Act.5-96 三人使節団の再始動と海上都市エナリオスの危機 scene.2 上
<一人称視点・アネモネ>
「ううっ…………気持ち悪っ」
「ここで吐かないでくださいよ? これを飲んでください。少しは酔いが改善される筈です」
無言で小瓶を受け取ったバダヴァロートが毒が入っているかも確認せず一気飲みした。
「しかし、海棲族って船が弱点だったのですね?」
ボク達は今、船の上にいる。どうせ、海を進むための普通の船か、潜水艦に変形する船かどっちかに乗っているって思ったでしょう? 残念、『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』の上でした。まあ、潜水艦に変形する船もあるんだけどねぇ。
『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』に乗り込み、海上都市エナリオスを出発したボク達は手当たり次第に大海の主の尖兵や深淵魚魎系統の魔物を討伐しながら移動している。
そんなやり方じゃリヴァイアサンや魚魎海帝を見つけられないんじゃないかって? まあ、そう思うよねぇ。
ボクが何故、こんなやり方をしているのか……その答えはボクが掛けている眼鏡――「E.DEVISE」にある。まあ、種明かしをすると「E.DEVISE」を『管理者権限』で強引に『異世界ユーニファイドサーバー』に接続せずに「暗号式」で呼び出した質量やユーニファイドへの干渉力を持たない「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」をばら撒いて、そこから拾ってくる映像を「E.DEVISE」で確認――リヴァイアサンがいる可能性が高い海底の深淵迷宮を見つけようという作戦を取っているんだよ。
「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」は質量を持たず、攻撃力もないに等しいけど、映像を送信することができる上に、魔物や海流の影響を受けることもない。
これほど偵察に便利な技術っていうのもなかなかないよねぇ。偵察魔法や探査魔法なんてものもあるにはあるし、見気も使い勝手はいいけど、「サーチアンドデストロイ・オートマトンプログラム」ほどデメリットがなくて、ノーリスクで使える技術なんて他に思いつかないし。
「それで、アネモネ。お前は何をやっているのだ」
『アネモネ、ではありません! アネモネお姉様です!』
「欅さん、それは君達がそう呼んでいるだけであって強要するものじゃないからねぇ。それに、可愛い女の子ならともかくガチムチな人魚のおっさんにお姉様呼びされても引くし」
バダヴァロートが「我は海棲族の王だぞ! それをガチムチな人魚のおっさんなど、いくらなんでもざっくばらん過ぎないか!? そもそも、口調も全然変わっているし」と今更なことを言っているけど、まあ別にわざわざ説明しなくてもいいよねぇ? そのうち慣れるだろうし。
「ところで、お嬢様。見つかりましたか?」
「『サファギンエンペラーの戴冠』は既に戴冠しちゃったから深海のどこかに魚魎海帝がいるだろうけど、そっちは既に捕捉済み。『深淵の洞窟の大海の主』のリヴァイアサンがいると思われる海底の深淵迷宮の方も今見つけたよ。まあ、『サファギンエンペラーの戴冠』に関しては規定の期間に討伐が失敗しているからレア報酬がもらえないのがちょっと残念だけど……貰えるものは貰っておきたい派としては。ボク達は海を巡って魚魎海帝を含む深淵魚魎系統の魔物と大海の主の尖兵を討伐しつつ、リヴァイアサンの討伐を目指す。今回はボスを倒せば終わりの討伐戦じゃなくて、敵を全滅させるまで終わらない殲滅戦だから、そのつもりでねぇ。……まあ、それでも深淵魚魎系統の魔物を召喚できる魚魎海帝や大海の主の尖兵を召喚できるリヴァイアサンの討伐が急務なのは間違いないけど」
元々、この手のイベントはリヴァイアサンや魚魎海帝を討伐して終わりというものではなかった。戴冠を阻止できれば深淵魚魎系統の魔物が増えることもないし、リヴァイアサンを倒した時点で大海の主の尖兵の召喚は止まるけど、ボスを倒したところで取り巻きが死滅する訳じゃない。
全ての魔物を倒して、あるいは平常時の魔物の数にまで減らして、初めてイベント達成ということになる。唯一、事前阻止できる『サファギンエンペラーの戴冠』も既に猶予期間が終わってしまっているから、どのみち殲滅戦を行わなければならないんだけと。
「ところで、海面まで上がってきている連中はいいとして、どうやって海中の魔物と戦えばいいんだ?」
「ディランさんって全く考えずにとりあえず海の魔物と戦おうとしていたんだねぇ? オリジナル風属性魔法のサーキュレーション・エアー・ボールで作った空気のボールを被ってもらうから、呼吸については心配ないよ。この魔法はボクの魔力が底をつくまで解けないから、計算上は丸二日潜っていても問題ないと思うけど」
「それなら安心だな。それじゃあ、早速お嬢様――お願いします」
風属性が付与された指輪を使ってアクアとディラン、欅達にサーキュレーション・エアー・ボールを掛ける。
これで海中戦の準備は整ったねぇ。
「一応必要はないと思うけど、深淵魚魎にも色々な種類があって、深淵魚魎、深淵魚魎の鮫騎兵、深淵魚魎の将軍、深淵魚魎の魔法師、深淵魚魎の男爵、深淵魚魎の子爵、深淵魚魎の伯爵、深淵魚魎の侯爵、深淵魚魎の公爵、魚魎海王がいるならねぇ。まあ、みんなからしたら誤差の範疇だと思うけど……」
「全く気づかなかったけど、さっきのところにもいたのか? 深淵魚魎の鮫騎兵とか?」
「深淵魚魎の男爵まではいたけど、やっぱり気づかなかったみたいだねぇ……まあ、気にせず好きに暴れてくれればいいよ? 魔物の死体……というか、食材の回収はボクがしておくからねぇ」
「お嬢様の魚料理、楽しみにしています! 行くぞ、ディラン!」
作るけどッ!? ……最初から作るのが決定事項なんだねぇ。まあ、これだけあればアクアとディランも流石に一回じゃ食べきれないし、親睦も兼ねて海棲族に振る舞ってみるのもいいかもねぇ……バダヴァロートが許可してくれたら、だけど。
アクアとディランに続いて欅達も海の中に飛び込んでいく――。
「ほ、本当に大丈夫なのか!? この高さから飛び降りて」
「大丈夫大丈夫、落ちる先は海だよ? 海棲族の独壇場じゃないの?」
「し、しかし……流石にこの高さから飛び降りるのは」
まあ、『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』は高度一万メートル前後を移動中。翼を生み出せるとはいえ、アクアとディランは本当に胆力があるよねぇ。
欅達も躊躇なく飛び降りていたし、飛び降りても傷一つ負っていない――それだけ頑丈ではあるんだけど、絶対に欅達ほどは頑丈じゃないバダヴァロートじゃあ流石に厳しいか。
「仕方ないねぇ……瀬島新代魔法――重力操作」
過保護なハートナイアの残したチートスペックのおかげで適正が低かった自然界の四つの力という別名を持つ基本相互作用の一つである重力相互作用に影響する重力子に干渉する一連の魔法――重力操作も今やブラックホールを発生させられるほど。
その重力操作を駆使して『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』を海面スレスレに飛行させることは造作もない。
「はい、行ってらっしゃい」
「う、うむ……」
バダヴァロートが飛び込んだのを確認して、ボクも『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』を統合アイテムストレージに戻し、Let's Jump!! 飛び降りるのと同時に『背繋飛剣ディス・チェーサー』を遠隔操作する「舞い踊る飛剣」で十本の剣を操りつつ、『銀星ツインシルヴァー』を構え――。
「渡辺流奥義・颶風鬼砕! 千羽鬼殺流奥義・北辰!!」
鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる渡辺流奥義と、善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別するという技を組み合わせて周囲一帯の魔物の身にあまり傷をつけないように的確に命だけを刈り取る。
ハーモナイアの置き土産の効果は鬼斬の力にまで及び、霊力の最大量が増えただけに留まらず、その制御能力も大幅に向上した。今のボクなら周囲三キロメートルの狙った魔物だけを霊力の暴風で仕留めることも可能なんだよねぇ……これは清之丞や御剣と比べても規格外なほど……多分類を見ないほどの霊力、大倭三大怨霊にも匹敵、或いは凌駕するほどなんじゃないかな?
ちなみに、ここで「桃郷一刀流奥義・浄土桃斬」を使っていたら魔物そのものが浄化されちゃって食材にならなかったけど、「渡辺流奥義・颶風鬼砕」を使ったからちゃんと美味しく頂ける筈です……深淵魚魎系の魔物や大海の主の尖兵が美味しいのなら。
「な、何故人間がこれほどの速度で……」
アクアとディラン、欅達が海の中でも地上とほとんど変わらない速度で戦闘を繰り広げていることにバダヴァロートは衝撃を隠せないようで、深淵魚魎の群れとの戦いの最中にも拘らず上の空になっている……いくら周りにいるのが深淵魚魎ばかりだとはいえ随分と余裕だねぇ。
アクアは【天使之王】の天使化で作り出した白い翼を、ディランは《影》で作り出した翼を使ってそれぞれ高速移動、欅達は蔓の鞭で周囲の敵を討伐しつつ、海底を蹴った推進力を利用して浮遊と落下を繰り返しながら戦闘を続けている。欅達の身体能力は今やスーパーキャビテーションを使わずとも海中を高速移動できるレベルだからねぇ……流石に海棲族相手に持久戦をするとなったら分が悪いとは思うけど。
「おっ……こいつか? 魚魎海帝って?」
体長三メートルの巨躯を誇る、数多の王冠を被った巨大な深淵魚魎――魚魎海王を従えた一際豪華な衣装の深淵魚魎。
間違いなく、魚魎海帝だねぇ。
三叉槍を余裕たっぷりに構え、ニヤッと下卑た笑みを浮かべると、そのまま真っ先に魚魎海帝を発見したアクアに向かって突き攻撃を仕掛ける……あっ、詰んだねぇ。
……魚魎海帝の方が。
「――遅いッ!!」
三叉槍から放たれる突きを躱し、逆手で構えた右の剣で一差し。その一撃で魚魎海帝は絶命したみたいだねぇ……全く、見た目に騙されず、自分は前に出ずにひたすら無限サファギン召喚で戦力を供給し続ければ良かったものを。まあ、こっちの方がボク達にとっては都合がいいけどねぇ。
魚魎海帝――撃破。ところで、ゲーム時代はドロップアイテムじゃなかったその皇帝の王冠、どんなアイテムなんだろうねぇ?
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