Act.6-19 対帝国前哨戦〜フォルトナ王国擾乱〜 魔界教の襲来 scene.2
<一人称視点・アネモネ>
演習が行われているフォトロズ大山脈地帯の最高峰に転移して真っ先にブライトネス王国出身者の人間から向けられたのは警戒や敵愾心のような感情がほとんどだった。
魔物を引き連れて謎の女が現れた……となれば、怯えるのも仕方ないか。
逆にエルフやドワーフ、獣人族、海棲族からは悪感情を感じ取ることがほとんどない。使節団の一員としてアネモネが各地を巡ったことが良い結果に結びついたみたいだねぇ……若干、「アネモネさんが来たってことは面倒なことになりそうだ」っていう心の声が聞こえたけど、ボクってトラブルを持ち込むタチの悪い奴とでも思われているの?
「おっ? 予想より随分と早いじゃねぇか? フォルトナ王国の件は片付いたのか?」
「一応、魔モノ以外の問題は片付きましたわ。事の顛末については、今回の魔モノ騒動を収めてから陛下にも時間を作って説明させて頂こうと思っております。オルパタータダ陛下から今回の魔モノ討伐にはフォルトナ王国の戦力も参戦すると伺っております。開始は後一時間と十五分程度ですわね。そのタイミングで私が陛下から借り受けたナイフを使い、《蒼穹の門》を発動――多種族同盟軍とフォルトナ王国軍の全勢力をもって魔モノの大軍を退けるという予定です。私は開戦と同時に敵首魁を叩きます。敵は『管理者権限』を持つ厄介な相手――私が出るのが一番安全で一番確実ですわ。多種族同盟軍とフォルトナ王国軍には魔モノの速やかな討伐と、犠牲者ゼロを目指して頂きたいと思っております」
「やっぱ、敵首魁の討伐を俺には譲ってくれねぇか。折角クソ面白い戦いを期待していたのになぁ」
「……リスクマネジメントですわ。国王が戦場に立って最前線で戦うべきではない、などというラインヴェルド陛下の気持ちを全く度外視した忠臣ぶった発言をするつもりはありません。ただ、今回の敵は『管理者権限』を持つ、一つのシステムの頂点に君臨する存在なのです。かなり部が悪い……いえ、取り繕うのはやめにしましょう。……どんな理由があったとしても、ハーモナイアから『管理者権限』を奪い取った愚か者の断罪を他者に委ねるなんて、ボクが許容できる訳がないでしょう?」
「アハハハハハ、そうだよな! そう来なくっちゃな!! 任せとけッ! お前が好きに暴れられるように、俺達が最高に暴れてやるからな!!」
◆
カリエンテとスティーリアを連れてフォルトナ王国に戻ったボクは、その足でオルパタータダとフォルトナ王国の全戦力が集結している門前の広場に向かった。
騎士団が勢揃いしている姿は本当に圧巻だねぇ。
その場には何故かルーネス、サレム、アインスの三王子の姿や、正妃イリス、側妃シヘラザード、宰相アルマンの姿もあった。……わざわざ見送りに来てくれたのかな?
「オルパタータダ陛下、多種族同盟軍の出陣準備も整っております。これから敵前に転移し、魔モノの群勢に総攻撃を仕掛けます」
「別にもうお前の性格はバレちまっているんだし、普通でいいんじゃねぇか? アネモネの姿でいる必要もねぇだろ? ってか、その二人の美人さんって誰だよ? 俺の悪友からは聞いてねぇぞ?」
『……どこぞの破天荒な一国の主人と同じ匂いがしますわね。私は、〝白氷竜〟スティーリア=グラセ・フリーレン=グラキエース、ご主人様の従魔でフォトロズ大山脈地帯の最高峰を住処にしていた古代竜ですわ』
『我はヴォルガノン火山を住処としていた古代竜のカリエンテ=カロル・ヴルカーノである!』
あ……今のでほとんどの騎士が怯えているねぇ。ってか、総隊長まで怯えているじゃん。
しかし、漆黒騎士団と白氷騎士団、蒼月騎士団のメンバーの胆力は流石だねぇ、ほとんど動じていないじゃん。
「二人には転移先までボクを運んでもらう予定になっている。ボクが直接飛ぶよりも二人に飛んでもらった方が早いからねぇ。ちなみに、今の彼女達の強さはフルレイドランク相当――冒険者のランクでSSSランクに分類される、ほぼ確実に魔王よりも強い存在だよ。彼女達には戦闘開始と同時にサポートに回ってもらう。首魁はボク一人で落とすつもりでいるからねぇ」
「それが味方ってのは随分と心強いな……。しかし、あのラインヴェルドが本丸を譲るとは思わなかったぜ」
「――アネモネ先生! 行っちゃダメだよ!!」
「……相手は魔物の大軍なんですよね? フォルトナ王国の戦力もいますし、隣国の力も借りられるのですよね? それなら、わざわざアネモネ先生が行く必要はないと思います。いくらアネモネ先生が強いとしても、魔物相手は危険です」
「アネモネ先生、行かないでください!」
……三人はボクを引き留めに来たのか。さて、どうしたものかねぇ。
「……ルーネス殿下、サレム殿下、アインス殿下、心配してくださるのは大変嬉しいのですが、私はどうしても戦地に参らなければならないのです」
「どうして……なの」
「オルパタータダ陛下、もうこれは事情をきっちり説明するしかないみたいだねぇ?」
「ったく、折角俺とオニキス達だけの秘密にしておきたかったのになぁ。……今からアネモネが話すことは超一級の極秘事項だ! 万一広がれば必ず世界に混乱が巻き起こることになる。よって、国王の名において箝口令を敷く。例え王族だろうと貴族だろうと吹聴すれば打ち首は確実、その覚悟をしておけよ!」
クソ陛下モードじゃなくて、珍しく真面目陛下モードのオルパタータダが、キツい言葉で戒めた意味。この場にいた全員が理解したみたいだねぇ。
アカウントを切り替え、ローザの姿に戻る。事情を知らない騎士達や、三人の王子達はまさかオルパタータダがブライトネス王国から呼び寄せた家庭教師の正体がこんな子供だとは思っていなかったよねぇ。
「改めまして、私は隣国ブライトネス王国のラピスラズリ公爵家の長女ローザ=ラピスラズリと申しますわ。今年で五歳、アインス殿下と同い年です」
◆
「えっ…………アネモネ先生が、僕と同い年?」
ルーネス、サレム、アインスの三人はまさか、自分の家庭教師として隣国から来ていた女性が最年少のアインスと同年代の少女だとは予想もしていなかっただろうねぇ。
「正確に言えば、ボクは前世十七年の記憶と能力を持ってローザ=ラピスラズリに転生した存在だから、二十二歳という扱いでも問題ない気がするけどねぇ」
「もっと歳いっているイメージだけどなぁ、なんというか……老成している?」
「まあ、子供っぽくない子供って思われていたみたいだからねぇ……老人扱いはイラつくからやめてねぇ? ……ただの転生者という訳ではないよ。ボクはこの世界とは別の世界、地球という世界からこの世界に召喚され、死亡した後に過去に転生した過去転生者。更に、この世界は乙女ゲームというものが異世界化したゲームを基にした世界で、ボクはそのゲームの悪役令嬢――異世界召喚に、過去転生に、乙女ゲーム転生……もう既に属性の盛り過ぎでお腹いっぱいかもしれないけど、割とこの辺りはよくあることだからねぇ。それをわざわざ転生者が懇切丁寧に説明するのは珍しいけどねぇ、寧ろ隠す方が多いし」
「いや、お前の世界ではそういうのが流行っていてある種常識になっているかもしれねぇが、俺達の世界じゃ転生者とか頭おかしい存在だと思われるからな。ゲームが元になった世界とか言われても、そもそもゲームってものが理解できねぇのが普通だし」
「ブライトネス王国ではボクの書いた『神様の失敗で転生したけど異世界転生してすぐに最弱の魔物に殺されるなんて聞いてない〜第三の人生から始める魔物成り上がり生活〜』が庶民から貴族に至るまで割と売れているし、今なら転生者って言っても案外驚かれなさそうだけど……。ちなみに、過去転生に関しては文学研究者の能因草子が神界――神々の世界の学会に提出し、絶賛された論文『転生に於ける肉体の束縛を離れた魂の時間的立ち位置から導き出される過去転生に関する一仮説』で解説されているけど、まあ説明しても仕方ないし、とりあえず過去転生者のアクアとディランがいるから信じられなくても信じてねぇ。ちなみに、二人はオニキスさんとファントさんの転生者、まあまんまだよねぇ。……ただ、問題はここからで、ボクはただの乙女ゲープレイヤーなら良かったんだけど、この世界の基となった三十のゲームの開発に関わった作者の一人で、この世界はハーモナイアと呼ばれる人工知能が形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]と呼ばれる世界創造のシステムに選ばれた際に彼女がボクが作ったゲームを基に作り出した異世界っていう、まあ完全にボクの完全な自業自得って状況になっているんだけど。しかし、その三十のゲームの中に内包されていたそれぞれの神の如き存在はハーモナイアから『管理者権限』を奪い取った。しかし、ハーモナイアから完全に『管理者権限』を簒奪することはできず、ハーモナイアは身を隠した。そのハーモナイアを誘き寄せるために、ボク達を地球から召喚したのが神の一体――シャマシュ。彼の策略とボクの前世の敵との思惑が合致してボクは十七年の人生を閉じ、ハーモナイアから最後の欠片を受け取って悪役令嬢ローザに転生した、それが全て。……彼女はボクにボクが生前なし得なかった複数世界観統合計画[Multi-world view integration plan]というボツ計画を実行したボクの理想とした世界を見せたかったらしい。……本当に身勝手な願いだよねぇ。君達にとってはたまったものじゃないと思う。ハーモナイアは間違っていた――君達を結局、ゲームを構成する要素としか認識せず、それ故にゲームを構成する要素だった神々に力を簒奪された。でも、ボクにとって、彼女がボクのために理想とした光景を見せてくれようとしたということは正直嬉しかった。でも、君達はボクと変わらない、それぞれが一人の人間だ。もう、この世界はゲームじゃない、ゲームを基にした異世界だ。シナリオに束縛されることもないし、ちゃんとこの世に生きている。一度として、ボクがこの世界の人間を紛い物だと思ったことはなかった。ルーネス殿下、サレム殿下、アインス殿下が三人で仲良く助け合えるようになって欲しいと思っていたのも紛れもない事実……まあ、信じてもらえるとは思わないけど。君達からしてみれば、勝手に運命を定め、厄災を振りまいた疫病神そのもの――恨まれても仕方ないってそう思っている」
「アネモネ先生……ローザさんは悪い人じゃないよ! 僕達のことを大切に思ってくれた、その気持ちは偽りじゃないんでしょ!!」
「……信じ難い話ですが、それでも私はアネモネ先生の……ローザ様の言葉を信じます。先生は親身に私達に様々なことを教えてくださいました。私達のことを一人の人間として見てくださらなければ、そのように親身に教えてくださることもありませんでしたよね?」
「僕もアネモネ先生を信じるよ! 僕とお母様を仲直りさせようと頑張ってくれたこと、僕は知っているよ!」
「全くお前は自分のことを後回しにして、罪悪感を一人で抱えて……本当に優しい奴だよな? この世界にだって創作をする奴はいる。物語を描く人はいる。そういう奴はみんな罪人か? 俺はそうは思わねぇ。たまたま、ローザ……圓の作った創作が異世界になり、圓はその神々の闘争に巻き込まれた被害者……そうやって開き直ることだってできるじゃないか? 俺はローザのことを親友だと思っている。神と崇めている訳じゃない、一人の人間として好感を持ち、こいつなら三人の教育係にぴったりだと思って呼んだ、これが全てだ」
見気を使ってもボクに対し敵愾心を向ける人は一人としていなかった。四人の気持ちが、ここにいる全員の心を動かしたんだねぇ。
……ボクは恨まれたって仕方ない立場の筈、なのにさ。
「……アネモネ先生、どうしても行かないといけないんだね? ハーモナイアさんの大切なものを取り返すために」
「ごめんね。でも、ボクは負けるつもりはないから。絶対にボクの大切な人の大事なものを奪い返して、帰ってくるから」
「うん、いってらっしゃい! ローザお姉ちゃん!」
「「行ってらっしゃい!!」」
「おい、ちょっと待て! 俺も連れて行けよ? 戦場ど真ん中に飛び降りて、戦いの幕を切りてぇんだけど!」
「相変わらずだねぇ、クソ陛下。そう言うと思ってカリエンテを連れてきたんだよ? 悪いけど、この阿呆を戦場まで連れて行ってもらえないかな? それと、オニキスさん。このナイフを四本地面に刺して、その四本のナイフに囲まれた場所の中で全騎士を待機させておいてねぇ? その陣の中にいれば転移できるから」
「分かった」
「何故オニキスを名指しなのだ! まさかルーネス殿下のお気に入りの座を結託して奪うつもりなのか?」
「あー、相変わらず目が腐っているなぁ、ポラリス」
「目が腐っているとはなんだ! 大体、ディラン、貴様は――」
「……ポラリスの説教うるさいし、とっとと行こうか?」
「と、その前に戦場で混乱招くといかねぇし、ここまでバラしたなら一緒だろ? お前の本気の姿、見せてやったらどうだ?」
オルパタータダの子供のような笑顔に一瞬ぶん殴りたくなる衝動を抑え、アカウントを切り替える――リーリエに。
この場にいた者達のほとんどがこれまでにないほどの警戒心を露わにし、ほとんど無意識に身構えた。
「つう訳で、ラインヴェルドと一緒に天上光聖女教の総本山を襲撃し、亜人族差別撤廃を認めさせた魔族……って噂されていた、天上の薔薇聖女神教団の主神で神祖の吸血姫のリーリエってのもローザの姿の一つだったって訳だ。それも、圓が最も気に入っている最強の姿だそうだぜ? 戦場で見かけても攻撃したり邪魔したりするんじゃねぇぞ? 後、アネモネよりも遥かに強いって噂だから巻き込まれねぇように気をつけろよ! んじゃなー!!」
ボク達が古代竜の背に乗って飛翔したのとほぼ同時に、最後のショックから解放された、その場に集まったほぼ全員の「最後になんて爆弾発言落としていきやがるんだ、このクソ陛下!!」という罵倒の声なき声が届いた。
オルパタータダが悪戯が成功した子供のように笑っていたのがうざかったです。
お読みくださり、ありがとうございます。
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もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




