Act.6-12 オニキスの愉快な仲間達、という名の問題児達。 scene.2 下
<一人称視点・アネモネ>
「魂魄の霸気――《昇華》、《弱体化》!」
魂魄の霸気《漆黒騎士》の派生《昇華》によって残る全メンバーを強化し、《弱体化》によってボクの攻撃スピードを低下させたアクア。確かに、この手なら自分がオニキスだってバレないで済むねぇ……もうこの場でアクア=オニキスって知らないのは当の本人だけだけっていうカオスな状況になっているけど。
「「援護するぜ、相棒!!」」
「邪魔させると思った? 降り注げ、神罰の光条、氾濫せよ、魔界の闇芒! 炛燦之神罰、邪陰之闇芒」
ドネーリーの足元から漆黒の闇が噴き上がり、ファントの頭上から神罰の光が無数の光条となって降り注ぐ。
「――ッ! 《影の世界》」
咄嗟に《影の世界》を展開して自分とファントを影の中に避難させたか。神罰の光は直線に進むから範囲外に逃れれば効果はないし、「邪陰之闇芒」は突き上げる縦の直線の攻撃だから、横に回避すればダメージを受けることはない。
そのまま影が地面を這い、二股に分かれてボクの背後をとった。
『――《影の錐塔》!』
ボクの足元と背後に伸びた二つの影が一斉に噴き上がってあっという間に尖った無数の影の塔を作り出す。
素早く上空に飛翔して尖塔による串刺しを回避した――そのタイミングで二つの尖塔が砕け、中からドネーリーとファントが飛び出した。
その二人の背中には《影の翼》が生え、上空へと飛翔するボクをアクアと共に……いや、オニキス、フレデリカ、ジャスティーナを加えた残る全メンバーで追ってくる。
ドネーリーが《影の世界》を使ったタイミングで三人も戦場から姿を消していた。恐らく、《影の世界》内部で合流して全員の背中に《影の翼》を顕現したんだろうねぇ。
六人の中で最初に飛び出したのはフレデリカだった。双剣を翼のように広げ、そこから高速の斬撃を放ってくる。
フレデリカの剣術はボクの圓式基礎剣術によく似ている。急激な緩急を旨とする性質こそ持っていないけど、その太刀捌きはボクの「比翼」と同じ鳥の翼を彷彿とされるもの――その型には相通じるものがある。
二つの白刃が高速でボクの首に迫った。ボクは慌てず光と闇を固めた大太刀で攻撃を往なすと、攻撃を防がれたことで生じた一瞬の隙を突いて無防備になった身体に圓式基礎剣術によって最高速度に達した袈裟斬りを叩き込む。
フレデリカが苦悶の表情を浮かべながらも口元を歪めた。瞬間――フレデリカの背中に隠れながら距離を詰めていたジャスティーナがヨナタンやジョセフによく似た素早い斬撃を放つ――と見せかけて、得物の剣を投擲してきた。
騎士じゃないからこそ、その剣に重みを感じない。常識に囚われず剣を振るえるのはスラム街で剣を持ち、師匠に教えを乞うことも一度もないまま剣の道を極めたオニキスや司書であるこの三つ子くらい……だからこそ、対騎士とは違った面白味がある。
「圓流耀刄-比翼-」
左の剣が空気擦過した白熱の輝きを伴って投げられた剣を両断し、一歩分音もなく距離を詰めるのと同時に天使と悪魔の力を宿した光と闇の剣の残像すら捉えられない無音の神速太刀が空気を擦過した白熱した大気の輝きを伴って隠し持っていた短剣を前に突き出したジャスティーナに殺到する。
あの剣は囮――本命は短剣の方だったみたいだねぇ。
「左右から仕掛けるぞ、ファント!!」
「おう!」
逆手で剣を構えたオニキスと剣を思いっきり振りかぶったファントが同時に攻撃を仕掛けてきた。
しかも――。
「――黒影の抱擁」
地面から伸ばした影の触手でボクを捕らえてきたか。いいフォローだねぇ、流石副団長。
更に背後からはアクアが急降下で勢いをつけて突撃攻撃を仕掛けてきているし……これ、詰んだかも。
……ボクじゃなかったらねぇ。
「《蒼穹の門》」
白い羽の意匠が施されたナイフを二本顕現すると、一本を足元に、もう一本をオニキスとファントの丁度真ん中に向かって投げつける。
ディランの《影》は光属性の魔法でも消滅させられない特別製――実体化した影の触手は切り刻めば破壊できるけど、そんなことやっていたらオニキスとファントにぶった斬られるからねぇ。
影の中にはカランと音を立ててナイフが落下するのと同時に、擦れ違い様にオニキスとファントに斬撃を浴びせた。
更に白い羽の意匠が施されたナイフをもう一本顕現し、ドネーリーの方に向かって投げて「《蒼穹の門》」
で転移――アクアからの突撃攻撃を躱す……って、そのまま旋回して上空に舞い上がったし、これもう一発来るな。
空中戦、滅茶苦茶上手くなっているし……もしかして、アクアと天使の翼って最高の組み合わせだった!?
「あー、相棒と俺を比べてまだ先に倒しやすいって攻めてきたんだよな? まあ、大体合っているけどよぉ。これでも前世は漆黒騎士団の副団長と参謀を務めていたんだぜ、俺。……親友がどれだけ強くたって怖気付いて無様な姿を相棒に見せる訳にはいかねぇんだ! 格好悪くても精一杯足掻かせてもらうぜ!! 《影軀逆転》」
……なるほどねぇ、本来実体の動きに従って動く影という概念そのものに干渉し、影を動かすことで実体を動かすっていう技か。
その力でドネーリーの身体を無理やり操って本来ならあり得ない速度で斬撃を放つ。
身体に掛けられたリミッター関係無しの超高速攻撃だから身体への負荷は尋常じゃない。
その速度は限界を超え――圓式基礎剣術にすら迫っている。
ボクも圓式基礎剣術で応戦し、互いに武装闘気と覇王の霸気を纏わせた剣同士が激しい漆黒の雷を迸らせた。
激しい斬り結びで生じた僅かな隙を突き、袈裟斬りを放つ――ボクの斬撃に影を操作して応戦してきたドネーリーが圓式基礎剣術の斬撃を二度防ぎ、更にそのまま神速の斬撃を放ってくる。
身体にかつてないほどの負荷が掛かり、少しずつ自壊していく。それでも、ドネーリーはアクアですら一度も対応できなかった斬撃に対応できている。このままどれくらい打ち合えるか試してみたい……けど、このままだとアクアに討ち取られることになるし、そろそろ落とさないといけないねぇ。
ドネーリーからの追撃を避けつつ後方に退避――二振りの光と闇の大太刀を消滅させて一振りの光の太刀を顕現した。
「圓式独創秘剣術 ニノ型 雷影-Raiei-」
鞘の中で刀を引っ掛けて力を溜めてから一気に引き抜き、更に性質を雷に変化させた霊力により発生した磁気の反発を利用することで自らの影すら動きについていけないほどの、圓式基礎剣術の斬撃の速度すら超えた神速の斬撃を繰り出す。
影を操作して人外の斬撃を放つドネーリーvs影の追随を許さないほどの神速の斬撃――優ったのはボクの方だった。
「後は任せたぜ……相棒!」
ドネーリーがポリゴンとなって消えたのとほぼ同時に『光を斬り裂く双魔剣』を両刀とも逆手で構えたアクアが上空から急降下して斬り掛かってくる。
「圓流耀刄-比翼-」
ボクも装備を『銀星ツインシルヴァー』に変え、通常の剣術から圓式基礎剣術に切り替えてアクアの斬撃に真っ向から対抗する。
《昇華》の効果で大きく向上したアクアの身体能力と《弱体化》の効果で著しく落ちたボクの身体能力が圓式基礎剣術のアドバンテージを著しく消失させていた。勝負はかつてないほど熾烈を極め、ボクの身体にも無数の切り傷が刻まれていく――。
しかし、確実にボクの剣はアクアの身体に致命傷を刻んでいった。
――都合三十八連撃。僅か一呼吸のうちに勝敗は決した。アクアの身体がポリゴンと化して崩れていく。
「……今回はかなりヒヤヒヤしたねぇ」
普段能力を隠して任務に当たっていて腕が落ちているんじゃないかと踏んでいたのに結果は寧ろ逆だった……アクアもディランも獣王決定戦の頃より遥かに強くなっていたねぇ。
圓式基礎剣術にも対応する術を身につけてきたみたいだし、嬉しい誤算だ。……今のところは超越者の高い能力や前世の貯金で助かっているけど、それが無かったらフォルトナ王国最強の騎士団の団長と副団長に勝てる訳がないからねぇ。ボクも常人に比べたらそれなりの修羅場は潜ってきたし、微温湯な世界で生きてきて召喚された時に分不相応な力を得た召喚勇者なんかと十把一絡げにされるのは心外だけど、それでもアクアほどの壮絶な人生を送ったとは言い難いからねぇ……どっちかっていうと心理戦が多かった気がする。
とにかく、今回の模擬戦の目的――主要メンバーの実力の確認は達せられた。これならどう転んでも第二王子派の戦力に負けることはないだろうねぇ……後は例の毒殺に対処するだけか。
◆
模擬戦終了後、ボクはアクアとドネーリーの二人を連れて速やかに自室に戻った――『管理者権限・全移動』で。
負けてムシャクシャしている魔王に「もう一戦勝負しろ」と木刀を向けられ、モネには「最高に痛い一撃をください」と絡まれ、悪魔の少年司書の双子には眼鏡を重点的に狙われ、ファイスにスカートを捲られそうになった瞬間に思いっきりヒールで踏みつけたり、ファンマンにその斜め上の想像力で歪曲に歪曲を重ねて寧ろ一種の物語と化している恋人(ファンマンの自己申告)の幼馴染の女性ナリーサへの想いを熱く語られたり、ポラリスからは「貴様が強いのは確かに認めよう。だが、ルーネス殿下のお気に入りの座は決して譲らん! そのことを肝に銘じておけ」と一方的に宣言され……正直カオスだった。
ということで、特に二人から報告がないようなので、一応【フォルトナのクソ陛下】に今回の一件の報告をしつつ、模擬戦の映像を見せて抱腹絶倒されながら「次に今回みたいな騒ぎがあったら絶対に俺のことを呼べよ? 一人だけ除け者とかクソ詰まんねぇと思わない? 俺達親友だろ?」と物凄いプレッシャーを掛けられて今回の件はとりあえず終わりになった……というか、オルパタータダとボクの関係って親友だったの?
王宮には「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を巡回させて情報を集めている。ボクに暗殺者を差し向けた犯人が側妃シヘラザードと宰相アルマンである証拠も掴んだ。二人の密会の映像もバッチリ入手してある……まだこのことをオルパタータダに報告はしていないけど。敵が決定的な一手を打つまでボクは動かないつもりだからねぇ、暗殺に使われた毒の正体も今回の件できっちり解明しておきたいし。
事態はシヘラザード・アルマンが属するサレム一派にとっては予想外の方向に進んでいる。サレムと他の王子達との関係も改善されてきているからねぇ。
このままだとサレムが王位争いから離脱すると宣言するかもしれない……そうなれば、自分が王太后となって国を支配する夢も泡沫の如く消える。
シヘラザードは焦っている。これ以上状況を悪化させないために何か手を打ってくる筈だ。
さて、どんな手を打ってくる? この状況でオルパタータダを暗殺しても王位はルーネスのものになる。なら、オルパタータダとルーネスを暗殺するか? ……とりあえず、この段階で漆黒騎士団を始めとする戦力を削ごうという判断にはいかない筈。
それに、ここまでの暗殺で例の毒物を扱ったものは無かった。……となると、その暗殺者を招いたとして実際に誰かでその毒の効力を確認しようとする筈。
さて、最初に誰に試す? ここまで状況を悪化させて掻き回した人物で、オルパタータダからの覚えもめでたい、フォルトナ王国の出身ではなく出は隣国ブライトネス王国の一商人、きっと彼女にとってはオルパタータダに取り入って側妃となる野心を持っているように見える存在で、自身と敵対関係にある正妃イリスからもある程度信頼を得ている、まるで自分を蹴落としに来たような存在に見える目の上のタンコブな女。
隣国ブライトネス王国との外交に亀裂が生じる可能性があっても国内の貴族関係にヒビを入れることには繋がらない、うまく手を回して殺したことを握り潰してしまえばさしたる問題にもならない、最初に実験台にするなら持って来いな人物。
さて、だぁ〜れだ?
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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