Act.5-32 使節団の再始動〜ブライトネス王国発、ユミル自由同盟行き〜 scene.3
<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>
「翠妖精の力か……」
プリムヴェールとマグノーリエの表情が曇る……まあ、当然だよねぇ。プリムヴェールの父親――ミスルトウを叛逆に導いた力、父を変えてしまった力……二人にとってはトラウマものの力だよねぇ。
「もしかして、ミスルトウさんを元の姿に……」
「それは無理だよ。……ミスルトウさんはエルフから翠妖精に転生した……つまり、扱いはオニキスさんやファントさんがアクアやディラン様に転生したのと大差ないからねぇ。エルフと翠妖精の性質を持ち合わせているけど、翠妖精のデータを完全に上書きしちゃっているからもう元には戻せないんだ。ミルクをコーヒーに入れて作ったカフェオレからミルクとコーヒーを取り出すことができないように、混ざり切っちゃったものはもう元には戻せない。……まあ、それは混ぜてしまった場合だ。ボクが提案しているのは、混ぜることなく二つのエルフの性質を適宜出せるようにするという方法……つい最近ようやく完成してねぇ。マリーゴールドで実験はして成功したから問題はないと思うよ?」
「相変わらず仕事が早えな、親友。実は秒単位で強くなったりしてねぇか? どうしてそうポンポン色々思いつくんだよ?」
「別に秒単位で強くはなっていないけどねぇ。……手に入れたものは効率よく使いたいと思うのが普通じゃないかな? 一体何が起こるか分からないし、今のうちから色々と用意するに越したことはないと思うけど」
「ローザ様って防具屋に行ったら鎧を三つ買ったりしそうなタイプですよね? 普段使い用と、スペアとスペアが無くなった時用のスペアに……」
「どこの慎重勇者だと思われているのかな? 流石に本とかだとスペアまでだよ? まあ、過去のゲームイベントだとそのアイテムを二度と入手できないことがあるから最低百周はしてアイテムを各百個ずつ貯蔵しておくっていうことはあるけどねぇ」
「別の意味で収集癖を拗らせてた!?」と信じられないものを見るような目で見てくる四人……まるでボクが本好きを拗らせた変態の同類みたいじゃないか、心外だよ!!
「まあ、実際に見てみれば分かるだろうから……ちょっと待ってねぇ。『管理者権限』でステータスを可視化して……」
アカウントを切り替え、マリーゴールドに。そのステータスを『管理者権限』を応用して可視化する。
名前:マリーゴールド
種族:エルフ(神祖)、翠妖精(切り替え可)
称号:ー
職業:大魔導帝(魔法系四次元職)、暗黒魔術師(イベント職)、森呪知恵者(イベント職)、精霊魔術帝(精霊魔法使い系四次元職)
LV:99,999
HP:100,000(+110,000(+110,000(+120,000(+130,000
MP:600,000(+610,000(+610,000(+620,000(+630,000
STR:30,000(+40,000(+40,000(+50,000(+60,000
DEX:590,000(+600,000(+600,000(+610,000(+620,000
VIT:80,000(+90,000(+90,000(+100,000(+110,000
MND:130,000(+140,000(+140,000(+150,000(+160,000
INT:800,000(+810,000(+810,000(+820,000(+830,000
AGI:300,000(+310,000(+310,000(+320,000(+330,000
LUK:90,000(+100,000(+100,000(+110,000(+120,000
CRI:90,000(+100,000(+100,000(+110,000(+120,000
CHA:500,000(+510,000(+510,000(+520,000(+530,000
▼
「ベースは神祖のエルフで、翠妖精はその都度切り替えが可能ってことだねぇ。ちなみに、ミスルトウさんは最上位の妖精王翠妖精になっていたけど、あれは妖精王翠妖精のデータを上書きした裏技みたいなものだから、二人は翠妖精からスタートすることになるよ。エルフと翠妖精の寿命は基本的には変わらないみたいだから、大きく変化するのは飛行能力の取得と『Ancient Faerys On-line』の多重魔法陣の会得。上級翠妖精、神聖翠妖精、妖精女王翠妖精といった風に上昇していって、それに応じて寿命が長くなる。上級翠妖精ってだけで、この世界のハイエルフ――先祖返りのエイミーンと同レベルの寿命にまで伸びるからねぇ。まあ、元々エルフは長命の種族だからそこまで長寿に興味はないかもしれないけど……」
「寿命にはさほど興味はないが、確かに多重魔法陣の力が得られるのは大きいな。それに、翠妖精の翅も自在に出し入れができるのだろう? 私は今後のためにも翠妖精の力を手に入れておいた方がいいと思う」
「私も、それで可能性が広がるのなら……お願いします、ローザさん」
「決まりだねぇ。それじゃあ、やるよ――『管理者権限・GM権限――限定発動』」
無数の数字列を固めた情報物質を収束してプリムヴェールとマグノーリエに放つ。
「……何か変わったのか?」
「あまり変わったようには思えませんね」
「背中に翅がある姿を思い浮かべて見てねぇ……こんな風に」
背中に翅があるイメージをすると、ボクの背中から四つの妖精の翅が生えた。
その翅を動かすように意識すると、小さな風が巻き起こる……まあ、もっと動かせば飛べるんだけど馬車の中で飛んだら天井に頭ぶつけて耐久力の問題で馬車の屋根が壊れちゃうからねぇ……別に石頭って訳じゃないよ……ジーノさんの鉄拳制裁もあまり通用しないアクアとは違うんだから。
「なるほど……こんな感じか?」
「あっ……背中がムズムズする……生え……た? 生えました!! これで私も空を……」
もしかして、マグノーリエには空を飛ぶことへの憧れがあったのかな? 外の世界を旅したいって思って緑霊の森を飛び出そうとするような娘だし、横方向だけじゃなくて、縦方向の空への憧れがあっても別におかしくはないけど。
「ゲームのステータスシステムはインストールしていないからHPとかに縛られることはない……だから、ダメージの蓄積で死ぬようなことは無いから安心してねぇ。後で多重魔法陣の魔法のリストは用意して渡すから、後は二人で頑張ってねぇ」
「忝い」「何から何までありがとうございます」
別に大したことはしてないけどねぇ……。それに、これって結局巡り巡って自分のためでもあるから。
プリムヴェールとマグノーリエに死なれたら心苦しいからねぇ……。それに、二人に強くなってもらってボクが追放された最悪の場合に緑霊の森とブライトネス王国を守る切り札の一枚になってもらいたいという打算もある。……まあ、二人には悪いと思っているけどねぇ……ボクが二人の前に現れたせいで、プリムヴェールとマグノーリエは人生で一度も関わることが無かったかもしれない危険に関わる可能性が生まれてしまった訳だから。
あのまま緑霊の森で、他のエルフと一緒に暮らしていた方が実は楽しく長生きできたかもしれない……とばっちりが来るかもしれないけど、確率は自らが関わっていくよりも全然低いからねぇ。まあ、結局ボク達はそれでもエルフに開国を求め、エルフは多数決を経て開国とブライトネス王国と国交を結ぶ道を選ぶことになったんだけど。……まあ、強要した訳じゃないし、結局エルフという種族がその道を選んだんだからグレーゾーンかな? ああ、勿論ボク達と共に歩む道を選んでくれたエルフの気持ちを無碍にするつもりはないよ? エイミーンさん達を不幸には絶対にしたくないし、するつもりもない。
「そういや、エルフは種族的に強くなれる方法があるけど人間には進化みたいなのねぇの?」
「まあ、あるにはあるけどねぇ……『Fîve worlds On-line』の人間族が人間、真人、神人って進化していくけど……まあ、今のところは『Fîve worlds On-line』の要素が見当たらないし、拡張されるとしたらもう少し後じゃないかな? 寿命を伸ばすのが目的なら、調息法を使って自己の身中に丹を生成する内丹術を極めて解脱して神仙になるか……後は治癒闘気を使い続けていると若さを保てるって噂もあるねぇ。それからボクの「眷属化」で神祖に限りなく近い吸血鬼の眷属になるか、ボクの血を飲んで吸血鬼になるか……まあ、後者二つは太陽と治癒闘気っていう弱点を抱えることになるから、あまりお勧めはしないけどねぇ」
『Fîve worlds On-line』はボクと高槻さんがタッグを組んだ第八作で『Ancient Faerys On-line』が妖精を主題としたファンタジー世界をメインにしていたことから、差別化を図るために人間とエルフやドワーフのようなお馴染みの種族以外の種族でプレイできるオンラインゲームがコンセプトにした。『Ancient Faerys On-line』の一年前に人気が低迷してきたからサービスを終了したんだよねぇ……。
プレイヤーは騎士の集う国『ヴォルヴェーランド王国』、妖精と共生する世界『フェアリー・スフィア』、無数の群島からなる『アイランズ』、和風の世界観の世界『鳥居と妖怪変化の町』、夜の摩天楼とお化けが彩るホラーワールド『ホンテッド・ワールド』の五つの世界のうちから一つを選び拠点として、世界間の移動は一日に一度のみ可能というルールになっている。
世界ごとに個別のイベントが発生し、独立したゲームのようになっていて、レイドのようなエンドコンテンツはなく、世界ごとのイベントやエリアの拡張後の探索がメインとなっている。
『Ancient Faerys On-line』と同じく転生システムとギルドシステムを採用して、第三回のアップデートでは空き家を購入してギルドホームを作ることが可能になった。
また、第五回のアップデートでは、戦闘行為禁止領域内で戦闘を行った場合に出現する神騎を排出している各世界の名門家の公爵に挑戦することが可能になり、勝利することで一定の期間のみ公爵となりその世界を支配することができるという特権を得られるようになった。公爵になった場合、その世界でマーケットを利用した商売をした場合に発生する税の一割を手にすることができる……まあ、悪どいシステムではあるんだけどねぇ。
ジョブシステムがあり、武器系三職、戦士系三職、回復系三職、魔法系三職の計十二職がある。武器系三職は暗殺者、盗剣士、吟遊詩人、戦士系三職は守護騎士、刀剣士、武闘家、回復系三職が治癒師、聖職、神祇官、魔法系三職が妖術師、魔術師、精霊術師……これも世界観に合わせてねぇ。
種族は、人間族、妖精族、人魚族、黒森精、亡霊族、蛇人族、蜘蛛人の七種族。
人間族はお馴染み人間。名前はホモ・サピエンスから。
人間、真人、神人という順で転生する。
妖精族は掌サイズの妖精種族で回避力が高く、飛翔能力を持つ。『フェアリー・スフィア』でのみステータスが上昇するから、『フェアリー・スフィア』向けの種族と言えるねぇ。
妖精族、大妖精、神聖妖精という順で転生する。
人魚族は下半身が魚の種族。水の中での移動速度は高く、潜水能力に補正がかかる代わりに、地上では常に移動速度低下と微ダメージが発生するから、『アイランズ』向けの種族と言えるねぇ。
人魚族、海人魚、人魚王/人魚女王という順で転生する。
黒森精は黒いエルフという見た目の種族で暗視能力に長け、闇に溶け込む特殊能力を持つ。『フェアリー・スフィア』でのみステータスが上昇するから、『フェアリー・スフィア』向けの種族と言えるねぇ。
黒森精→上黒森精→闇黒森精という順で転生する。
亡霊族は亡霊の種族。物理攻撃力を持たない代わりに、物理ダメージを受けないという特殊な性質があって、『ホンテッド・ワールド』でのみステータスが上昇するから、『ホンテッド・ワールド』向けの種族と言えるねぇ。
亡霊族、大幽霊、幽霊王という順で転生する。
蛇人族は蛇の半身を持つ種族。竜に連なる種族であり、竜の力の一部を使えるという特殊な能力を持つ種族で『鳥居と妖怪変化の町』でのみステータスが上昇するから、『鳥居と妖怪変化の町』向けの種族と言えるねぇ。
蛇人族、竜蛇人、竜神王という順で転生する。
蜘蛛人は蜘蛛の半身を持つ種族で状態異常を発生させる毒を生成する特殊な能力を持つ。『鳥居と妖怪変化の町』でのみステータスが上昇するから、『鳥居と妖怪変化の町』向けの種族と言えるねぇ。
蜘蛛人、 上蜘蛛人、 蜘蛛人王という順で転生する。
「まあ、簡単に戦力強化はできないってことだな。できることからコツコツ極めていくのが一番か……」
「例え才能が無くても、誰にでもできることを誰よりもコツコツと積み重ねていくことで猛者になるってことはあるみたいだからねぇ……新しいものを求めるのかもしれないけど、今あるものを伸ばすことも大切だと思うよ」
どれだけ才能に恵まれなくても、誰もが持っているものを極めて最強の一角に上り詰めた人もいるからねぇ……って、これ創作からの受け売りなんだけど、全くその通りだと思うよ。まあ、本当はあるものを極めつつ新しいものも手に入れていくっていうのが理想なんだけどねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




