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【キャラクター短編 光竹赫映SS】新訳『竹取物語』

 今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をば讃岐造麿となんいひける。その竹の中に、本光る竹ひとすぢありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。翁いふやう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給ふべき人なンめり」とて、手にうち入れて家にもてきぬ。妻の嫗にあづけて養はす。美しきこと限なし。いと幼ければ籠に入れて養ふ。竹取の翁この子を見つけて後に、竹をとるに、節をへだてゝよ毎に、金ある竹を見つくること重りぬ。かくて翁やう\/豐になりゆく。この兒養ふほどに、すく\/と大になりまさる。三月ばかりになる程に、よきほどなる人になりぬれば、髪上などさだして、髪上せさせ裳着す。帳の内よりも出さず、いつきかしづき養ふほどに、この兒のかたち清らなること世になく、家の内は暗き處なく光滿ちたり。翁心地あしく苦しき時も、この子を見れば苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも慰みけり。翁竹をとること久しくなりぬ。勢猛の者になりにけり。この子いと大になりぬれば、名をば三室戸齋部秋田を呼びてつけさす。秋田なよ竹のかぐや姫とつけつ。このほど三日うちあげ遊ぶ。萬の遊をぞしける。男女きらはず呼び集へて、いとかしこくあそぶ。


      ――『竹取物語』生い立ち(古谷知新校訂 國民文庫 同刊行會 初版一九一〇年)――



<三人称全知視点>


 月の世界――地上、大倭秋津洲の表世界で流布する『竹取物語』では極楽浄土のような世界として描かれるが、実際はディストピア的な世界である。

 この月の民、神仙の中でも天仙に区分され、月仙派と呼ばれる者達も元々は大倭秋津洲の民であった。元々は仙人の名門崑崙山の仙人で元始天尊の弟子だったが独立して無所属の仙人となった太上老君の一番弟子、申公豹によって戯れに仙術を教えられた大倭秋津洲のある集落の者達は最も仙術の才に恵まれていた甲姫、乙姫をそれぞれ中心とする派閥に分かれ、甲姫は月に上がって月の名門、光竹家の祖となり、乙姫は海に入って海仙の海宮海仙の支配一族の祖として深海に竜宮城を築き、竜宮城を拠点に暮らすようになった。


 月に渡った仙人達は自分達を特別視し、申公豹から伝えられた仙郷を月に構築しようと試みた。

 神仙としての神通力、そして独自に発展させた科学力により月仙派は強大な軍事力を手にすることとなる。


 無論、それが青き星――地球に向けられることはなかった。彼らは下等な生き物とされ、青き星は清浄な浄土とは異なる不浄の地とされたのだ。その世界を優れた我々が支配しようという考えには至らなかったらしい。

 月の世界では青き星に憧れることは禁忌とされていた。その月世界では禁忌とされる地球への憧れを、禁忌を犯して地上に降り立ち、連れ帰られて記憶を消された天女の歌を聴いて抱いたために、月の姫――後に自ら正当な光竹一族の末裔である証である光竹と、地上で与えられた「かぐや」の名を合わせ、光竹(こうちく)赫映(かぐや)を名乗る少女は月での記憶を消されて地上に堕とされた。



 奈良時代の初期の頃、竹取の翁という人物がいた。

 山に入って竹を取り、様々なものに加工して生計を立てている人物だ。本名は讃岐の造麻呂と言った。


 ある時、翁は根元が光っている竹を見つけた。その竹を切ってみると、竹の中で小さい人間の赤子がすやすやと眠っていた。

 翁はその赤子を連れ帰り、妻である嫗と共に彼女を育てた。


 やがて赤子は成長し、少女となった。村の子供達や山中を移動して生活する木地師の集団の子供達とも交流を持つようになった。

 子供達は異常な成長速度で育っていく少女を気味悪がることなく受け入れた。特にその木地師の集団の子供達のリーダー格で頼もしい兄貴分だった禎丸(さだまる)を少女は慕っていた。


 一方、少女を見つけてからというもの、翁はよく竹の中からお金を見つけるようになり、次第に翁は裕福になっていった。


 少女はどんどん大きくなり、三ヶ月ほどで成人のようになった。

 きちんとした髪型で、きれいな着物を着せられて少女は大事に育てられた。ただ、それが少女にとって本当に幸せだったかどうかと言われれば、不幸せだったと言わざるを得ないだろう。少女は少々お転婆で、折角の髪もボサボサにして重い着物は脱ぎ捨て、子供達と共に山々を駆け回った。媼はその姿を微笑ましそうに見ていたが、竹から黄金を授かって以来、少女を「高貴の姫君」に育てることが少女の幸せと信じて疑わなくなった翁はあまり喜ばしく思っていないようだった。


 少女が大きくなったので、「三室戸斎部の秋田」という人を呼び寄せて名前を付けてもらった。

 秋田は少女に「なよたけのかぐや姫」と命名した。


 成金となった翁は媼とかぐや姫を連れて都に上洛し、かぐや姫の名付けの祝宴を盛大に催した。

 翁達は都の貴族からは成り上がり者と見られており、祝宴に訪れた貴族から「名付けのためにいくら金を出したか」と絡まれたり、かぐや姫を「成金の娘」と陰口を叩く者もいた。



 世界の男、貴なるも賤しきも、「いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがな」と、音に聞きめでて惑ふ。その傍の垣にも家のとにも居る人だに、容易く見るまじきものを、夜は安きいもねず、闇の夜に出でても穴を抉り、こゝかしこより覗き垣間見惑ひあへり。さる時よりなんよばひとはいひける。人の物ともせぬ處に惑ひありけども、何の効あるべくも見えず。家の人どもに物をだに言はんとていひかくれども、ことゝもせず。傍を離れぬ公達、夜を明し日を暮す人多かり。愚なる人は、「益なき歩行はよしなかりけり」とて、來ずなりにけり。その中に猶いひけるは、色好といはるゝかぎり五人、思ひ止む時なく夜晝來けり。その名一人は石作皇子、一人は車持皇子、一人は右大臣阿倍御主人、一人は大納言大伴御行、一人は中納言石上麿呂、たゞこの人々なりけり。世の中に多かる人をだに、少しもかたちよしと聞きては、見まほしうする人々なりければ、かぐや姫を見まほしうして、物も食はず思ひつゝ、かの家に行きてたたずみありきけれども、かひあるべくもあらず。文を書きてやれども、返事もせず、わび歌など書きて遣れども、かへしもせず。「かひなし」と思へども、十一月十二月のふりこほり、六月の照りはたゝくにもさはらず來けり。この人々、或時は竹取を呼びいでて、「娘を我にたべ」と伏し拜み、手を摩りの給へど、「己がなさぬ子なれば、心にも從はずなんある」といひて、月日を過す。かゝればこの人々、家に歸りて物を思ひ、祈祷をし、願をたて、思やめんとすれども止むべくもあらず。「さりとも遂に男合せざらんやは」と思ひて、頼をかけたり。強に志を見えありく。これを見つけて、翁かぐや姫にいふやう、「我子の佛變化の人と申しながら、こゝら大さまで養ひ奉る志疎ならず。翁の申さんこと聞き給ひてんや」といへば、かぐや姫、「何事をか宣はん事を承らざらん。變化の者にて侍りけん身とも知らず、親とこそ思ひ奉れ」といへば、翁「嬉しくも宣ふものかな」といふ。「翁年七十に餘りぬ。今日とも明日とも知らず。この世の人は、男は女にあふことをす。女は男に合ふことをす。その後なん門も廣くなり侍る。いかでかさる事なくてはおはしまさん」かぐや姫のいはく、「なでふさることかしはべらん」といへば、「變化の人といふとも、女の身もち給へり。翁のあらん限は、かうてもいますかりなんかし。この人々の年月を經て、かうのみいましつつ、宣ふことを思ひ定めて、一人々々にあひ奉り給ひね」といへば、かぐや姫いはく、「よくもあらぬ容を、深き心も知らで、『あだ心つきなば、後悔しきこともあるべきを』と思ふばかりなり。世のかしこき人なりとも、深き志を知らでは、あひ難しとなん思ふ」といふ。翁いはく、「思の如くものたまふかな。そも\/いかやうなる志あらん人にかあはんと思す。かばかり志疎ならぬ人々にこそあンめれ」かぐや姫のいはく、「何ばかりの深きをか見んといはん。いさゝかのことなり。人の志ひとしかンなり。いかでか中に劣勝は知らん。「五人の中にゆかしき物見せ給へらんに、「御志勝りたり」とて仕うまつらん。』と、そのおはすらん人々に申し給へ」といふ。「よきことなり」とうけつ。日暮るゝほど、例の集りぬ。人々或は笛を吹き、或は歌をうたひ、或は唱歌をし、或はうそを吹き、扇をならしなどするに、翁出でていはく、「辱くもきたなげなる所に、年月を經て物し給ふこと、極まりたるかしこまりを申す。 『翁の命今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ』と申せば、『深き御心をしらでは』となん申す。さ申すも理なり。『いづれ劣勝おはしまさねば、ゆかしきもの見せ給へらんに、御志のほどは見ゆべし。仕うまつらんことは、それになむ定むべき』といふ。これ善きことなり。人の恨もあるまじ」といへば、五人の人々も「よきことなり」といへば、翁入りていふ。かぐや姫、石作皇子には、「天竺に佛の御石の鉢といふものあり。それをとりて給へ」といふ。車持皇子には、「東の海に蓬莱といふ山あンなり。それに白銀を根とし、黄金を莖とし、白玉を實としてたてる木あり。それ一枝折りて給はらん」といふ。今一人には、「唐土にある、火鼠の裘を給へ」大伴大納言には、「龍の首に五色に光る玉あり。それをとりて給へ」石上中納言には、「燕のもたる子安貝一つとりて給へ」といふ。翁「難きことゞもにこそあンなれ。この國にある物にもあらず。かく難き事をばいかに申さん。」といふ。かぐや姫、「何か難からん」といへば、翁、「とまれかくまれ申さん」とて、出でて「かくなん、聞ゆるやうに見せ給へ」といへば、皇子達上達部聞きて、「おいらかに、『あたりよりだになありきそ』とやは宣はぬ」といひて、うんじて皆歸りぬ。


      ――『竹取物語』求婚の難題(古谷知新校訂 國民文庫 同刊行會 初版一九一〇年)――



<三人称全知視点>


 しかし、かぐや姫の美貌は並大抵のものではなく、大倭秋津洲中の男が「どうにかしてかぐや姫と結婚したい。それがダメでもせめて一目見たい」と思っていた。


 翁の屋敷の周りにはそういった男達が犇き、チャンスを伺っていた。

 富を持ち、生活に余裕のある者達は朝から晩まで居座っていた。だが、そのうち諦める者達も現れ、五人の男達が残ることとなった。


 石作皇子、車持皇子、右大臣阿部、大納言大伴御行、中納言石上麻呂足――五人の貴公子達である。


 皆、身分が高く裕福で恋に熱中できる環境にあった。

 彼らは翁に直接かぐや姫との橋渡しや恋の応援を頼んだが、「自分達で産んだ子供ではないので、私達からあまり強いことは言えないのです」とお断りされてしまった。


 翁は彼らが本気でかぐや姫と結婚を願っていることを実感し、結婚に消極的なかぐや姫に話をすることにした。


「私は貴女のことをとても大切に思っている。こんなに立派になるまでまで育ててきたのがその証拠だ。だからちょっと私の言うことを聞いてはくれないか。私はもう七十歳になる。この世の男女は結婚するものだ。だから、よい人を見つけて結婚しないか」


 かぐや姫は禎丸への気持ちを捨て去ることができなかった。かつて、頼れる兄のような存在として慕っていた気持ちがいつしか恋心に変わっていたのだ。しかし、翁はかぐや姫の気持ちに気づいていない。いや、たとえ気づいていたとしてもかぐや姫に考え直すよう強く言っただろう。

 かぐや姫は翁を悲しませまいと、「もちろん聞きます。聞かない訳がないでしょう。だってほんとうの親だと思っているのですから」と答えた。


 かぐや姫はこう続けた。


「心配です。浮気されたりして、あとで後悔することになるのではないでしょうか。深いところを知らないままで一緒になりたくはありません」


 これがかぐや姫にできる最大の譲歩であった。かぐや姫は翁に五人の貴公子達の気持ちを確かめるための試練の内容を伝えることにした。


「石作皇子には『仏の御石の鉢』を探してきて頂きます。お釈迦様が使ったと言われる黒い鉢です」


「車持皇子には『蓬莱の玉の枝』を採ってきて頂きましょう。東の海を渡ったところに蓬莱という山があるようです。そこには白金の根を持ち、幹が金でできた樹が生えていると聞きます。その枝が白い玉の実をつけるらしいのです。それを一つ折って持ってきて下さい」


「右大臣は中華にある『火鼠の皮衣』をお願いします。火の中に生きているという鼠の皮で作った織り物ですね」


「大伴大納言は『竜の首の珠』です。竜の首には五色に光る珠があるとの言い伝えがあります」


「石上中納言は『燕の子安貝』を持ってきてください。燕の巣にあるといわれる貝は、安産のお守りらしいです」


 そのどれも翁が「絶対に結婚する気ないだろう!」と内心思うほどの難題中の難題だったが、五人の貴公子達は「こんなことでかぐや姫と結婚できるなら」と軽い気持ちで屋敷を出ていった。


 ちなみに、『今昔物語集』の「竹取翁、見付けし女の児を養へる語」というもう一つの『竹取物語』では、「空に鳴る雷」、「優曇華」、「打たぬに鳴る鼓」の三題のみで個人別ではなく三つを全て持ってくるという条件の求婚難題説話である。

 後に圓が赫映に「そういえば、竹取物語説話って二つあるけどどっちが史実なの?」と聞いたところ「五人の貴公子達に一個ずつなんか難題ふっかけたわね。まあ、そんな昔のこと、覚えていないけど。……もしかして、猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液でも要求すれば良かったかしら?」とどこぞの『北欧神話』に登場する魔法の紐の材料を挙げて答えたが無論冗談混じりである。



 蓬莱の玉の枝を持ってくるよう言われた車持皇子は悪知恵が働く人であった。

 職場には「筑紫の国の温泉に行ってきます」と休みをもらい、かぐや姫の家には「玉の枝を取りに行ってきますね」と手紙を送った。

 家来達は、難波の港まで見送りのためについてきたが、彼は「お忍びの旅行なので、こっそり出発するから」と言って、数人だけを連れて船に乗った。そうして出発したと見せかけて、三日後には港へ戻ってきた。


 アリバイ工作を終えた車持皇子はあらかじめ手配しておいた凄腕の鍛冶職人六人と合流し、人目につかない隠れ家へと向かった。

 隠れ家には何重にも囲いのある作業場があった。彼らそこへ籠って玉の枝を作るための材料は、治めていた領地から集めてきた。

 そして、かぐや姫が言った通りの品物ができた。こっそり難波の港に運び込んだ。


 車持皇子は「船旅から帰ったぞ」と知らせて、今まさに帰ってきたように振る舞った。

 玉の枝は細長い立派な箱に入れられて、隠されるようにして都へ運ばれた。


 車持皇子が蓬莱の玉の枝を手に入れたという噂はもちろんかぐや姫にも届き、「あぁ、本当に蓬莱の玉の枝を持ってきてしまわれたら、私は車持の皇子と結婚しなければならないわ」と胸が潰れる思いであった。今の赫映であれば「あっ、そっ、ご苦労様」と言いながら眼光炯々と輝かせたとびっきりのゲス顔で問答無用で竹筒型のビーム砲を発射して車持皇子を跡形もなく消し飛ばすだろうが(後に赫映は「あの時全員ビーム砲で消し飛ばしておけば良かったのに。無能共が消し飛んで朝廷も綺麗になったでしょうに」と悪意の篭った発言をしている)その頃のかぐや姫は優しい少女だったので、今にも押し潰されそうになっていた。媼はそんなかぐや姫を心配していたが、阿呆ここに極まれりな翁はそれに気づかない。


 車持皇子はかぐや姫の御簾の前に進み出て、宝物を手に入れた経緯を問われて、身振りを含めた迫真の語りを演じた。

 しかし、宝物は職人に作らせた贋物で、その場に職人が代金の支払いを求めて訪れたことで露見し、遁走した。


 かぐや姫から代金を貰いホクホク顔の職人だったがら帰り道では車持皇子が職人達を待ち構えていた。

 血が流れるほどの暴力を振るい、彼らがかぐや姫からいただいた品々を全て奪いた取ってしまった。職人達は車持皇子を恐れて次々に逃げた。


 車持皇子は「一生の恥だ。これ以上恥ずかしいことはない。問題なのは結婚できなかったことだけではない。嘘をつくような人間だと思われてしまったこともだ。これからはみっともなく生きていかなければならない」と言って一人で山の中へ入っていってしまった。……無論自業自得である、というか嘘ついた上に職人達から強奪したうえで何言ってんだよ、レベルの身勝手さである。



(かぐや姫と結婚したい。結婚できなかったら、これから先とても生きてはいけない。でも結婚するためには、婆羅多(バーラタ)まで行かなければならない)


 と石作皇子は思った。仏の御石の鉢を頼まれた人である。


 彼は狡い性格をしていたので「この世に二つとない鉢なのだ。遠くまで苦労して探しに行ったところで、手に入る保証はない」と考えた。

 かぐや姫には「今日から婆羅多(バーラタ)で探しに参ります」とだけ伝えて三年ほど姿を隠した。


 そして適当なお寺から古くなった鉢をもらってくると、それを黒く塗って立派な錦の袋に入れて花で飾りつけをして、かぐや姫に献上した。


 本当かしら? とびっくりしながらかぐや姫は鉢を見た。鉢の中に和歌が書かれた手紙が入っていた。


  海山のみちにこゝろをつくしはてみいしの鉢のなみだながれき


 かぐや姫は「お釈迦様の鉢なのだから、少しくらい光っていてもよいのではないかしら」と思ったが、蛍ほどの光すらなかった。

 そこでかぐや姫はこういう和歌を作って返歌した。


  おく露のひかりをだにもやどさまし小倉山にてなにもとめけむ


 石作皇子は鉢を持って帰って捨ててしまった。そして和歌でかぐや姫に返答した。


  しら山にあへば光のうするかとはちを棄てゝもたのまるゝかな


 かぐや姫は返歌をしなかった。

 それからいくら和歌を送っても、受取ってさえくれなくなったので、石作皇子は諦めて、普段の生活に戻っていった。



 火鼠の皮衣を持ってくる試練を与えられあ右大臣阿部は金持ちで、豪邸に住んでいた。


 中華にいる知り合いの王慶(おうけい)に「火鼠の皮衣というものが必要なのです。そちらで手に入れて送っていただけませんか」という手紙を書いた。

 それを家来に渡し、代金と一緒に届けさせた。王慶はすぐさま返事をよこした。


『火鼠の皮衣は、この国にはありません。噂では聞いたことがあるのですが、見たことはありません。もしもどこかにあるならば、私のところへ誰かが持って来ている筈です。どうやら手に入れるのは難しいようです。もしかしたらインドの富豪が持っているかもしれません。少し探してみます。もし見つけられませんでしたら、お金は後日お返しします』


 月日は経ち、中国の船が来たとの連絡を受け、小野は馬を走らせた。

 右大臣阿部は一刻も早く届いたものを知りたかったので、速い馬を貸し出した。

 箱と手紙が届けられた。手紙にはこう書いてあった。


『苦労しましたが、火鼠の皮衣が手に入りました。めったにない品物です。その昔、婆羅多(バーラタ)のお坊さんが我が国に持ってきたようです。西の方のお寺に保存されていたものを買い取ってきました。少しお金が足りなかったので、こちらで立て替えておきました。その分は、こちらに帰る船の誰かに渡しておいて下さい。もし必要で無くなったのであれば、返品して下さって結構です』


 これを見て右大臣阿部は「何を仰る。お金ならいくらでも払いますよ。私は大変嬉しい」と中国の方を向いて感謝を捧げた。


 さて、火鼠の皮衣が入っているという箱を見てみると、様々な色の宝石で彩られた作りである。箱を開け皮衣を取り出す。深い紺色だった。それぞれの毛先は金色にきらきらと輝いている。


 右大臣阿部は「これは素晴らしい宝だ」と思った。これに及ぶ美しいものを彼は見たことが無かった。火をつけても燃えないということだったが、見た目だけでもその珍しさが分かる品物だった。


 右大臣阿部は「なるほど、これほど素晴らしい物であるならば、かぐや姫が欲しがるのも分かる。あぁ、これは良いものだなぁ」と言って丁寧に箱に仕舞った。


 かぐや姫の家の門まで来ると、翁が箱を受けとりかぐや姫に見せた。


「美しい皮でできたものですね。でも、これが本物の皮衣だとは限りませんわ」


 翁は「まぁとにかく客間にでもあがってもらいましょう。見たこともない皮衣です。一応本物だと思って扱いましょう」と言って、門まで行って右大臣阿部を中へ招き入れた。


「火鼠の皮衣というものは、火にかけても焼けないと聞きます。もしこの箱に入っているものがそうでしたら、私は右大臣と結婚いたしましょう。お爺さんは『本物だと思って扱いましょう』と言いました。ならば焼いてみることも問題はないでしょう」


 翁は「その通りだ。右大臣に許可をもらってくる」と彼に訊きにいった。

 右大臣阿部は「私は中国にもないと言われたものを、苦労して手に入れたのです。何の疑いも持っていません」と自信満々に答えた。


 そして皮衣は火にかけられた。それはもうめらめらとよく燃えた。


 「やはり、偽物でしたか」と翁が冷たく呟いた。右大臣阿部は顔を青くするばかりだった。かぐや姫は「あぁ嬉しいわ」と喜んだ。



 大納言大伴御行は竜の首の珠を頼まれた人だ。

 彼は早速屋敷中の人間を集めた。


「竜の首には五色に輝く珠があると聞く。それを持ってきたものには、どんな褒美も与えてやろう」


 家来たちはそれを聞いてざわざわ口々に言い合った。


「仰る通りに探してみようと思いますが、竜の首にある珠なんて、どうやって探せばいいのでしょうか。とても難しいことですよ」


 大納言は苛立たしげに「お前たちは私に仕えているのだろう。家来というものは、例え命を捨ててでも、主君の願いを叶えようとするものである。竜は日本にいない訳ではない。我が国でも海や山で目撃されたという話は聞く。決して中華や婆羅多(バーラタ)にのみ住んでいるものではないのだ。やれないことはないと思うが」


 こう聞いて家来たちは「やってみましょう。例え難しいことですが、仰る通りに出発いたします」と宣言をした。大納言は大いに満足した。


「そうだ、お前たちは勇敢だと評判の、大伴家の家来なのだ。立派に主君の望みを果たしてくれ」


 大納言は衣類や食料、資金などを屋敷にある限りたっぷり与えて出発させた。


「私だってただ待っているだけではないぞ。身を清めて家に篭り、神様に祈りを捧げて毎日を過ごそうと思う。お前達、竜の首の珠を得るまでは決して帰ってくるではないぞ」


 家来たちは準備ができた者から出て行った。ところが「『珠を得るまでは帰るな』って言われたら、逆にやる気を無くすなぁ。あるかどうか分からない物を探させるなんて、全く我が主人も物好きだよ」などと言って、好き勝手なことをし始めた。


 ある者は自分の家でのんびり過ごし、またある者はずっと前から行きたかったところへ旅行に向かった。


「本当に、俺達の主君はムチャクチャを言うね」


 大納言の悪口を言いあった。大納言は人徳が無かったのである……まあ、こんな言い方をすれば誰だって労働意欲が湧かなくなるものだが。


 さて大納言の方はというと、「かぐや姫と結婚するとなれば、この家も豪華にしておかねばならんな」などと言い出し、職人達を呼び集めた。

 家を建て直し、きれいに塗った壁に金色や銀色で描いた絵をかけ、屋根を花で飾り、室内にも美しい模様の上質な布を張った。

 かぐや姫を迎える準備をしながら、大納言は独り暮らした。


 しかし、いくら待っても、家来達は戻ってこない。まあ、当然である。家来達は好き勝手やっていて、竜の首の珠の捜索など誰もやっていなかったのだから。


 大納言はじれったくなって、部下を二人だけ連れて、こっそり難波の港まで行ってみた。そこで船員を捕まえて訊ねてた。


「つかぬことをお聞きする。大伴の大納言の家来の人たちが、船に乗って竜の元へ行って、殺したあとでその首から珠を取ってきたという話を聞いたことはないか?」


 船員は「面白いことを言う人ですね」と笑った。


「そんなことをするために船を出す人なんていませんよ」


「ふざけた奴だ。我は大伴の大納言であるぞ。我を馬鹿にしやがって。私の弓は竜を殺すほどの腕前だ。こうなったら私自らが出て行って、珠を取ってやる。ぐずぐずしたのろまな家来には任せておけぬ」


 さっそく出航し、さまざまな海を巡った。そして都からかなり離れた筑紫という辺りへ辿り着いた。


 どこから来たのか、風が強く吹いている。あたりは暗くなり、船はがたがた音を立てる。

 よく分からない力が船を海の中へ引きずり込もうとしている。波は高く、次々と襲いかかってくる。雷が煌いた。大納言はオドオドした。


「ひどい状況だ。どうしてこうなったんだ!」


 船乗りは泣き出した。「あっしが今まで海で遭ったなかで最悪ですわ。船が沈まないとしても、雷が落ちて木っ端微塵ですよ。もし運良く神様が助けてくださるとしたら、南の方になんとかたどり着けるかもしれませんが。あぁ、とんだ客を乗せちまった。こんな死に方なんて、馬鹿馬鹿しいや」


 「お前の腕を見こんで私は命を預けているのだ。しっかりしてくれ。情けないことを言わないでくれ」と大納言は叫んだが、胃の中のものを吐きながらだったのでなんとも格好がつかない。


「あっしは神じゃありませんので、もうどうすることも出来やしません。多分これは、大納言様が竜を殺そうとしたことのバチなのではないかと思いますぜ。海も空も荒れているのはきっと竜の仕業です。ここは反省して、お詫びに祈るしかないと思うんです」


 船乗りの提案に大納言は「分かった」と言った。


「海の神様、申し訳ございません。愚かな私は何も考えず、竜を殺そうとしてしまいました。これからは心を入れ替えて、竜の毛一本ほども動かそうとは思いません。許してください」


 大納言は祈りの言葉を、立ちあがって空に叫んだり、跪いて海に呼びかけたりした。効果があったのか、雷は鳴り止んだ。遠くの方で僅かに光るばかりである。風は変わらず激しく吹いていた。


 船乗りは「やはり竜の仕業でしたわ。今の風はさっきよりもずっといい風です。これなら上手く進めそうですぜ」と大納言に言ったが、彼は震えるばかりで何も耳に入らない様子であった。


 数日後、ある浜に辿り着いた。確認してみると明石である。大納言は「南の、よく分からない島に来てしまったようだな」と蹲りながら辺りを眺めた。


 船乗りの連絡によってすぐに役人たちが来たが、大納言は突っ伏したままである。仕方がないので担いで船から降ろし、近くの松林に布を敷いてそこへ運んだ。

 そこでやっと大納言は「ここは南の島ではない」と気づいてよろよろと身を起こした。


 どうやら何かの病気に罹ってしまったらしく、腹と両目が腫れていた。特に瞼のところがひどく、スモモを二つくっ付けたように膨れあがっていた。側にいた役人は、それを見て笑ってしまうのを抑えられなかった。


 大納言は自分が乗るための籠をわざわざ作らせ、それに乗って都の家まで帰った。体調はまだ良くなく、うんうん呻きながらの帰り道であった。


 彼が帰って来たと知り、家来達も戻ってきた。


「私達は竜の首の珠を取ってくることができませんでした。ご自身でも行かれたようですが、ダメだったと聞いています。珠を取ってくることがどんなに難しいかご理解されたと思いまして、これならお叱りは受けますまい、と考えて帰って参りました」


 大納言は起き上がってこう言った。「お前たち、珠をよく持って来なかった。褒めて遣わす。竜はきっと雷の仲間だ。珠を取ろうとしただけでひどい目にあった。もし竜を捕まえていたら、私たちは殺されていただろう。よく捕らえないで帰ってきたなあ」


「恐れ入ります」


「そもそも珠を取って来いなどと頼んだのはかぐや姫である。とんだ大悪党だ。人を殺そうとした悪女なのだからな。あの家に近づくことさえ恐ろしい。お前たちもあの辺りを彷徨くのはやめよ」


 そう言って大納言は家に残っていた僅かな宝物を、竜の首の珠を取ってこなかった家来達にみんなあげてしまった。

 かぐや姫のために新築した家は、屋根が鳥の巣になって古びていった。


「大伴の大納言は、竜の首の珠を取って帰ってきたそうじゃないか」


「違うぜ。両目の上に二人つ珠をつけて戻ってきたけれども、たぶんあれはスモモだ。食べられないけどな」


 世間では笑いの種になった。



 中納言石上麻呂足は自分の家で働いている家来達に向かい「燕が巣を作ったら教えて欲しい」と言った。


 家来達は「どうしてですか」と訊ねた。


「燕が持っているという子安貝を手に入れるためだよ」


 それを聞いて、ある男が進み出て言った。


「私は何回か燕を殺して腹の中をさぐってみたことがあるのですが、何もありませんでした。おそらく体内には持っていないと思われます。しかし子どもを産む際、どこからともなく出すと聞いたことがあります。人間が近づくと隠してしまうという噂もあります」


 またある家来はこう言った。


「ご飯を作るところの建物に、いっぱい燕が来て巣を作っているようです。そこに足場を組んで、観察のために何人か置いてみたらいかがでしょう。燕が子どもを産む時になったら、子安貝を取れば良いのです」


 中納言はその案を採用し、真面目な男達を二十人ほど選んで、足場と共に待機させた。


 彼はまだかまだかという気持ちで、ひっきりなしに屋敷から使いの者を送ったが、そうそう簡単に見つかるものではない。燕達の方も、人がわらわら集まっているので、巣にも帰りづらく、ましてや出産するどころではなかった。


 そんな状況を使いの者が報告すると、「どうしたものか」と中納言は周りの顔を見回した。


 倉津麻呂という倉の管理をしているお爺さんが「よい作戦がありますぞ」と手を挙げた。中納言は倉津麻呂を近くへまねいた。


「まず、今やっている作戦ではダメです。こんなことをしていては、いつになっても子安貝を手に入れることはできませんぞ。あんなにぞろぞろ大勢の人が上ったり下りたりしていては、燕も怖がって寄ってきません。ですから、私の作戦としましては、まず人数を減らします。巣の近くには一人だけを配置するのです。そして上り下りするとき物音を立てないように、籠に乗せて遠くからロープで引っ張ったり緩めたりするのです。という風に、燕が子どもを産んでいる隙に、さっと子安貝を取るのが良いでしょう」


 中納言は倉津麻呂のアドバイスに従い、一人を残して家来を引きあげさせた。倉には一人、離れたところにロープ係を数人置いた。


 ふと疑問に思ったので、中納言は倉のお爺さんに訊ねた。


「ところで燕には子供を産むときに出す前兆みたいなものってあるのかな」


「あります。燕は子どもを産む前に、必ず尻尾を高く上げて七回転するのです。そのときが狙い目です」


 またまた中納言は大喜びして、家来達に知らせを出した。

 中納言は倉津麻呂に褒美を出して礼を述べた。


 そして日が暮れた。中納言は倉まで様子を見に行った。沢山の燕の巣があった。

 倉津麻呂が教えてくれた通り、何羽かが尻尾を高く上げて七回転していた。


 早速籠を吊り上げて探らせるが「ありません」とのこと。

 中納言は苛々して「ええい、探し方が悪いんだ。誰か見つけてくれそうな人はいないか。いないな。ならば私がが自分でやるしかないな」と籠に乗り、例の回転をしている燕のいる巣に手を突っ込んだ。


 平たい感触がしたのでそれを握り「とったぞ。下ろしてくれ!」と燥いだ。


 中納言は「早く下ろせ」と興奮した様子。ロープを握る者たちは焦って操作を間違えたた。そして不運なことに、籠は真っ逆さまに落ちてしまった。


 その場にいた者達は「大変だ」と慌てて地面に叩きつけられた中納言の元に駆けつけた。白目を剥いて意識がない。


 水を飲ませるなどして看病をした結果、中納言は目を覚ました。しかしまだ朦朧としている。


 「中納言殿、大丈夫ですか」と声をかけると、辛うじて声を絞り出した。


「気持ちは少しはっきりしてきたけれども、腰がダメだ。全く感覚がない。私はもう歩けないかもしれない。でも、子安貝を手に入れたんだ。こんなに嬉しいことはない。蝋燭を持ってきてくれ。よく見たい」


 満足そうな顔をして中納言が掌を広げると、握っていたのは燕の乾いた糞だった。


「貝ではなかったのか」


 さてその後の中納言であるが、自分の握っていたのが子安貝ではなかったと知り、悲しみのどん底であった。贈り物をするときに使おうと思っていた綺麗な箱も無駄になり、さらに腰が骨折していたことが分かった。


 彼は自分の子共っぽい行動で身体を壊したことを恥ずかしく思い、人に言えないでいた。ただ「病気になりました」と言って家で寝てばかりいた。気分はますます落ち込んでいく。


 そのうちかぐや姫がうわさを聞きつけてお見舞いに和歌を贈った。


  年を經て浪立ちよらぬすみのえのまつかひなしと聞くはまことか


 中納言はすっかり気が弱っていましたが、なんとか身を起こして、苦しみながらも返事を詠んだ。


  かひはかくありけるものをわびはてゝ死ぬる命をすくひやはせぬ


 最後まで書き終わると、筆を置く間もなく、中納言は息を引き取った。

 これを知ったかぐや姫は、可哀想な気持ちになった。


 今でも赫映は毎年欠かさず中納言石上麻呂足のお墓参りをしているという。



 さてかぐや姫かたち世に似ずめでたきことを、帝聞しめして、内侍中臣のふさ子にの給ふ、「多くの人の身を徒になしてあはざンなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞ」と、「罷りて見て參れ」との給ふ。ふさ子承りてまかれり。竹取の家に畏まりて請じ入れてあへり。嫗に内侍のたまふ、「仰ごとに、かぐや姫の容いうにおはすとなり。能く見て參るべきよしの給はせつるになん參りつる」といへば、「さらばかくと申し侍らん」といひて入りぬ。かぐや姫に、「はやかの御使に對面し給へ」といへば、かぐや姫、「よき容にもあらず。いかでか見ゆべき」といへば、「うたてもの給ふかな。帝の御使をばいかでか疎にせん」といへば、かぐや姫答ふるやう、「帝の召しての給はんことかしこしとも思はず。」といひて、更に見ゆべくもあらず。うめる子のやうにはあれど、いと心恥しげに疎なるやうにいひければ、心のまゝにもえ責めず。嫗、内侍の許にかへり出でて、「口をしくこの幼き者はこはく侍るものにて、對面すまじき」と申す。内侍、「『必ず見奉りて參れ』と、仰事ありつるものを、見奉らではいかでか歸り參らん。國王の仰事を、まさに世に住み給はん人の承り給はではありなんや。いはれぬことなし給ひそ」と、詞はづかしくいひければ、これを聞きて、ましてかぐや姫きくべくもあらず。「國王の仰事を背かばはや殺し給ひてよかし」といふ。この内侍歸り參りて、このよしを奏す。帝聞しめして、「多くの人を殺してける心ぞかし」との給ひて、止みにけれど、猶思しおはしまして、「この女のたばかりにやまけん」と思しめして、竹取の翁を召して仰せたまふ、「汝が持て侍るかぐや姫を奉れ。顔容よしと聞しめして、御使をたびしかど、かひなく見えずなりにけり。かくたい\〃/しくやはならはすべき」と仰せらる。翁畏まりて御返事申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕つかう奉るべくもあらず侍るを、もてわづらひ侍り。さりとも罷りて仰せ給はん」と奏す。是を聞し召して仰せ給ふやう、「などか翁の手におほしたてたらんものを、心に任せざらん。この女もし奉りたるものならば、翁に冠をなどかたばせざらん」翁喜びて家に歸りて、かぐや姫にかたらふやう、「かくなん帝の仰せ給へる。なほやは仕う奉り給はぬ。」といへば、かぐや姫答へて曰く、「もはらさやうの宮仕つかう奉らじと思ふを、強ひて仕う奉らせ給はゞ消え失せなん。御司冠つかう奉りて死ぬばかりなり」翁いらふるやう、「なしたまひそ。官冠も、我子を見奉らでは何にかはせん。さはありともなどか宮仕をし給はざらん。死に給ふやうやはあるべき」といふ。「『なほそらごとか』と、仕う奉らせて死なずやあると見給へ。數多の人の志疎ならざりしを、空しくなしてしこそあれ、昨日今日帝のの給はんことにつかん、人ぎきやさし」といへば、翁答へて曰く、「天の下の事はとありともかゝりとも、御命の危きこそ大なるさはりなれ。猶仕う奉るまじきことを參りて申さん」とて、參りて申すやう、「仰の事のかしこさに、かの童を參らせんとて仕う奉れば、『宮仕に出したてなば死ぬべし』とまをす。造麿が手にうませたる子にてもあらず、昔山にて見つけたる。かゝれば心ばせも世の人に似ずぞ侍る」と奏せさす。 帝おほせ給はく、「造麿が家は山本近かンなり。御狩の行幸し給はんやうにて見てんや」とのたまはす。造麿が申すやう、「いとよきことなり。何か心もなくて侍らんに、ふと行幸して御覽ぜられなん」と奏すれば、帝俄に日を定めて、御狩にいで給ひて、かぐや姫の家に入り給ひて見給ふに、光滿ちてけうらにて居たる人あり。「これならん」とおぼして、近くよらせ給ふに、逃げて入る、袖を捕へ給へば、おもてをふたぎて候へど、初よく御覽じつれば、類なくおぼえさせ給ひて、「許さじとす」とて率ておはしまさんとするに、かぐや姫答へて奏す、「おのが身はこの國に生れて侍らばこそ仕へ給はめ、いとゐておはし難くや侍らん」と奏す。帝「などかさあらん。猶率ておはしまさん」とて、御輿を寄せたまふに、このかぐや姫きと影になりぬ。「はかなく、口をし」とおぼして、「げにたゞ人にはあらざりけり」とおぼして、「さらば御供には率ていかじ。もとの御かたちとなり給ひね。それを見てだに歸りなん」と仰せらるれば、かぐや姫もとのかたちになりぬ。帝なほめでたく思し召さるゝことせきとめがたし。かく見せつる造麿を悦びたまふ。さて仕うまつる百官の人々に、あるじいかめしう仕う奉る。帝かぐや姫を留めて歸り給はんことを、飽かず口をしくおぼしけれど、たましひを留めたる心地してなん歸らせ給ひける。御おん輿に奉りて後に、かぐや姫に、


  かへるさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ


 御返事を、


  葎はふ下にもとしは經ぬる身のなにかはたまのうてなをもみむ


 これを帝御覽じて、いとゞ歸り給はんそらもなくおぼさる。御心は更に立ち歸るべくもおぼされざりけれど、さりとて夜を明し給ふべきにもあらねば、歸らせ給ひぬ。常に仕う奉る人を見給ふに、かぐや姫の傍に寄るべくだにあらざりけり。「こと人よりはけうらなり」とおぼしける人の、かれに思しあはすれば人にもあらず。かぐや姫のみ御心にかゝりて、たゞ一人過したまふ。よしなくて御方々にもわたり給はず、かぐや姫の御許にぞ御文を書きて通はさせ給ふ。御返事さすがに憎からず聞えかはし給ひて、おもしろき木草につけても、御歌を詠みてつかはす。


      ――『竹取物語』帝の懸想(古谷知新校訂 國民文庫 同刊行會 初版一九一〇年)――



<三人称全知視点>


 かぐや姫の美しさは、大倭秋津洲の最高権力者である神帝の耳にも入った。

 神帝は側近のふさ子に「いろんな人が身を滅ぼすほど恋焦がれたかぐや姫はどんな女なのだろうか。ちょっとその目で見てきてくれないか」と頼んだ。


 ふさ子はかぐや姫の家を訪れた。翁の妻である媼が出迎えた。


「かぐや姫はとても美しいという噂です。帝が気にしてらしたので、私が代わりに見に来たという訳です」


「そうなんですか。では、ちょっとお待ちくださいね」


 嫗はかぐや姫に部屋から出てくるように言った。しかしかぐや姫は「私は全然綺麗じゃありませんわ。お目にかかるなんて、恥ずかしい」と気の進まない様子だ。


「そうは言ってもね、帝の使いの方なんですから。このまま帰れとも言えないでしょう」


「帝なんて、私、怖くもなんともないわ」


 嫗はかぐや姫のことを思うと強気になることもできず、ふさ子のところへ戻ってきた。


「すみません。お会いできそうにないです」


 これを聞いてふさ子は強い調子で言った。


「見て来いと言われて私はここまで参ったのです。どうしてこのまま帰ることができるでしょうか。帝はこの国の王様のようなお方ですよ。貴女方はこの国に住んでいるのでしょう。平和に暮らせているのは、誰のお蔭だと思っているのですか!」


 とても激しくどなっていたので、かぐや姫の部屋まで声は届いた。


 「そんなに見たいのなら、殺してからひきずりだせばよろしいのですわ」誰に言うでもなく彼女は呟いた。


 結局ふさ子はこのまま帰り、神帝に報告をした。


「そうか、仕方がない。深入りすると今までの人々のように命を落としかねないし。諦めようか」


 そう言って一旦は納得したが、時間が経つと、やはりまた気になってくる。

 「悪女だとしても、私は負けんぞ」と思って翁を呼び出した。


「お前の家のかぐや姫を、私の近くに仕えさせたい。使者を送ったが、その甲斐なくただ帰ってきただけだ。どういう風に育てたら、私、神帝の命令を断るようになるのだ」


 翁は背筋を正して答えた。


「わが娘は、とても帝のお側にいられるような性格ではありません。我儘で、やんちゃで、私も妻も困っているほどです。しかし、折角のお話なのですから、帰ってまた私から話してみましょう」


「頼むぞ。もし仕えることになったのなら、お前にすごい地位を与えてやろう」


 翁は喜んで家に帰り、かぐや姫に言った。


「こんな風に帝が仰ってくださったのだ。どうしてもお仕えする気にはなれないか」


「もしそうなったとしても、私はきっと逃げ出してしまうでしょう。そんなに位が欲しいのですか。それならば、私はお仕えしますけど、すぐに消えるか死ぬかしますわ」


 かぐや姫の真剣な目つきに、翁は慌てた。


「そんなことを言わないでくれ。たとえ立派な地位を頂いたとしても、自分の娘を失っては、生きる意味がない。そこまでして、位など欲しくはないのだ」


 翁は必死に否定した……が、内心では聞き分けのないかぐや姫に苛立ちを感じていた。


「それにしても、どうしてそんなに嫌がるのだ。死ぬような苦しみを味わう仕事でもないだろうに」


「そもそも男の方のそばにいるというのが、いやなのです。これまで沢山の人のご好意を断ってきたので、それはお分かりでしょう」


「それは、そうだが」


「それに、帝のお話はついこの間持ちかけられたばかり。ここで『はい帝ならば喜んで』とほいほい行ってしまっては、今までのお方に申し訳がありません。恥ずかしさで、私は死ぬより苦しむでしょう」


「分かった。私としては、貴女が生きていることが一番なのだ。世間にはどう言われても構わない。帝にお断りしに行ってくる」


 翁は神帝の元に参上してこう述べた。


「仰せのままに、わが娘を説得しようと色々手を尽くしましたが、『お仕えしたら私はきっと死ぬ』とのこと。そもそも彼女は、私が竹の中から見つけた女の子。普通の人とは考え方が違うことをお許しください」


 神帝はウムとうなった。


「そこまで言うなら仕方がない。それでは別の頼みごとをしてもよろしいか」


「なんでしょう」


「お前の家は山のふもとだったな。そのあたりで狩りをするふりをして、ちらっとかぐや姫の姿を見てみたいのだが」


「仰せの通りに」


 翁は頷いた。


「あの娘がぼーっとしている時にでもいらっしゃったらよいでしょう」


 二人はその場で、細かいところまで相談をした。


 後日、神帝は計画通り外出し、家の近くまでやって来た。

 門のところからちらっと覗くと、身体中から光が溢れているような、大変美しい人が座っていた。


 「あの人に違いない」と神帝は気分が高まって、かぐや姫に近づいた。無論、かぐや姫は逃げる。袖を捕まえたが、顔だけはしっかり隠してじっとしている。


「放しはしない」


 神帝はすっかり興奮して、連れて帰ろうとぐいぐい引っ張った。かぐや姫は抵抗する。


「私はこの国に生まれた人間ではありません。ご一緒できませんわ」


 神帝にはそんな言葉も耳に入らない様子で、「おい、乗り物を持ってこい」と家来に言ったりなどしている。

 ここでふと、かぐや姫の姿が消えてしまった。


 着物を掴んでいた筈なのに、急に目の前からいなくなったので、神帝はびっくりした。

 「やはりただものではなかった」となぜか感心している。


 そして頭が冷えたようで「悪いことをした。もう連れて帰ろうとは思わない。どうか最後にまた姿を現してくれないか。ひと目見たらすぐ帰る」と辺りに呼びかけた。かぐや姫は再び現れた。


 神帝は翁にお礼を述べて帰った。

 帰り道で神帝は和歌を詠んだ。かぐや姫を残してきたことが名残惜しかってたのだろう。


  かへるさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ


 かぐや姫も返事の和歌を詠んだ。


  葎はふ下にもとしは經ぬる身のなにかはたまのうてなをもみむ


 これを読んで神帝は一層恋の炎が燃え上がった。

 このまま帰りたくないと思うけれども、お供が沢山いるので、そんな我儘も言っていられない。大人しく宮中に帰った。


 さて、普段神帝の周りにいる女性達は美人ばかりの筈であるが、あらためて見てみるとかぐや姫の美しさには到底及ばない。

 神帝はかぐや姫のことばかりを考えて毎日を過ごした。何度か手紙のやり取りもした。



 かやうにて、御心を互に慰め給ふほどに、三年ばかりありて、春の初より、かぐや姫月のおもしろう出でたるを見て、常よりも物思ひたるさまなり。ある人の「月の顔見るは忌むこと」ゝ制しけれども、ともすればひとまには月を見ていみじく泣き給ふ。七月のもちの月にいで居て、切に物思へるけしきなり。近く使はるゝ人々、竹取の翁に告げていはく、「かぐや姫例も月をあはれがり給ひけれども、この頃となりてはたゞ事にも侍らざンめり。いみじく思し歎くことあるべし。よく\/見奉らせ給へ」といふを聞きて、かぐや姫にいふやう、「なでふ心ちすれば、かく物を思ひたるさまにて月を見給ふぞ。うましき世に」といふ。かぐや姫、「月を見れば世の中こゝろぼそくあはれに侍り。なでふ物をか歎き侍るべき」といふ。かぐや姫のある所に至りて見れば、なほ物思へるけしきなり。これを見て、「あが佛何事を思ひ給ふぞ。思すらんこと何事ぞ」といへば、「思ふこともなし。物なん心細く覺ゆる」といへば、翁、「月な見給ひそ。これを見給へば物思すけしきはあるぞ」といへば、「いかでか月を見ずにはあらん」とて、なほ月出づれば、いで居つゝ歎き思へり。夕暗には物思はぬ氣色なり。月の程になりぬれば、猶時々はうち歎きなきなどす。是をつかふものども、「猶物思すことあるべし」とさゝやけど、親を始めて何事とも知らず。八月十五日ばかりの月にいで居て、かぐや姫いといたく泣き給ふ。人めも今はつゝみ給はず泣き給ふ。これを見て、親どもゝ「何事ぞ」と問ひさわぐ。かぐや姫なく\/いふ、「さき\/も申さんと思ひしかども、『かならず心惑はし給はんものぞ』と思ひて、今まで過し侍りつるなり。『さのみやは』とてうち出で侍りぬるぞ。おのが身はこの國の人にもあらず、月の都の人なり。それを昔の契なりけるによりてなん、この世界にはまうで來りける。今は歸るべきになりにければ、この月の十五日に、かのもとの國より迎に人々まうでこんず。さらずまかりぬべければ、思し歎かんが悲しきことを、この春より思ひ歎き侍るなり」といひて、いみじく泣く。翁「こはなでふことをの給ふぞ。竹の中より見つけきこえたりしかど、菜種の大さおはせしを、我丈たち並ぶまで養ひ奉りたる我子を、何人か迎へ聞えん。まさに許さんや」といひて、「我こそ死なめ」とて、泣きのゝしることいと堪へがたげなり。かぐや姫のいはく、「月の都の人にて父母あり。片時の間とてかの國よりまうでこしかども、かくこの國には數多の年を經ぬるになんありける。かの國の父母の事もおぼえず。こゝにはかく久しく遊び聞えてならひ奉れり。いみじからん心地もせず、悲しくのみなんある。されど己が心ならず罷りなんとする」といひて、諸共にいみじう泣く。つかはるゝ人々も年頃ならひて、立ち別れなんことを、心ばへなどあてやかに美しかりつることを見ならひて、戀しからんことの堪へがたく、湯水も飮まれず、同じ心に歎しがりけり。この事を帝きこしめして、竹取が家に御使つかはさせ給ふ。御使に竹取いで逢ひて、泣くこと限なし。この事を歎くに、髪も白く腰も屈り目もたゞれにけり。翁今年は五十許なりけれども、「物思には片時になん老になりにける」と見ゆ。御使仰事とて翁にいはく、「いと心苦しく物思ふなるは、誠にか」と仰せ給ふ。竹取なく\/申す、「このもちになん、月の都よりかぐや姫の迎にまうでくなる。たふとく問はせ給ふ。このもちには人々たまはりて、月の都の人まうで來ば捕へさせん」と申す。御使かへり參りて、翁のありさま申して、奏しつる事ども申すを聞し召しての給ふ、「一目見給ひし御心にだに忘れ給はぬに、明暮見馴れたるかぐや姫をやりてはいかゞ思ふべき」かの十五日司々に仰せて、勅使には少將高野大國といふ人をさして、六衞のつかさ合せて、二千人の人を竹取が家につかはす。 家に罷りて築地の上に千人、屋の上に千人、家の人々いと多かりけるに合はせて、あける隙もなく守らす。この守る人々も弓矢を帶して居り。母屋の内には女どもを番にすゑて守らす。嫗塗籠の内にかぐや姫を抱きて居り。翁も塗籠の戸をさして戸口に居り。翁のいはく、「かばかり守る所に、天の人にもまけんや。」といひて、屋の上に居る人々に曰く、「つゆも物空にかけらばふと射殺し給へ」守る人々のいはく、「かばかりして守る所に、蝙蝠一つだにあらば、まづ射殺して外にさらさんと思ひ侍る」といふ。翁これを聞きて、たのもしがり居り。これを聞きてかぐや姫は、「鎖し籠めて守り戰ふべきしたくみをしたりとも、あの國の人をえ戰はぬなり。弓矢して射られじ。かくさしこめてありとも、かの國の人こば皆あきなんとす。相戰はんとすとも、かの國の人來なば、猛き心つかふ人よもあらじ」翁のいふやう、「御迎へにこん人をば、長き爪して眼をつかみつぶさん。さが髪をとりてかなぐり落さん。さが尻をかき出でて、こゝらのおほやけ人に見せて耻見せん」と腹だちをり。かぐや姫いはく、「聲高になの給ひそ。屋の上に居る人どもの聞くに、いとまさなし。いますかりつる志どもを、思ひも知らで罷りなんずることの口をしう侍りけり。『長き契のなかりければ、程なく罷りぬべきなンめり』と思ふが悲しく侍るなり。親たちのかへりみをいさゝかだに仕う奉らで、罷らん道も安くもあるまじきに、月頃もいで居て、今年ばかりの暇を申しつれど、更に許されぬによりてなんかく思ひ歎き侍る。御心をのみ惑はして去りなんことの、悲しく堪へがたく侍るなり。かの都の人はいとけうらにて、老いもせずなん。思ふこともなく侍るなり。さる所へまからんずるもいみじくも侍らず。老い衰へ給へるさまを見奉らざらんこそ戀しからめ」といひて泣く。翁、「胸痛きことなしたまひそ。麗しき姿したる使にもさはらじ」とねたみをり。かゝる程に宵うちすぎて、子の時ばかりに、家のあたり晝のあかさにも過ぎて光りたり。望月のあかさを十合せたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人雲に乘りておりきて、地より五尺ばかりあがりたる程に立ち連ねたり。これを見て、内外なる人の心ども、物におそはるゝやうにて、相戰はん心もなかりけり。辛うじて思ひ起して、弓矢をとりたてんとすれども、手に力もなくなりて、痿え屈りたる中に、心さかしき者、ねんじて射んとすれども、外ざまへいきければ、あれも戰はで、心地たゞしれにしれて守りあへり。立てる人どもは、裝束の清らなること物にも似ず。飛車一つ具したり。羅蓋さしたり。その中に王とおぼしき人、「家に造麿まうでこ」といふに、猛く思ひつる造麿も、物に醉ひたる心ちしてうつぶしに伏せり。いはく、「汝をさなき人、聊なる功徳を翁つくりけるによりて、汝が助にとて片時の程とて降しゝを、そこらの年頃そこらの金賜ひて、身をかへたるが如くなりにたり。かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきおのれが許にしばしおはしつるなり。罪のかぎりはてぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き歎く、あたはぬことなり。はや返し奉れ」といふ。翁答へて申す、「かぐや姫を養ひ奉ること二十年あまりになりぬ。片時との給ふに怪しくなり侍りぬ。また他處にかぐや姫と申す人ぞおはしますらん」といふ。「こゝにおはするかぐや姫は、重き病をし給へばえ出でおはしますまじ」と申せば、その返事はなくて、屋の上に飛車をよせて、「いざかぐや姫、穢き所にいかでか久しくおはせん」といふ。立て籠めたる所の戸即たゞあきにあきぬ。格子どもゝ人はなくして開きぬ。嫗抱きて居たるかぐや姫外にいでぬ。えとゞむまじければ、たゞさし仰ぎて泣きをり。 竹取心惑ひて泣き伏せる所に寄りて、かぐや姫いふ、「こゝにも心にもあらでかくまかるに、昇らんをだに見送り給へ」といへども、「何しに悲しきに見送り奉らん。我をばいかにせよとて、棄てゝは昇り給ふぞ。具して率ておはせね」と、泣きて伏せれば、御心惑ひぬ。「文を書きおきてまからん。戀しからんをり\/、とり出でて見給へ」とて、うち泣きて書くことばは、「この國に生れぬるとならば、歎かせ奉らぬ程まで侍るべきを、侍らで過ぎ別れぬること、返す\〃/本意なくこそ覺え侍れ。脱ぎおく衣をかたみと見給へ。月の出でたらん夜は見おこせ給へ。見すて奉りてまかる空よりもおちぬべき心ちす。」と、かきおく。天人の中にもたせたる箱あり。天の羽衣入れり。又あるは不死の藥入れり。ひとりの天人いふ、「壺なる御藥たてまつれ。きたなき所のもの食しめしたれば、御心地あしからんものぞ」とて、持てよりたれば、聊甞め給ひて、少しかたみとて、脱ぎおく衣に包まんとすれば、ある天人つゝませず、御衣をとり出でてきせんとす。その時にかぐや姫「しばし待て」といひて、「衣着つる人は心ことになるなり。物一言いひおくべき事あり」といひて文かく。天人「おそし」と心もとながり給ふ。かぐや姫「物知らぬことなの給ひそ」とて、いみじく靜かにおほやけに御文奉り給ふ。あわてぬさまなり。「かく數多の人をたまひて留めさせ給へど、許さぬ迎まうできて、とり率て罷りぬれば、口をしく悲しきこと、宮仕つかう奉らずなりぬるも、かくわづらはしき身にて侍れば、心得ずおぼしめしつらめども、心強く承らずなりにしこと、なめげなるものに思し召し止められぬるなん、心にとまり侍りぬる」とて、


  今はとて天のはごろもきるをりぞ君をあはれとおもひいでぬる


 とて、壺の藥そへて、頭中將を呼び寄せて奉らす。中將に天人とりて傳ふ。中將とりつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし悲しと思しつる事も失せぬ。この衣着つる人は物思もなくなりにければ、車に乘りて百人許天人具して昇りぬ。その後翁・嫗、血の涙を流して惑へどかひなし。あの書きおきし文を讀みて聞かせけれど、「何せんにか命も惜しからん。誰が爲にか何事もようもなし。」とて、藥もくはず、やがておきもあがらず病みふせり。中將人々引具して歸り參りて、かぐや姫をえ戰ひ留めずなりぬる事をこま\〃/と奏す。藥の壺に御文そへて參らす。展げて御覽じて、いたく哀れがらせ給ひて、物もきこしめさず、御遊等などもなかりけり。大臣・上達部を召して、「何の山か天に近き」ととはせ給ふに、或人奏す、「駿河の國にある山なん、この都も近く天も近く侍る。」と奏す。是をきかせ給ひて、


  あふことも涙にうかぶわが身にはしなぬくすりも何にかはせむ


 かの奉る不死の藥の壺に、御文具して御使に賜はす。勅使には調岩笠といふ人を召して、駿河の國にあンなる山の巓にもて行くべきよし仰せ給ふ。峰にてすべきやう教へさせたもふ。御文・不死の藥の壺ならべて、火をつけてもやすべきよし仰せ給ふ。そのよし承りて、兵士どもあまた具して山へ登りけるよりなん、その山をふしの山とは名づけゝる。その煙いまだ雲の中へたち昇るとぞいひ傳へたる。


      ――『竹取物語』かぐや姫の昇天(古谷知新校訂 國民文庫 同刊行會 初版一九一〇年)――



<三人称全知視点>


 神帝とかぐや姫の文通は三年ほど続いた。


 春の初めの頃から、かぐや姫が月を見ながら何かを考えているような顔をすることが多くなった。


 お付きの人が「あんまり月を眺めていると、良くないことが起きますよ」と忠告したが、誰からも隠れて、そうして月を見て泣いている、ということもあった。

 満月の時などは特に深刻そうな表情をするのであった。お付きの人々は心配して翁に相談した。


「かぐや姫はふだんから月を眺めることがあったのですが、このごろは何か様子がおかしいです。なにか心配ごとがあるのかもしれません」


 そうは言われてもよく分からないので、翁は直接訊ねてみることにした。


「どんな気持ちで、何に悩んで、そんなに月をじっと見つめているのか。生活に不安がある訳ではないだろう」


「別に理由はありませんわ。月を見ていますと、なんだかこの世に生きているのが不思議に感じられるだけです。悩みなど、ございません」


 こうは言ったものの、かぐや姫は何かを隠している様子だったので、翁は粘り強くそれを聞き出そうとしたが、中々はっきりした答えをしてくれない。焦ったくなり「もう、月を見てはダメだ。そうしたなら、訳も分からず悲しい気持ちになることも無くなるから」と強く言った。


「そうは言いましても、自然と目に入ってしまうものですから……」


 かぐや姫は言い訳するように言った。


 結局、月が出るとそれを見て涙を光らせるのはやめさせることができなかった。お付きの人たちの間にも心配が広がっていく。親ですら涙の理由は分からないまま、日は過ぎていった。


 秋の十五夜という月が大変大きく、また美しく見える夜が近づいてきた。


 かぐや姫は外へ出て、もはや人目を気にすることなく思う存分泣いている。家中の者が「何事だ」と騒ぎ始める。かぐや姫がとうとう口を開いた。


「前から話そう、話してしまおう、と思っていたのですが、きっとたいへん驚かれるだろうと心配で、黙っていたことがあります。隠したままで日々を過ごすのはもう限界です」


 「どういうことだ」と翁が聞く。


「実は、私はこの国の者ではないのです。月から来た人間なのです。前世であることをしてしまったので、今回はこの世界に生まれることになりました。そして今、帰らなければいけない時が来ました。十五夜に、その国から私を迎えに人々が訪れます。これはどうしようもないことなので、私はとても悲しいのです。それを、今年の春のころからずっと悩んでいました」


 言い終えると、かぐや姫はさらに激しく涙を流した。


「これは一体……そんな話は信じられない。竹の中から種のような大きさの貴女を見つけてから、私達夫婦は今まで、こんなに立派になるまで育ててきたのだ。それを今さら迎えに来る人がいるとは。許せない」


 翁も涙を流して怒りを顕わにした。かぐや姫は更に話を続ける。


「月の都にもきっと、私の両親のような人がいるのだと思いますが、全く記憶にございません。私はこの国に長く楽しく暮らすことができました。迎えが来るとわかっても、ちっとも嬉しくありません。悲しいばかりです。でも私の気持ちに関わらず、戻らねばならないのですわ」


 かぐや姫は地上に堕とされるまでの記憶を完全に取り戻せた訳ではなかった。だが、朧げに「月の世界では青き星に憧れる」という禁忌を犯して落とされたということだけは分かっていた。


 かぐや姫、翁、媼は抱き合って泣いた。家に使えている者達もかぐや姫を小さい頃からよく知っているので、同じように悔しがって泣いた。


 十五夜が近づく中、媼はかぐや姫を連れ出した。媼はかぐや姫が翁を悲しませまいと望まぬ都での暮らしを続けてきたことを知っていた。

 もし、これが最後になるならば……と思いたくは無かったが、例えそうだとしても悔いが残らぬようにとかつて暮らした里山に連れていったのである。


 しかし、そこでかぐや姫が見たのは妻子と共に楽しそうに笑う禎丸の姿。

 見違える美しさになったかぐや姫に声を掛けようとする禎丸だったが、失恋の衝撃に耐えられなくなったかぐや姫は立ち去ってしまった。



 噂は神帝にも伝わり、すぐにかぐや姫の家へ使いを送った。

 使者は悲しみのあまり髭がすっかり白くなり、腰も曲がり、たいそう老いた翁に会った。涙の跡がくっきり残っている。


 「なにか、ひどく悩んでいることがあると伺ったのですが、本当ですか」と訊ねた。


「はい。次の十五夜の時に、月の都からかぐや姫の迎えが来るようなのです。それが残念で、悔しくて、泣いておりました。とても失礼なお願いだとは思いますが、どうか帝のところから兵士を寄越して頂き、そいつらを捕らえては頂けないでしょうか」


 翁は涙を流しながら頭を下げた。使者がその様子と言葉を伝えると、神帝は真面目な表情でこう言った。


「たった一目見ただけの私ですらかぐや姫のことを忘れることができないのだ。かぐや姫と長年暮らしてきた翁の悲しみは相当なものだろう」


 十五夜になった。神帝は高野大国に命令して、かぐや姫の家を守らせた。軍隊は二千名ほどである。周りの塀に千名、屋根の上に千名を配置した。

 かぐや姫の家の使用人達も武器を持ち、がっちり守りを固めた。かぐや姫は厚い壁の部屋に、嫗と一緒に座っていた。


 翁は安心して外で腕を組んでいる。「これだけの守りだ。決して天から攻めてくる人にも負けないだろう」

 屋根の上にいる人とは「何かが見えたら、すぐ矢を撃ってくださいね」「蝙蝠一匹でも逃がしはしません」と会話を交わした。翁は満足そうに笑った。


 しかし、かぐや姫は喜ぶどころか溜息をついた。


「しっかり守って戦おうとしても、むこうの人々とは戦うことすらできないでしょう。弓矢だって役には立ちません。どんなに守りを固くしていても、あの人たちは容易く開けてしまうでしょう。どんなに戦う勇敢な心を持っていたとしても、月の人たちが目の前に現れたなら、戦う気持ちがすっかり消えてしまうでしょう」


 翁はその言葉に答えてこう言った。


「私はやるぞ。月のやつらの目を爪で突いてやる。髪を掴んででふりまわしてやる。尻を出させて、恥をかかせてやる」


 かぐや姫は暗い顔のまま。


「大きな声を出さないでください。みっともない。私達のお別れの時なのですから」


 かぐや姫は最早地上に未練は残していなかった。

 恋は破れ、愛していた里山での生活も奪われた。翁の善意に苦しめられ、かぐや姫はもうどうしようも無くなっていた。


「これまで私が頂いた愛情に、とても感謝しております。この世界で長く一緒に暮らすことができない運命だったことが悲しくてなりません。育ててもらった恩返しの、親孝行もできずに去ることになってしまい残念に思います。この数日、月に向かって『どうかあと一年だけここにいさせてください』と願いをかけていたのですが、どうやら叶えられなかったようです。お心を乱したままで帰ることをお許しください」


 翁と媼を愛する気持ちはある。里山で翁と媼と、禎丸達とずっと一緒に暮らしたい、そして大好きな禎丸と結ばれて――。


 しかし、その願いは叶うことがない。もう何もかも遅かった。

 感情がぐちゃぐちゃになる。誰を恨むこともできない。恨む相手は、何もできなかった自分だけ。


 かぐや姫は泣いていた。


「月の都では年を取ることなく、そして何事にも悩むことなく暮らしていけるそうです。でも、そんなところへ行けるのだと知っても、ちっとも嬉しくありません。……私は、お父さまとお母さまと、禎丸と……ずっとずっと一緒に暮らしたかった」


「……姫」


 媼はそんなかぐや姫を複雑な心境で見つめていた。


 翁は「胸を痛めるようなことを言わないでくれ、きっと大丈夫だから」と彼女を慰めた。


 そして、夜が更けた。


 深夜だというのに、家の周りが昼かと思うくらい明るくなった。満月の明るさを十倍にしたくらいの光で、毛穴すら見えそうなほどの明るさ。


 空からぞろぞろと雲に乗った人間が降りてきて、地面からすこし浮き上がったところに整列した。

 これを見た誰もが、訳の分からぬ力で押さえつけられたように、戦う気持ちをすっかり無くしてしまった。


 なんとか「やるぞ」と思い立って弓を構えようとした人もいたが、すぐに手の力が抜けてしまった。

 一番勇敢な兵士がやっとのことで撃つことができたが、全く違う方向へちょっと飛んだだけだった。


 そんな訳で、かぐや姫を守るために集まっていた筈の人々は、ただぼうっとして、お互いの顔を眺めているだけであった。


 月の人達は、見たこともないような清らかな衣装を着ていた。空を飛ぶ乗り物を持ってきており、そこには大切な人を乗せるための飾り付けがしてあった。


 「造麻呂、出てこい」とその中の一人――恐らく彼らの中で最も位が高いと思われる人が言った。

 翁は先ほどまで喧嘩腰だったが、自分の本名を呼ばれ、ふわふわした気持ちでひれ伏した。


「貴様はつまらない人間だが、慎ましく、真面目に生きていたので、かぐや姫を少しの間預けていた。そのおかげで貴様は、別人のように金持ちになれただろう。かぐや姫はこちらの世界で罪を犯してしまったので、暫しの間、この世界に降りてきていたのだ。貧しい貴様のもとへだ。だが、罪を償う期間は今日でおしまいだ。私たちが迎えに来たのだから、貴様がいくら泣き叫んでも無駄だ。さっさとかぐや姫をここへ連れて来い」


 思ってもいなかった話を聞かされ、翁は驚いた。


「私はかぐや姫を二十年間も育ててきました。それを『少しの間』と仰るとはどういうことでしょうか。別のかぐや姫と間違えていらっしゃるのではありませんか」


 言い訳を並べる。


「それに、私のところのかぐや姫は、大変重い病気に罹っておりまして、外出などできる状態ではないのです」


 天の人は翁の言葉を無視して、空飛ぶ乗り物を近くに寄せた。そして「さあ、かぐや姫。こんな汚らしいところから、早く旅立ちましょう」と家に向かって叫んだ。


 その言葉を合図にしたかのように、家中の戸や窓が、次々と開き始めた。誰も手を触れていないのに、全てが開け放たれた状態になった。

 嫗に抱きしめられていたかぐや姫も外へ出てきた。翁はどうしようもなくて、ただ涙を流すばかりであった。


 そんな翁にかぐや姫は声をかける。


「私としても、行きたくて行くのではないのです。同じように悲しい。せめて、お見送りだけでもしてください」


「こんなに悲しいのに、見送りなんて、できる筈もない。どうしてそんなひどいことを言うのか。私も一緒に連れて行ってはくれないか」


 翁が泣く姿を見て、かぐや姫の心は揺れ動いた。


「手紙を置いていきましょう。私を思ってつらいときは、それを眺められるように」


 手紙の内容は、以下のようであった。




 もし私がこの国に生まれていたのであれば、このように悲しませることもなく、ずっとおそばにいられたでしょうに。お別れしてしまうこと、繰り返しになりますが、残念でなりません。私が身につけていたものを置いていきます。形見だと思ってください。月が出た夜は、見上げてください。ああ、両親を置いてゆくなんて、空から落ちるような気分です。




 天の人が持ってきた箱の中には「天の羽衣」という着物と、不死の薬が入っていた。

 ある天の人が「こちらのお薬を舐めてください。汚いところにいてすさんでいた気持ちが、すっきりしますので」と言ってかぐや姫に壺をさし出した。

 かぐや姫はそれを少し舐め、残りは置いていくために脱いだ服に包もうとしたが、止められた。


 天の羽衣を着せられそうになったかぐや姫は「ちょっと待ってください」と言った。「これを着てしまうと、記憶が書き換わってしまうと聞きます。一言書き忘れたことがあります」とまた手紙を書き始めた。


 天の人は「早くしてください」と急かしたが、かぐや姫は「最後なのですから、大目に見てください」と神帝と禎丸に対する文章を静かに、落ち着いた様子で書いた。


 書き終えると壺に入った薬とともに、高野大国へ渡した。

 そしてかぐや姫は天女から天の羽衣を受け取り――。



 天女は信じられないという表情で頽れ、かぐや姫を睨んだ。

 かぐや姫は無表情で天の羽衣を引き裂くと最も位が高いと思われる天人を睨め付ける。


「……どういうつもりだ?」


「ようやく、全てを思い出しました。餅月(もちづき)来迎(らいごう)


「……ほう、思い出したか。面倒なことになったな」


 餅月はかぐや姫――光竹(こうちく)美麗(みれい)の父では勿論ない。彼が美麗の父親から依頼されてかぐや姫を連れ帰りに来た……という訳でも断じてない。そもそも、前提が間違っている。


 かぐや姫は確かに青き星に堕とされることになっていた。青き星に絶望し、不浄の地に憧れなど抱かぬようマインドコントロールをするためにかぐや姫の記憶を消し、かぐや姫の両親は青き星に堕とそうとした。

 しかし、そのタイミングで覇権を狙う餅月一族を始めとする反政権派が大規模なクーデターを起こした。


 彼らのかぐや姫を手に入れるための地球への侵攻の作戦がこのタイミングだったのは光竹一族を根絶やしにして覇権を手に入れるためだろう。

 そして、天の羽衣で完全に記憶を消したかぐや姫の血を取り込み、真の正当な月の支配者として君臨する――それが餅月達の策略だったのだ。


「だが、今更気づいたところで何ができる! 大人しく我らの繁栄の礎となれ! 光竹美麗ッ!!」


「なってたまるかよ! 私の居場所は、もう無いんだ。これ以上奪っていくっていうなら、全てを破壊して居場所を作るだけだ」


 血濡れたかぐや姫を見て「化け物だッ!」と叫ぶ兵士達や怯える翁と媼をかぐや姫は哀しそうに一瞥すると、神境智證通を使って瞬く間に天女や天人達を次々と惨殺し、敵の一人が持っていた竹筒型のビーム砲を手にすると、そこから更に攻撃は苛烈を極めた。


「月を支配だって? それをするのはお前らじゃなくて私だよ。まあ、お前は支配される前に死んじゃうだろうけどな? ざまぁないね」


「――ッ! 粋がるなァ! 光竹の娘ッ!」


 竹筒型のビーム砲と来迎の仙氣を収束して放った一撃が激突するが、竹筒型のビーム砲が来迎を焼き尽くし、跡形もなく消し去る。

 残る月仙達は大慌てで四方八方に散って行ったが、九割はかぐや姫の追撃にあって死滅した。


「ちっ、取り逃したか」


 かぐや姫は不機嫌そうな表情を見せると、満月の光の中へと消えていった。



 朝廷はかぐや姫を化け物である判断し討伐の命令を出した。

 神帝の燃え上がる恋も、かぐや姫の殺戮の恐怖に塗り潰されてしまったようだ。


 翁の家も没落し、また里山で生活を始めた……が、あれほどの贅沢な暮らしをしてきた翁が元の竹取に戻れる訳もなく、数年も経たずに自死、媼もその後を追おうとしたが何者かによって止められて結局命を絶つことはできなかった。


 その後、媼は里山の家を出て行方知れずである。どこぞの月の姫が月に連れて行ったとかなんとか噂話もあるが、きっと気のせいである。


「久しぶりだね、禎丸兄ちゃん」


「……もしかして、かぐやか?」


「うん、そうだよ」


「前にこっちに来た時があっただろう? もしかしてかぐやかと思ったけど、すぐにどっかに行っちまうから。もしかして、見間違いか人違いだと思ったんだけど」


「ごめんなさい、私もあの時ちょっとどうかしていたかも。奥さんと子供さん、元気にしている?」


「もしかして知っていたのか? 二人とも元気だよ!」


「良かった、二人にもよろしく伝えてね」


「おい……俺は」


「言わなくていいよ。私は……実は禎丸兄ちゃんのことが好きだったんだ。でも、それは昔の話だよ。奥さんは好き? 子供は可愛い? 禎丸兄ちゃんが幸せそうで良かった。私、禎丸兄ちゃんが幸せなのが一番だから」


 「それじゃあね」というと、かぐや姫は一瞬にして空へと駆け上がってしまった。


「俺も、俺もかぐやの幸せを願っているから!」


 禎丸はかぐや姫の消えた方向に叫んだ。



<三人称全知視点>


「あの時の月の使者共に比べたらクソ雑魚もいいところだね」


 竹筒型のビーム砲を構え、相対するのは大倭空軍の戦闘機。最新鋭の科学技術を注ぎ込んだ兵器だが、それでも月の科学に比べれば数段遅れている。


 光竹赫映は数年で月を制圧し、その後地上に戻って来た。やはり、あの青き星への未練を捨て切れなかったのだ。

 仙女となった媼とも度々故郷の里山……だった場所を訪れている。


 光竹赫映が光竹財閥を築く以前から大倭朝廷と赫映達月の民は幾度となく敵対し続けて来た。

 だが、ここまで全面的に敵対したことは滅多にない。そして、今後この国と敵対することも無くなるだろう――大倭政府が倒されて以降のこの国は財閥七家のいずれかが支配することになるだろうから。


 赫映率いる月の民の勢力はその後、大倭空軍を制圧した。

 その後、海で大倭海軍を壊滅させた浦島子と目があって大倭秋津洲最終戦争最大の仙人同士の死闘を繰り広げることになる。当然、島子の部下達と赫映の部下達は揃って遠い目をしていた。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


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