Act.6-9 オニキスの愉快な仲間達、という名の問題児達。 scene.1 下
<一人称視点・アネモネ>
ヨナタンとジョゼフ――悪魔の少年司書と呼ばれる二人はポラリスのすぐ後ろを気配を消しながら進んでいた。
それに気づいたジャスティーナが小さく溜息を吐いた。
「貴様ら! 優秀な我が師団にまた雑魚だけを器用に回しおって!! ルーネス殿下のお気に入りの座を奪おうという魂胆なのだろう!!」
「……ギャンギャンギャンギャンうるさいですね、ヅラ。そんなに声を張り上げなくても聞こえますわ。うちは総隊長から降りてきた任務を仲の良いメンバーでこなしているだけですし、タチの悪い破壊者に狙われるのも報告を怠っているファンマン先輩と、タチの悪い破壊者をおちょくって楽しんでいるファント副団長と乗っかってウザい性格がまんま滲み出ている雑な報告書を書いているファイズ、殴られたいからと仕事を放り出している変態眼鏡が全面的に悪いからです。まあ、そいつらに付き合って無駄に王宮をぶっ壊しているタチの悪い破壊者も同列だとは思いますが……ですよね? オニキス隊長?」
ジト目のフレデリカの毒舌に反応し、ファンマン、ポラリス、ファント、ファイズ、モネ、シューベルトが青筋を浮かべ、一斉にオニキスの方を向いた。
諸々全部の責任をなすり付けてきたフレデリカに困り顔を向けながら、「まあ、おおよそ間違っていない気もしますが、俺はそんなこと思っていませんよ」とフォローになっているかなっていないのか微妙な返答をした。
「すみません、私は全く関係ありませんので部屋に戻りたいのですが、退いて頂けないでしょうか?」
「あっ……お嬢様、一人だけ逃げるって狡くないですか?」
「そうだぜ、親友! こうなったら一連托生だぜ!」
「何を言っているのだ? 貴様もオニキスの仲間だろう? それに、ルーネス殿下と最近親しいようではないか! 最初からルーネス殿下のお気に入りの座を横取りしようと企んでいたのだな!! ――よろしい! ルーネス殿下のお気に入りの座を賭けて貴様らに木刀戦を申し込む!!」
「いや全然よろしくねぇよ!! 全く、シューベルト騎士団長が魔王モードで破壊の限りを尽くしていますし、目の前のヅラは全く退きそうにないし……仕方ありませんわ。これ以上、王宮で騒ぎを立てる訳にも参りませんから、特別地下訓練場に参りましょうか?」
「いや、アネモネのお嬢ちゃん。参りましょうったって、この状況でどうやって行くんだ? 繋がりが上手くない三流小説みたいにご都合主義で場面を変えるなんて無理だろ?」
ファンマンが真顔でそう言ってくるのを真っ向無視して、ボクは右の群青の指輪を輝かせると同時に魂魄の霸気を発動――。
「《支配者の門域》!」
顕現した二本の白い羽の意匠が施されたナイフがシューベルトとヨナタンとジョゼフの丁度後ろの床に突き刺さった瞬間、放射状に伸びた光が円形の領域を作り出し、二つの領域が光で繋がった瞬間――ボク達は二本のナイフを残して王宮の廊下から姿を消した。
◆
「な、何事だ!?」
相変わらず五月蠅いポラリス以外のメンバーも大なり小なり驚いているようだ……ってか、驚いていないのはアクアとドネーリーの二人か。
まあ、二人はボクがラインヴェルドの魂魄の霸気をコピーしていることを知っているからねぇ。
「驚くのも無理ありませんわ。これは、私の奥の手の一つの効果です。この特別地下訓練場に最初に足を踏み入れた際に土魔法を使って仕込みをしておきました。その仕込みを利用して特別地下訓練場に転移しました――勿論、簡単に理解していただけるとは思いませんが、これは紛れもない事実ですわ」
「まあ、アネモネのお嬢ちゃんなら何をやっても驚ろかねぇが……なんでわざわざここに転移したんだ? あの廊下で暴れても別段問題は無かっただろ?」
「いや、ファンマン、前々から思っていたけど王宮を打ち壊しながら暴れるってアウトだからな!?」
このメンバーで唯一真面なレオネイドが正論を叫ぶが、このメンバーにそれが通じるとは思えない……無駄な労力だよ? だから苦労性なんだよ……胃に穴が開くだけじゃなくて、いつか禿げるよ? えっ、禿げるより胃に穴が開く方が重症だって?
「正直、ぶっ壊れた王宮を毎回時間魔法で修復するのも面倒ですし、ここでなら暴れても迷惑が掛かることもないですからね。まあ、これだけ人数も集まっているのですから、チーム戦でいいんじゃないでしょうか? 私も早く部屋に帰って商会の方の仕事をしたいですし」
「あ……相変わらず仕事中毒だな、親友」
「ってか、お嬢ちゃんさらっと時間魔法って言っているけど……副団長、時間魔法ってかなりレアな魔法っすよね?」
「神話級の魔法だと思うけどな……俺も正直使い手を見たことは一度もねぇよ。ここ数十年は確実に使い手が現れていないんじゃねぇか? まあ、アネモネさんならあり得るんじゃねぇか?」
……なんかそれほど驚かれていないみたいだねぇ。シューベルトもなんとなく察していたみたいだし、他のメンバーも使い手がアネモネなら納得……ってどういうこと!? ボクってどんなキャラだって思われているの!? ちゃんとお淑やかな女商会長を演じている筈なんだけど!?
「お嬢様ってなんというか、肝心なところで詰めが甘いところがありますよね? ぼんやりでうっかりなところがあるような」
「それ、アクアとオニキスさんにだけは言われたくない台詞ですわね!」
「なんで俺の方に飛び火するんだよ!? 俺はぼんやりでうっかりじゃないぞ!?」
「「相棒、本当に無自覚なんだな?」」
……ってか、お前もそんなに人のこととやかく言えないからな、ドネーリー。アクアがまんまオニキスなのと同じようにディランもまんまファントだから。
「チームはオニキス様、ファント様、ウォスカー様、ファイス様、ドロォウィン様、フレデリカ様、ジャスティーナ様、ファンマン様、レオネイド様、ヨナタン様、ジョセフ様、アクア、ドネーリーさんから成る混成チーム、シューベルト様、モネ様、ポラリス様とその部下から成る白氷騎士団・蒼月騎士団から成る混成チーム、そして私一人という構成が妥当だと思いますわ。内容は殲滅戦――要するに自軍以外のチームを全滅させればそれで終了です。……ジャスティーナ様やフレデリカ様のようにこのバトルロイヤルに何のメリットを感じていない方もいらっしゃるようですので、今回の優勝チームには私のポケットマネーから大金貨十三枚を進呈させて頂きますわ」
「だ、大金貨十三枚ですか!? 流石にそれほどの大金をお支払い頂くのは――」
「ジャスティーナさん、お嬢様は全く支払う気がありませんわよ? 私達の戦闘データを根こそぎ手に入れつつ、自分が優勝して大金貨十三枚を支払わずに済ませるつもりですわ。勿論、大金貨十三枚を即金で支払えるほどの財力をお嬢様は持っていますが、それを簡単に渡すような性格ではありません」
「まあ、要するに親友に勝たなければ優勝賞金は出ねえってことだ。ヅラ吹き飛ばしたい衝動を抑えて、全員で仕掛けにいかねぇと親友は落とせねぇぜ?」
「馬鹿者! 何故貴様は毎度毎度私のヅラばかり狙うのだ!! 一体私のヅラに何の怨みがあるのだ!?」
「怨み……というか、なんか違和感ありまくり、ってか、露骨に似合わないんだよな。思わず吹き飛ばしたくなる気持ちに駆られるというか……だよな、相棒」
「……相棒? ってカテゴリーなのか? ドネーリーさんの妹さんなんだろ、そのメイドさんって?」
レオネイド、大丈夫、お前の感覚が正しい。まんまオニキスとファントなのに全く気づいている様子がないこいつらの方がおかしいから。
ファントが一人で「マジウケるんだけど!?」と腹を抱えて一人で笑っている……殴りたい、この笑顔。
「そもそも、何故俺がポラリスと組まなければならんのだ?」
「あら? 私は最高のメンバーだと思いますわよ? シューベルト様はオニキス様と戦いたい、オニキス様達はポラリス様のヅラを吹き飛ばしたい、ヨナタン様とジョセフ様はポラリス様の眼鏡をかち割りたい、そして、皆様は臨時報酬がもらえるのなら手に入れたい、私は優勝賞金を出さなくてもいいなら出したくない――つまり、全員の希望を叶える最高のチーム編成ですわ。皆様が潰し合ってくれれば、私は楽に勝利して早く部屋に帰って仕事ができます――さあ、存分に潰し合ってくださいね」
全員の視線がボクに注がれたのを確信し、ボクは誰にも気づかれないように口元を歪めた。
掛けていた「E.DEVISE」で新しいタブを開き、出現した青いタッチパネルに脳波で直接パスワードを入力して使用可能な状態にして、そこから「E.DEVISE」と『管理者権限』を強引に接続――『異世界ユーニファイドサーバー』にログインし、「B.ドメイン」を研究する中で完成したボク達だけのドメイン――「L.ドメイン」への通路を開いた。
「素晴らしい試合を期待していますわ。フォルトナ王国が誇る最強の皆様方」
悪役令嬢の笑みを浮かべボクが通路の奥へと入っていくと、「L.ドメイン」が膨張して特別地下訓練場を丸々飲み込んだ。
◆
<三人称全知視点>
かくして、前門のシューベルト、後門のポラリスの危機的状況は、全員を特別地下訓練場に転移させてチーム戦を行うというアネモネの策略により回避された。
そして、遂にフォルトナ王国最高戦力とアネモネの戦いの幕が切って落とされる。
……えっ、結果はもう分かっているって? まあまあ旦那、そう言わずに読んでいってくださいよ。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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