Act.6-22 対帝国前哨戦〜フォルトナ王国擾乱〜 魔界教の襲来 scene.5
<三人称全知視点>
天上の薔薇聖女神教団の神聖護光騎士団と兎人姫ネメシア教の兎姫神親衛拳闘士団が競い合うように魔モノの討伐に励み、フォルトナ王国の各騎士団やシャードンが指揮する海洌戦士団、第一王子ヴェモンハルトと婚約者スザンナの推薦によって重役入りを果たした平民出身の風属性魔法使いロンヴェル=シーダが率いる宮廷魔導騎士団といった表の戦力が次々と魔モノを討伐していく一方、裏の世界で生きてきた者達もそれぞれ成果を上げていた。
現在、ブライトネス王国天馬騎士団、ブライトネス王国陸上騎兵団、ブライトネス王国宮廷魔導騎士団、緑霊の森魔法戦士団、緑霊の森精霊術法師団、ユミル自由同盟魔法拳闘士団、兎姫神親衛拳闘士団、エナリオス海洋王国海洌戦士団、時空騎士達、ラインヴェルド達武闘派トップ達が積極的魔モノ討伐、ブライトネス王国第一騎士団、ブライトネス第二騎士団、ブライトネス王国第三騎士団、ブライトネス王国王国宮廷近衛騎士団、ド=ワンド大洞窟王国王立騎士団、ド=ワンド大洞窟王国軍部、ド=ワンド大洞窟王国宮廷魔法師団が防衛重視の魔モノ討伐に当たっているという状況である。
特に、プリムヴェール、マグノーリエ、ヴァケラー、ジャンロー、ティルフィ、ハルト、ターニャ、ディルグレン、ダールムント、ジェシカ、レミュア、ミーフィリア、メアレイズ、アルティナ――多種族同盟に所属する各国の持つ枠によって時空騎士になる前にローザの持つ枠によって時空騎士となった彼ら彼女らの活躍は目覚しく、ラインヴェルド、エイミーン、ヴェルディエ、ディグラン、バダヴァロート、ソットマリーノ、ボルティセ、オルパタータダ――各国君主やフォルトナ王国最強を誇る漆黒騎士団、蒼月騎士団、白氷騎士団の三騎士団と騎馬隊にアクアとディランを含めたグループにも引けを取らない成果を上げている。
では、各国の暗部がどれくらいの成果を上げているかというと、魔モノの討伐数に関しては治療に従事している天上の薔薇治癒師修道会と同数のゼロだった。
何故、彼らほどの実力を持つ者達が魔モノを一匹たりとも仕留められていないか……というと、彼らが戦っている相手が魔モノではなく、魔界教の狂信者達だったからである。
八つの枢機罪――『暴食』、『色欲』、『強欲』、『憤怒』、『怠惰』、『虚飾』、『傲慢』を『スターチス・レコード』の続編の世界では象徴している鯨、女悪魔、九尾狐、獅子、亀、霧、大梟のシルエットと、中央に『憂鬱』を象徴する空の玉座が描かれた特徴的なシンボルマークを背中に背負った顔を隠すズキンとローブを被った者達――魔界教徒。
彼らが放った火球を全く隙のない動きで躱した、夜闇に溶けそうな黒いワンピースを纏った育ちの良さそうな貴族の女性は、貴族として暮らしているのであれば人生で一度も触れないことも珍しくない刃物に水を纏わせ、返り血を浴びることも気にせず次々と魔界教徒を刺殺していく。
彼女の名はレイン=ローゼルハウト――ブライトネス王国の闇と縁遠い子爵家に生まれの生粋の貴族で、行儀見習いで宮仕えした際に第一王子ヴェモンハルトとその婚約者スザンナにヘッドハンティングされなければ命を危険に晒す戦場に身を晒すことも無かった令嬢だ。
王子宮筆頭侍女という本人曰く分不相応の地位に長く留まっている彼女は、他の侍女達から第一王子の寵愛を一身に受ける側室候補……などと言われているようだが、実際は侍女達が想像するような人生は微塵も送っておらず、【ブライトネス王家の裏の杖】と呼ばれるスザンナ達魔法省特務研究室や【血塗れた王子】ヴェモンハルトの裏の仕事の補佐役として色気の欠片もない血生臭い生活を送り、王宮での侍女生活で良縁を結べたらなぁ、という淡い夢は宇宙の彼方に吹っ飛んでしまった。
魔法貴族としては中の上ほどの、一流にはなり得ない風と水と火の魔力で血糊を洗い流して乾かし、レインは辺りを見渡した。
レインの視線の先には、ド=ワンド大洞窟王国の暗部――暗殺侍女達の姿があった。
ド=ワンド大洞窟王国の幹部の一人で暗部の長と侍女長を務めているエリッサが率いる暗殺部隊は諜報任務で培われた気配を消すスキルを駆使して確実に魔界教徒を暗殺していく。
その技術は本職ではないレインのものよりも遥かに高い領域のものだった。所詮は門前の小僧に過ぎないレインがそもそも比較対象に上げるのも烏滸がましいが、亜人種族の中でもエナリオス海洋王国と双璧を成すド=ワンド大洞窟王国の諜報暗殺機関――その練度は高い水準である……あるのだが。
(……比べてしまうのがそもそも間違いかもしれないわね)
殺傷のためだけに生まれた「クリムゾン・プロージョン」と「クリムゾン・エクスパンション」を「共振共鳴」によって手数を増やしてばら撒くヴェモンハルトとスザンナ、圧倒的な氷魔法の才能を持ち、その応用で減速系統の魔法を会得し、物質の性質問わず均一に凍結させる「真なる凍結」を奥の手とするアゴーギク、希有な魂魄魔法の使い手で支配した低級霊を憑依させた縫い包みのクマに戦わせる人形術師リサーナ、骨まで焼き尽くす強力な火魔法の使い手ケプ……アンジェリーヌ、身体強化魔法のプロフェッショナルのヒョードル、珍しい酸魔法を奥の手とする水属性魔法師シュピーゲル、本人曰く「可愛くない」金属魔法の使い手でオリジナルの「高速錬金術式」を切り札とするカトリーヌ――魔法省特務研究室に所属する者達は【ブライトネス王家の裏の杖】の称号に相応しい活躍をしている。その暗殺の手際の良さはレインやド=ワンド大洞窟王国の暗部と比べても頭一つ以上抜きんでいる。
また、魔法省特務研究室に引けを取らない成果を上げている暗殺者のグループもある。
ヴァケラー達時空騎士が【白百合姫の表の剣】と呼ぶべき勢力だとすれば、【白百合姫の裏の剣】と呼ぶに相応しいビオラ商会お抱えの暗殺者集団――表向きは警備員派遣会社『ビオラ・セキュリティ』の中核という顔を持つラル率いる極夜の黒狼だ。
『双極の英雄殺し剣-ブルートガング・アンド・ナーゲルリング-』の二刀に【纏黒稲妻】の黒い稲妻と武装闘気を纏わせて、何一つ躊躇を見せず魔界教徒を確実に一撃で仕留めていくラル、『浪漫武装-機械帝神-』の【機械帝神の権能】で全武装を展開して魔界教徒を蜂の巣にするペストーラ、『万物切断千変万化-ドラゴーンプラティナクロース-』の糸を張り巡らせて魔界教徒の動きを完全に封じて普段のほんわかした性格が嘘のように暗殺者らしい鋭い双眸を眼鏡から覗かせるスピネル、『武装変化-マスターウェポン-』を様々な武器に変化させながら柔軟に戦っているチャールズ、『万物両断-アサルトシザーズ-』で次々と魔界教徒を真っ二つに両断していくポルトス――彼ら彼女らは暗殺者としての長いキャリアを感じさせる危なげない戦いを続けており、ローザが重用する暗殺者達であることも納得することができる。
ちなみに、最後の初期メンバーのカルメナはラルの息子アーロンと共にブライトネス王国に留まっている。もし、この事実をローザが知れば「薄着で飲んだくれのカルメナと、エロに走り過ぎるチャールズはアーロンの成長に悪影響しか与えないから絶対に二人だけにしちゃダメだと思うけどねぇ」とラルにジト目を向けるだろう。極度の女好きになるか、逆にカルメナのようなのが普通と感じるようになってしまうか……いずれにしても世間一般が持つような女性観から外れる可能性は大いにある。
◆
「鉄仙の金鳳花」
金色の髪を結い上げた攻略対象にも匹敵するほどの凛々しい美形の青年の手に緑の輝きが宿った。緑の手を象徴するようなその輝きはクレマチスの花と化し、青年の手から投擲されると空気を切り裂くような音を立てながら回転し、魔界教徒に命中すると共にその胴を真っ二つに切り裂いてしまう。
「相変わらずおっかないですね、エリオールさんの【血塗れた緑の手】は」
その戦いっぷりを横目に見ながら、平鍬で魔界教徒の頭をかち割ったエリオールの経歴をよく知る同僚のカッペの呟きをエリオールは拾い、僅かに不服そうな表情を浮かべた。
「……貴方には言われたくないですね。【千の貌を持つ無貌の凶手】さん?」
「いやですね。今の俺はカッペ=マージェストですよ? 無貌っていうのも昔の話で、今のこの顔は変装のスキルを極めるために剥いだ皮に特殊な加工をしておいたものとはいえ、本物の貌に間違いはありません。素顔を隠していると貴方とは違って、俺はカノープスさんに拾われてから俺本来の暗殺を貫いているんですよ」
カノープスに拾われてからは無貌時代の暗殺ではなく自分らしい暗殺方法を貫いている、そう豪語するカッペに今はエリオールと名乗っている人物は僅かに不快な表情を向ける。
「心外ですね。これが私本来の戦い方です。それに私はラピスラズリ公爵家に雇われているに過ぎない――状況を見て勤め先を変えるのは暗殺者として当然ではありませんか? 貴方達のように一つ国に仕えるという方が暗殺者の中では珍しいのですよ」
性別不明、年齢不明、本名不詳の伝説の暗殺者『ジェーン=ドウ』。ラピスラズリ公爵家に雇われる以前は長い金色の髪を持つゆるふわな女性ユリアとしてニウェウス王国の宮廷魔法師の肩書を持っていた彼は澄んだ瞳をカッペに向けた。
その瞳の奥底に諦めと僅かな悲しみの闇色が浮かんでいることを八百万に通じる優れた暗殺者のカッペは見逃さない。
彼女の生まれた……とされる国はもう地図上には存在しない。彼女が心の底から守りたいと人生で初めて願っていた第一王女は国に巣食う悪意に晒され、ユリアの手によって間一髪のところで国から脱出した。
しかし、その王女は国から脱出した後も仕えようとするユリアから距離をとった。
『ごめんなさい……私はずっと貴女を束縛していた。もう私は王女じゃないわ。……貴女は貴女の生きたいように自由に生きて欲しい。……身勝手よね、でも私はこれ以上大切なユリアに危ない目に遭って欲しくないの』
王女に結局本心を伝えられないまま、ユリアは王女の元を去り、随分時が経った。王女――レジーナ=R=ニウェウスが、ラインヴェルドやオルパタータダと冒険者として活動していることを知ったジェーンは彼女にとって大切な人がどこかで生きていることを喜んだが、僅かに心がチクリと痛んだ。
忘れようと思った。もう他人なんだと割り切ろうとした。しかし、彼は今も大切な王女様との未練を引き摺っている。
「しかし、本当に凄い方ですね。庭師長様は」
無駄口を一切聞かず、淡々と『黒刃天目刀-首斬-』で魔界教徒の首を落としていくパペットに、エリオールが尊敬の眼差しを向けた。
真面目で直向きに仕事と向き合う職人肌の彼はただ淡々と自分のやるべきことを続けている。暗殺者の血塗られた世界でも、彼は職人として直向きに仕事と向き合い続けた。暗殺者としては長いキャリアを持つエリオールも、どこまでの真面目に仕事に向き合い続けてきたこの老人にだけは頭が上がらない。
「俺達も無駄口を叩いていないできっちり仕事をすべきだな」
「そうですね」
上司のように、口ではなく態度で語るように、口を継ぐんだエリオールとカッペはそれぞれのやるべき仕事に改めて向き合った。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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