Act.6-18 対帝国前哨戦〜フォルトナ王国擾乱〜 魔界教の襲来 scene.1
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「……メイドのアクアさんの正体がオニキス隊長で、ドネーリーさんの正体がファント副隊長だということは分かっていましたが、まさかアネモネさんがブライトネス王国のラピスラズリ公爵家の長女ローザ=ラピスラズリ様で、その前世がこの世界の基となったゲームを作り出した、いわば創造主と呼ぶべき存在だとは流石に予想できませんでした」
「ってか、俺もそっちは初耳なんだけど!? まさか、もう一人の親友ともう一人の俺はその事実を知っていたの!! マジで俺って仲間外れだったの!?」
「ファント副隊長こそ、自分だけアクアさんがオニキス隊長、ドネーリー……いえ、ディラン大臣がファント副隊長の転生者だと知っていて隠していましたよね? ちなみに、私は何となく察していました」
「モネ、まさか察していたのか?」
「シューベルト様が逆に気づかなかったのが驚きです。やはりシューベルト様も鈍感なのですね? イライラしましたか? さあ、思いっきり殴ってください」
「「やっぱり、オニキス隊長だったんだね? きっとそうだと思っていたよ。僕とジョゼフを見分けられるのは隊長だけだからね」」
「……全く気づかなかった。アクアさんがまさかもう一人の俺だったとは」
「オニキスさんは本当にぼんやりでうっかりしていますね」
「「俺はぼんやりでうっかりじゃないからな!!」」
「本当、よくこれでバレなかったな。流石に気づくだろ? オニキスって単語にきっちり反応してんじゃん!?」
「そういうファンマンも気づかなかった勢だよな!? 俺もアクアさんが何となくオニキスさんに似ているとは思っていたけど、まさか本当に本人だったとは……」
「言われてみれば、なんかちょっと隊長に似ているっ……すか? いや、しかし隊長、随分可愛くなったっすね?」
「アクア、眉間にしわを寄せて……便秘か?」
「おい、オニキス! お前の監督責任だ! きっちりウォスカーとファイスの手綱をきっちり握っておけ!!」
「いや、そりゃないだろ!! お前だってもう一人の俺なんだから問題児達と一緒にいる時は面倒を見てやってくれよ!!」
「あっ、そりゃ勿論だよ。俺の仲間でもあるわけだからな」
「あのいい話っぽくなっているっすけど、つまり俺達が問題児って話じゃ?」
「「「はっ? 何言ってんの? ファイスも間違いなく漆黒騎士団の問題児じゃん」」」
「何か今一人多くなかった!? まさか、ローザさんまで俺のこと問題児だと思っていたの!? 俺って一人前の大人の男だよ!!」
「「ファイス……悪いけど、否定できない」」
「副隊長ともう一人の副隊長! ここは否定してくれるところじゃないんすか!?」
「フンヌッ! フンッ! 筋肉は正義だ! 筋肉があればなんでもできる!!」
「……アクア、オニキス隊長、この筋肉ダルマぶっ殺していい? 目の前でこんな見たくもない凶器みたいなキモいもの見せつけられて、最悪な気分なんだけど」
「……アクア、ローザさんって筋肉に親でも殺されたの?」
「うちのお嬢様って可愛い女の子や美しい女の子がいちゃついている姿を眺めるのが好きな所謂百合好きって奴で、可憐さの欠片も無い筋肉には露骨に拒否反応を起こすみたい。前世でも絶対に筋肉をつけなかったみたいだしさ」
「そもそも、筋肉って言っても見せ筋と使える筋肉の二つがあるんだよ? 速筋と遅筋、この組み合わせを計算して無駄がない身体を作るならともかく、ドロォウィンのやっていることはただ無駄に筋肉をつけているだけでしょう? 全くナンセンスだよねぇ」
「嫌い嫌い言いながらローザさんって結構筋肉のこと知っていますよね? 俺、それ何って言うか知ってますよ、ツンデ――」
思いっきり踵落としを落としてファイスの意識を刈り取った。羨ましそうにボクに視線を向けているモネは無視しよう。
「相変わらず騒がしい奴らだ!」
「ヅラ隊長、貴方の声も相当うるさいですよ。後、そのヅラ吹っ飛ばしていいですか?」
「何故揃いも揃って私の髪を狙うのだ!? アクアとディランは……まあ、オニキスとファントの転生者だということで半歩譲って理解しよう。だが、お前は関係ないだろう?」
「関係大有りだよ! ボクの前世で五反田堀尾っていうヅラを被った教師に相当な回数絡まれて睡眠時間を削られたんだよ!!」
「それに、なんの関係がある! 私はポラリス=ナヴィガトリアである! 五反田堀尾など知らん、他人の空似であろう!?」
「それがそうじゃないみたいなんだよねぇ。過去転生してから気づいたんだけど、五反田堀尾って間違いなくポラリス=ナヴィガトリアの転生者だ。これだけ共通点があったのに、何故その可能性に気づなかったのか疑問だよ」
「……ちっ、ポラリスにも転生者がいるのか」
「ってか、他にも俺達の転生者っているのか? さりげなくその話も初耳なんだけど」
「ファントさんに言わなかったのは別に話す必要が無かったからだよ。ボクの知っている限りだと、シャマシュ教国の第二王子ランデス=R=S=エラルサ――彼がウォスカーさんの転生者だよ、ってか、今考えるとホントまんまウォスカーさん。うちのクラスの二大女神二人に唐突に嫁に来てくださいって言って、その了承をボクに取ってくるとか意味不明だよねぇ?」
「いや、親友に了承取ってきたのは正解じゃねぇか? だって、その二大女神の一人って幼馴染の咲苗って娘なんだろ? お前に片想いしているっていう。相変わらず凄え嗅覚しているな」
「そもそも、咲苗さんも巴さんも二大女神――クラスのアイドル的存在で、地味なオタクのボクとそもそも釣り合う訳がないよねぇ? ボクは二人の百合を遠くから眺めていたかっただけだし、ボクには月紫さんっていう大切な人が既にいた。結婚してもいいって本気で思える人がねぇ」
「釣り合いどうのこうのっていうのはクラスの人達の言い分であって、その評価もクラスメイトが三大女神の一角――幻の女神として評価している時点で偏見によって塗り固められていますよね? お嬢様の本音は最後だけ、後はそのまま目が腐っているクラスメイトへの皮肉じゃないんでしょうか?」
イヤイヤ、ボクハクラスメイトヲ目ガ腐ッテイルナンテ思ッテイナイヨ……イナイヨ?
◆
「さて、そろそろ真面目な話をしよう。オルパタータダ陛下の勅令が下り、フォルトナ王国の全戦力をもって発生した魔物の群れに対処することになった。その戦力にはブライトネス王国、緑霊の森、ユミル自由同盟、ド=ワンド大洞窟王国、エナリオス海洋王国が加盟する多種族同盟が保有する同盟軍から増援が加わることも決まっている。敵の大将は『管理者権限』を持つ『魔界教』の枢機司教はスロウスと『鈍足の大罪』。フォルトナ王国の全戦力は王宮の門前に今から二時間後までに集まるように、オニキス隊長からは総隊長殿にそう連絡してもらいたい」
「門前に集合ということは、そこから行軍していくということか? だが、間に合うのか?」
「その門からボクの転移能力で戦場に一気に転移する。多種族同盟軍も同じ転移能力で転移してくることになっている。そのためにボクは今から下準備をしてくるよ。アクアとディランさんは漆黒騎士団と行動してねぇ」
「「了解」」
アクア達と別れ、王宮に割り当てられた部屋に戻るとそのままラピスラズリ公爵邸に『全移動』で転移する。
屋敷にはカトレヤとメイド長のヘレナと執事のヒース、料理長のジェイコブと庭師のヘクトアールの姿があった。
カトレヤ曰く、カノープスとネストは大勢の使用人達と共に朝早くから出て行ったらしい。カトレヤはそれを少し訝しがっていたけど、ヘレナがなんとか説明をでっち上げて納得してもらったらしい。
まあ、このメンバーはカトレヤが屋敷に留まっていることを踏まえた上での最低限の戦力ってことだろうねぇ。一人頼りなさそうな人がいるけど、まあどうにかなるだろうし、そもそもラピスラズリ公爵家に攻撃をしようと考える人がごく少数だから。質素で無欲な公爵家って認識されているしねぇ。
自室に設置されたエレベーターを使って地下秘密基地に降りる。
そこには欅達七星侍女、エヴァンジェリン、カリエンテ、スティーリア、真月、琉璃――ボクの仲間達が待っていた。
この場にはいないけど、ヴァケラー、ジャンロー、ティルフィ、ハルト、ターニャ、ディルグレン、ダールムント、ジェシカ、レミュア――冒険者チームも多種族同盟軍の演習に参加している。
「今回の戦いはこれまでにない総力戦になる。相手の魔物の数も相当なものだけど、一体一体は【アラディール大迷宮】の《混沌の使徒》と同等だからたいしたことはないと思うかもしれないけどねぇ。実際、みんなにとっては歯応えがないかもしれない。ただ、今回は多種族同盟軍の本格的な初陣だからねぇ。フォローできる範囲はして、もしできないならボクに連絡して、多種族同盟軍側の犠牲者ゼロを目指したい。協力してくれるかな?」
『『『『『『『勿論ですわ、お姉様! お姉様のご期待に応えられるよう頑張ります!!』』』』』』』
『承知致しました。このエヴァンジェリン――必ずやローザ様のご期待にお応えします!』
『簡単ではないか! 我が敵にやられそうになる前に敵陣を壊滅させればいいのであろう!!』
『……やれやれ、カリエンテは相変わらずですわね。ご主人様は、多種族同盟軍の成長のために徒らに殺し過ぎるなと仰っているのですわ。……ご主人様、雑魚のことは私達に任せてご主人様は為すべきことをなさってください』
「ありがとうねぇ、スティーリア。そうさせてもらうよ。……さて、具体的な話に移るけど、これからボク達は演習を行っている多種族同盟軍と合流して、ラインヴェルド陛下達と最終調整を行う。その後、カリエンテとスティーリアはボクと一緒にフォルトナ王国に赴いて欲しい。ボクとオルパタータダ陛下の二人で戦場に飛び、そこで《蒼穹の門》を使ってフォルトナ王国軍と多種族同盟軍を転移させて開戦する。僕はそのまま敵首領を討ち取りに行くから、そのつもりでねぇ。それと、今回は従魔合神を使わないつもりだから、みんなにはそれぞれ一人の戦力として頑張ってもらいたいな」
この場にいたカリエンテ以外の全員が不満そうな表情を見せた……まあ、確かに二年の間は寂しい思いをさせちゃったからねぇ。
でも、今回は戦術的に従魔合神をする必要はないんだよ。わさわざこの中の誰かの活躍の機会を奪うくらいなら、みんなにそれぞれ頑張ってもらった方がいいからねぇ。
アネモネの姿に変えてから全員の掌を重ねて『全移動』を発動し、ボクはフォトロズ大山脈地帯の最高峰に転移する。
フォルトナ王国の命運を、そして『管理者権限』をかけた戦いの始まりの時が、少しずつ近づいてきた――。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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