Act.5-34 使節団の再始動〜ブライトネス王国発、ユミル自由同盟行き〜 scene.5
<一人称視点・アネモネ>
冒険者ギルドの中にある酒場の机の一つを占領して、酒場でその時にいた冒険者全員分の紅茶を淹れてもらって飲みながら話をすることにした。ちなみに、他の冒険者は飲みながらボク達の様子を窺っている状況。あっ、紅茶の代金はボク持ちだよ?
「まさか、レミュアさんがエルフだったとはな……というか、あの「落葉の魔女」のお弟子さんってそりゃ腕も立つよな」
「…………騙していたのに、許して頂けるのですか?」
「エルフは差別されてきたんだ、隠そうとするのは当然だろ? 俺達はレミュアさんという個人を見て『聖精のロンド』に勧誘したんだ。そりゃ、本当のことを教えてもらえるほど信用が無かったってのは悲しいけどよぉ、でも仕方ないんじゃねえか?」
「そういうことですじゃ。儂達はレミュアさんを「落葉の魔女」のお弟子さんとして勧誘した訳ではなく、一人の凄腕冒険者として勧誘したつもりじゃ……まあ、ほとんど賭けだったがな。当時、レミュア殿は一匹狼で凄腕の新人として有名だった。他を寄せ付けない雰囲気だったからな……断られることを覚悟して声を掛けたのじゃ」
「結果的には正解でしたわ。以前のパーティは魔法使い二人、剣士一人だったので安定感に欠けましたが、レミュアさんのおかげで安定するようになりましたわ。……レミュアさんの抜けた穴は大きいですわ。どうか、抜けないでください」
「誰が抜けると言ったかしら? 私も雰囲気がいいパーティで気に入っているわ。……騙していたのは本当に悪かったと思っているわ。別にみんなのことを信頼していなかった訳ではないの……でも、もし私がエルフだと知ったらこれまでの関係が変わってしまうかもしれないと思ったから……それが怖かったから……本当にごめんなさい」
まあ、そりゃ怖いよねぇ……エルフの扱いは劣悪だったんだから。例えどんなに関係が良かったとしても、自分がエルフだって知られたら関係が変わってしまうかもしれない……それを怖いと感じるのは当然だと思うよ。
「ところで、何故レミュアがエルフだと見抜けたのだ? ミーフィリア殿から話を聞いていたからか?」
「水属性魔法で幻惑魔法を使う方を一人知っていまして……ミーフィリアさんからもお弟子さんと話は聞いていましたので確定かな? と当たって良かったです」
「おいおい、絶対に確信していただろ?」と視線を向けてくるディラン達……そりゃ、確信してから声を掛けているよ! 人違いだったら恥ずかしいし……まあ、水系の幻惑魔法の話はエルフの姿ではないレミュアがエルフであることの根拠の一つとして考えられると思ったからで……ミーフィリアからレミュアの属性適性が火と土と水属性だから可能性的にはあり得ると思っていたのは確かだけどねぇ。
「ところで、アネモネ殿とミーフィリア殿の関係はどのようなものなのだ?」
「って、聞かれても……どういう関係だというべきでしょうか?」
「悪友……がいいんじゃねえか? 実際、俺達と関わっている時点で真面な関係じゃねえだろ?」
「ディラン様やアクアと違って、ミーフィリアさんは真面な部類だと思いますけどね……まあ、私もお二人と同類なのであまり強くは言えませんが。……ミーフィリア殿とはラインヴェルド陛下を通じてお会いしました。実は天上光聖女教……今は天上の薔薇聖女神教団と名を変えていらっしゃるようですが、その聖女を崇拝する教団の総本山にラインヴェルド陛下と吸血姫のリーリエという方が奇襲を仕掛けたようで、神聖護光騎士を壊滅に追い込んだ上で、亜人族差別が間違っていると教皇と枢機卿に説いたようで、その結果方針を転換した天上光聖女教はこれまでの亜人族差別が間違っていたことを認めて方針転換、その結果ブライトネス王国と緑霊の森……一部のエルフとブライトネス王国が協力関係を築くことが可能になったと伺っております。その後、吸血姫の聖女様――リーリエ様は聖女クラリッサ様の秘儀を復活させ、陛下を通じて魔法省とミーフィリアさんに技術を提供――その後、使節団の護衛を務めていた私達にラインヴェルド陛下は謁見の機会をお与えくださいました。その際にビオラ商会の入城を許して頂き、ミーフィリアさんとも繋がりを持ちました。なんでも、聖女クラリッサ様の秘儀やエルフの魔法技術を応用した多くのオリジナル魔法を完成させたようで、流石は「落葉の魔女」――戦術級魔法師ですね」
ディラン達四人が「よくもまあ、毎度流れるように作り話を話せるよなぁ」という視線を向けてくるけど……これ、表向きのシナリオであって、嘘とは少し違うからねぇ……まあ、確かに嘘で塗り固めてはあるけど。
「なるほど、天上光聖女教がある時点で亜人族差別は無くならないと思っていたが……その吸血姫か? ブライトネス王国は魔族と手を組んだということか?」
「どうやら、その吸血姫は魔族とは別の種族? 系統のようでして……剣の扱いに優れ、様々な魔法を使い、癒しの力を持つ存在と専らの噂です。私も吸血姫が光の魔法を使うというのはどうにもイメージが湧かないのですが」
プリムヴェール達の目が「当事者がよくもそんな抜け抜けと他人事みたいに語れるな」って非難の視線を向けてくるけど……いい加減、その視線でバレない?
「その吸血姫さんには感謝をしないといけませんね。もうすぐ、エルフもエルフであることを隠さず街を歩くことができる時代が来るなんて……夢みたいですから」
「そんな簡単に差別は無くならないと思いますわ……ゆっくりと、少しずつ認識が変わっていく――そのつもりでいた方がいいと思います」
「確かに、一気に変わってしまうということは、何かに認識を変えることを強要されるということじゃ……そうなれば、いずれ反発を招き、亜人族差別はこれまで以上に苛烈になるじゃろう。ゆっくりと、時間を掛けて互いを理解していくのがいい」
ダールムントの仰る通り……急激な変化っていうのは反発と拒否反応を起こしやすいからねぇ。折角ひと頑張りして軌道に乗せたのに、失敗に導くような真似は絶対にしないよ!
「ところで、『聖精のロンド』の皆様。私に雇われてはみませんか? 形式は指名依頼ですが、長期的な契約なので一定期間ごとに報酬のお支払いを皆様にさせて頂くと同時に、ホームとしている冒険者ギルドにもお礼金を支払わせて頂きます。冒険者ギルドに籍を置いたままで構いませんし、特殊な依頼ですので他の依頼を期間中に受けることも可能です。実際に王都の冒険者ギルドのイルワ様もこの依頼を受理して、ヴァケラーさんを含む数名が私と協力体制にあります」
「なるほど……しかし、その指名依頼にはどのような趣旨があるのだ? 具体的に『聖精のロンド』に何をさせようというのだ?」
「今回の目的は二つあり、一つは今後のいくつか依頼をする時があるとは思いますのでそれを円滑にするために大きな指名依頼で一括りにするという目論見、そしてもう一つがブライトネス王国も動き出している来るべき戦いに備えるという意味合いです。ご存知の通り、最近はゲートウェイの出現など、これまでには報告されなかった異常事態が起こっています。既に国は予測されている中で最も大きな厄災に備えて時空魔法の使い手を探していますが、そもそも何が来るか現時点では分かりませんので手は多く打っておいた方が得策です。その一環として冒険者の方々にもある一定レベルまで上がってもらいたいのですが、まずは小さいところから。ということで、今回は私が何人かスカウトしたチームに指名依頼という形で協力して頂き、そこから今度は彼らに冒険者全体の強化の輪を広げて頂きたいと思います。まあ、あくまで私が退場した場合の保険の一つです」
「つまり俺達に求めるのは他の冒険者の底上げってことが? だが、それは難しいんじゃねえか?」
「別に私もヴァケラーさん達に表立って後進の育成をしてもらってはいませんよ。『聖精のロンド』の皆様にもそれを求めてはいません。ただ、良い流れを作って頂きたいということです。そうすれば、他の冒険者も負けていられないと自然と底上げされていくと思います。つまり、『聖精のロンド』の皆様に今まで以上にご活躍をして頂きたいということですね」
「無茶を言いますなぁ……そう簡単に強くなることは……」
「まあ、それがあるんだよなぁ。どっかの国王は面倒くさかったからなのか、アネモネに直接教えさせたかったのかどっちかは俺にも分からねえが、緑霊の森への使節団派遣の際に第一騎士団と第一騎馬隊の団長がアネモネを通してその概念を知ってから二つの騎士団を中心に以前よりも戦闘力が上がっているっていう話を軍務省の長官――王弟バルトロメオから聞いたし、アネモネと契約したヴァケラー達も今や全員S-ランク指定だろ? まあ、勇者や魔王級のSSランク、英雄に相応しい強さを持つSS-ランク、そっからS+、S、S-……って、順だから連中は大したことがねぇと思ってそうだが」
「ラインヴェルド陛下はSS-、隣国のオルパタータダ陛下はSランク、バルトロメオ殿下は現在Sランクで非公式ですが目算でS+ランク程度の実力はあると思われるので、彼らのような上位陣と比べたら大したことがないと思われても致し方ないとは思います」
「……アネモネさん。どう考えても彼らが比較対象にして落ち込むとしたら、SS+ランクのアネモネさんだと思いますが」
アクアがジト目を向けてくる……いやぁ、分かっているよ? でも、リーリエとかアネモネって文字通り次元が違う強さだからあんまり比較しない方がいいと思うんだけどねぇ。最終的に、リーリエよりも強いヨグ=ソトホート辺りも倒せるようになってもらいたいという理想はあるけどさ……かなり無茶な話だと自覚しているんだよ? レベル一のプレイヤーにレベル九十九のプレイヤーを倒せって言っているようなものだからさ。
「まあ、強要する話でもありませんし、どちらでもお好きな方をお選びください」
「四人で少し相談させてもらえないか? 俺の一存で決められる話じゃないからな」
その後、ディルグレン達は満場一致でボクの話を受けることに賛同したようで、セリーナを通して正式に受理。
ボク達はその後、冒険者ギルドでいくつか依頼を見繕ってからミーフィリアの庵に寄ってからシャンタブルズム山脈の山越えをする話をしたら、途中までは四人も同行してくれることが決まった。――やったね! ヴァケラー達にしたのと同じ説明してこっち側に引き込む時間を確保できたよ!
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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