Act.5-28 第一回異界のバトルロイヤル 最終決戦 scene.1 中
<三人称全知視点>
「――《支配者の門域》!」
落下する虚空属性の刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣を前にして、ラインヴェルドは冷静に《転移》の力を発動――光の領域に入っているラインヴェルド、アクア、ディランを落下地点から移動させ、リーリエを「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」の落下地点に転送した。
「ブラックホール・フェイク」
リーリエの黒い宝石が嵌められた指輪が怪しく輝き、上空が闇に飲み込まれた。
太陽の光が遮られ、夜のように真っ暗になった後、瞬く間に黒い球体は小さくなり消えてしまう――三本の「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」と共に。
「おいおい、それって初っ端から撃つものじゃねぇだろ! おじさん胃がキリキリしたぜ」
「なに、挨拶代わりのジャブだよ。これくらいは回避してくれると思っていたからねぇ。超絶技巧のヴィルトゥオーソ! 神速のエチュード! 舞踏のパヴァーヌ! 快活のヴィヴァーチェ! 怒涛のプレリュード! 八百万の神祇に捧ぐ御神楽舞! 勇者に捧ぐ聖女の祈り! 反応起動治癒! 不死鳥甦光癒!」
吟遊詩人系四次元職の吟遊帝が習得する自身の攻撃力と敏捷を超特大上昇させる援護歌を発動させてから流れるように、周囲の仲間と自分の武器攻撃速度と命中率を上昇させる吟遊詩人系一次元職の吟遊詩人が覚える援護歌、周囲の味方と自分の敏捷性を上昇させる吟遊詩人系一次元職の吟遊詩人が覚える援護歌、対象者達のステータスを一段階上昇させる吟遊詩人系一次元職の吟遊詩人が覚える援護歌、攻撃を放つ度にステータスを上昇させていく吟遊詩人系三次元職の吟遊詩仙が覚える援護歌を発動し、続けてダメージ遮断の効果のある障壁と一回だけあらゆるダメージを無効化するバリアを張り、体力を全回復した上で三百秒間永続する数秒毎の回復を自身に付与する神職系四次元職の神子が習得する奥義と味方一人の全ステータスを上昇させる聖女の特技、起動回復を付与する神官系四次元職の施療帝の回復魔法と死後に一度だけHPの半分を回復した状態で復活することができる聖女の奥義の蘇生魔法を自身に付与して万全の体制を取った。
「次はこれだよ! 衆生地ニ伏ス神龍ノ劔! 天地ヲ開闢セシ神代ノ神槍!」
そのままイベント職の神竜騎士が習得する奥義で竜属性の光を纏った剣で三十回連続で神速の飛斬撃を放つ物理系単体攻撃技と、槍士系四次元職の槍帝が習得する奥義で混沌属性の闇を槍に宿して辺り一体を薙ぎ払う最強の物理系範囲攻撃スキルを連続で放った。
「――ッ! 黒影の抱擁」
ディランが《影》の魂魄の霸気を発動して、アクアとラインヴェルドを掴んで間一髪のところで影の中に引き摺り込んで躱す。
「流石に誰か一人は倒せると思ったんだけどねぇ……やっぱり強固な陣形だなぁ。とりあえず、誰かを倒して陣形を崩さないと……と、その前に影の世界の優位性を崩さないといけないか。《蒼穹の門》!」
リーリエは白い羽の意匠が施されたナイフを二本顕現すると、一本を足元に、もう一本をディラン達が消えていった影の一つに投げつけた。
「あ……そりゃ、見抜かれているなら最適解で来るよなぁ」
鏡合わせのように反転した影世界にナイフ伝いに転移してきたリーリエの姿を視認したディランは「まあ、そんな上手くいく訳が無いよなぁ。相手はリーリエなんだし……」と心の中で続け――。
「《影の世界》の絡繰が割れた以上、範囲の狭いこっちは危険だ! 転移して戻った方がいい!」
「――ッ! 分かっている。たく、無茶苦茶だな! まさか影の世界に《蒼穹の門》で転移して来やがるとは……俺より扱い上手いんじゃねえ? まあ、それはそれでクソ面白いんだが。……行くぞ、《蒼穹の門》!」
「逃さないよッ! ダークマター・フェイク!」
ローザ=ラピスラズリがレベル95で習得する暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げる超高火力の闇魔法のフェイク版を発動するも、ラインヴェルド、アクア、ディランの脱出の方が早かった。
「……逃げられたか。そうでなくっちゃねぇ! 《蒼穹の門》!!」
再び《蒼穹の門》を発動して影の世界から脱出するリーリエ。
事前に地面に突き刺しておいたもう一本ナイフに向かって転移すると、目の前に逆手に剣を構えたリボンの似合うメイドの姿があった――アクアだ。
「やっぱり仕掛けてくると思ったよ! 静寂流十九芸 剣術三ノ型 渾衝流」
渾身の一撃を込めた斬撃をアクアは受ける素振りすら見せずに躱し、そのまま武装闘気と覇道の霸気を纏わせた『カレトヴルッフ』の切っ先を高速で突き出した。
「静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突」
『カレトヴルッフ』の切っ先に寸分の狂いもなく武装闘気と覇道の霸気を纏わせた『漆黒魔剣ブラッドリリー』の先端を合わせ、アクアの最高攻撃力を腕一本で。――実に涼しげにリーリエは受け止めた。
瞬間――覇道の霸気がぶつかり合い、黒い稲妻を迸らせた。
体勢を大きく変えることなく超高速の突きを放つ突きの基礎技でもある「静寂流十九芸 剣術一ノ型 震紫電」を応用した対刺突技だ。
切っ先に寸分の狂いもなく同等の刺突を叩き込まなければ成立しないため、この技にはかなりの技倆が求められることになる。蛍雪栞であっても会得に四、五年掛かってしまったのだから、「剣道小町」、「美少女剣士」などと持て囃されている巴であっても習得にはそれ以上の年月が掛かることになるだろう。
迦陵大蔵が一度見せただけで完全に習得してしまった圓は例外中の例外――静寂流十九芸の歴史でも類を見ない規格外な存在だったのである。もっとも、圓は静寂流十九芸の門下ではないが……。
「静寂流十九芸 剣術二ノ型 流刃撃」
相手の斬撃を逆手に持った刀で受け流しつつ、袈裟斬りを繰り出す五十嵐流刀術で言うところの「柳返」を放つリーリエだが、アクアは受け流された剣を素早く戻して袈裟斬りを受け止めて流すと、そのまま逆袈裟斬りの斬撃を放つ。
「静寂流十九芸 剣術九ノ型 双極撃」
リーリエは『漆黒魔剣ブラッドリリー』を一度鞘に戻すと、抜刀術から鞘による攻撃に繋げるコンビネーション技で、先に居合いで抜身で攻撃してから、鞘での一撃を放つ五十嵐流刀術で言うところの「双輪」の一度目の斬撃でアクアの逆袈裟斬りの斬撃を防ぐと、鞘による二度目の攻撃でアクアを吹き飛ばした。
「【火焔流】、【炎帝】!」
「刻すらも凍れ、世界の摂理を逸脱する絶対零度の劫火! 凍焔劫華! 焔という概念を凍らせる焔!」
ラインヴェルドはユニークシリーズの『灼熱のローブ』と『灼熱のグローブ』のスキルを発動して灼熱の波と直径二メートルを超える灼熱の炎球を二つ放った。
一方、リーリエは『管理者権限』の統合アイテムストレージから新しい指輪を取り出すと、右薬指に嵌め、二つの魔法を発動する。
リーリエの右手から解き放たれた青い焔は一本の槍の像を結び、灼熱の波に向かって放たれた。
と同時に左手で二つの青い焔の火球を作り出して灼熱の炎球に向けて放つ。前者は魔法系四次元職の大魔導帝が習得する裏の火属性魔法の奥義「焔という概念を凍らせる焔」、後者は「焔という概念を凍らせる焔」の持つ裏の火属性を付与した指輪を経由して発動した裏の火属性の火球魔法だ。
炎の槍と火球は灼熱の波と巨大な炎球を一瞬にして凍結させ、そのまま砕けて無数の氷片へと変える。
「あ……やっぱりこれでもダメか。折角手に入れたから使ってみたかったんだが、効かねぇなら仕方ねえな……」
「まあ、焔とは相性がいいからねぇ。メリダ宮廷魔法師団団長も噂に違わない強さを持っていたけど、それをボクは悉く無効化できる力を持っていたから大した苦戦は強いられなかったし……魔力の扱いは上手いし、魔力量もミーフィリアさんと張るくらいなんだから、魔法省の技術を取り入れればもっと高みにいけると思うんだけどねぇ……残念だなぁ」
「……ってか、その焔って焔以外も凍らせることができるんじゃなかったか? 他の属性を使ったって通用しないんじゃねぇの?」
「おっと……ディランさんにはバレバレだったか……。でも、もう少し柔軟にしてもらいたいよねぇ……宮廷魔法師団には。彼女達にはボクが断罪された場合に、対ヨグ=ソトホートを含む化け物共とやり合ってもらわないといけないんだけど」
「お前が断罪されることはねぇから安心しろ。例え、その主人公とやらが泣いて懇願しようが笑ってマリエッタを処刑してやるからお前が死ぬことはねぇよ。それよりも、お前がこの国に愛想を尽かして失踪する方が確率が高いんじゃねえか? 俺はそっちの方が心配なんだけど」
「あー、それはないよ。ボクにもこの国に大切な人はいるからねぇ……ただ、それが前世の家族と天秤に掛けると、どうやっても家族の方を優先することになるだろうけど」
「アハハハ、やっぱりローザはそうでなくっちゃな! だから俺はお前のことを気にいってんだよ。……俺は全ての人を救うなんて言っている奴の方が信用ならねえ。万人救済なんてものは現実的に不可能だ。そういう無理な理想を掲げている奴ほど失敗して、身近な大切な人を失って絶望して世間一般で言うところの悪に堕ちる。どうせ何をやったって文句を言ってくるのがその他大勢って奴らだ。いくら恩恵を受けたところですぐに忘れちまうか、現状に慣れて何も思わなくなる。その癖、文句ばかりは一丁前だ。世界を救った英雄が、その後世間一般にとって不都合だからという理由で切り捨てられ、見捨てられ……そういうことは往々にしてある。顔も知らない奴を守るなんて大きなことを言う英雄気取りよりも、お前みたいにはっきりと大切なものを守りたいっていう奴の方が俺はカッコいいと思うぜ? まあ、そういう趣向はお前に似たのかも知れねえけどなぁ、なあ圓」
「まあ、似たかも知れないよねぇ……時々他人とは思えない時もあるし……それについてはお父様やアクアにも言えることなんだけどさ。……さて、ずっとこうやって戦っていても仕方ないからねぇ。ここで流れを変えさせてもらうよ――大魔導覇斬」
リーリエは『漆黒魔剣ブラッドリリー』を鞘に戻すと、左手で『白光聖剣ベラドンナリリー』を掲げた。
その瞬間、リーリエから凄まじい剣気が放たれる。空間が軋み、歪み、大気中のあらゆる魔力が支配され、『白光聖剣ベラドンナリリー』の刀身を極光で満たす。
そして、リーリエがただの振り下ろしを放った瞬間――極光が空間ごと真っ二つに切り裂いた。
「――《蒼穹の門》!」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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