Act.5-60 獣王決定戦開戦〜模擬戦を含めて全試合、実況の琉璃と解説の真月でお送りします〜 scene.1 下
<一人称視点・アネモネ>
『あまり私を見縊るな! 暗黒戦乙女の翼!』
おっと、パターンを変えてきたみたいだねぇ。これは、ボクとの戦闘で使わなかった技……漆黒の翼を広げて無数の羽を飛ばす攻撃かぁ。
『――大樹ノ壁』
武装闘気を纏わせた壁を展開して無数の羽を防いだ……防御に転じたのを見てエヴァンジェリンは攻撃を防いだ欅が本物だと確信したみたいだねぇ。
『漆黒無双右太刀・黒刃連刺突』
連続攻撃で壁を破壊して……と思ったみたいだけど、武装闘気に阻まれてなかなかダメージを与えられないみたいだねぇ。
『『『『『――星砕ノ木刀』』』』』
木の繊維を凝縮し、真剣とも張り合え、身体を突けば貫通させるほどの超強力な木刀を作り上げる七星侍女の奥義だねぇ。それを五つ――五方向から同時攻撃……これで終わりかな?
『――漆黒無双右太刀・黒刃回転斬』
……へぇ、漆黒の靄のようなものを纏わせた右の剣で円状に周囲を切り裂く技か……ちゃんと持っているじゃん。
ここまで出さなかったのはあえて切り札を隠すためかな?
『おおっと! ここへ来て範囲攻撃だ! エヴァンジェリン選手の攻撃が――通用しない!! 武装闘気を纏わせた剣で全て防がれています。更に斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃ィ! 致命傷だ! エヴァンジェリン選手、なんとか立ち上がる、しかし足元が覚束ない! 目に血が入ったか! 視界も効かないようだ!!』
たった一人の分身も道連れにできず、全員から反撃を食らったエヴァンジェリン――しかも、目に血が入って視界不良か。まあ、不利な相手に十分頑張ったよねぇ……。
『――蔓鞭ノ乱打!』
そこに、壁の上に飛び上がった欅が武装闘気を纏わせた蔓の鞭を連続で振るい攻撃を仕掛ける……エヴァンジェリンは為す術なく攻撃を受け続け、トドメに欅の一人が木刀を突き刺して絶命させた。
『――決着だ!! 解説の真月君、ここまでの戦いを振り返ってどうでしたか?』
『ワォン? 仮にあそこの六人を倒せていてもエヴァンジェリンさんに勝ち目は無かったよ? あの六人が六人とも偽物で、地面の中に本物の欅さんが隠れていることに気づけなかった時点で負けが確定したと思うよ。魔力を追えば地面の中に潜んでいることは分かる筈だから、エヴァンジェリンさんには魔力探知や搦め手に対する戦い方を覚えてもらいたいな。きっともっと強くなると真月は思う』
『的確な解説ありがとうございました! さて、お二人もご帰還されましたのでご主人様のフィールドで死亡しないことも分かっていただけだでしょう。それでは選手の皆様に素晴らしい戦いを期待して――第一回戦開幕です! 第一試合はリボンの似合うメイド、アクアさんvsブライトネス王国大臣のディラン=ヴァルグファウトス公爵、親友対決です! 全く持って悪意しか感じない対戦カードその一ですが、同時にどちらが強いか気になる対戦カード! さて、どちらが勝つのでしょう!! 真月、楽しみですね!』
『――ワォン!!』
◆
<三人称全知視点>
「まさか、一回戦が俺と相棒の対決になるとはな。いや、俺もどこかで当たるとは思っていたけどさ……こんなに早く当たるとは思わないじゃん。まあ、別にいいけど……今回の獣王決定戦、親友の優勝で決定だろ?」
「でしょうね。……お嬢様が本気を出す状況をよりにもよって獣人族は作ってしまった。まあ、元々参加する以上は優勝狙いに行くつもりで参加しているのですけどね。……さて、ディラン。遠慮は要らない――漆黒騎士団隊長、副隊長対決だ。白黒はっきりつけようぜ!」
「バトルロイヤルでは避けたけど、こうなったら仕方ないよな。俺も黙って負けるつもりはねえ! 白黒はっきりつけようぜ、親友!!」
アクアの光を斬り裂く双魔剣とディランの闇を斬り裂く真魔剣が武装闘気と覇道の霸気が纏った瞬間――アクアは双剣を逆手で構えてスカートが白い太腿が見えるほど捲れ上がることも構わず足元の土を抉るほどの瞬発力で弾丸のように前方へ飛び出し、ディランは常人では残像すら捉えられない速く重い斬撃を放って迎え撃った。
黒い雷が迸り、空間にヒビが入るほどの激しい衝撃が剣と剣がぶつかる度に発せられる。
「やっぱり、「L.ドメイン」を展開しておいて良かったねぇ。もし、通常の闘技場でやっていたら今ので半壊していたんじゃない?」
「…………それほどなのかのぉ。覇道の霸気の力というのは」
「流石にレイドボスと人間の戦力差を埋めるほどの力はない。でも、闘気使い同士なら霸気を解放している方が勝つ……ただ、この後のプリムヴェールさんとマグノーリエさんの戦いに関しては霸気で優劣がつくと簡単に断じちゃいけないと思うけどねぇ。――前回、迷宮攻略の後にさらっと実践して教えた闘気の使い方、ある程度は習得できたでしょう? それなら、覇道の霸気の恐ろしさも分かるんじゃないかな?」
「確かに、ようやく武装闘気と治癒闘気、見気の一部は使えるようになってきたが、これが魔力操作でもない身体能力の派生だと思うと、とんでもない力じゃな。勁と闘気には通じるところもあって相性もいい、これなら去年の儂なら瞬殺できるじゃろう。……それでも、霸気は未知の領域じゃが」
「……ところで、ローザさんはなんで私が二日間の間に霸気を習得したの知っているのですか?」
「なんで、って別に見気を使った訳じゃないよ? ただ、真面目なマグノーリエさんならこの二日間で是が非でも霸気を習得してくると思っていたし、マグノーリエさん以上に真面目なプリムヴェールさんなら霸気というハンデを埋められるように新しい力を得てくると確信していたからねぇ。まあ、その言質が取れたのは良かったけど」
「――なっ! まさか、鎌をかけたのですか? ……まあ、ローザさんですからね。私も大して困ることでもありませんし」
ちなみに、マグノーリエはローザの魂魄の霸気の効果をすっかり忘れていて、親友のプリムヴェールと本気で戦うつもりのようだ。まあ、仮に分かっていても彼女の性格的に絶対に手加減して戦うなんてことはしないのだろうが。
「やっぱり強えな! 幼女の身体……と、十六歳の少女の細腕でよくそんな馬鹿力出せるぜ……」
「……この身体じゃ、やっぱりディランにダメージを与えられないか。今の俺じゃ、全盛期のオニキスに勝てないのと同じで本気で打ち合ったらファントと同等の身体能力のディランに勝てる訳がないよな。それじゃあ、ここからはお嬢様からもらったギフトの力使わせてもらうぜ! 【劇毒之王】――猛毒八岐蛇!」
「はっ、マジかよ!! 魂魄の霸気――《影の世界》!!」
咄嗟に《影の世界》を発動して、影の中に溶けるようにして消えるディラン。
その後を追うように九つの毒の竜の首も影の中へと潜り込もうとするが、影はその前に消え去ってただの地面となった。
「……やっぱり対策してくるよなぁ。それじゃあ、猛毒之沼」
光を斬り裂く双魔剣から猛毒の液体が吹き出し、地面を侵食していく。
あっという間に戦場が毒に覆われてしまった。
『おっと、アクア選手が戦場を毒のエリアにしてしまった! これではディラン選手は影の外に出られないか!? しかし、アクア選手は毒の中でも平気なのか!!』
『ワォン! 【劇毒之王】には劇毒無効化のスキルが組み込まれているよ! 今使っているのは猛毒だけど、これより一段階上の劇毒も無効化できるんだよ!』
『えっ……確かに、手元の資料によると、アクア選手は完全毒無効化能力を手にしているようですね。しかし、こうなるとディランはキツいか』
『ワォン? 寧ろここからだよ? ディランさんがそんな簡単に負ける訳ない、ここからどうなるか注目だね!』
『ったく、やってくれるぜ親友。……早速奥の手を一つ使わないといけないじゃん、これ。《影の錐塔》!』
地面に無数の影が生まれると同時に、その影が一斉に噴き上がってあっという間に尖った無数の影の塔を作り出す。
「――ッ! 【天使之王】――天使化!!」
咄嗟に【天使之王】を発動して天使化し、純白の翼で飛翔することで影の塔の鋭い先端に串刺しにされるのを回避するアクア。
「おおっと、【天使之王】があるんだったな。まあ、これで互いに空中戦ができるって訳だ――優雅に空の剣舞と洒落込もうぜ!」
「空はお前の独壇場じゃねえぜ!」と言わんばかりに塔の一つを砕き、漆黒の翼姿を見せるディラン。
影の派生系の一つ――《影の翼》だ。
「天軍降臨――七武の天使! 天使の加護!」
片手剣、盾と槍、弓、両手斧、戦鎚、鞭、杖を持った七体の天使が光から生み出された。
更に天使化したアクアを光が包み込み、アクア自身に聖属性が付与される。
「――《影撃部隊》!」
ディランの翳した右手から影が溢れ出し、瞬く間にアクアが生み出したのと同じ天使の形をした影が姿を現す。
ディランの奥の手の一つ、《影撃部隊》は相手と武器までそっくりの影の軍隊を生み出すという強力無比なものだ。多勢というもっとも古典的で厄介な力をたった一手で無力化することができ、かつその戦力もハリボテではないためちゃんと戦力に数えることができる。
片手剣を持った剣士天使と、片手剣を持った影天使が、盾と槍を持った騎士天使と盾と槍を持った影天使が、弓を構え光の矢を番えた弓使い天使と弓を構え影の矢を番えた影天使が、両手斧を構えた斧使い天使と、両手斧を構えた影天使が、戦鎚を構えた鎚使い天使と、戦鎚を構えた影天使が、鞭を構えた鞭天使と、鞭を構えた影天使が、杖を構えた僧侶天使と、杖を構えた影天使が互いを倒さんと空中で死闘を開始する中、天使の翼を羽搏かせたアクアと影の翼を羽搏かせたディランが激突した。
「【劇毒之王】――猛毒之纏剣!」
「魂魄の霸気――《影の甲冑》!」
光を斬り裂く双魔剣に猛毒を纏わせ、毒による追加ダメージを狙うアクアに対し、ディランは影を変化させた甲冑を身に纏うことで応戦した。
漆黒に覆われたディランは猛毒を物ともせず、影を纏わせた闇を斬り裂く真魔剣で次々と重い斬撃を放ってくる。
「……凄いな、ディラン。こんな力を隠し持っていたんだな!」
「水臭えぜ、親友! 天使召喚とかそんなチートみたいな力があったなんてなんで教えてくれなかったんだ!」
「それはこっちの台詞だよ。なんだよ、あの影の天使――光系の技こそ使えないけど、俺の天使と互角に渡り合っているじゃないか」
「ああ、あれか。あれって、実は魂魄の霸気の【拡大解釈】なんだぜ? 影ってのは俺達みたいな実体ある存在に付き従う存在だ。そこで発想を逆転させると影とは影の世界にいるもう一人の自分ってことになるよな? 俺の力はその影の複製ってことになる。別に相手の影を奪うって訳じゃない。ただ、相手と全く同じスペックの影を作り出すってだけだ。……まあ、全く同じ動きをするってだけで属性そのものは影のまままだけどな。全く同じとはいかないが、なかなか厄介だろ?」
『おっと、ここでディラン選手の奥の手が判明しました! この力、解説の真月君はどう見ますか?』
『ワォン。かなり厄介な力だよ? 相手の影を奪い、その人が光に当たると溶けるように消滅してしまうみたいな追加効果を持つ影使いがご主人様の読んだ作品の中にいるみたいなんだけど、これにはそういう相手の命を握れるような力がない代わりに相手と同等のスペックを持つ影を大量に作り出すことができると思うよ。……これって数の力じゃかなり厄介な力だよね』
実際、アクアの呼び出した天使とディランの影天使は全く同じ程度のダメージを負っていた。このまま戦えば同士討ちになり、アクアとディランの影天使は二体同時に全て命を散らすことになるだろう。
現在は拮抗した状態だが、もし仮にここで均衡が崩れれば――そうなればアクアは一気に不利になる。
「流石に同じ影を二体複製はできないぜ? 今はな……さて、このままどんどん攻めさせてもらうぜ!! 【幻影・霧雲影】! 【積嵐雲】! 【虹柱】!!」
『雲外大臣のスリーピース・アンド・ローブ』の二つのスキルを発動し、生み出した霧から自身の分身を作り出すスキルで三体の分身を作り出しつつ、落雷を発生させる黒い嵐の雲を展開すると、『闇を斬り裂く真魔剣』から質量を持つ虹の柱を何本もアクアに向かって伸ばした。
「――ッ! 【劇毒之王】――劇毒八岐蛇!」
アクアの毒が真紅に染まる。無機物すら汚染し侵食する【劇毒之王】本来の毒は瞬く間に無機物の虹を飲み込み、無力化するが……。
「おいおい、マジか。……その影って劇毒すら無効化するのかよ」
「これは影なんだぜ? 影が実体を持っている訳がないだろ? だから影を纏っている俺に毒は通用しないんだぜ?」
「ん? どういうことだ……影は実体を持たなくて、でも実際に影を纏って毒を防いでいて…………ん? んん? んんん?」
そこでアクアの思考回路は完全にショートした。
「まあいい、結局殴ってボコボコにすりゃいいだけだろ? 【透明化】! 【超加速】! 魂魄の霸気――《弱体化》! 《昇華》!」
色々と吹っ切れたアクアは【拡大解釈】によって変化した《強化》の効果によって得た正の強化《昇華》と不の強化《弱体化》の力を同時に使い、ディランとディランが纏う影を弱体化・脆弱化させるとアクアは最大まで強化した身体能力で容姿なく影ごと叩き切った。
アクアの召喚した天使とディランの影から生まれた天使が共に落下していく中、気絶したディランが急降下し、空中でポリゴンとなって消えていった。
「うん、結局細かいことを考えず力で殴れば良かったってことだな」
ディランにもし意識があれば「流石は親友だぜ……」と、妙に納得しそうな言葉を残したであろう。
アクアはそのまま元の闘技場に戻ってきた。
『第一回戦第一試合、勝者はアクア選手です!! それでは続いて第二試合、プリムヴェール選手とマグノーリエ選手は闘技場中央にお集まりください!』
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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