Act.6-6 毒の名は――。 scene.1 下
<一人称視点・アネモネ>
『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』――第三作はコマンドカードと装備を組み合わせた強化システムを採用している。
その装備の頂点に君臨するのが、初代皇帝が作ったとされる帝国のための兵器――帝器。
剣、拳銃、刀剣、鎌、レイピア、メイク道具――主人公達の最強装備もまた、この帝器ってことになるんだけど。
この帝器の一つに夢の毒が存在する。毒に侵された者に小さな黒い月のような痣が現れるこの毒は、夢を見ている間という局所的な時間に、人間の自己治癒能力を反転――身体を蝕んでいくという効果がある。
本来、睡眠を取ることで疲労回復が行われる。その回復がないまま更に疲労が蓄積し、毒によって身体も蝕まれ、最終的に絶命する――毒も検出されない。ただ、小さな黒い月のような痣が残るのみ――知識が無ければこの痣が毒に関係するものとは思えないから、完璧な毒になるという訳。
「つまり、帝国の毒が使われたってことか? ……それって側妃が自分の子供を王様にしようとして暗殺したってよりヤバくねぇか?」
「ディランさんの言う通り、これはかなりマズい状況だねぇ。国の中枢で行われた暗殺に帝国の人間が関わっているってことは、帝国が他国の中枢に干渉できる力を持っているって訳だし。そうなると、国の中枢に帝国の凶手を招き入れる存在がいるってことになる。……ボクは今回の件が仮に帝国の凶手によって行われたものだったとしても、帝国上層部は無関係だと思っている。もし、メリエーナ様の暗殺に帝国上層部が関わっていたのなら、もっと確実な国崩しを行ってくるだろうからねぇ。それがないってことは、恐らく凶手がプライベートで依頼を受けたってことだろうけど、それが帝国の人間である以上、ブライトネス王国やフォルトナ王国が隙を見せれば一気に国崩しを仕掛けてくる筈。特に王位継承をめぐる争いで国が疲弊し、最強の漆黒騎士団が壊滅したなんてことになれば、残ったサレム率いる新フォルトナ王国を支配するのは容易い。ブライトネス王国の時とは被害のレベルが桁違いなんだ、最悪のシナリオが存在することは一応頭の片隅に留めておいた方がいいだろうねぇ」
ブライトネス王国の側妃メリエーナの暗殺に加担した人物や、フォルトナ王国の国王並びに第一王子暗殺に加担した人物がもし仮に居たとして、最悪の手札を切っていなければいいけど……。
まあ、そうなったらそうなったで絶好のチャンスに変えることもできる。もとより、『管理者権限』の回収のために帝国との敵対は必須――今回の件を未然に阻止し、帝国の凶手を捕まえることができれば事件の真相は明らかになるし、帝国への派兵の大義名分も生まれる。
「とりあえず、ボクの方ではサレム殿下を孤独にしないように家庭教師として動きつつ、最も警戒すべき側妃シヘラザードについてもマークしておく。君達四人は向いていないだろうからねぇ」
「……酷くねぇか? これでも漆黒騎士団の参謀なんだぜ?」
「お嬢様、心外ですわ。私だって…………やっぱり、そんなまどろっこしいことはできそうにありませんわ。そういうのはこのメンバーではお嬢様が適任ですわね」
「ってか、俺達はどうすりゃいいんだ? 流石に王宮にいて何もしないって訳にはいかねぇだろ?」
「アクアとディランさんにはとりあえず漆黒騎士団と行動を共にしてもらった方がいいんじゃないか? あの白氷騎士団の騎士団長様はアクアにご執心だったみたいだしさ」
「……おい、マジか親友」
「それを言うならお嬢様だって一緒くたにロックオンされていたじゃないですか!?」
「まあ、それは……仕方ないねぇ。ぶっちゃけ、あの程度の相手ならボク一人でも十分に相手できるから大丈夫だよ?」
「……本当にもう一人の相棒っとこのお嬢様はおかしいよな? シューベルトってこの国の上位に入る強さだぞ? それを大したことがないって言い切っているし」
確かに、ブライトネス王国とフォルトナ王国の騎士団長の強さを比較すればフォルトナ王国に軍配が上がる。ブライトネス王国はどちらかと言えば、魔法国家だからねぇ。
確かに破壊力だけみれば、前世を含めてこれまで打ち合ってきた者達の中でも上位に入るけど、戦いは剣術だけじゃないからねぇ……総合評価では「圓流耀刄」に劣るシューベルトの剣なら、まず負ける心配はない。
「それから謁見の前にオルパタータダ陛下にお願いしておきたいことがある。容疑者として側妃シヘラザードが浮上しているとはいえ、他にもサレム派の共犯者がいる可能性がある。できるだけ物的証拠を押さえておきたいからねぇ。そこで、「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を城内に巡回させてもらって監視を徹底させてもらってもいいかな? 勿論、実際に確たる証拠を得てからしか動くつもりはないけど、こちらから事前に何も手を打たずに後手後手に回るのも避けたいからねぇ。「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」は『管理者権限』を経由して実体化させないことで、こちらからの干渉が一切不可能になる代わりに、向こう側からも認識できず、一方的に映像データを入手できるようになる。暗殺の犯人を追い詰める際の切り札の一つになり得るんじゃないかな?」
大倭秋津洲帝国連邦において、電脳空間とは街頭カメラや人工衛星などから得た地図情報を基にバージョンが更新されていく。その斑が更新されている新しい空間と古い空間の差が生じていく。
一方で、異世界ユーニファイドは絶えず物理的な異世界と電脳的な情報世界が重なり合った状態で存在している。情報世界ありきで物質世界が構成されているという世界だから、世界の情報はリアルタイムで同時に更新される。まあ、異世界ユーニファイドそのものが、『異世界ユーニファイドサーバー』という一つの空間ってことだねぇ。
つまり、この世界で「E.DEVISE」を使えない場所は存在しない……まあ、これは獣王決定戦の時点でなんとなく想像はついていると思うけど。
「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」をばら撒いておけば、いつでも「E.DEVISE」で映像を確認できるし、壁や扉の先も関係なしに、しかも勘付かれる心配もなく調査することができる。アクアやディランに調査させるよりもよっぽど建設的だよねぇ?
唯一の懸案事項はオリジナルの『管理者権限』を持つ者が「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」を認識できる可能性だけど、流石にフォルトナ王国に『管理者権限』を持つ存在がいるとは思えないし、この作戦を行使しても問題ないんじゃないかな?
「別にお前に一任してんだ、俺達から要望することは一つしかねぇよ。――必ず悲劇の運命を変えてくれ!」
こういう時はちゃんと国王の顔をするよねぇ、ラインヴェルドもオルパタータダも……。
「――勿論、そのためにボクが来たんだからねぇ。ボクに賭けた人達に後悔はさせない――それがボクの信念だからねぇ!!」
◆
オルパタータダとの正式な謁見に関しては特に面白味もなかったので割愛させてもらう。決まり切ったことを形式的にやっただけだからねぇ。
ただ、宰相を務めるアルマン=フロンサック公爵がボク達に不快感を募らせていたのは要チェックな気がするねぇ。
うちの宰相と違って野心バリバリな感じだし、オルパタータダが引っ張ってきたと明らかなボクに対して表情こそ取り繕っていたけどボクを初めて見た時に浮かんだ憎悪のマイクロジェスチャーは彼の中に不快感が渦巻いていることをありありと感じさせた……まあ、0.2秒の僅かな表情や身振りに頼らなくても、見気使えば一発なんだけどさ。
このアルマンに関しては候補に上げておいてもいいかもしれないねぇ……後出しだけど、フロンサック公爵家には後ろ暗い噂もあるみたいだし。
謁見が終わった後、アクアとドネーリーはファントに任せて漆黒騎士団の区画に連れて行ってもらうことにした。
ちなみに、ボク達三人には三人部屋を割り当ててもらえることになったので、普段は三人でそこに寝泊まり……と見せ掛けてブライトネス王国への帰国を検討している。情報自体はブライトネス王国でも拾えるし、可能な限りはラピスラズリ公爵家にも顔を出したいからねぇ……。
そういえば、一緒についてきた馭者役さんは上手く仕事をやれたかな? 死体になってないといいけど。
一方、ボクの方はというと、謁見を終えた足でオルパタータダ本人に王宮の一室に案内された。
そこに待ち受けていたのは、三人の王子達……はぁ、入国早々お仕事開始のようです。
◆
<三人称全知視点>
「なるほどね。わざわざ届けてくれて本当にありがとう」
「こんな命狙われて死に掛けた状態で言われても全然嬉しくねぇよ」
ラピスラズリ公爵家現当主カノープスからの近況報告その他諸々が書かれた書状を受け取った作業着姿の庭師の少年に、ヘクトアールは悪態をついた。
部屋の至る所には彼が愛用するコンツェシュがいくつも刺さっている。
先代の庭師で串刺しを得意とする十代の少年に見える年齢詐欺の人格破綻者――アンタレス=スコルピヨンが潜伏しているという小さな民家に入った瞬間からヘクトアールは命の危機に見舞われた。次々とコンツェシュをどこからともなく取り出して串刺しを狙ってくるアンタレス相手に内心冷や汗をかきながら苦手な回避の連続――その後、なんとか話を始めても信用されるまで何度も串刺しの危機に瀕した。ようやく書状を受け取り読み始めてからはなんとか殺されずに済んでいるが、今もヘクトアールは一切気を抜かずにアンタレスと正対している。
「裏の方でも情報収集はしていたし、定期的にカノープス様からも情報は来ていたけど、随分と面白いことになっているみたいだね? なるほど、娘のローザ様の指示に従って欲しいということか。……しかし、彼女は裏の事情を理解しながらも、いざとなれば国に弓引くような人なんでしょう?」
「ローザお嬢様が国に弓引くってなら、ラピスラズリ公爵家はお嬢様の首を取りにいくつもりではいるけどよ。あのお嬢様が自分から喧嘩ふっかけることはねぇだろうぜ? そうなるのは、ブライトネス王国がお嬢様の大切なものを先に踏み躙った時だけ……ラピスラズリ公爵家が国王一族を大切にするように、お嬢様にもまた大切な人達がいる。だけど、優先順位があるってだけででき得るならば守れるもの全てを守りたいと願い、それを実行できちゃうとんでもない人間だからな。万が一お嬢様の命を奪おうとすれば表じゃなくて裏も甚大な被害を受けるし、ブライトネス王国が歴史を閉じる可能性も十分にある。陛下もそれは理解していて、彼女に見限られないように動いている……まあ、陛下自身もあのお嬢様のことを大層気に入っているようだけどな。陛下至上主義を強要して不安要素を排斥しようとなればブライトネス王国は滅ぶ。そして、それはお嬢様自身も望んでいないことだ。それに、旦那様もお嬢様のことを気に入っていて、公爵は養子に入ったネスト様に継がせようと計画している。まあ、その後生まれた子に適性があれば、その子が継ぐ可能性もあるにはあるんだろうけどな。ローザ=ラピスラズリ……いや、百合薗圓とは決して敵対しないようにいこうというのがラピスラズリ公爵家とブライトネス王国の方針だ」
「まあ、確かに彼女を殺すリスクの方が大きいし、ノータッチでいくべきだと思うけど……この辺りは旦那様とも共有しておかないとね。しかし、陛下にも現公爵にも気に入られているローザ=ラピスラズリか、一度会ってみたいねぇ。ボク達の生みの親っていうその子や、彼女の使用人達に」
「それは同意見だな。実は俺のモデルになった奴がお嬢様の使用人にいるみたいだぜ? 一度会ってみたいとは思うが、一番会いたいのはお嬢様だろうな? たまに、王子様が来るのを待っているようなお姫様みたいな顔をするんだぜ? まあ、そんなことをおくびにも出さねぇけどな。平和な日常を過ごしたいと言いながら、決して平坦な人生は送らない人だし、新しい人生を送りたいと口では言いながら、やっぱり前世の家族が大切っていう捻くれたお方だ、本心を見せてくれることはなかなかねぇが、ロマンチックなところもあるんだぜ? ……まあ、俺達以上に闇が深そうだけどな。ああ、そうそう、そのお嬢様から先代公爵様に届けて欲しいって書状を預かっていたんだ」
「ありがとうね……旦那様にお渡しする前に確認させてもらうよ」
書状を読み進めていくアンタレスだったが、途中で笑顔のまま固まった。
彼自身、無意識に呟いた「はっ?」という声は本気でローザの意図を読みあぐねていることを意味しているのだろう。
「ヘクトアール、だったっけ? 君ってローザ嬢から何か聞いているのかな?」
「いや、フォルトナ王国で起きる事件の解決のためにお嬢様がメイドのアクアと大臣のディラン様を連れて入国したってことくらいしか……ちょっと俺にも見せてもらっていいですか?」
アンタレスから書状を受け取ったヘクトアールもまた、書状に書かれていた問題の文を見て固まった。
そこに書かれていたのは――。
『先代ラピスラズリ公爵家には、万が一の場合に備えてルヴェリオス帝国の皇帝暗殺のための準備を整えてもらいたい。理由については容疑が固まっていないため、ここには明記しない。また、くれぐれも先走った行動はしないようにと強く要請する』
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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