Act.5-51 夕刻、公爵邸の訪問者達 scene.1 上
<一人称視点・リーリエ>
もう一つの小部屋に移動し、真紅の魔法陣の上に乗る。別に神代の魔法が手に入るとか、迷宮製作者のメッセージが聞けるとかではないみたいだねぇ……ってか、これって自然発生した迷宮の筈だから作成者なんていたら、『管理者権限』を保有する容疑者が増えることになるし、そもそも『管理者権限』の保有者がわざわざメッセージを残す理由が分からないからねぇ。
真紅の魔法陣はこの迷宮の管理システムのようなものだった。
エヴァンジェリン曰く、『このシステムで魔物が出現する範囲を選択することができる』らしい。魔物そのものを生み出さないようにすることはできないけど、魔物が迷宮外に出ないように調整することはできるみたいだねぇ。つまり、獣人族が困っているスタンピードを防げるようになるってこと。
高難易度大迷宮はこれまで通り存続することになる。討伐したエリアボスの報酬は総合してこの最下層の魔法陣で受け取ることも可能で、これからはその財宝を得ようと一獲千金を目指す人も種族問わず出てくることになるだろうけど、迷宮内で死ぬのは自己責任――スタンピードを止めるという大義名分の無くなった二回目以降の挑戦では間違いなくその風潮が高まっていくことになるだろうねぇ。
その後、アネモネにアカウントを切り替えてから、ボク達は『管理者権限・全移動』でリルディナ樹海に戻ってきた。……あっという間に夕刻になっていたみたいだねぇ。まあ、昼食は『飛空挺インヴィンシブル・ジッリョネーロ』の中で食べたから食い逸れたってことは無かったけどさ。
急に現れたボク達に驚いているみたいだけとわ
「さて、儂は迷宮の報告を……」
「ふと思ったんだけど、それって明日でいいんじゃないかな? 族長衆も今日の今日で迷宮探索が終わるとは思っていないだろうし、夜遅くに召集するのも大変でしょう? それに、全員夕食を終えていないし、ヴェルディエさんも折角だからうちに食べに来たらどうかな? ボク達が何故香辛料を求めていたのか、その理由も分かるような料理を提供させてもらうつもりだし……それに、なんだか嫌な予感がするんだよねぇ。丁度いいんじゃないかな?」
「いや、なんで嫌な予感がするのが丁度いいということになるのじゃ?」
「要するに城を抜け出したクソ陛下とかが屋敷に来ているんじゃないかって話だろ? ってか、相性的に大丈夫か? エルフの族長さんもうちの陛下と一緒でいい性格しているけど、ヴェルディエさんってどう考えても真面目キャラじゃん。相性悪いんじゃねぇの?」
「…………うちの母がすみません」
「エイミーン様は、確かにそういう方だからな。否定はできない」
一気に謝罪ムードになる二人だけど、どう考えても悪いのは徹頭徹尾エイミーンだよね? 寧ろ、よくあんな母親から生まれてここまでまっすぐ育ったよ、マグノーリエ。あの親ならグレても仕方ないって。
「確かに、族長は未だ決まっていないが、最早ローザ嬢の優勝は決定じゃろ? それなら、先に人間族……いや、人間の総意という訳ではないからブライトネス王国というべきか? その代表者と一度会っておくべきではあるじゃろうな。折角のお誘いじゃ、ありがたく受けるとしよう」
「……どう考えてもブライトネス王国の代表者は目の前のローザお嬢様だと思います。というか、最早ローザお嬢様がブライトネス王国の影の支配者ですわよね?」
「全く、人聞きの悪いことを言わないでよ、アクアさん? ……シバいたろか?」
「お嬢様、目が全然笑っておりませんわ、オホホホホ。いいだろう、お嬢様がその気ならその美しい顔をボコボコにしてやろう! ヒース殴りと漆黒騎士団時代の鉄拳制裁で培ったこの拳の恐ろしさ、見せてやる!!」
アクアと成り行きで喧嘩になった……マグノーリエがあわあわし出して、プリムヴェールが「相変わらず脳筋な奴らだ」と自分のことは棚に上げて溜息を吐き、ディランが「うん、相棒はやっぱり相棒だな」と嬉しそうに笑い、真月と琉璃が本心で心配そうに行く末を見守り、エヴァンジェリンとヴェルディエが「はっ?」と固まる中、ボクとアクアは熾烈な殴り合いを繰り広げ、結果的に二人ともボロボロになった。ふう、久々に暴れたよ。高槻さんと殴り合った時並みに楽しかった。
まあ、軽い運動も終えたところで(流石にそういう認識だって言ったらプリムヴェール達も絶句しそうだけど)、神水を一本アクアに手渡しつつ自分も飲んで傷を癒すと屋敷に『管理者権限・全移動』で転移した。
そしたら、案の定嫌な予感が的中してお客様が来ていた。
「お邪魔しているのですよぉ〜」
「すまない、ローザ嬢。……エイミーン様を止められなかった」
どうやら、エイミーンとミスルトウの二人はラインヴェルド達と細かい話を詰めるためにブライトネス王国に来ていたらしい。で、ついでに夜にラピスラズリ邸にボク達が帰ってくるから最愛の娘の顔を見つつ、美味しい料理をご相伴に預かろうと……ねぇ、マグノーリエの顔を見に来たのがメインだよね? 料理がメインじゃ、ないよね?
「お母様が、大変ご迷惑をお掛けしました」
「マグノーリエ様がお謝りになることではありませんよ。これも族長補佐の仕事ですから……それに、私も一人ではないことが分かったので大丈夫です」
ちなみに、他のメンバーはラインヴェルドことクソ陛下(もう、逆転させた方が正しい気がする)と王弟バルトロメオ、保護者枠で統括侍女のノクトと宰相アーネスト……あっ、ミスルトウの仲間ってそこでボロ雑巾になっているアーネストねぇ。……しかし、王宮って本当にブラック企業だよねぇ、夜くらい最愛の妻とイチャラブさせてあげなよ。あの二人っておしどり夫婦として有名だし……うちと張るくらいにねぇ。乙女ゲームのシナリオ的にはないと思うけど、もう一人か二人くらい産まれてもおかしくないんじゃないかな? まあ、それでも当主はネストが継ぐことになると思うけど。産まれた子に【血塗れ公爵】としての高い素質があったら別だけどねぇ。うちの継承順位って生まれた順じゃなくて、素質で決まるみたいだし。
お母様も流石に慣れたのか、笑顔を張り付かせながら我関せず料理を優雅に食している。陛下達の幻想が打ち砕かれて以来(猫被りをやめただけで最初からこんな感じ)、露骨にお関わりになりたくなさそうにしているからねぇ。まあ、それが常識人の正しい判断なんだけど――こいつら、どう見ても狂人だし、常識人じゃついていけないって。
スパイスをふんだんに使ったカレーを一品追加して食卓に並べたらお母様が「また、ローザの美味しい料理を食べられるのね」と涙目を浮かべながら嬉しがった……どれだけ楽しみにしていたの!? ってか、公爵夫人として公爵令嬢である娘が調理場に立つのはありなの!? あっ、何を今更って話なのか。
「それでは、私は席を外しますわね」
空気を読んだカトレヤが食事を終えるとメイド長のヘレナを伴って自室に戻った。
ラピスラズリ公爵家が【ブライトネス王家の裏の剣】であることを知らないカトレヤだけど、この後にする話に首を突っ込んではいけないことはなんとなく承知しているみたいだねぇ。
「それで、毎回どっか行く度に色々と増えているみたいだが、勿論紹介してくれるよな!」
「まあ、そういうと思ったよ。まずは原初魔法、法術、白魔法などと呼ばれている技術の最上位能力の一つ精霊顕在化で顕在化させた水の精霊の琉璃。ボクの影の中にいて現在爆睡中なのが闇と影と重力の三属性からなる魔法を実体化させて命を与えることで生まれた真月。二人は大いなる業っていう、銀霊によって引き起こされる『奇跡』の一つ、『名付け』によって物質的存在となった存在だよ。形成の書[セーフェル・イェツィラー/סֵפֶר יְצִירָה]が世界を作る設計図だとして、銀霊は世界創造の素材、大いなる業は世界創造という作業を指すという仮説も立てられるくらいとんでもない力だよ。あらゆる概念を構築・創造する力と考えれば分かりやすいんじゃないか?」
「つまり、ローザの考えだと銀霊からこの世界も、お前の前世が生きていた虚像の地球とやらも作られているってことになるのか?」
「流石に全てのオムニバースの全ての世界が銀霊から作られているって訳じゃないと思うけど、この世界と虚像の地球は同じカテゴリーだから可能性は高いだろうねぇ」
まあ、色々と考察は立てられるけど、銀霊がどこから来て、どこへ行くのかとか今はあんまり関係ないからねぇ。考察はまたの機会があれば。
「で、最後がボク達が挑戦した高難易度大迷宮の元迷宮統括者で使役して従魔になったエヴァンジェリン・γ・ラビュリントさん」
『『『『『『『従魔!? しかも……金髪の美女のお姉さん!?』』』』』』』
『……まさか、お姉様はその人みたいなタイプが好み…………私達はもう用済み、なのですか? 御祓箱、なのですか? お姉様は私達に興味がなくなってしまったの、ですか?』
いや、そんな潤々した目で見つめられても……しかも、ラインヴェルド達にそろってジト目を向けられるし。ノクトのジト目が一番心にグサグサくるな。
「そんな訳ないでしょ! 欅も梛も櫁も椛も槭も楪も櫻も、みんな好きだし、大切だよ。そもそもボクは中途半端は嫌いだし、目移りして乗り換えるとかそういう優柔不断なことは絶対しない。……まあ、今回は事情があってねぇ。迷宮統括者って、ボクがデザインしたレイドボスじゃないから色々情報を集めたかったんだよ。勿論、中途半端なことはしない……責任を持って面倒をって、ペットでもないから必要ないとは思うけど、ボクの元に来たことを後悔させはしないよ」
「そういや、高難易度大迷宮にチャレンジしたんだったな。なんで、俺抜きでそんなクソ面白いことやっているんだよ! よし、ローザ! 次は俺も連れていけ! そして、クソ暴れるぞ!!」
おい、ラインヴェルド、隣見てみろよ。統括侍女のノクトが物凄い嫌そうな顔をしているぞ……って、自分がクソ面白ければ周りはどうなってもいいっていうラインヴェルドだからノクトに負担が掛かったり、国王の職務に支障が出ても高難易度大迷宮を強行するんだろうねぇ。
「まあ、そこのヒゲ殿下……じゃなかった、バルトロメオ殿下も迷宮探索したそうにうずうずしているし、王宮の仕事が少ない時にでも行こうか。使節団の休みの日と重なる日にねぇ。で、本題はここからなんだけど、陛下とエイミーンさん……って、二人は碌に働かないから、アーネストさんとミスルトウさんの二人に是非とも聞いてもらいたい話があるんだよねぇ。今から時間を少しもらえないかな?」
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