Act.5-87 極寒山脈〜目指せ、フォトロズ最高峰! 砕け、自称天才ゲームクリエイターの石像!〜 scene.1
<一人称視点・リーリエ>
アクアとディランの斬撃を浴び、砕け散った石像の下から現れたのは、ボロボロのスーツを身に纏った高槻斉人のゾンビ。
「何か仕掛けられる前に倒しちゃえばいいんだろッ! いくぜ、相棒!」
「――おうッ!」
弾丸のように飛び出し、右と左から攻撃を仕掛けるアクアとディラン……確かに、その作戦は正解かもしれないけど。
『――没ッ!』
ただし、アクアかディラン――どちらかの命を犠牲にするならって話だけどねぇ。
「蘇生術式!」
高槻ゾンビの手から放たれた漆黒に染まった原稿を浴びたアクアは一瞬にして命を掠め取られて死亡した。
そのアクアに向かって神官系四次元職の施療帝が習得可能な蘇生魔法を掛け、一瞬で蘇生させる。
「なんなんだ、今の。一瞬、親友が死ななかったか?」
「高槻ゾンビのチャージ攻撃、『没ッ!』は即死耐性を持とうがなんだろうが無視して相手を即死させる単体即死攻撃だからねぇ。他にも意味が分からないくらい強攻撃とか割合攻撃とかがあるけど、この『没ッ!』に関しては必中で即死だからすぐに蘇生しないのパーティが崩壊して全滅しちゃうんだよ!」
「「――マジかッ!?」」
『スターチス・レコード』シリーズには敵攻撃にチャージ攻撃という概念があった。このHPやMP表示のすぐ近くにある毎ターン溜まるチャージカウンターがマックスまで溜まると放たれる強攻撃で、悪役令嬢ローザの場合は「ブラックホール」がこれに分類されている。
高槻ゾンビの場合は『没ッ!』、流石に過去に遡って殺したり、概念を殺したり、そんなことはできないけどあらゆる耐性を貫通して相手を即死させることができる。通称、過労死攻撃……人使いの荒い高槻さんにピッタリだね⭐︎
『――とっとと原稿出しやがれッ!』
高槻ゾンビの手に黒いエネルギーが宿り、高速で右ストレートを放つと同時にディランに向かって放たれる。
「当たったらダメなら、当たらなきゃいいんだろッ!」
うん、その攻撃はそれが正解、ホーミングついてないからねぇ。
アクアとディランが斬撃を浴びせ、これで決着……とはいかない。あの馬鹿力相手に凄いねぇ、高槻ゾンビ。
『――新人教育もしておけ!』
『――デバッグはまだかッ!!』
そして、飛んでくる強攻撃。しかも、不可視の刃による近距離だと回避が難しい攻撃に『新人教育もしておけ!』には空腹のバッドステータスが、『デバッグはまだかッ!!』には混乱のバッドステータスが確定でついてくる。
「――全状態異常回復術式! 聖究極治癒術式!」
神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの状態異常回復魔法で猛毒を解除し、神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法で体力を全回復させる。
ここで状態異常を回復させておかないと状態異常がある人優先で強攻撃を叩き込む『体調管理もできんのかッ!』か状態異常がある人優先でHPの二倍の割合ダメージを叩き込む『月月火水木金金、ゲーム会社に休みなどないッ!』のどちらかが飛んでくることになる。『月月火水木金金、ゲーム会社に休みなどないッ!』なんて喰らったら確実に即死だからねぇ……まあ、掛かったらすぐに大人しく状態異常回復させるべきなんだよ。
『――企画会議の資料はまだかッ!!』
ここで状態異常を回復しておくと、通常攻撃の『企画会議の資料はまだかッ!!』や麻痺状態を誘発させる『企画会議に遅れるなッ!』が飛んでくる。ここで麻痺状態を放置すると『体調管理もできんのかッ!』か『月月火水木金金、ゲーム会社に休みなどないッ!』のどちらかが飛んでくるから麻痺を解除しておかないといけないんだよねぇ。今回は『企画会議の資料はまだかッ!!』の方だから状態異常回復は必要なさそうだねぇ。
「アクア、今のタイミングで毒竜撃ち込んで!」
「――ッ! よく分かりませんが、分かりましたお嬢様! 【劇毒之王】――劇毒八大蛇!」
アクアの毒が真紅に染まり、無機物すら汚染し侵食する【劇毒之王】本来の毒が九つの首を持つ毒竜へと姿を変えた。
真紅の九頭竜が高槻ゾンビを飲み込む……まあ、普通のゾンビに毒なんて効く訳がないんだけど……。
『わ……私が、体調管理を怠るなど……部下に示しがつかん! 無理矢理出社だ!』
状態異常を自分が負った場合、ブラック社畜臭漂う技で自分のHPを半分にして状態異常を回復してくるんだよねぇ……高槻対策の一つは状態異常にして『わ……私が、体調管理を怠るなど……部下に示しがつかん! 無理矢理出社だ!』ループに落とし込むことなんだけど。
「なるほど……そういうことかッ! 【劇毒之王】――劇毒之沼」
アクアも必勝法に気づいたみたいだねぇ。『わ……私が、体調管理を怠るなど……部下に示しがつかん! 無理矢理出社だ!』ループに落とし込んだみたいだ。
でも、チャージカウンターは残り二つ、溜まれば問答無用で『没ッ!』が飛んでくるよ!
「魂魄の霸気――《黒騎士》! 魂魄の霸気――《騎士団》!」
「魂魄の霸気――《影の甲冑》!」
漆黒騎士の形をした黒いオーラを纏ったアクアは白髪の混じった黄昏色の短髪、痩せ形だが肩幅が広く、背丈もかなり大きい男をそのままシルエットにしたような黒い剣士を産み落とし、黒い騎士はディランに溶けるように重なり、黒いオーラとなって宿った。
その上から影の甲冑を纏ったディランがアクアと共に毒の池に足を踏み入れ、高槻ゾンビに攻撃の隙を与えず連続攻撃を仕掛ける……そして。
これまでの筋肉ゾンビとは違い、激しい閃光を放って爆発し、高槻ゾンビは消滅した。
「ふぅ、終わったな……いまいち実感湧かないけど一回死んだのか」
「まあ、アクアに関しては二度目だけどねぇ。すぐに蘇生掛けたし、あんまり死んだ感触はないと思うよ? そんなこと言ったら君達にボコボコにされた獣人も何人か死んでたしねぇ」
「しかし、相棒。お前の《騎士団》ってそんな使い方もできたのか?」
「ああ、これが本来の使い方だよ。《騎士団》は漆黒騎士団の騎士と一体化することでその騎士を強化するのが本質だからな。ファントの騎士はディランと一体化して初めて本来の力を発揮する。あの模擬戦で見せたのは本来の力じゃなかったんだ……あの戦場にディランは居なかったからな」
「し、親友〜〜ッ!!」
「あ、阿呆ッ! ひっつくなッ!!」
楽そうだねぇ、アクアとディラン。若干、その本来じゃない使い方で倒されたプリムヴェールが落ち込んでいるように見えるけど、慰めた方がいい? ……あっ、慰めるのはマグノーリエの役目か。じゃあ、ボクは眼福な二人の百合を撮影させてもらおっかな?
◆
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
標高一万百メートル、フォトロズ大山脈地帯の最高峰に登頂するまで食事時間込みで五時間……うん、色々とおかしい気がするなぁ。
山頂にはリーリエ似の石像と、丸まって横たわる白銀の鱗を持つ竜の姿があり、白銀の鱗を持つ竜は起き上がるなり、深海色の瞳でボク達を見下ろした。
『なるほど、猛烈な魔力を感じましたが貴方達でしたか。……しかし、よくここまで登ってくることができましたね。矮小な人間とエルフがこの厳しい環境を生き残り、この山頂にまで到達するとは、前代未聞ですよ』
「随分と人間やエルフのことを舐めているみたいだねぇ、古代竜。そうやってボクを見下していたカリエンテは勝負に負けてボクの従魔になったけどねぇ」
『……なるほど、貴女が強いというのは確かなようですね。元々あの末娘は喧嘩っ早くて思慮の浅い子でした。私とも反りが合わなくてこの山で大喧嘩を繰り広げたこともあるのですよ?』
「その結果、この山にはカリエンテと貴女……えっと」
『〝白氷竜〟スティーリア=グラセ・フリーレン=グラキエースよ』
「カリエンテとスティーリアさんの魔力がこの山に残留しているんだよねぇ? だから、氷の魔力に覆われた山なのにカリエンテと同じ魔力を持つ魔物が少数ながら出現した」
『……貴女、本当に人間なのかしら? 魔力の性質を見分けるなんてなかなかできることでは無いわよ』
「一応、これでもこの山を数時間で登れる精鋭メンバーだからねぇ。――ボクはこの山の魔力からナトゥーフさん……いや、君達からはナナシと呼ばれているんだっけ? 彼に似た魔力を感じたから会いに来たんだ。目的は一つ――この世界には大きな危機が訪れようとしている。古代竜の力を持ってしても対処が困難な危機……それを一言で言い表すのは難しいけどねぇ。文字通り、世界が大きく変わろうとしている。例えば、最近は大迷宮やゲートウェイダンジョンがその数を増やしている……高難易度大迷宮の迷宮統括者なんかは古代竜を凌駕する戦闘力を持っているし(ただ、その力に技量が伴っていないってことが往々にしてあると思うけど)、だからこそ今は種族の垣根を越えて協力体制を築く必要があると思っているんだよ」
『なるほどね。俄には信じられないけど、あの最古の古代竜なら人間と協力体制を取ることはあり得るわ。彼は優しいもの……。でも、残念ね。わざわざ警告しに来てくれたのはありがたいけど、私は私の好きにやらせてもらうわ。迷宮統括者だって、私の前に立ち塞がるなら滅ぼしてみせる。――この地に足を踏み入れた貴女達も。死にたくなければ私を倒してみなさい! 私を止められたなら、私は貴女達に従うわ!』
あー、結局こうなるんだねぇ。話が通じそうだなって思っていたのに……古代竜ってナトゥーフを除いて全員脳筋かよ。まあ、一発ぶん殴った方が分かりやすいからいいけどねぇ。
スティーリアを包み込むように雪の結晶に覆われたようなドームが現れ、内部からヒビが入るように砕け散ると、中から現れたのは真っ白な肌と深海色の瞳を持つ作り物めいた人形のような美貌を持つ少女。
これが、スティーリアの人間体かぁ……カリエンテより小さいんだねぇ。しかし、この姉妹、カップリングさせたら絶対に絵になると思うけどねぇ。
「それじゃあ、ボクも同じ竜の力で相手をさせてもらうよ! アカウントチェンジ・ラナンキュラス!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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