Act.5-89 ド=ワンド大洞窟王国国王謁見直前〜悪役令嬢の優雅な休日〜 scene.1
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
翌日、サーレからの連絡でド=ワンド大洞窟王国の国王への謁見が明日に決まり、今日一日はフリーになったので、在宅で仕事をしつつスティーリア達のメイド服姿を見て癒されることにした。
とりあえず、朝一番でビオラグループの本社に出社して終わらせた書類を机に置いておき、元祖・服飾雑貨店『ビオラ』、『Rinnaroze』、アクアマリン伯爵家には手作りスイーツを届けた。
ペチカの『Rinnaroze』はまだホールも厨房も人が少なくて店の開店まで漕ぎ着けていないけど、料理人やホールスタッフは何人か集まっているからねぇ。人数の把握は会長の手元に来る資料で調べられるし、それくらいのスイーツを用意するくらいは造作もない。
……まあ、アクアマリン伯爵家の守衛さんにはびっくりされたけどねぇ。朝五時に令嬢が一人で護衛もつけずに屋敷にスイーツを届けにくるとは流石に予想もしないよねぇ……執事さんにすぐに取り次いでもらえたから不審者がられることは無かったけど。
今日はローザの姿のままだけど、メイド服姿。随分できていなかったし、久しぶりに掃除でもしようかと思ってねぇ。手には雑巾――この時点でツッコミはない……以前は「お嬢様が掃除など」っていう視線を向けられていたこともあったけど今は全く気にならないみたいだねぇ、慣れって怖いねぇ。
『ろ、ローザ様が自ら掃除をしている……だと!?』
『ローザ様は公爵令嬢なのだろう? 何故、彼女が使用人に混じって掃除を……』
『まさか、ローザ様は屋敷で虐げられて……』
「全くもって違いますわ。私達も最初は止めましたが、お嬢様は『自分の住んでいるところの掃除くらいはしたい』とメイドに混じって掃除を始め、料理を作り、洗濯も自分でするようになり、遂には屋敷の使用人の仕事をほとんどお一人でやられるようになってしまったのですわ。しかも、お嬢様の仕事は完璧で文句の付け所がありません。下手をすれば、私達使用人の仕事の方が雑だと判断せざるを得ない時も往々にしてあります。お嬢様が家事をこなすのはそういう性分の方だからであって、決して虐げられているからなどではございません」
「ヘレナさんの仰るとおり、ボクはただ自分がやりたいから進んで家事をしているだけだからねぇ。それが大凡令嬢には似つかわしくない行いだと理解しているよ。しかし、三人ともメイド服姿可愛いねぇ♡ 本当によく似合っているよ♡」
『そ……そんな、似合っていると言われても……わ、私はローザ様の騎士であってメイドではない…………でも、ローザ様のお望みなら、たまにならメイド姿も』
『わ、我もそこまでローザ様が望むのというなら…………絶対に我のキャラではないが、本当にたまにならメイド姿にも』
『私はローザ様がお望みとあらばメイドとして仕えるのも吝かではありませんわ』
迷宮統括者と古代竜の反応とは思えないよねぇ? まあ、そういうところがギャップ萌えで可愛いんだけどさ。
「まあ、冗談抜きでエヴァンジェリンさん、カリエンテさん、スティーリアさんの三人にメイドを続けてもらうつもりはないから安心してねぇ。……スティーリアさんはこのまま続けてもらっても問題無さそうだけど。とりあえず、当面の間はジーノさん達にラピスラズリ公爵家の戦闘使用人の技術を学んでもらって、その後にエヴァンジェリンさんには新装備を、カリエンテさんとスティーリアさんには欅さん達やエヴァンジェリンさんと同じ段階に到達してもらいたいと思っている。一種の研修期間だと思ってくれればいいよ? その後は基本自由。ボクの元で働くもよし、ラピスラズリ公爵家の使用人を手伝うもよし、冒険者として活動するもよし、従魔だからということが理由でやりたいことが制限されるのは一番の問題だからねぇ。別に束縛したい訳じゃない、ボクは基本的に対等で居たいと思っているから。ただ、非常事態には手を貸してもらいたいけどねぇ。ラピスラズリ公爵家に留まるなら衣食住は約束するけど、ラピスラズリ公爵家に迷惑が掛からないように暮らしてねぇ」
ちなみに、ホワリエルはほとんどゲームをして漫画読んで自堕落に生活していたけど、元々彼女の役割は非常時の戦力だったし、ニート生活が認められていた。まあ、それはボクがトップで彼女が食客という肩書にあったからなんだけど。
ここはラピスラズリ公爵家。当主はカノープスであって、ボクじゃない。住まわせてもらっている立場であって、家主ではないから百合薗圓の頃の力がある訳じゃない。ここに住む以上は使用人の指揮下に入って最低限の貢献はする必要があるってこと。
まあ、その方法は使用人だけじゃないけどねぇ。守衛なり、他にも色々な手段はある。……エヴァンジェリンとカリエンテに向いてそうなことと言ったら守衛くらいしか思いつかないけど。
「……ローザお嬢様、お客様がお待ちです」
「ゆっくり考えればいいよ? それに途中で変えたっていいし。それじゃあ、三人とも仕事頑張ってねぇ」
呼びに来たジーノと一緒に応接室に向かう。客は……まあ、ボクの客でラピスラズリ公爵家に直接出向いてくる人は限られているし、別にメイド服姿を見せて問題ない人ばかりだから着替えはいいかな?
応接室に待っていたのはニルヴァスとソフィス、アクアマリン伯爵家の執事エリアルの三人だった。……しかし、珍しいねぇ。こっちから出向くことはあってもラピスラズリ公爵家に二人が来ることは今まで無かったんじゃなかったかな?
「正装じゃなくて申し訳ないねぇ。着替えてきた方がいいかな?」
「寧ろ、ローザ様の貴重なメイド服姿を見ることができて嬉しいです。お気遣いありがとうございます。……アポイントも取らずに押し掛けてしまってすみません。どうしてもローザ様にお見せしたいものがありまして、今日ならお屋敷にいると思いましたので押し掛けてしまいました」
「しかし、本当にローザ嬢はメイドに混じって仕事をしているのだな」
まあ、流石に自己申告じゃ信じられないか。ニルヴァスじゃなくても、公爵令嬢がメイド服に身を包んで仕事をしているなんてなかなか想像ができないと思うからねぇ。
「ジーノさん、席を外してもらって大丈夫だよ。お茶もボクの方で出すから用意しなくていいからねぇ」
「委細承知致しました」
まだ人見知りが完璧に改善されていないソフィスにとって、知らない人がいる環境は苦痛だからねぇ。最低限の接客はボクにもできるし、ジーノには下がってもらうことにした。
「それで、わざわざ屋敷を訪ねてくる用事って一体どういうものなのかな?」
お手製のお茶菓子を紅茶と一緒に三人に出しながら単刀直入に用件を聞く。別にここはフォーマルな場所じゃないし、段階を踏む必要はないからねぇ。
立場が上の兄から妹に話を振っていくとか、執事は控えさせておくとか、そういうのは関係なしに三人纏めてもてなす。エリアルは「私はただの執事ですから、主人と一緒にもてなされる訳には」と抵抗していたけど有無を言わずに座らせた。
「実はローザ様が執筆なされている漫画というものを私も描いてみまして……巧くはありませんが」
「その漫画をわざわざ見せに来てくれたんだねぇ……それじゃあ、早速読ませてもらっていいかな?」
エリアルからソフィスが描いたという漫画の入った封筒を受け取り、一先ず読んでみる。三人が固唾を飲んでそんなボクを見守っているのがよく分かった。緊張感がひしひし伝わってくる。
「なるほどねぇ。……凄いねぇ、ソフィスさんは。小説だけじゃなくて漫画の方も才能があるよ。絵も描けるならライトノベルも書けそうだねぇ。まだまだ荒削りだけど、このままならデビューはかなり近いと思う。ソフィスさんにその気があるならだけどねぇ。もし、その気があるならボクも小説や漫画を刊行している書肆『ビオラ堂』の編集さんを紹介するけど、どうする?」
「私も、『ビオラ堂』で本を出せるということですか? 本当に、私もローザ様のように」
「まあ、懇意にしている商人さんで出版に手を出している方にお願いすればそれでも本を出すことはできるし、選択肢の一つとして考えておくといいと思うよ。ただ、小説でも漫画でも連載は本当に大変だからねぇ。やるからには相応の覚悟が必要になると思うよ」
購入してもらう以上は責任を伴うようになるし、読者から期待されるようになる。自分の物語が自分だけのものじゃなくなり、手を離れていく。
様々な解釈をされて、称賛されるのと同じくらい貶されることもあって、それでも筆を折らずに続けていくというのはなかなかできることではない。
今時は無料で読めるWeb小説にも難癖をつける人がいるからねぇ。いや、大切な時間を消費しているから確かにその人にとっては「わざわざ俺の大切な時間を費やしたのに、つまらないものを読ませやがって」って思うかもしれないけどさ。
Webに溢れている綺羅星は一つ一つ、その後ろに見えない書き手がいて、その書き手が情熱を燃やして書いているものなんだよ。読む以上の時間を掛けて書いて、それが読まれるのにはその何十分の一の時間すら掛からない。
でも、商業となればその甘えが通じない。金銭払って買っているなら、それに見合うものを出さないといけない。
その覚悟があるのなら、ソフィスには商業にも手を出してもらいたいと思ってねぇ。自分の書いた本が販売されているっていうのはきっと自信に繋がるから。そういった自信が積み重なれば、ソフィスも前に進めると思ってねぇ。
「まあ、ゆっくりと考えればいいよ。まだまだ時間は沢山あるからねぇ」
「ありがとうございます。……考えてみます」
その後、ソフィスに書き下ろしの小説と漫画を数冊プレゼントして、暫しお茶会をしたところで三人は屋敷を後にした。
ニルヴァスに「いつも妹のことを気に掛けてくれてありがとう」と言われたけど、本当にソフィスの支えになっているのは君だからねぇ。本当に優しい兄だよねぇ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




