Act.5-36 使節団の再始動〜ブライトネス王国発、ユミル自由同盟行き〜 scene.7
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「というか、今更だけどビオラ商会ならそういう悪徳なやり方はしないんじゃねぇの?」
「まあ、そうだねぇ。一応、冒険者ギルドからの委託で魔物の買い取りもしてはいるけど……でも、アンクワールさんも最近忙しいからねぇ……頼めばやってくれるとは思うけどさ」
「アンクワールさん達もお嬢様に頼まれたら嬉しいと思いますけどね。お嬢様って滅多に人に頼りませんから」
「確かに、ローザさんって滅多に人に何かを頼むことってありませんよね? 友達として少しは力になりたいと思っているのですが……」
「ボクとしては頼っているつもりなんだけどねぇ……アンクワールさん達にもボクがいない間の仕事を任せっきりにしているし……」
経営者なのにほとんどいないからねぇ、ボクって。……商会の代表者なんだし、もっときっちり働くべきなんだけど……色々と他の仕事が降ってくるからねぇ。主に政治関連の……これって三歳の公爵令嬢に任せることじゃないよねぇ?
「ところで、ビオラ商会では素材の買い取りにどのような基準を設けているのですか?」
「そうだねぇ……大体物にもよるんだけど素材相場の合計値の六、七割くらいが買い取り価格だねぇ。他の商人も大体それくらいなんだけど、ビオラ商会はそこに多少の色をつけさせてもらっているよ。それと、依頼の適性レベルの冒険者……つまり、その依頼を受けられる最低ランクの冒険者のみで達成した場合は支援ボーナスを上乗せさせてもらっているねぇ。まあ、あまり赤字経営はできないし、これくらいしか出せないんだけどねぇ」
「これだけ……って、それって破格よ! ほとんどの商会はそこまで出してくれないわ。安く買い叩こうっていう魂胆の商人もいるし、新人で勝手が知らないから子飼いにして買い叩き続けようって考える不届き者もいる……例えそうでなくても大体標準の買取価格前後で買い取ってくれることが精々だわ。そんなに破格な金額で購入をしてくれる商会なんて聞いたことがないわよ。よく、そんな風に買い取れるわよね」
「あんまり関心するような話じゃないと思うけどねぇ。……大倭秋津洲帝国連邦には、萬葉の時代にはシビって呼ばれて縁起の悪かったとある魚を毎年初競りで何億って金額で競り落とす名物社長さんがいるんだけどねぇ。なんで、そこまでして初競りに拘ると思う?」
「商人じゃないから分からない話ですわい。少なくとも、利益に拘っていたらそういうことはしないと思いますのじゃ?」
ダールムント達も見当がついていないみたいだねぇ……まあ、そういう文化が発達していないから分からないのかもしれないけど。そもそも、新聞もどきが発行され始めたのもここ最近のことだし、まだまだ辺境ではメディアの存在が知られていなかったりするからねぇ。
「評判……じゃねえのか? ビオラ商会は一応規模こそ大手だが、実際はまだまだ一年ちょっとしか経歴がない駆け出しだ。三大商会の一角だったゼルベード商会と老舗のフォルノア金物店を取り込んだってことで話題性はあったし、エルフとの取引やこの世界には無かった新商品の開発――流行の発信源、ブライトネス王国の技術的変革の中心として注目されているし、貴族からの覚えもめでたい。ラインヴェルドが入城を認めたってのも大きいだろ? それに、貴族だけをターゲットにしていない日用品や庶民でも手を伸ばし易い甘味なんかも販売している。親友の投資も高い評判を得て、全体的にはジリル商会やマルゲッタ商会を大きく引き離した利益を上げている。でも、まだまだ満足していないってのが本音だろ? そもそも親友は自分が儲けることを最優先にしてねぇからな。稼いだお金をまた投じて新しい技術や商品を作ったり、独立したい、商売を始めたい、夢を叶えたい……そうやって思っていても資金がない人達に一歩を踏み出す力を与えたい。それが親友の願いだろ? 冒険者に対する投資も似たようなものだろ? 商人としては、武器や防具も販売しているビオラ商会をもっと利用してもらうために名前を売りたい。そして、投資家としては同じ冒険者として実力のある冒険者にもっと上を目指せる環境を作ってもらいたい。結果としてそれがブライトネス王国を守る力になるかもしれないからな……二兎を追う者は一兎をも得ずなんてよく言うが、俺の親友は多少の損には目を瞑っても確実に一石で三鳥でも四鳥取りに行くからな……利益度外視で。だから、普通の商人じゃねえんだよ」
別に一石三鳥とか一石四鳥とかそういうのを意図的に狙っている訳じゃないけどねぇ。風が吹けば桶屋が儲かるなんていうように、色々なことが繋がっている。そういう連鎖がいい流れを生んで、結果的にボクが望んでいた方向に流れていくって、ただそれだけ。
まあ、ボクが自分だけ儲けたいっていう性格じゃないからこそ成立する話なんだけど。今のままでも十分ボクは自分の趣味に好きなだけ興じるけど……ボクが投資という道を選んだのって結局自分の趣味のためにお金を稼ぎたかっただけじゃないからさ。
「まあ、『聖精のロンド』の皆様には給与を支払うし、うちの商会名義で出した依頼も条件を満たせば他の冒険者チームと同じでボーナスが出るから安心してねぇ。後は、まあ王都で仮住まいが欲しいなら用意するし、武器や防具なんかも補填させてもらう。…….まあ、後は悪巫山戯が過ぎる悪餓鬼がそのまま大人になったみたいな大人達に振り回された場合の見舞金も払うから安心してねぇ。福利厚生はバッチリのつもりだよ? ……多分」
「最後の悪巫山戯が過ぎる悪餓鬼がそのまま大人になったみたいな大人達に振り回された場合というのが気になりますわ…………。一体どんな目に遭うのか……」
「目の前にいる悪巫山戯が過ぎる悪餓鬼がそのまま大人になったみたいな大人二人に聞いてみたら?」
「えっ、もしかして俺のことかよ! 酷いぜ、親友!!」
「お嬢様! 私をクソ陛下やクソ王弟やクソ殿下やクソ殿下の婚約者や旦那様やクソ大臣と一緒にしないでくださいませ! 私はお淑やかな公爵家のメイドですわ! おほほほほ!!」
「えっ…………まさかの親友の裏切り。そりゃないぜ……俺がアウトならお前もアウトだろ? というか……クソ大臣って……マジで傷つくよ。せめて逃亡癖の大臣ってあたりで止めておいてくれ」
……逃亡癖の大臣もアウトだと思うんだけど……ちゃんと仕事しようぜ。
「お前ら全員戦闘狂だから一緒だよねぇ? 嬉々としてボクを相手に三人で仕掛けてきたのって一体誰だったかな?」
「そんなこと言ったら嬉々として私達全員を相手にして無双したローザお嬢様もクソ野郎ですわよ! ……なんだか言ってて悲しくなってきましたわ」
あっ、そこの目を逸らしたエルフ二人。君達も同罪だよねぇ? ちゃんと映像見たんだから知っているよ? 巻き込まれた側でも、楽しんでいたなら巻き込んだ側と同罪なのだよ。……自分達だけ関係ないなんてそんな虫のいい話、ある訳無かろう。
◆
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「やぁ、昨日ぶりだね。……ん? 客かい?」
「初めまして、「落葉の魔女」様。俺はレミュアさんとパーティを組ませていただいている『聖精のロンド』のリーダーのディルグレンといいます」
「儂はダールムントじゃ。まさか、伝説の賢者様にお会いできる日が来ようとは……長生きはするものじゃの」
「お初にお目に掛かります。私はジェシカですわ。レミュアさんにはいつもお世話になっていますわ」
「……レミュアがスカウトされたというAランク冒険者チームだな。しかし、エルフだということがバレたのか?」
「…………ローザさんに、呆気なく見抜かれてしまったわ」
「まあ、ローザ嬢には教えていたからな。しかし、私も丁度レミュアにエルフであることを隠す必要が無くなることを伝えようと思っていたところだった。……ところで、ローザ嬢と一緒ということは事情は聞いたのか?」
「ローザ嬢の正体やこの世界の真実のことは聞いたわ。その上でローザ嬢に専属契約の指名依頼を受けたわ……勿論、受けたわよ」
「それは良かった。私もレミュアに事情を説明して手伝ってもらおうと思っていたからな……まあ、研究の方は私一人でもできるから安心して楽しんでこい。若いうちにしか経験できないこともあるからな」
「ボクの方は差し迫ってレミュアさん達に依頼することはないけどねぇ。使節団はボク達だけの予定だし、ヴァケラーさん達には「【メジュール大迷宮】に挑戦したらどうかな?」って冗談で言ったら真に受けていたから、もしかしたらもう挑戦しているかもしれないしねぇ」
「どうということはないみたいな感じで言っているけど、【メジュール大迷宮】ってローザさんの前世が命を落とした【ルイン大迷宮】と同等のレベルの高難易度大迷宮じゃないのか!? 流石にヴァケラーさん達が強くなっているって言っても無理があるんじゃないか?」
「まあ……でも、今考えるとあの戦いには疑問点があったからねぇ。大狼牙帝が出現するのは分かるんだけど、大狼牙帝よりも遥かに強いドレッドナインボスが三体も出現して、しかも倒されても別のドレッドナインボスが出現するっていうのは流石に理屈として合わないからねぇ。恐らくだけど、シャマシュはあそこでボクを殺そうとしていたんじゃないかな? シャマシュは勇者ではなくボクを召喚することを目的にしていたみたいだから、クラスメイトも纏めてあの場で始末してもいいと思っていたかもしれないねぇ。まあ、結果的にボク以外全員生き残ることになったけど。「塔」とも奇せずして目的が一致したんじゃないかな? 結果的にボクはドレッドナインボスに追い詰められて、「塔」のトラップで殺された訳だから思わぬ協力ファインプレイだったんだと思うよ。……まあ、あんまり深くまでいかなければ大丈夫だと思うし、ヴァケラーさん達は腕利きだからねぇ。大丈夫だよ……きっと」
「まあ、絶対はないからな。俺……じゃなかった、私は大丈夫だと思いますよ? お嬢様に鍛えられていますから?」
「…………アクア、それどういう意味かな?」
「話したいこともあるだろうが、とりあえずお茶でも飲みながらにしないか? ……狭い荒屋だから大したものは用意できないが」
「あっ、ご心配なく。お茶とお茶菓子は用意してきたからねぇ」
「すまないな……では、遠慮なく御相伴に預からせてもらおう」
こういうところで変に意地を張って遠慮をすることなく、相手が客でも普通に任せるところは本当にいい性格しているよねぇ。いや、いい意味でだよ? 陛下の友人達ってボクも一緒にいて気楽でいられる人ばかりだからねぇ。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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