Act.5-98 三人使節団の再始動と海上都市エナリオスの危機 scene.2 下
<一人称視点・アネモネ>
長い長い、空気のあるエリアと海中エリアが交錯する迷宮の果て――五本の石の柱と扉から真っ直ぐ伸びる場所に若干の石の足場のある巨大な球状のエリアを半球丸々水で埋め尽くした水のフィールドにボク達は辿り着いた。
間違いなく、『深淵の洞窟の大海の主』のイベントボス――リヴァイアサンの領域だねぇ。しかし、ボクがデザインしたそのままだとは……。
扉が閉まると同時に海中から勢いよくリヴァイアサンが飛び上がり、そのまま水の中へと消えていった。
このままリヴァイアサンの誘いに乗って海中戦を挑むか、この広いエリアから鰻……じゃなかった、黒い魚影を探して狙い撃ちするか。まあ、簡単なのは誘いに乗ることだねぇ……その分攻撃も受けやすくなるけど。
「行くぞ、ディラン!」
アクアとディランがまずは飛び込んでいき、その後を追うように欅達も海水の中に飛び込んでいった。ここまで海の中で戦いを続けてきたから飛び込みに一切の躊躇がない。
最後にボクとバダヴァロートが飛び込む……と、ボク達目掛けて猛烈な衝撃が襲い掛かった。
「――ッたく、とんだ挨拶だぜ」
「そういえば、リヴァイアサンって開幕で無慈悲なる大海嘯を使ってノックバック効果のある津波を発生させるんだっけ?」
「お嬢様、それ最初に教えてもらいたかったです」
リヴァイアサンが尻尾を高速で振り回して生み出した超圧縮した水の刃を武装闘気を纏わせた光を斬り裂く双魔剣で砕きながらアクアが悪態をつく。
「……アクアもディランも相手のギミックと作戦を聞いた上で頭使って戦うってタイプじゃないでしょう? 戦いながら慣れていく方が性に合っているんじゃないの?」
「おいおい、親友。俺って頭脳派だぜ? そんな脳筋な戦いをするのは相棒だけだぞ!?」
「…………おい、ディラン。俺のことなんだと思っているんだ?」
ボクからしたら二人とも脳筋タイプだと思うけどねぇ……程度に差があるとはいえ。
「……次、連射する氷弾が来る。氷の礫を弾幕厚めに高速で放ってくるからリヴァイアサンの前方から退避して」
リヴァイアサンの周囲に小さな氷の粒が生み出され始めた。このメンバーだとバダヴァロート以外は一撃で落とされないだろうけど、タネが割れれば簡単に回避できる技はできる限り回避していきたいからねぇ……最初に放ってから一定間隔で飛んでくる無慈悲なる大海嘯に関してはどうにもならない。強いて言うならダメージがリヴァイアサンに近ければ近いほど上昇する計算式だから極論壁から動かなければダメージが最小限で抑えられて、ノックバック効果も意味がなくなる。
「天使の加護! 魂魄の霸気――《騎士団》!」
「魂魄の霸気――《影の甲冑》! 《影の翼》」
アクアは【天使之王】と相性のいいアクアの《騎士団》で自分とディランにオニキスとファントの幻影を纏わせ、ディランはその上に《影の甲冑》を纏って強化、《影の翼》で飛行能力を得る――この辺りが二人の戦法の定石になってきているねぇ。
「【超加速】ッ!」
「――《影の世界》!」
そのまま海底を蹴って加速――【超加速】と翼の推進力を掛け合わせてリヴァイアサンに迫るアクアと、《影の世界》を展開してリヴァイアサンの足元から攻撃を仕掛けるディラン。
『――ッ! 速ッ!!』
《影の世界》のディランを上回る速度で高速移動を始めたリヴァイアサンが蜷局を巻きながら渦を成し、巨大な水の竜巻を発生させた。
リヴァイアサンはその竜巻をアクア目掛けて放つ。
「海中神速移動と水流竜巻を組み合わせてきたか。アクア、そのまま突っ込んでいいよ?」
「了解ッ!」
アクアが【超加速】の速度そのままに竜巻に向かって突っ込んでいくのと同時に《八咫鏡・鏡像顕現》で逆回転の竜巻を顕現――竜巻同士を相殺して突撃するアクアのための道を開く。
『『『『『『『私達を忘れてもらっては困りますわ!』』』』』』』
「我もいるのだぞ! 海王の三叉突」
前方から攻めたアクア、そしてリヴァイアサンが陽動のアクア、ディランの二人に気を取られている隙に八方に陣取った欅達とバダヴァロートが攻撃を仕掛ける……という作戦だったみたいだけど。
「な、なんだ!?」
突然欅達とバダヴァロートの足元から噴き出た泡が突然爆発し、バダヴァロートには深刻なダメージを、欅達には微ダメージを与えた。欅達にとっては深刻でもなんでもないダメージだけど、今ので同時攻撃のタイミングが完全にズラされたのは痛い。
「――大地の治癒! 巨石の壁」
土属性の指輪を統合アイテムストレージから取り出して、土属性のオリジナル回復魔法でバダヴァロートを癒しつつ、バダヴァロートを守るように岩の壁を生成する。
それとほぼ同じタイミングでリヴァイアサンが円を描くように高速で泳ぎ、二度目の無慈悲なる大海嘯を発動した。
アクアと欅達はさっきと同じように壁まで押し戻された。……けど、バダヴァロートは岩の壁で阻まれて無慈悲なる大海嘯の効果を受けなかったみたいだねぇ。
まあ、確かに無慈悲なる大海嘯のノックバック攻撃は一定レベル以上の設置型障壁で無効化することはできる設定だったけど……なるほどねぇ。今のボクの魔力なら壁の設置で無慈悲なる大海嘯を防げるのか……。
……これ、もう勝ったも同然じゃない?
「多重の環状石籬」
再び「巨石の壁」を発動する……ただし、今度はリヴァイアサンを中心に「巨石の壁」を円形状に、しかもそれぞれの石が互い違いになるように設置して。
『なるほど……確かにそれなら津波攻撃を防げるか! なら、俺は折角の親友の作戦が無駄にならないようにさせてもらうぜ! 黒影の抱擁』
リヴァイアサンの影から黒い影が腕のように伸び、尻尾を大きく動かして「尻尾による鞭撃」を放とうとするリヴァイアサンの動きを止めた。
流石だねぇ……まあ、ディランが動かなかったら「大地の束縛」で生み出した分厚い石板を操ってリヴァイアサンの巨体を拘束しようかと思っていたけど……って、最初からやれば良かった?
「海王の三叉薙」
『『『『『『『――星砕ノ木刀』』』』』』』
《影》による拘束で作った隙を突き、アクアが、ディランが、欅達が、バダヴァロートが――岩の壁を抜けて全方向から一斉攻撃を仕掛ける。
一方、身動きが取れなくなったリヴァイアサンは大きく口を開け……って、これってまずくない!?
「《八咫鏡・歪曲スル鏡扉》」
魂魄の霸気を発動して、リヴァイアサンの口の前と北側の壁より少し離した位置に鏡を展開――リヴァイアサンの大技「破壊の咆哮」を鏡で反射せずにもう一つの鏡に転移させて見当違いの方向に赤い光線を命中させた。
最早リヴァイアサンに打つ手はない。「自己再生」の回復量を上回るほどのダメージをアクア達に叩き込まれ、遂にリヴァイアサンが撃沈した……予想よりちょっと手間取ったねぇ。まあ、ほとんどボクの落ち度だけど。
◆
リヴァイアサンを討伐し終えたことで、仕掛けが作動して海水が引き、海中にあった魔法陣が露出して青色の輝きを放った。
魔法陣から山積みの『Eternal Fairytale On-line』の統一貨幣・アーカムコイン、宝石や貴金属などの換金アイテム、数十種類はある大量の素材アイテム、秘宝級の武器や防具が出現する……こうやって報酬が出現することを知らなかったバダヴァロートは相当驚いたみたいだねぇ。
「今回も統一貨幣・アーカムコインか……やっぱり、両替のシステムは早急に構築しねぇといけねぇよな」
宝物の中から一枚のコインを拾ったディランが、そう独り言ちながら元の山にコインを返す。
「んじゃ、今回も報酬は親友が管理してくれ。俺達よりも親友の方が有意義に活用できそうだからな」
「使えないお金よりも美味しいご飯の方が嬉しいですわ。ということで、海上都市エナリオスに戻りましょう」
アクアもディランも気が早いねぇ。ゲーム時代はここからの報酬の分配も一つの大きなイベントだったんだけど……うちのギルドは何故かボクに全部の決定権があったから、そういったワイワイは『虹の即席組』の時くらいしか無かったなぁ……あれはあれで楽しいんだけどねぇ。
元々ディランはお金持ちだし、アクアは必要な時にラピスラズリ公爵家から支給される。ボクと一緒にいる時はボクの財布からお金を出しているから普段お金は使わない。まあ、欲張って持っていても仕方ないし、嵩張るだけだからボクに全部任せるっていう状況になるのは当然といっちゃ当然なんだけど。
ちなみに、バダヴァロートにはここ来る際に結んだ条件があるから報酬は無し。……ただ、コインには興味を持ったみたいでジーっと眺めて何やら考えているみたいだけど。まあ、心の中は読めるんだけどねぇ。
「その統一貨幣・アーカムコインはこの世界で流通している一般的な硬貨とは異なるものだよ?」
「なるほど……これほどの宝の山があったとしても、我々海棲族にとっては宝の持ち腐れということか」
「宝石や貴金属の価値は海棲族内でも通用するだろうし、秘宝級の武器や防具は実戦用の武器として使える。素材アイテムは……まあ、グレーゾーンかな? ただ、そのコインが換金できないってのはちょっと痛いよねぇ。まあ、ボク達多種族同盟はその換金システムを構築しようとしているんだけど、海棲族だけで今回みたいなものに対処しようとしたら、報酬の統一貨幣・アーカムコインをどう扱うかは君達で決めないといけないねぇ」
「……そうか、そのような弊害もあるのか。……我の中ではもう答えが決まったようなものだが、それを皆にも理解してもらうのはなかなか大変そうだな」
また、エルフみたいに分裂されても困るからねぇ……全員が納得ってのは難しくても、大部分が納得した上で、自分達の未来を決めてもらいたい。結局、ボク達は同盟加入でも、鎖国続行でもどっちでもいい訳だからねぇ。そりゃ、加入してくれた方が嬉しいけど、強要するものじゃないんだから。
「それじゃあ、海上都市エナリオスに戻ろっか?」
統合アイテムストレージに宝物を保存してから、ボク達は『全移動』で海上都市エナリオスへと転移した。……えっ、今回の騒動の残党? まあ、その討伐は帰国ついでにやるってことで問題ないんじゃないかな? アクア達が頑張ったおかげであれだけ沢山いた魔物もほとんどいなくなったし。
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