Act.5-66 獣王決定戦開戦〜模擬戦を含めて全試合、実況の琉璃と解説の真月でお送りします〜(2) scene.1 上
<三人称全知視点>
『さて、一回戦も終わりまして、第二回戦に突入することとなりました! 獣人族の悪辣非道な策で同士討ちとなってしまいました今大会の使節団チーム――二回戦第一試合の対決は第一試合勝者のアクアさんと第二試合勝者のプリムヴェールさんの試合となります! 真月はこの試合どう見ますか?』
『ワォン! アクアさんは漆黒騎士団騎士団長のオニキスさんの転生者でその高い戦闘力とセンスを受け継いでいるよ! 純粋なパワータイプであることに加えて、毒と天使の力を得てパワー一辺倒にならないようにしているからかなり厄介だよ。プリムヴェールさんの方は月属性の魔法と月魔法を得意としていて、マナフィールドを利用した広範囲魔法と副作用のある魔法の二つを奥の手にしているよ。後者は普通の戦いなら使えない試合向けのものだけど、全力を出せる戦いならアクアさんともいい勝負になるんじゃないかな?』
アクアとプリムヴェールがフィールドに入場し、相対した。
「そういえば、前回のバトルロイヤルでは試していない対戦カードでしたね。ずっと戦いたいと思っていました――マグノーリエさんの騎士としての力、存分に見せてください! 同じ騎士として受け止めてみせます!」
「……アクア殿は漆黒騎士団団長のオニキス殿の前世を持つのでしたね。騎士としての格はアクア殿の方が上でしょうが、精一杯挑ませて頂きます!」
勝気な少年のように笑うリボンの似合うメイドと、絶世の長身美女のエルフの魔法剣士――タイプの違う二人の騎士の戦いの幕が今、切って落とされた。
「――ロマンティシズムッ! ――メガロマニアッ! ――ルナティック・エリクシールッッ!!」
開始早々仕掛けたのはプリムヴェールだった。大気中の魔力を支配する「マナフィールド」を展開し、自身の刀身に月属性の魔力を宿す効果と自身の月属性魔法攻撃の威力を上昇させる効果を付与するという月属性の特殊な付与術式を発動する。
「メガロマニア」は頭がクラクラして目が霞み、更に頭痛を引き起こすというデメリットが大きい魔法だ。それを開幕早々出し惜しみなく使ったことに驚きを隠せないアクアに、プリムヴェールは超高速で剣を突き刺して攻撃を繰り出す細剣ウェポンスキルの一つ「ヴォーパル・スラスト」を発動するとアクアに肉薄した。
「【天使之王】――天使化! 守護天使! ――慈愛の献身!!」
天使化したアクアが二つの派生スキルを発動しつつ上空へと飛翔する。
【守護天使】の効果は自分の防御力を著しく上昇させるというもので、ゲーム時代は【元のVITを30,000になるまで上昇させ、更にそのVITの合計値を三倍する】という規格外なぶっ壊れだった。その性質が現在も存在しているため、固定ダメージや防御貫通効果スキルが無ければダメージを与えられない。
【慈愛の献身】は【最初にHPを半分支払うことで光の領域内の仲間に対するダメージを全て肩代わりすると同時に毎ターンHPを小回復する】というこちらもぶっ壊れスキルだ。
【天使之王】はこうしたぶっ壊れスキルの集合体だったため、獲得には数々の関連クエストの攻略が必要となった。最終的に非常識な女子中学生を筆頭とする人外に片足を突っ込んだ者達が組んだエンジョイ勢という名の人外魔境【流星の見える丘】のクランマスターでリアルは女子中学生の丘町星歌操るフォーリンが獲得し、その化け物伝説に新たな一ページを刻み、多くのトラウマを製造した訳だが、そのスキルをセットしたフォーリンのユニークシリーズ【天宙ノ黒鎧】をローザが【万物創造】で複製――ユニーク・デストラクションと呼ばれるユニークシリーズを破棄することでスキルを取り出され、その後アクアの手に渡ったのである。
「……なんで、メガロマニアの副作用を受けていないんだ?」
「さあ……何故だと思う?」
「随分と駆け引きが上手くなったじゃねぇか! 俺はそういうの好きだけどなッ! 【劇毒之王】――毒之雲丹!」
『光を斬り裂く双魔剣』から猛毒の球が放たれ、プリムヴェールに接近すると同時に無数の針を展開して雲丹のような姿へと変わった。
猛毒の針がプリムヴェールを突き刺すが、プリムヴェールは特に毒に苦しむ様子もなく突き刺さった針を剣で切り裂き、『ムーンライト・フェアリーズ・ガーディアン』の【城塞之王】が内包するスキルの一つで防御力を大幅上昇させると、細剣を掲げ――。
「ルナティック・バースト」
月属性の魔力を圧縮し、ビームのように上空のアクアへと放った。
「【劇毒之王】――劇毒之喰竜!」
対するアクアは『光を斬り裂く双魔剣』から真紅の劇毒を解き放った。
真紅の劇毒は巨大な竜の形へと変化し、ビーム諸共プリムヴェールを飲み込まんと顎門を広げ、下降する。
「ルナティック・バースト」の月属性のビームが押し負け、真紅の劇毒の竜がプリムヴェールを飲み込んだ。
「…………残念だったな。今の私に毒は効かん!」
「おいおい、マジか……これ、無機物すら溶かすんじゃないのかよ?」
真紅の毒を被っても溶けず、「ファンタズマゴリア」で無数の小さな幽霊を放ってくるプリムヴェール。
「ルナティック・ラスト・エリクシール」とは大いなる月の加護により発動している間のあらゆる状態異常を回復、無効化し、傷を癒す月属性の回復魔法だ。ただし魔法が切れると倦怠感が身体を支配し、体の節々が痛みに襲われ、頭がクラクラして目が霞み、更に頭痛を引き起こすというデメリットが存在する。
魔法が切れた時のデメリットが恐ろしいため、魔力が少なければ発動を躊躇する魔法だが、プリムヴェールは「ロマンティシズム」の「マナフィールド」の効果でほぼ無制限に魔法を使うことができる。これが対ローザなら使用を躊躇っただろうが、相手が魔法嫌いのアクア――使っても問題がないと踏んだのだろう。
「――なかなかやるじゃないか。それじゃあ、俺も見せてやるぜ! 新たな力ってのをな!! 《黒騎士》!!」
プリムヴェールの放った幽霊が大爆発を引き起こす……が、アクアはその全てをノーダメージで防ぎ切った。しかし、それは【守護天使】の効果ではない。
「……それが、アクア殿の【再解釈】か」
「――正解だよ。俺の魂――【漆黒騎士】オニキス=コールサックの幻影、さあ止められるかな?」
漆黒騎士の形をした黒いオーラがアクアと同じ変則的な剣技の構えをした。漆黒の剣を逆手で持ち、巨大な大剣を高速で薙ぎ払う。
「ムーンライト・フォートレス! 【城塞之王】!」
咄嗟に月属性の魔力で要塞を顕現し、【城塞之王】の防御力と共にアクアが纏う巨大な漆黒騎士の斬撃を受け止めよう……として、呆気なく魔力の要塞と防御力を貫かれて闘技場の壁まで吹き飛ばされた。
「…………なんて、力だ」
「この程度、序の口だろ? さて、この力は使わなくても大丈夫そうだし、解除するか」
【天使之王】を解除したアクアは、巨大な漆黒騎士――《黒騎士》の中で口を弧に歪めた。
「魂魄の霸気――《騎士団》!」
アクアから漆黒の覇気が迸り、一体の黒い騎士が産み落とされる。
白髪の混じった黄昏色の短髪、痩せ形だが肩幅が広く、背丈もかなり大きい男をそのままシルエットにしたような黒い剣士は現れるなり弾丸のように加速――プリムヴェールに肉薄すると同時に見気を使ってようやく認識できる動体視力では到底追いつけない重い斬撃が放たれた。
「マジかよ、相棒……。あははは、とんでもない隠し球持ってたじゃねえか!」
ディランの声はプリムヴェールの耳朶を打たなかった……が、プリムヴェールはその斬撃から相対する黒い騎士の正体に気がついていた。
漆黒騎士副団長ファント=アトランタ――ディランの前世だ。
オニキスにとって、漆黒騎士団という場所は彼の魂そのものだった。アクアに転生してもその根底は変わっていない――その証明が漆黒騎士団を模した《騎士団》であり、【漆黒騎士】オニキスを模した《黒騎士》なのだ。
ディランはアクアの中に死んでしまった漆黒騎士団の者達がいるように感じた。この世界ではない、アクアとディランの前世――漆黒騎士団が全滅した彼らがアクアの中にいて、彼女を支えている……その中には。
「ただ、欲を言えば俺はお前の隣で一緒に戦いたいんだけどな」
同じ転生者として、アクアの隣には漆黒の幻影の自分ではなく自分自身が立ちたい――「あー、幻影の自分に嫉妬するとか情けねえぜ」と独り言ちたディランは気持ちを切り替えて親友の戦いに視線を戻した。
漆黒騎士を纏ったアクアが二発目の斬撃を放つ。壁に減り込んだプリムヴェールがなんとか身を起こしたタイミングで斬撃はプリムヴェールの身体に命中――そのまま両断すると思いきや。
「【城塞之王】――無敵要塞」
一度は防ぎ切れず吹き飛んだ攻撃をプリムヴェールは防ぎ切った――清々しい笑顔で。
【城塞之王】の奥の手――無敵要塞は十秒という短い時間ながら、全ての攻撃からダメージを受け付けなくなる緊急防御技だ。再使用まで二時間を有するため安易に使用に踏み切れない技だが、プリムヴェールはこのタイミングこそが使いどころだと踏み、躊躇なく発動したのである。
「この時を待っていた! ムーンフォースピラーッ! ムーンフォース・メテオラインッ! ムーンフォース・コンプレッションッッ!」
そして、この十秒という最後のチャンスをプリムヴェールは逃さない。月光の流星を降らせる戦術級魔法と月光の柱を顕現する大魔法、そして月属性の魔力で相手を押し潰す大魔法を三つ同時に発動し、アクアに集中攻撃を浴びせた。
『こ、これで決着かッ!?』
「……惜しかったな、だがそれじゃあ俺は倒せない。――これで終わりです、プリムヴェールさん!」
十秒が経過し、無敵要塞が解除されたプリムヴェールに漆黒騎士の斬撃が容赦なく襲い掛かる。
斬撃を浴びたプリムヴェールは遂にポリゴンとなって戦場から消え去った。
『今度こそ決着だ! しかし、あれだけの集中攻撃を浴びて何故アクア選手は生存できたのでしょう?』
『ワォン。アクアさんは《弱体化》と《昇華》を使ったんじゃないかな? プリムヴェールさんの魔法全てとプリムヴェールさん自身を弱体化させて、自分を何倍も昇華させたらいくら大魔法三発でも耐え切れるかもしれないよ』
しかし、だとしてもだ……あれだけの魔力を消費した大魔法をいくら弱体化させたとはいえ耐え切るアクアの魂魄の霸気と、自らの魂を信じるアクアの絶対の自信。
大気中から消失した魔力の総量を知っている真月は内心、アクアの度胸に戦慄していた。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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