Act.5-82 使節団の再始動〜ユミル自由同盟発、ド=ワンド大洞窟王国行き〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ>
使節団再開当時。使節団メンバーは、ボク、アクア、ディラン、プリムヴェール、マグノーリエ、真月、琉璃に加え、案内役の犬人族のカエルラ=犬弓=コバルティー=カニスとアルティナ、そしてアルティナが連れてきたサーレとかなりの大所帯になっていた。
真月は相変わらずボクの影で大人しくしていて、琉璃は小さくなって定位置となったボクの肩の上にちょこんと乗っている。
ボク達は『精霊の加護持つ馬車』に乗ってゴルジュ大峡谷の地下に広がる天然洞窟の迷宮を進んでいる。洞窟といっても、犬人族を始めとする商人が移動手段として使う馬車が使えるように整備してあるので『精霊の加護持つ馬車』を使っても特に問題はない。以前はここにも魔物が溢れていたみたいだけど、【アラディール大迷宮】を攻略して魔物の行動範囲を迷宮内部に留めたから、魔物の姿は全く無くなっている。
精霊が馭者を務めてくれているため、ボク達にすることはない。ということで、恒例のゲーム大会が繰り広げられていた。
……まあ、今回は不参加だけど。『Survive: Escape from Atlantis!(アイランド)』をプレイしているのを横目で見ながら、「E.DEVISE」を使って『エーデルワイスは斯く咲きけり Ⅷ』に付ける特典の小冊子とミニカラー漫画本の執筆に時間をつぎ込んでいる……実は納期がかなり間近に迫っているんだよねぇ。まあ、コツコツと暇な時間に執筆四、五本やっていたから本編そのものは完成しているんだけど。
最近はオリジナルアニメーションでありながらアニメ放送後も漫画版や小説版を発表していなかった『ドリルお嬢様の優雅なお茶会』の漫画バージョンなんかも売り出して、『エーデルワイスは斯く咲きけり』、『神様の失敗で転生したけど異世界転生してすぐに最弱の魔物に殺されるなんて聞いてない〜第三の人生から始める魔物成り上がり生活〜』と三巨頭になりつつあるけど、乙女ゲーで異世界な世界で乙女ゲームものと異世界ものが流行るってちょっと予想外だよねぇ。まあ、似たような世界観だからとっつきやすいってこともあるかもしれないけど。
「きゃぁぁ、鮫来たっス!! あっ……もう一人しかいないっス」
「サーレの計算通りなのです。……これで、サーレの…………そ、そんな!? サーレの計算が狂って……想定外です……」
「これはなかなか面白いですね。アネモネさん、このボードゲームとやらを私達のル・シアン商会で販売させてもらえま……ちょっと待って!? ……鯨に船が沈められた」
「おっ、火山タイルを引いたか。私の勝ちだな」
カエルラ、アルティナ、サーレ、プリムヴェールの四人でプレイして、事前に一番逃していたプリムヴェールの圧勝だったみたいだねぇ。
しかしカエルラ……商魂を発揮するのはゲームを終わらせてからにした方が良かったんじゃないかな?
「それで、ボードゲームを販売したいって? まあ、ボクのオリジナルのものじゃなければ著作権どうのこうのは異世界で通用しないし好きにすればいいんじゃないかな? ビオラ商会で一応ボードゲームの販売はしているし、取引したいっていうならその旨を伝えておくけど。ボク達は香辛料やこっちでは手に入らない食品類が欲しいけど、実際に何を輸出して何を輸入するかはこれから決めていくことだからねぇ」
同盟は結んだけど、そこからどう動くかはそれぞれの判断。例えば、ビオラ商会はこれから希少な香辛料や食品類を仕入れできるように獣人族側にアクションを掛けていくことになるだろうけど、その際にどこの商会と取引を行うか、何を取引するかを決めるのはボクじゃなくて獣人族との取引の責任を負う幹部だし、獣人族側とボク達の意見が合わなければ取引は始められない。
まあ、ボクがしゃしゃり出ても迷惑にしかならないだろうからねぇ。ビオラ商会もジェーオ達に任せきりにしているし、自分の好きな時だけいいとこ取りして会長面するのは最低の所業だからねぇ。……優しいジェーオ達なら許してくれそうな気がするけど、って駄目駄目。
「ところで、アネモネさんは何をやっているんですか?」
「そういえば、ずっと何もないところで手を動かしているっスね。かなりホラーっス」
「サーレにも全く予想がつかないのです」
あっ……そういえば、三人とも「E.DEVISE」について詳しく説明していなかったねぇ。
「これは「E.DEVISE」っていう、この世界からすればオーバーテクノロジーな代物ということになるねぇ。ヘッドマウントディスプレイ一体型ウェアラブルコンピューター……まあ、数値計算や、数値計算に限らず、情報処理やデータ処理と呼ばれるような作業――文書作成・動画編集・遊戯など、複雑な任意の計算を高速・大量に行う計算機械、コンピューターを視力矯正に使われる眼鏡型にしたものということになるねぇ。悪いけど、これについては売る気がないかねぇ……これより数段落ちるコンピューターを量産して将来的にはブライトネス王国に導入することで事務処理能力を大きく向上させようと考えてはいるけど、希少金属を必要とするからねぇ。ボクが作ってもいいんだけど、それじゃあ持続可能な社会構築は難しいし、希少金属の鉱脈を押さえていて、かつ金属加工技術を含めて多くの技術に精通しているドワーフと取引ができるようになれば一石二鳥になるんじゃないかって考えているんだよ。まあ、これに関してはそれよりも数段上の技術を要求されるし、コンピューターで十分賄えるからわざわざ作る必要はないんじゃないかっていうのが正直なところ。ちなみに空中でカタカタやっているのは、空中に仮想キーボードを生み出しているからで、これで両手打ちしながら、三つくらい別の作業を思考で進めている……まあ、五つの仕事を同時にやっているってことになるねぇ」
「…………と、とにかく私には理解できない途轍もない技術ということは分かりました。これは、取引は難しそうですね」
「ウチには難し過ぎてよく分からないっスけど、つまりこれがドワーフとの同盟を組むための切り札ということっスよね」
「同時に五つの仕事を……理解不能なのです。サーレには、不可能です」
まあ、ボクの並列思考は一種の特殊能力の域に達しているからねぇ……しかも、ここにもハーモナイア補正が掛かっているからなのか、一度にできる並列思考の数も大幅に増えている。これまで通りのやり方で並列思考を使っているけど、もしかしたらそれ以上の数の作業を同時に行えるかもしれないねぇ。
「ローザを常識に当て嵌めようとする方が愚かだからな。早急に、慣れだ方がいいぞ」
プリムヴェール、辛辣過ぎない? アクア、ディラン、マグノーリエも「異議なし」って顔しているし、誰かボクの味方はいないのかな? ……人望本当に無いよねぇ。
◆
さて、使節団一行はゴルジュ大峡谷の地下に広がる天然洞窟の迷宮を突破し、空白地帯の一つで事実上のド=ワンド大洞窟王国領に入った。
大山脈が連なる地……でも、その山脈を一つ一つ越えて行く訳じゃなくて、今回も獣人族の商人だけが知る極秘の地下通路があるみたいだねぇ……本当にカエルラを連れてきて良かったねぇ。まあ、居なかったら居なかったでユミル自由同盟の時と同じで『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』を使うんだけどねぇ……というか、実は『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』で乗り込んだ方が早いんじゃないかな? いや、ここまで来たら最後まで馬車で行くけど。
山脈をぶった斬るようにトンネルの入り口がぽっかりと口を開けている。あのゴルジュ大峡谷の地下に広がる天然洞窟の迷宮もドワーフが整備したみたいだし、彼らの技術力はこの世界水準で考えたらとんでもないねぇ。まあ、だからこそ、こっちの世界で最も「地球の技術」が交渉の切り札になる種族でもあるんだけど。
『精霊の加護持つ馬車』はそのトンネルの入り口から地下に入っていく。ライト系の魔法が必要かなと思っていたけど、異世界鉱石の蛍光鉱を使ったライトでトンネル内は緑色に照らされていて、特に明かりが必要だということは特に無かった。
まあ、『精霊の加護持つ馬車』の内部は精霊の力で外と変わらない明るさだし、馬車も馭者の精霊が目的地に向かって進んでくれる訳だから、暗かろうとなんだろうと大して関係ないんだけど……強いて言うなら問題は外が見えないことかな?
それから二、三十分経過した後、これまで平だったところから少しずつ上り坂に変わり、青空が見える拓けた場所に出た。ボク達が登ってきた坂以外に三つほど道が見え、二つは岩壁にポッカリと開いた穴の中に、一つは山と山を縫うように続いている。
目の前には巨大な山が聳え立ち、天然の大洞窟を塞ぐように立つ巨大な門がその存在感を放っている。
「これが、第二の門ですね。私達獣人族系の商人はそっちの山と山を縫うように作られている正規のルートにある第一の門での検問が特別に免除されているんですよ」
ド=ワンド大洞窟王国はフォトロズ大山脈地帯を挟んで西の悪名高いシャマシュ教国、北のオルゴーゥン魔族王国と隣国の関係にある。このフォトロズ大山脈地帯というのが別名【極寒の大山脈】と呼ばれる厳しい環境なため、亜人族を下等な種族と考え、支配することを当然と考える人間側のシャマシュ教国、魔族側のオルゴーゥン魔族王国のどちらも手を出せずにいるらしい。
ド=ワンド大洞窟王国を北に、ユミル自由同盟を南に、そこに緑霊の森を加えた三域が亜人族側の拠点で、第一の門は山と山を縫うように作られたフォトロズ大山脈地帯に続くルートを守護するように存在しているらしい。つまり、第一の門は越えられた前例のない極寒の山脈を越えてきた者達から国、いや亜人族を守るために存在する防衛拠点ということになるねぇ……まあ、用心に越したことはないか。
ちなみに、海上都市エナリオスは事実上の亜人族同盟には参加していない。……そもそも、海上都市エナリオスはブライトネス王国とフォルトナ王国の沖合にある島が核となっていて、一つだけルートが外れているんだよねぇ。
ド=ワンド大洞窟王国から一筆書きで行くこともできなくはないけど、一旦ブライトネス王国に戻った方が楽だから、ド=ワンド大洞窟王国での交渉が終わったら、海上都市エナリオスからフォルトナ王国に向かうルートで行く予定だよ。まあ、まずは今回の交渉の成功――後のことを考えても仕方ないんだけど。
第二の門の前には馬車が列を成している。あれ、全部獣人族……というか、ほとんど犬人族の馬車みたいだねぇ。いや、凄いな犬人族。獣人族というか、亜人族の流通を牛耳っている種族――そりゃ、妬みも受けるよねぇ。
その彼ら全て犬人族唯一の商会であるル・シアン商会のものである。そして、それは即ち、獣人族唯一の商会ということ。……まさに独占状態だねぇ。
様々な企業があってこそ、競争があって社会がより豊かになるんだよ。あんまりよろしくはない状況だけど、ボクに言えることは何もないしなぁ。
列は少しずつ進んでいき、次はボク達の番に……さあ、最初の関門や。
『見たことのない馬車だな……というか、本当に馬車なのか? 門を通りたいなら所属と目的を確認させてもらわないといけない。積荷の検めまではしないから責任者の方は降りてくるように』
「って言っているぜ。責任者は親友だろ? 頼むぜ」
「このメンバーにボク以上の適任がいないのは分かっているけど、毎回そんな役回りになっているって多分気のせいじゃないよねぇ? まあ、グダグダ言ってても仕方ないし、とっとと修羅場潜り抜けてきますか」
琉璃を肩に乗せ、カエルラと共に馬車から降りる。
まだ友好だった態度から一転、一気に敵意剥き出しにしてきたドワーフの警備隊に、ボクは微笑を浮かべつつ。
「さて、ここからどうしましょう?」
どうやってドワーフの警備隊を突破してド=ワンド大洞窟王国の国王の面会まで漕ぎ着けるか策を巡らせ始めた。
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