Act.5-38 使節団の再始動〜ブライトネス王国発、ユミル自由同盟行き〜 scene.9
<一人称視点・ラナンキュラス>
「なるほど……空間跳躍、座標指定、透過能力を空間魔法で付与して、相手を起点に魔法を発動したってことか。……とんでもないことをするなぁ、ミーフィリアさんは。それが奥の手かな?」
「なかなか面白い魔法だろう? 距離という横の隔たりを超えて必ず攻撃を命中させる魔法……しかし、私の戦術級魔法を平然と耐え切られてしまうとは……悲しくなってくるな」
策は良かった……けど、「夜魔の女王の息吹」ではボクを倒せるほどの威力は出せなかったみたいだねぇ。
「――だが、これで繋いだ」
援護歌の不協和音に顔を苦痛で歪めながら、ミーフィリアが笑った。
と、同時に背後から出現するレミュア――その背後には「空間魔法-ゲート-」で作られた横の隔たりを超える白い円形の窓。
「焔獄孤空連斬」
魔法剣に宿した焔を孤月状の斬撃として連続で放ってくるレミュア――発想はいいけど、それじゃあボクは止められない!
「グレートマエストロ・エコー!」
吟遊詩人系三次元職の吟遊詩仙が習得する奥義を発動し、ボクの『妖刀・紅月影』に纏わせたのは焔――技の名は「焔獄孤空連斬」。
三十秒以内に対象とした存在が使用した特技をコピーし、発動するという強力無比な力。特に、レイドボス戦ではレイドボスが発動した特技をそのままコピーして放つことができる……まあ、攻撃力はプレイヤー依存だから通常は攻撃力がただ下がるんだけど……。
「そんな…………私が私の技で……」
今回は元々のステータスに加えてステータスを上昇させる特技を使っておいたおかけでレミュアの攻撃力を上回って撃破に成功した。
まあ、具体的にはレミュアの斬撃を全てボクの斬撃で突破した上で炎の魔法剣でトドメを刺したんだけど。
「今のは……レミュアの魔法剣をコピーしたのか? 指輪無しで魔法剣を発動した?」
「グレートマエストロ・エコーは吟遊詩仙が習得する奥義でねぇ。三十秒以内に対象とした存在が使用した特技をコピーし、発動することができるんだよ。ボクが対象としたのはレミュアさん――だから、魔法剣をコピーしてそのまま使えたんだよねぇ。基本的なイメージは仲間の特技をコピーして追撃を仕掛けるってものなんだけど、攻撃回数を増やすなら吟遊詩仙が習得するリピートプレイイングで対象が行った行動をもう一度リピートさせる特技で再使用規制時間を無視した状態で殺戮者の一太刀を使わせればいいからねぇ。……あっ、メトロノームヘイストを使えば良かったねぇ」
吟遊帝が取得する特技の一つを発動して、使用済み特技の再使用規制時間タイマーを加速させる。
これで、長期戦になればこれまで使用した特技が復活して再び使えるようになるねぇ。
「雷竜の鍵爪の剣!」
効果時間が終了して消えた「火竜の鍵爪の剣」に変わって、今度は低級の雷竜(東洋風の竜であって、西洋風のドラゴンの姿はしていない)を『妖刀・紅月影』に纏わせる特技を発動――そのまま「空間魔法-リアル・ディスタンス・ディスターブ-」でミーフィリアとの物理的距離を詰める。
「グランドフィナーレ」
吟遊詩人系二次元職の吟遊詩聖が習得する奥義で、全吟遊詩人系特技の中では最大の攻撃力を誇る武器攻撃技を発動し、大振りの斬撃を放った。
バットステータスが付与されているとさらにダメージが上昇するんだけど、まあ無い物ねだりをしても仕方ないよねぇ。
ミーフィリアは最後に大技を仕掛けてくるつもりだったみたいだけど、その前に先手を打って倒した。まあ、狙っていたのも「水伯の女王の吐息」と空間魔法の組み合わせだったみたいだから問題はないよねぇ? ミーフィリアの新しい力――空間魔法のお披露目はもう終わっているし。
◆
「なかなか興味深い魔法だったねぇ。色々と勉強させてもらったよ」
「こちらこそ、物理的距離と感覚的な距離を操る空間魔法には驚かされた……それ以外の力はとても真似できるものではないがな。よろしければ、術式を教えてもらえないだろうか?」
「勿論、ボクも色々と応用させてもらうつもりだからねぇ。誘ってくれてありがとうねぇ」
「こちらこそ、ありがとう」
一方、ディルグレン、ダールムント、ジェシカ、レミュア、プリムヴェール、マグノーリエの六人はボク達の方を見てげんなりしていて、アクアとディランはキラキラとした目でこっちを見ていた(意訳、戦いたそうにこちらを見ていた)……つくづく戦闘狂だねぇ、二人は。
「まあ、ディルグレンさん達の言いたいことは分かるよ。この世界には大きく分けて二つの種族がいる。戦闘狂と、そうではないその他諸々だねぇ……後は人を振り回す者と振り回される者……こっちの二分もできるか」
「……ローザさんは戦闘狂で人を振り回す方だな」
「お母様やアクアさん、ディランさん……それから、ラインヴェルド陛下、バルトロメオ殿下、ヴェモンハルト殿下、スザンナさん、ミーフィリアさんもどちらかと言えば戦闘狂ですよね? そういえば、全員に人を振り回すところが大なり小なりあるような……」
「プリムヴェールさんとマグノーリエさんが酷い……どう考えても俺は真面だろ? 振り回してないし、戦闘狂でもない。逃亡癖の大臣の方が振り回しているよな?」
「俺が振り回す方ならぼんやりでうっかりの親友も人を振り回すところはあったし、漆黒騎士団のメンバーは大なり小なりバトルマニアなところはあっただろ? というか、そんなことを言い出したらプリムヴェールさんとマグノーリエさんはあんまり振り回されていない方だし、バトルロイヤルも今回の使節団も断れば済む話だったろう? 振り回されるのはどう考えても宰相だけだろ?」
「……分かっているならその逃亡癖を少しは改めるべきだと思うけどねぇ」
「いや、だってつまらないし、アクアと一緒にいられないの辛いんだぜ?」
「それならアクアを連れて行けばいいんじゃないかな? 半分専属メイドみたいな感じだし……」
「ローザお嬢様、私が座学が苦手なのご存知ですわよね? 字を書くのも下手ですし、頭脳労働も苦手ですわ。それよりも身体を動かせたいのです」
「……ダメだ、この大人達」
まあ、こんな奴ばっか集めているからアーネストの胃に穴が開きかけているんだよねぇ。
「私も心外だと思うよ。私はアイツらと違って常識人だ」
「一人だけ自分は関係ないみたいな顔をするのはやめてもらいたいねぇ。ミーフィリアさんも程度はどうであれ、いい意味でラインヴェルド陛下のお友達だと思うよ? そもそもゲストであれなんであれ、あそこに呼ばれた人は皆同類だって」
「……つまり、それはローザ嬢も、ということだな」
「……否定はしないよ」
否定したいけどねぇ……いくら産みの親でも流石にあそこまでクソじゃないって。
「それで、ローザ嬢達はこれからどうするのだ? 行程としてはシャンタブルズム山脈を越えてノルグの村に降り、ゴルジュ大峡谷を越えてユミル自由同盟に入るつもりなのだろうが」
「とりあえず、ある程度進んだら『管理者権限・全移動』で一旦ラピスラズリ公爵邸に戻るつもりだよ。ディルグレンさん達は一旦下山だねぇ」
「まあ、そうなるな。受けた依頼は全部こなしてあるし、依頼の報告に行ってからは……まあ、しばらくはここをホームに活動させてもらう。こっちの方が王都より旨味があるからな」
『聖精のロンド』の他のメンバーも同意見みたいだねぇ。
「ミーフィリアさんのところには陛下のナイフがあるから転移は可能だし、ここに居てくれた方が楽だねぇ。……あっ、『妖精の輪』を持っておいた方がいい? 希少アイテムだけどまだまだ沢山あるからねぇ」
「本当にどんなものでも持っているな……何故そんなに沢山持っているんだ?」
「何故って習性? ほら、なんとなく貧乏性でさ……もしかしたら使えるかもってついつい取って置いちゃうからねぇ。まあ、ゴミ屋敷になる人と同じ類だけど、ボクはいらないと思ったものはきっちり捨てられるし、綺麗好きだけどねぇ。まあ、現実では「四次元顕現」、ゲームでも大概アイテム保有可能量を上昇させるアイテムがあったら溜め込む癖があっても問題無かったんだけど……正直使えるものは使うべきだと思うしいいんじゃないかな?」
「……ローザさんって現世は公爵令嬢、前世はお金持ちですよね?」
「マグノーリエさんの言う通りだけど、元々は平民の成金だからねぇ。元々お家柄だけよろしくて、両親が金持ちだから金持ちになったっていう由緒正しい御曹司、御令嬢にとっては反吐が出るような存在だと思うけどねぇ」
「言外に物凄くディスっているよな? お金持ちの家に生まれた子供はお金持ちになり、政治を司ってきた家の子供は政治を司るようになり……そうやって、どんどん腐敗していくって奴。……まさに、お貴族様じゃねえか?」
「まあ、そういうのがいるのも確かだけどねぇ。そればかりじゃないとは思うよ……でも、そういった自分の力だけで得たものじゃないものを誇示して、持たざる者を見下す者は大勢いる。古今東西、驕った為政者は最下級の者達に成り上がられてきたんだけどねぇ……まあ、それでも大倭秋津洲帝国連邦の政治家に比べたらマシだと思うけど。金も権力も持っている……それなのに、いつまでもボクらが横暴に黙っている訳がないよねぇ。堪忍袋の尾が切れたらどうなるかぐらい赤子でも分かるだろうにねぇ」
アクア、ディラン、ミーフィリアは同意しているみたいで頷いている。マグノーリエとプリムヴェールは少し怯えているけど、まあ、ボクの言っていることを理解できるっていう感じだねぇ。本日初対面組は完全に怯えて借りてきた猫のように震えている。
「そうだねぇ……依頼の報告もあるし、実験したいこともあるから明日は休暇にしようか? ボクもミーフィリアさんに触発されて戦力強化したくなったしねぇ。そうだ、ミーフィリアさんって【大魔法の難題】に興味はないかな? 自分のものではない属性の魔法をそこまで使いこなせるようになっているなら、その資格はあると思うようなんだよねぇ!」
「【大魔法の難題】だと!? ローザ嬢にも解けていない問題かッ!? 教えてくれ!!」
が、がっつき過ぎ……ほら、お弟子さんもドン引きだよ!!
「ボクはあんまり大真面目に挑戦していない問題だけどねぇ……今後必要に迫られたらチャレンジしてみようかなって思っているけど、相当難しいし。なんたって、魔法少女や魔法使いが住まう法儀賢國フォン・デ・シアコルの八賢人の一人と、神界の天使と悪魔が手を組んでも未だに答えが見つかっていない問題だからねぇ、その難しさは折り紙付きだよ?」
「天使や悪魔と魔法のスペシャリストが協力して未だに答えの見つかっていない問題か……それで、どのような問題なのだ?」
「『光属性と闇属性の対消滅による莫大なエネルギーの生成に関する仮説』……この世界で分かりやすく考えると、聖女様と魔王が相対して同等の魔法を放った場合、上手くいけば二人が放った魔法の総量を越えるエネルギーが発生するのではないかという仮説だよ。……ただ、ボクの家族の天使と悪魔が同じエネルギー量で同時に放っても大体光が瞬間的に勝るものの、闇の方が光を飲み込んで消し去ってしまうという結果になった……まあ、難問だからねぇ。暇潰し程度に研究してみればいいんじゃないかな? 後でスザンナさんにも伝えておくし」
「彼女も好きそうな問題だな……よし、私もチャレンジしてみるとしよう。幸い、私の寿命は長い――研究の時間はたっぷりとある」
その後、ボク達はミーフィリア達に別れを告げてシャンタブルズム山脈の上りを再開した。『聖精のロンド』は早速下山を始めたみたいだねぇ。まあ、依頼は既に達成しているんだから当然か。
後ろの方で光と闇の爆発が次々と起こっていた……早速ミーフィリアも実験を始めたみたいだねぇ。結果次第ではいい報告ができるんだけど……って、それは圓時代の仲間達と再会できたらだねぇ。
まあ、未来のことを今考えても何も変わる訳じゃないし、まずは小さなことからコツコツと、できることを頑張っていくしかないねぇ。
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