Act.6-11 オニキスの愉快な仲間達、という名の問題児達。 scene.2 中
<一人称視点・アネモネ>
「モネ、仕掛けるぞ! あの女の首を吹き飛ばさなければ気が治らん」
「承知致しました。アネモネさん、最高に痛い一撃を期待しています」
「あら、誰がお二人の相手をすると言いましたか? 舞い踊る飛剣」
ツヴァイハンダーの《雪》、大太刀の《月》、レイピア の 《風》、フランベルジェの《花》が浮かび上がり、一振りずつボクの手に触れて武装闘気を纏い、二振りずつがシューベルトとモネに殺到する。
瞬殺斬と謳われるシューベルトの重く速い斬撃でも二刀から繰り出される攻撃を往なすのが精一杯なようで、武装闘気に守られた幻想級の二刀に一切の傷を与えられないまま真逆にシューベルトの剣が刃毀れし始めている。
耐久力に定評のあるモネも確実に削られているようだった……そんな状況でも寧ろ恍惚な表情でダメージを受けている姿を見ると苛立ちを覚える。やっぱり、こういう奴は瞬殺に限るよねぇ。
「ふん、シューベルトもモネも軟弱だな! ハハハ!! 見よッ! これが筋肉の力だァ!!」
「キモ過ぎるッ!! ジャガーノート・ソード」
思わず生理的嫌悪感に襲われ、呼び寄せたタルワールの《朧》に触れて自身の現在のHPと現在のMPの半分を犠牲にする代わりに、相手の防御力やHP残量に関わらずクリティカルダメージを与える武器攻撃系四次元職の共通奥義を発動し、巨大な矛を持って突撃してくるドロォウィンに放ってしまった。
……うん、理性的じゃない判断だった。いや、仕方ないでしょ! 筋肉の脈動とか、隆起とか、見ていると生理的嫌悪感に襲われるんだから。ボクってやっぱり物質的な筋肉も嫌いだよね、会話の通じない脳筋もだけど。
あ〜っ、本当に最悪だった。動き出す前に潰しておくべきだったね、ドロォウィンは。
「癒しの風律、大地の治癒、慈悲の雨癒、火鳥の快癒、ダークヒール・フェイク!」
オリジナル風属性回復魔法、土属性回復魔法、水属性回復魔法、火属性回復魔法、そしてローザがレベル50で習得する闇属性回復魔法のフェイク版を駆使し、失われたボクのHPの半分を回復させる。
『スターチス・レコード』時代、回復魔法は光属性の専売特許だった。闇属性にはそれに対抗するために回復魔法が設定されていたけど、他の属性には回復魔法は存在しなかったんだよねぇ。まあ、そのおかげで治癒と浄化ができる聖女が魔王討伐の切り札になり得たんだけど。
このオリジナルの回復魔法でその聖女の立場をどれだけ揺るがせられるかは分からない。まあ、そんなことをしなくても今は光属性よりも時空属性の魔法の方が重要という風潮になってきているけど。
勿論、光魔法が優れていないという訳ではない。陰陽二つの属性の一極に当たる光属性には『スターチス・レコード』時代には無かった大きな可能性が存在している。光と闇の対消滅エネルギー発生仮説ねぇ。……これについてはいつか結論を見つけないといけないねぇ。
「どんどん削っていこうか?」
タルワールの《朧》、ソードブレイカーの《空》、ファルシオンの《天》、ズルフィカールの《光》の四剣にそれぞれ武装闘気を宿し、ファンマンとレオネイドに放った。
「マジか、着々と削ってきてんな、アネモネの嬢ちゃん。――次の標的は俺と親友みてぇだ。こうなったらやられる前に叩くしかねぇな!」
「ったく、仕方ねぇか。おっかな過ぎるけど、別にここじゃ死ぬ訳じゃないし、どうせ負けるならその前に一泡吹かせたいからな!」
剣を力任せに振り回すファンマンと、華麗な槍捌きで《天》と《光》を牽制するレオネイド。
「マナフィールドッ! 刺し貫かれなさいッ!? ――ダブル・ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー!!」
しかし、四人は誰一人として武装闘気を纏った剣にダメージを与えることは敵わなかった。
剣の追尾を振り切ってボクに突撃することもできず、かと言って四人の斬撃や薙ぎ払いを越えて攻撃をすることはできない。耐久力はボクの方が勝るから時間制限付きのシーソーゲームになっていたし、このまま斬り結びを続ければ撃破は十分に可能だったんだけど、少しせっかちな性格のボクはこの膠着状態を一刻も早く崩そうと思ってねぇ。
大気中の魔力を支配して刀身に月属性の魔力を宿す付与術式を発動し、円を描いて中心を突いた。
巨大化した刀身が左右からシューベルト、モネ、ファンマン、レオネイドの身体を刺し貫き、身体のほとんどを消滅させた。HPゲージが軽々と吹き飛び、四人は戦場から姿を消す。
「残り六人か……こりゃ、かなりの劣勢に立たされたな」
オニキス、ファント、フレデリカ、ジャスティーナ、アクア、ドネーリー……随分数が減ったねぇ。
一人ずつ二本の剣で相手をする、ってこともできるけど流石にそれじゃあ味気ないし。
「【天使之王】――天使化! 守護天使! ――慈愛の献身! 天軍降臨――七武の天使! 天使の加護! 【劇毒之王】――劇毒八岐蛇!」
【天使之王】の効果で天使化し、更に自分の防御力を著しく上昇させる派生スキル、最初にHPを半分支払うことで光の領域内の仲間に対するダメージを全て肩代わりすると同時に毎ターンHPを小回復する派生スキル、片手剣、盾と槍、弓、両手斧、戦鎚、鞭、杖を持った七体の天使が光から生み出す派生スキル、自身に聖属性を付与する派生スキルを発動し、『光を斬り裂く双魔剣』の刀身から無機物すら汚染し侵食する真紅の劇毒の九頭竜を放つアクア。
「魂魄の霸気――《影の甲冑》! ――《影撃部隊》! ――《影の槍衾》」
更にディランが魂魄の霸気を発動して自分とオニキス、ファント、フレデリカ、ジャスティーナ、アクアに《影の甲冑》を纏わせ、《影撃部隊》でアクアが作り出した天使を二倍に増やし、《影の槍衾》で無数の影の槍を生み出して攻撃を仕掛ける……やっぱり、当初の予定通り物量で攻めてきたか。唯一の誤算は先走ったメンバーが次々と倒されてたったの六人になってしまったってことだろうけど……いや、あのメンバーで仕掛けないで様子見ってことは考えられないし、相手からの攻撃もある。何人か落とされるのは計算づくだったかもねぇ……流石にこの数は予想外だろうけど。
「これはちょっとだけ本気を出さないと負けそうですね。ルナティック・ラスト・エリクシール! 天魔纏身!」
大いなる月の加護により発動している間のあらゆる状態異常を回復、無効化し、傷を癒す月属性の回復魔法を発動し、アクアの放った劇毒を無効化し、『銀星ツインシルヴァー』と『背繋飛剣』を統合アイテムストレージに戻し、その身に天使と悪魔の姿を宿す。
淡い光と漆黒の闇が渦を成すようにボクの身体を駆け巡った。
「アクアさんが天使になったのもびっくりしたけど、アネモネさんも天使と悪魔の力を使えるんだな? ……ってか、ファント。なんでそんなに笑っているんだ!?」
「アハハハ、マジ受けるんだけど!? 親友が天使とか、超ウケるッ!!」
「……全くこれで隠し切れていると思っているなんて驚きですよね。寧ろ、誰も可能性を疑っていないことに驚きです。まんま団長と副団長なのに」
「……フレデリカさん、ダメですよ。アネモネさんも国王陛下も何か事情があって隠しているんですから」
アクアとドネーリーの正体がオニキスとディランだってフレデリカとジャスティーナは気づいていたみたいだねぇ。まあ、モネとか悪魔の少年司書の双子辺りは大凡察しがついていると思うけど……他のメンバーは割と鈍感だからなぁ、オニキスとか。
「射抜けッ! ――浄滅之光彊」
光の弓がボクの手に収束した天使の力から生まれ、右手には光が固められた矢が顕現する。
光の矢が放たれた瞬間、光の矢は無数の小さな矢へと姿を変え、まるで一本一本の矢が生き物のように物理法則を逸脱しながらディランが生み出した影の槍全てに命中し、悉く破壊した。
「射砕けッ! ――喰滅之闇彊」
天使の力を収束して生み出した弓を解除して、今度は悪魔の力を収束した弓を顕現し、闇の矢を悪魔の力を固めて生み出した矢を番えて七武の天使と影の七武の天使に向かって解き放った。
闇の矢は意思でも宿っているかのように天使を追尾し、溶かし、飲み込み、跡形もなく消し去る。
「……お嬢様、もしかしなくても矢一つ一つを完璧に操作していますよね?」
「あっ、バレてしまいましたか? この浄滅之光彊や喰滅之闇彊という技は放った後に矢の軌道を意思によって操作することができます。矢を分解して無数の矢として放つこともできますが、ホワリエルさんとヴィーネットさん曰く、これほどの数の矢を完璧に制御して的に命中させるのは、それこそ上位に位置する熾天使や悪魔王であっても不可能だとか……マルチタスクができなければ不可能な芸当ですわね」
流石にオニキス、ファント、フレデリカ、ジャスティーナの四人は絶句しているみたいだねぇ。ボクがマルチタスクをある程度使えることを知っているアクアとドネーリー……ディランは然程驚いていないみたいだけど。
実はこの矢の操作ってのは複数アカウントを同時に動かすよりは比較的簡単にできるんだよねぇ。ゲーム時代の『背繋飛剣』一本一本の剣を操作するよりも遥かに簡単だし、目視した剣をそのまま操作できるようになった今では実は『背繋飛剣』の剣も「浄滅之光彊」や「喰滅之闇彊」並に操作できるんだよねぇ……システム的に剣の本数増やせないから試せないけど。
「さて、今度はこちらから仕掛けさせて頂きます! 炛燦之大劔-一刀-! 邪陰之大剣-蛇太刀-!」
右手に光を固めて作られた大太刀を、左手に闇を固めて作られた蛇のような黒い渦のようなものを纏った大太刀を構え、右の天使の片翼と左の悪魔の片翼をはためかせ、無音の踏み込みから一気にアクアに肉薄する――。
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