『鈍足の大罪』。
しかし、初期化のビームは《万象劣化の魔手》が付与され、非破壊物質と化した《神の見えざる手》を削っていく。
「――ッ! 『管理者権限・全移動』」
このままだと負けると踏んだスロウスは『鈍足の大罪』に触れて『管理者権限・全移動』で転移して攻撃を回避したみたいだねぇ。
「な、何故デス!? 何故、その攻撃は消滅しないのデス!?」
「あれれ? もしかして、ミーミルから引継ぎできていなかったのかなぁ? ボクの奥の手、初期化は文字通り、この電脳世界であり物質世界である異世界ユーニファイドを消滅させられる能力。非破壊物質も所詮はシステムの一部でしょう? まあ、流石に《万象劣化の魔手》で分解される可能性もあった訳だけど、初期化は全てにおいて最優先されるみたいだねぇ?」
「……嗚呼、怠惰デスね。つまり、ワタクシはアナタの初期化を掻い潜って攻撃を当てれば勝ち、アナタはワタクシの《神の見えざる手》を掻い潜って攻撃を当てれば勝ち、そういう戦いは面倒デス。ダラダラしたまま一方的な蹂躙こそが最高に素晴らしい戦い方なのデス」
……あー、本当に怠惰な人だなぁ、少しは勤勉なあの人を見習った方がいいんじゃない? いや、見習って積極的に攻撃しに来るようになったらそれはそれで面倒だけど。被害甚大になるし、ボクは死に戻れないからねぇ……死亡した瞬間に蘇生はできるけど。
「ボクがそんな単純な戦い方をすると思う? キビキビ戦いなよ? 怠惰にしている暇なんて与えないからねぇ! 虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒! 『管理者権限・GM権限――限定発動』――我が手に宿れ『神殺しの焔・無数の小球』」
侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義とも言える最強の物理系範囲攻撃スキルを発動し、刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を六本同時に顕現して降り注がせるのと同時に、『神殺しの焔』を顕現して小さな無数の炎の球を生み出してその三分の二をスロウスへと放った。
緑霊の森でのミスルトウとの戦いを知っているエルフ達がなんとも言えない顔をしているけど……ボクはただ使えるものを使っているだけだからねぇ? 他意は無いんだよ?
「《神の見えざる手》」
対するスロウスは顕現した五十本の見えざる手のうちの二本ずつを使って「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」を白刃取りして消滅させ、更に残った見えざる手で炎の球を消滅させてきたか。
どうやら、非破壊物質同士で攻撃をし合った場合、非破壊物質の性質は相殺されるみたいだねぇ。そして、《万象劣化の魔手》の劣化効果が有効になると……やっぱり、『神殺しの焔』はスロウス討伐の決め手にはならないねぇ。……まあ、最初からこれを切り札にしようとは思っていないけど。
「……さて、「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」のコントロールと牽制に集中したいし、『神殺しの焔』のコントロールは誰かに委ねたいねぇ。……ということで、ぶっつけ本番、場所も最悪だけど試してみますか。一斉強制初期化! 魂魄の霸気――《精霊視》! 精霊術法・劫火の朱雀!」
「流石に学習を怠る怠惰はしないのデスよ? 『管理者権限・全移動』」
今度は一斉強制初期化の極太ビームを《神の見えざる手》で防がず、『管理者権限・全移動』で躱して来たか。まあ、一方的に削られると分かっているのに真っ向勝負するのは愚かだよねぇ。
『…………なんという力だ。この、精霊の力を引き出すことが難しいこの地で、これだけの力を』
『……炎の鳥、私達エルフであれば忌避する力を……流石だな、ローザは』
だけど、ボクの目論見の方は成功したみたいだねぇ。
目の前にはユーニファイドの火の精霊の力によって生まれた燃える鳥が顕現している。
ボクは小さくした『神殺しの焔』の炎をその鳥の中に混ぜ込み――。
「仮名を与えられし火の精霊よ、ボクは君に真名を与える。君は今日から紅羽だ」
その瞬間、炎の鳥の周囲に銀色の文字が生まれ、収束して首輪の形へと姿を変えた。
ボクの三度目の大いなる業――名付けの発動を目撃した琉璃と真月が紅羽に嫉妬の視線を向け、欅達は『またライバルが……』と顔を引き攣らせている。……ちゃんと全員に均等に愛を注いでいる筈なんだけど、やっぱりそうだよねぇ、その愛を独り占めできたらって思う方が当然だよねぇ。
「……琉璃と真月には悪いとは思うけど、琉璃は原初魔法の精霊の力を、真月はユーニファイドの魔法の力を、紅羽をユーニファイドの精霊の力を象徴する存在だからねぇ。マグノーリエさんが精霊の力を復活させた時からいつかはやろうと決めていたんだよ」
『……つまり、マグノーリエさんのせいで僕達に新たなライバルが……』
『わ、私のせいじゃ…………私のせい、なの?』
『マグノーリエ様、落ち着いてください! ローザが気づいたらライバルを増やしていることはいつものことです!』
『……マグノーリエ、様? プリムヴェールさん、私達って、友達だよね?』
『……マグノーリエさん、落ち着いてください! ローザが気づいたらライバルを増やしていることはいつものことです!』
「わざわざ二回も言わなくて良くない? 久しぶりにプリムヴェールさんとマグノーリエさんの百合を見られたのは最高だけどさ? ボクってそんなにライバルを増やしていないと思うけど……というか、何のライバル?」
『ローザはああやって無自覚を装っているが実際は確信犯だからな。……まあ、ああ見えて有言実行を貫く真面目な性格だからな。誰かを不幸にすることはないだろう』
「それ、プリムヴェールさんに言われると説得力あるな」
プリムヴェールが「何の話だ?」って首を傾げているけど……もしかして自覚ないの? プリムヴェールさんってどう見ても真面目一辺倒石頭女騎士タイプだから……この二年で更に軟化して来てはいるけど。
「紅羽は『神殺しの焔』の力を使ってスロウスと『鈍足の大罪』を牽制してねぇ」
『承知致しましたわ。ローザ様から授かった力で、必ずやローザ様のお力になって見せます!』
これで一気に戦いにくくなったねぇ、スロウス。……さあ、どう動く?
「どうやら怠惰にはアナタを殺すことはできないようデスね。……仕方ありません、出すのは面倒でしかたありませんがワタクシの本気、お見せ致しましょう。――神人習合!」
まあ、そう来るよねぇ……『管理者権限・全移動』を使えない『鈍足の大罪』は今のスロウスにとっては重荷でしかない。
それくらいなら、『鈍足の大罪』の力を取り込んで『怠惰』の全力を出した方が断然いいよねぇ……怠惰の全力って矛盾している気がするけど。
深緑色の髪が深紫色に染まり、ゴマ粒のような黒目の片方が真紅に染まり、オッドアイとなる。
甲羅のような六角形が身体を覆うように現れ、その姿が異形のものへと変わった。
「『さあ、アナタの命を、とっととワタクシに寄越すのデス!』」
『怠惰』の異形が二千五百本もの不可視の魔手をボクの方へと伸ばし始める。
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