Act.5-92 多種族同盟締結に向けた四ヶ国+ニ教会議 scene.1 上
<一人称視点・アネモネ>
ブライトネス王国、緑霊の森、ユミル自由同盟からなる三ヶ国同盟、通称、多種族同盟は軍事協力、通商の大きな二つの柱によって成立する。
軍事協力は強大な力を持つ魔物の襲来や諸外国の侵略に対する各国の協力についての基本的な取り決め。この三ヶ国に関しては前者の方が重要視されるけど、ド=ワンド大洞窟王国が加わった場合はオルゴーゥン魔族王国、シャマシュ教国を仮想敵国としてこちらの協力体制の構築も行われることになるんじゃないかな?
続いて通商。ここで大きな力を持つのは各商会でそれぞれの商会が相手国の商会と取り決めをした上で輸出入をすればいいんだけど、それでも最低限のことはしておかなければならない。
具体的に言えば通商条約の締結。これを結ぶことによって両国間の通商が正式なものとして認められる。まあ、これはあくまで「同盟三ヶ国間での取引を認めますよ」と国が背中を押すっていう大した話ではないんだけど、この条約には付随して「ブライトネス王国が発行する兌換紙幣を取引に使用すること」が各国の同意の下、定められるという重要な前提を作るという意味で大きな意義がある。
貿易で使われる紙幣ということになれば紙幣に対する信用も上がっていくこと間違いなしだからねぇ。そうなれば、最初は紙幣に違和感を抱いていた人達もそのうち違和感を抱かなくなり、三ヶ国のいずれの場所でも紙幣が通用するようになる。そうなれば、卑金属アレルギーがあるエルフも経済に参加できるようになるって訳。
この通商面に関しては紙幣の印刷も順調に進んでいるし、やることも決まっているから特に話題には上がっていない。
ここにド=ワンド大洞窟王国が加わった場合に重要になってくるのが技術協力の面。種族性質的に機械系が弱点の緑霊の森、戦闘民族のイメージの強いユミル自由同盟は国家規模で技術協力を相談する必要はない。必要ならばブライトネス王国から工業製品を輸入すればいいだけだからねぇ。
しかし、ド=ワンド大洞窟王国のメインは工業。エルフや獣人が香辛料を含む植物、森林資源に恵まれているのなら、ドワーフは豊かな鉱物資源に恵まれ、その加工技師も当然高い水準に達している。そのドワーフなら、人間以上にボクの持つ知識を活かすことができるからねぇ。
ただ、彼らとボク達人間だけがその技術を保有するというのは不公平だよねぇ? だから、この四ヶ国の主要メンバーが集まった環境でその技術を公開した後に、ここで作り方を公開した工業製品の作り方を同盟の名の下に公開しようと考えている。そこからは恐らく大量の需要が発生するブライトネス王国に納めるための製作競争が始まり、その中で価値に気づければ民間にも広がっていく。それに、競合すればまだそれだけ値段は下がり、庶民の手にも入りやすくなるしねぇ。
まあ、そんな訳で会議を一旦ストップしてド=ワンド大洞窟王国の主要メンバーを加えて、そこから提供する技術に関する諸説明をしようと思ったんだけど……。
撃沈しているアーネスト、ミスルトウ、メアレイズ、オルフェアの文官チーム。
リーリエとネメシア、どちらが本地かを飽きもせず議論し続けているアレッサンドロス教皇、コンラート筆頭枢機卿、ヴェルナルド神聖護光騎士団団長の天上の薔薇聖女神教団トップスリーと、兎人姫ネメシア教の三教主を務めるカムノッツ、羊人族の長ペコラ=綿毛=ニヴェア=オウィス、栗鼠人族の長フィルミィ=木実=フォチィル=スキウールス。
っていうか、今回はラインヴェルドとバルトロメオ、エイミーンのダメな大人三人組が真面目に会議に参加しているのに、なんでこんな惨状になっているの!?
軍務省の長官のバルトロメオは魔法省側のヴェモンハルト、魔法省特務研究室所長スザンナ、元宮廷魔法師団団長のミーフィリアの魔法戦力グループ、第一騎士団騎士団長ジルイグス、第二騎士団騎士団長ディーエル、第三騎士団騎士団長モーランジュ、第一騎馬隊長イスタルティ、第二騎馬隊長ペルミタージュ、近衛隊隊長シモンを取り纏めつつ、エルフ族長のエイミーン、虎獅子族の長で現獣王のヴェルディエと真面目に軍事協力に向けた調整の話をしているけど、そっちはなかなか進んでいないみたい。ただ、くだらない宗教戦争真っ只中の宗教チームに比べたら圧倒的にマシだよ!
「全状態異常回復術式! 聖究極治癒術式!」
『全移動』しつつリーリエにアカウントを切り替えて、神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの状態異常回復魔法で疲れと眠気を取り、神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法で体力を全回復させる。
ディグラン達が「ま、魔族ッ!?」と驚いて身構える光景を見て、「あっ……そういえば、説明まだだった」と今更ながら思い出して……「まあ、説明よりもまずはこのカオスな状況をどうにかしないと」ということでディグラン達への説明は後回しにして先にこのカオスをどうにかすることにした。
「天上の薔薇聖女神教団と兎人姫ネメシア教のみなさん? 今回なんのために召集されたのかお忘れですか?」
「り、リーリエ様!! し、しかし、彼らは重大な勘違いをしているのです!! リーリエ様こそが本地、神本来の姿なのです!」
「いいえ、ネメシア様! ネメシア様のお姿こそ神本来の姿。この者共こそ重大な勘違いを――」
「……君達が崇める神とやらを前にして下らない争いを繰り広げるなんてねぇ。まあ、ボクは神でもなんでもない人間――超越者だけど。最初の話に戻るけど、君達は宗教勢力の重要戦力としてこの会議に召集されたんだよねぇ? なのに、なんでその本分を忘れてこんな下らない言い争いをしているのかな?」
「「た、大変申し訳ございませんでした!!」」
ふう、とりあえずカオスの根源は黙らせた。アーネスト達も回復させたことだし、これで再開できそうだねぇ。
「……すまない、ローザ嬢。このところ内政と同盟締結に向けた会議の仕事が忙しくてロクに休めなかったのだ」
「そうなのでございます! やってもやっても仕事が全然減らないのでございます!! 三文長なのに仕事からあっさり抜け出したサーレは狡いのでございます!!」
「……ローザ嬢、なんとかしてくれ。このままでは一向に纏まらないまま仕事が……」
「まさか、文官の仕事がここまで大変だとは……」
「アーネスト様、ミスルトウ様、メアレイズさん、オルフェアさん。本当にお疲れ様。一旦仕事が減ったら甘いものでもご馳走するよ……それで埋め合わせになるとは思っていないし、ちゃんと有給は取った方がいいと思うけどねぇ、そこのクソ陛下から。……それで、ミスルトウ様、本当にボクが主導しちゃっていいんですか? ボクの立場は一介の商会長とデビュタント前の公爵令嬢だけなんだけど……」
「「「リーリエ様、天上の薔薇聖女神教団の女神であることをお忘れです!」」」
「「「ネメシア様、貴女様は兎人姫ネメシア教の女神様です!!」」」
それ、公の称号じゃないからねぇ。本気で通用すると思っているの?
「別にこの場にいるメンバーでローザが指揮を取ることに異論がある奴はいねぇだろ? っていうか、これまでの会議って肝心な奴が欠けていたから全く進まなかったんじゃねぇか?」
珍しく大真面目なラインヴェルドが真面目な顔でそんなことをの賜ったんだけど……うん、たった一人公爵令嬢がいないだけで進まない会議とかそんなのある訳が……って、なんでほとんどのメンバーが首肯しているの!?
とりあえず、ボク、アクア、ディラン、プリムヴェール、マグノーリエ、サーレの会議参加メンバーも着席して(関係のないアルティナとカエルラは先にユミル自由同盟に送り返しておいた)、まずは未だ状況の飲み込めていないディグラン達にこの世界の真実やボクに関することについて一通り説明した。
◆
<一人称視点・リーリエ>
ディグラン達は自分達の信じてきた常識が打ち壊されて頭の整理に数十分を要したけど、なんとか理解してもらえたようで、そこから本格的に同盟締結に向けた会議を始動することができるようになった。
「まずは、通商条約の締結について。この条約の内容についてはブライトネス王国、緑霊の森、ユミル自由同盟は承認してくれているようだから、後はド=ワンド大洞窟王国が承認すれば問題はないねぇ」
「なるほど……我らに不利益はないな。我らド=ワンド大洞窟王国もこの条約に賛同しよう」
「決まりだねぇ」
後はそれぞれの国の代表者の名前で施行するためにアーネスト、ミスルトウ、メアレイズ、サーレ、オルフェア、ハインが奮闘することになるとは思うけど、何も決まっていない状況よりは確実に進んだねぇ。
「それから、商業関連でもう一つ。同盟参加国を結ぶ魔法門の設置を提案させてもらってもいいかな? 商売人の立場から言うと、各国の行き来って結構大変なんだよねぇ。それに、鉄道のような移動手段を使うとなると森林の破壊にも繋がるし」
ドワーフが加われば鉄道みたいな交通網を張り巡らせることもできるんだけど、森を神聖視するエルフとは相性が悪過ぎるからねぇ。卑金属アレルギーはどうこうできても、どの道森林破壊問題でアウトになる。それくらいなら魔法門を設置して空間魔法で移動を可能にすればいいんじゃないかと思ってねぇ。
「そして、その門の管理を同盟が行っていく。門を使用する場合は同盟に門の使用料は毎回支払うことにして、そこで得たお金を同盟の諸費に使えばいいんじゃないかなと思ってねぇ。勿論、各国が年間予算から支出して同盟を維持することにはなるんだけど、そこに門の使用料も加えるっていうのはどうかな?」
貿易に関税を掛けることを提案するつもりはない。今は各国の取引を活発化させたいし、後々になって関税を掛けた場合に商会から睨まれるのは避けたいからねぇ……そもそも、ブライトネス王国では商会にも納税の義務があるし、その上多種族同盟からも納税の義務が発生したらそりゃ暴動になるよ。
そこで、門を利用した移動手段を有料で提示する。別に遠距離を移動して取引をしてもいいんだけど、より円滑に行うためには門を使用した方がいい。となれば、次第に門を使う商会が増えるのは自明の理。そうなると、国同士の貿易をメインにする商会と、門から遠い地域をターゲットにする商会の大きく二種類に分裂していきそうだねぇ……これは門を使わない行商関係の中小商会に補助金を出すのも手かな? どっちも重要、両輪があって初めて経済が成立するからねぇ。
「魔法門の設置か。有事の時にも使えるしいいんじゃねぇか? だが、そんなもの本当に作れるのか?」
「『E・M・A・S』のシステムを使えばねぇ」
「確かに、『E・M・A・S』の理論を使って魔法門を作ることは可能だな。どれくらいの規模になるか分からないが、門そのものの素材も安価の金属にする訳にはいかないだろう? 材質は石か?」
「中心核となる『E・M・A・S』のシステムについては魔法銀を、門そのものにはオリハルコン辺りが最適だと思うんだけどねぇ」
「オリハルコンはド=ワンド大洞窟王国でもほとんど採れない希少金属です。湯水のように使うことは現実的ではないと思いますが」
ミーフィリアもハインと同じように希少金属を使って門を作るのは現実的じゃないと考えたから石を提案したんだと思うけど、やっぱりここは長持ちする希少金属をふんだんに使った方がいいと思うんだよねぇ。
「門はこれからも使うものだし、整備も楽にしたいからオリハルコンと魔法銀を使うべきだと思う。門の素材と建設はボクの方でやるから、各国にはそれぞれどこに門を設置するかだけ決めてもらいたいねぇ。警備の面もあるし」
「……親友、【万物創造】使う気満々だな」
「魔法門は持続的な産業の外にある話だからねぇ。ド=ワンド大洞窟王国には持続的な産業に分類される方の工業を頑張ってもらいたいし」
「次はいよいよ技術提携の話だな。一体、アネモネ殿は我らに何を作らせたいのか、楽しみだ!」
事前に作っておいた資料を【万物創造】で複製して全員に配りつつ、技術協力で提供する地球産の工業製品の完成形を【万物創造】で生み出す。
創り出したのは、ボクからしたらただのノートパソコン。異世界からすればオーバーテクノロジーの産物。
「パーソナルコンピュータ――個人によって占有されて使用される情報処理やデータ処理と呼ばれるような作業を高速・大量におこなう計算機械。まずは、これをド=ワンド大洞窟王国の主力産業にしてもらいたいんだよねぇ」
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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