Act.5-78 公爵邸の夕餉にて〜変化する世界の片鱗とルヴェリオス帝国の影〜 scene.1
<一人称視点・ローザ =ラピスラズリ>
獣王決定戦の日の夜、ラピスラズリ公爵家にて――。
「ユミル自由同盟の同盟加入が決定しました。ということで、お父様にも紹介した方がいいかなってヴェルディエさんと三文長の皆様とサーレに勝手についてきたアルティナさんを連れてきたんだけど……」
当然のようにラインヴェルドとエイミーンはいるし、統括侍女のノクトと王弟バルトロメオと第一王子ヴェモンハルトと婚約者のスザンナ、王子宮筆頭のレイン、第二王子ルクシアのアーネストを除いた王宮主要メンバーが全揃いしているし……一体君達どこから湧いてきたんだろうねぇ? 特にバルトロメオ以降。エイミーンの付き添い……というより監視役及びストッパー役でミスルトウもいるけど、効果はほとんどなさそう。
ちなみに、アーネストにはドルチェを手渡してお帰り頂いた。明日から仕事がまた増えることになるだろうし、今日ぐらいゆっくりしてもらおうと思ってねぇ。
ユミル自由同盟からの参加者は、ヴェルディエ、メアレイズ、オルフェア、サーレ、アルティナの五人。そこに、ナトゥーフとオリヴィア、新しく仲間に加わったカリエンテも加わるから結構な人数になったねぇ……まだ席に余裕はあるけど。
「……食卓も賑やかになってきたわね」
「……お母様、本当に申し訳ございません」
カトレヤ、顔が引き攣っているよ……これ、本格的に席分けた方がいいかもねぇ。でも、家族全員で食卓を囲むことができないし……難しいねぇ。
ちなみに、ネストは「本当に姉さんって人脈広いなぁ」って半ば呆れながらカトレヤを気遣っている……四歳の弟に気を遣わせるって姉としてアウトだよねぇ。ソーダライト子爵家で冷遇されてきた中で、ようやくラピスラズリ公爵家という居場所を手に入れたんだから子供らしく暮らせばいいと思うんだけど……この家の環境的にそれが難しいのが本当に申し訳ないよねぇ。
ちなみに、本日の夕食はフランス料理風。カトリーヌ・ド・メディシスがヴァロワ朝のアンリ二世に輿入れした際に連れて来たイタリア料理人に起因するという説があるイタリア料理の影響を受けた近世のフランス料理風だけど、この世界ではこっちが主流。中世ヨーロッパ風といいながらもその辺りまでは拘っていないんだよねぇ……まあ、ゲームの設定上華やかさは出したかったし。
種類は至高料理に分類されるもので、前菜の豚肉のテリーヌ、ジャガイモのポタージュ、ポーチドエッグ、ステーキ、豆のサラダ、パスタ、ロック鳥のプリンという構成にしている……んだけど、それで足りないアクアとディランはボクが二人に頼まれて作ることになった『料理長の気まぐれデカ盛り定食』を追加で食べ、ロック鳥のプリンをロック鳥の鍋プリンに変更して豪快に食べていた……貴族の優雅な夕餉って一体。
『なかなか美味しいではないかッ! ナナシが気にいるのも納得がいく美味さじゃ! 主人の従魔というのも存外悪くはないな!』
『ローザさんは従魔にならなくても美味しいご飯食べさせてくれるよ? 困っている時に協力し合う友達の関係で充分じゃないかな? ボク、気儘にやっていたいし』
『ぬっ!? まさか、ナナシ。お前はローザ嬢の従魔にはなっていないのか!?』
『そうだよ? ボクとローザさんは友達だよ? それと、ボクはナナシじゃなくてナトゥーフだよ!』
「そうだよ、火竜帝さん! パパにはナトゥーフっていう立派な名前があるんだよ!」
しかし、この娘……古代竜相手でも全く物怖じしないねぇ。流石は古代竜に育てられた竜の巫女ってところかな?
「このお料理、本当に美味しいです。サーレは感服しました」
「これが人間の食文化でございますか。これをお出しくだされば、我々はもっと早く人間と同盟を結ぶことを決めましたのに」
「……なんかさらっと無かったことにしているけど、君とゴリオーラとウルフェスってボクのことを慰み者にしようとかほざいてなかったっけ?」
刹那、部屋中から湧き上がる殺気――ほぼ全員から一斉に濃厚な殺意(なお、戦いとは無縁のカトレヤからは嫌悪感の篭った視線)を向けられ、冷や汗をダラダラ垂らしていた。……喉にナイフ突きつけられるよりもキツいからねぇ、ここにいる全員から負の感情を向けられるって。多分オルフェアじゃあ、ラピスラズリ公爵家の戦闘使用人最弱のヒースを倒すのも無理だからねぇ、況してやラピスラズリ公爵家の全使用人を敵に回すなんて……。
「まあ、実際人間も似たようなことやってきた訳だし、一概に攻めるのも良くないけどねぇ。実際、獣人族を長いこと奴隷として扱ってきた人間が掌を返したように対等に接してきたら、最弱だって差別されてきた兎人族と同じように、そりゃ相手を疑うよねぇ。ある意味でボクにも非がある訳だしさ、気持ちだけ理解した上で正当防衛させてもらうよ」
償いのためにこの身を差し出す? 生憎とボクはそんな賢人的な人じゃないからねぇ。結局、可愛いのは我が身と大切な家族なんだよ。
「そういえば、オルフェアさんって目が悪いんだよねぇ? 多分近視? これ使ってみたらどうかな?」
「……それは、なんでございますか?」
「近視の人向けの眼鏡だよ。流石に「E.DEVISE」の機能はついていないけどねぇ」
「……本当によろしいのでございますか? 私は貴女に酷いことを」
「まあ、過ぎたことだからねぇ。そんな過去のことは心底どうでもいいから、その眼鏡使ってしっかり頑張ってねぇ。きっとこれまでの比じゃないくらいの仕事が降ってくるから」
「だから私は絶対に文官として働きたくないと再三言ったのでございます! ブライトネス王国と緑霊の森の代表はどっちも怖い人でございます!!」
「メアレイズ、一度やると決めたらグダグダ言わないのです。もう、私達くらいしか真面に事務処理能力を持っている獣人はいないのですから」
「君達、本当によく亜人族の通商を担えていたよね?」
「そういう商売を得意としている種族がいるのです。獣人族に脳筋しかいないという訳ではないのですが、基本的には力を持つものが政を司る種族――商売に精通している犬人族は政に決して関わろうとはせず、外貨の獲得に執念を燃やす兎人族や狐人族、サーレ達狸人族とは別の意味で異端な存在として見られてきたのです」
「そういえば、緑霊の森に来る商人はほとんどが犬人族だったな。だが、中には蛇人族や鷲人族なども居たぞ?」
エルフのプリムヴェールは緑霊の森での商取り引きを何度も見ている。それに、族長補佐の娘ということもあり、直接犬人族が商品を売り込みに来たということも結構な数あるんじゃないかな? 実際、ミスルトウはドワーフ産のミスリル製品を獣人族の商人を通じて大量購入していたみたいだし、きっとプリムヴェールにとっても身近なものだったんだろう。
「彼らもまた、戦いではなく商売に興味を持った変わり者達ばかりなのです。かつての獣人族はそうした者達が獣人族の経済を回していることをろくに理解もせず、彼らを異端として扱ってきのです。ただ、これからの時代、必要となってくるのは彼らのような頭が回る人達だとサーレは思うのです。……サーレ達はまだ犬人族と交流がありますので、明日ド=ワンド大洞窟王国への旅に同行してくれそうな案内人を紹介してもらいます。彼らならきっとローザさんの力になってくれるとサーレは確信しています」
「本当に色々とありがとうねぇ」
「本当にサーレは頼りになるっスからね! 流石、ウチの親友っス!!」
「なんでアルティナが得意げなのか、サーレには全く理解できません。それに、アルティナと親友になった記憶もサーレにはないのです」
「サーレが辛辣っス! ほら、昔、二人で一緒に妖術を極めようって誓ったじゃないっスか! あの時からウチとサーレは親友っスよね!?」
「……サーレにはそんなナイスバディの友達なんていないのです。……一人だけ成長しやがって、サーレは裏切られたのです」
どうやらサーレがアルティナを友達だと認めたくないのは体型のコンプレックスがあるからみたいだねぇ。確かにサーレは可愛い少女のような見た目で、甘ロリとかが似合いそうな見た目、対するアルティナはナイスバディのお姉さん……でも、アクアの性癖的にはサーレ一択なんだけどねぇ……あっ、アクアじゃダメだって?
別に胸の大きさとか気にしなくていいと思うんだけど、肝心なのは内面から滲み出る可愛さや美しさ、後は違う属性同士のカップリング、寧ろカップリングさせる二人のタイプが違うからこそ輝くんだよ! 例えば、アルティナとサーレとか最高だと思うけどねぇ。
「それから、カリエンテさんとエヴァンジェリンさんのことだけど、しばらくジーノさん達に任せてもいいかな? 使用人の技術をしっかりと教えてあげてもらいたいんだよねぇ。世の中、知っていて損なことはないし」
『なっ、我が使用人の真似事だと!? 我は古代竜であるぞ!!』
『私はローザ様の騎士であって使用人ではない! 謹んでお断りさせてもらう!』
「委細承知致しました。欅達の時と同様、しっかりと仕込んで見せましょう。……ところで、お嬢様の本音は別のところにあるのですよね?」
「流石ジーノさんだねぇ、よく分かっている。勿論、カリエンテさんとエヴァンジェリンさんのメイド姿みたいからだよ! この二人のメイド姿とか絶対にギャップ萌えすると思うんだよね!!!」
「……相変わらず、ブレねえよな、お前は」
ボクから言わせれば、バルトロメオも相当ブレないと思うけどねぇ。相変わらず浮名を流しまくっているんでしょう? まあ、色々と見極めて両者立場を弁えた上でひと時の夢を見せているって感じだし、別に女性を不幸にしまくっている訳じゃないから、実質ただ仕事サボりまくっているだけだから別に問題ないっちゃ問題ないんだけど(アーネストからしたら完全にアウトだろうけど)……しかし、こんな三歳の子供に唾をつけておこうなんて考えるとか、やっぱり変人だなぁ、この人も。まあ、それ以前にラインヴェルドやヴェモンハルトと同じ戦闘狂の性質を持つ真っ当とは無縁の存在だし、トラブルメイカーとしてはタチの悪いこと極まりないっていう意味でブレないから最悪なんだけど。……でも、ボクもこの人達のこういう雰囲気、嫌いになれないんだろうねぇ。
「それで、ナトゥーフさん達はこれからどうするの?」
「ボクはまた他の古代竜を探しに行こうかなって思っているよ。でも、カリエンテに会いに行って少し疲れちゃったし、しばらく人間達が神嶺オリンポスの家に戻って休もうかなって思っているけど」
「あれ? ナトゥーフの家ってドラゴネスト・マウンテンじゃねえの?」
『ラインヴェルドさんもそう思っていたんだね? あそこはボクの昼寝スポットだよ? あの草原、寝るのに最適なんだ♪』
「おっ、そうなのか? やっぱり、古代竜ともなると行動範囲も広くなるよな。俺なんて王宮の中だけだぜ?」
嘘おっしゃい。ちょくちょく王宮から脱走しているし、《転移》の魂魄の霸気を使えばそれこそどこまでだって行けるよねぇ? 実は色々なところにナイフ仕掛けて転移のネットワークを構築しているの、お姉さんよぉく知っているんだよ?
「オリヴィアも久しぶりにパパとゆっくりしたい〜」
『ということだから、しばらく休ませてもらうね』
「娘さんと楽しい時間を過ごすといいよ。そうだねぇ、ペチカさんがもうすぐ店を開くから今度二人で行ってみたらどうかな? お食事券二人分あげるからさ」
『本当にいいの? ありがとう、大切に使わせてもらうよ!』
カリエンテ連れてくるの相当大変だったと思うからねぇ。……こんなのがお礼で本当にいいのかって話だけど。
しかし、神嶺オリンポスかぁ……確か、あの山があるのって…………ルヴェリオス帝国!?
いや、そんな、まさかねぇ…………。
「ジーノさんッ! 世界地図持ってきて! 大至急!!」
「――承知致しました」
ジーノさんに地図を持ってきてもらい確認する……ボクの予想が正しければ。
「フォルトナ王国の隣国にこんな帝国あったっけ?」
「ああ、ルヴェリオス帝国だろ? 確か、皇帝が姿を見せず、宰相が皇帝の意思のままに国を運営しているっていう不気味な……ん? ルヴェリオス帝国ってどこがで……あっ、そういうことか。ローザ、これも世界変転の一種なのか?」
『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』のルヴェリオス帝国、まさかこのタイミングで関わってくるとはねぇ。
この世界は刻々と変化しているんだねぇ……なかなか変化には気づきにくいけど。……って、これって『裏切りと闇の帝国物語〜Assassins and reincarnator』の『管理者権限』手に入れるチャンスじゃない? やっぱり、ラスボスの皇帝が持っているのかな?
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




