Act.5-21 第一回異界のバトルロイヤル 一日目 scene.4 中
<三人称全知視点>
「――魂魄の霸気!」
バルトロメオの背後から無数の剣が出現する。バルトロメオはその一本一本に武装闘気と覇道の霸気を付与すると、ラインヴェルドに向かって放った。
「【慈愛の湧水】、【水流噴射】ッ!」
と同時に、バルトロメオ自身もターン回復の【慈愛の湧水】と応用で水流移動が可能になる【水流噴射】を発動したままラインヴェルドに斬り掛かる。
「おう、そう来なくっちゃな!!」
二人の斬撃がぶつかり合い、周囲に稲妻が疾る。
纏わせた覇道の霸気の衝突――どうやら、ラインヴェルドとバルトロメオの覇道の霸気のレベルは同等のようだ。
「だが、こっちの方が手数は多いぜ!? ――一斉攻撃!!」
バルトロメオの剣が縦横無尽に四方八方からラインヴェルドに迫る。ニヤリと笑ったラインヴェルドは、《蒼穹の門》でバルトロメオの攻撃範囲から脱出し――。
「お前らしい厄介な攻撃手段だな。それじゃあ、奥の手を使わせてもらうぜ! 《支配者の門域》!!」
ラインヴェルドが笑みを浮かべた瞬間、バルトロメオの近くにいつの間にか刺さっていた白い羽の意匠が施されたナイフが光を放ち、放射状に伸びた光が円形の領域を作り出した。更に、その円の領域がすぐ近くにあった別の円と結びつき、その円がラインヴェルドの立つ小高い山にまで一直線に続いていく。
「……兄上、迷ったってのは嘘だろ? 本当はここて準備をしていたんじゃねえのか?」
「さぁな? お前はどっちだと思う? バルトロメオ」
――ラインヴェルドの声は何故かすぐ間隣から聞こえた。
その瞬間、激しい痛みに気づいて視線を落とし、腹部が大きく抉られるように削られたことに気づいた。
ニヤリと笑ったラインヴェルドは、バルトロメオが反撃する間も無く二撃目を放つ。
「――【水流噴射】ッ!」
咄嗟にバルトロメオは手から激流を噴射した……が、ラインヴェルドは笑みを張り付かせたまま姿を消し――。
バルトロメオは背中に痛みを覚えて後ろを振り返ると……。
◆
「……こりゃ、二度は通じないだろうな。まあ、クソ面白かったし良かったんじゃねえか?」
大きく手数を増やしたバルトロメオになんとか勝利したラインヴェルドは、先ほどの戦いを思い返し、「奥の手を見せてしまったものの楽しかったからそれで良し」と呆気なく結論付けた。
バルトロメオと模擬戦をする機会は早々ない。奥の手を見せてしまっても特に問題は無かった。それに奥の手を知られた上で、その奥の手に対策を練ってきたバルトロメオと戦うというのはそれはそれで面白味がある。
自分が強くなっているのなら、相手も強くなっている。相手も強くなっているのなら、自分も強くなっている――時間は平等なのだから、程度に違いはあれども互いに成長するものだ。
そして、その成長の成果を文字通り命の奪い合いをノーリスクで実現する空間の中で楽しむことができる。
全力を尽くした戦いを渇望しているラインヴェルドにとってはこれほど面白い戦場というものはなかなか無かった。
ラインヴェルドは命を賭けた死闘を演じたいが、命を本当に奪い合いたい訳ではないのだ。その矛盾する願いをついでとはいえ叶えてくれたローザには感謝をしても仕切れないでいる。まあ、それを表情に出したり、感謝の気持ちを伝えたりすることは柄じゃないのでしないのだが……。
(……しかし、魔法省と宮廷魔法師団の確執が思わぬところで役に立ったな。今回の問題もそもそもローザが持ち込んでくれた訳だし、その後ろめたさからきっちり本気でぶつかり合える場所を提供してくれた訳だしな。全く、アイツは最高だぜ。俺の求めているものを望んだ以上の形で現実のものにしてくれるからな。……しかも、俺の思う通りに動く奴隷じゃないってのがマジで最高だよな。俺がアイツを利用してやりたいって思っているように、アイツもタダで動く奴じゃない。まさに利用し利用される、対等な関係だろ? 国王の俺にそんなことできる奴はこの世界にそれほど居ねえ! 俺はそういう奴をずっと探し求めていたんだろうな)
ラインヴェルドが本性を明かしている者達も、全員が国王という肩書に怖気付くことなく対等に接してくれる者達ばかりだ。
若干一名、そんな役回りばかりで胃腸炎を発症しそうなナイスミドルもいるが、あれも国王だからと阿ることはなくブチギレる時はブチギレる。まあ、ほとんどの場合は「こいつらに何を言っても仕方ない。私が完璧に動けば問題はない。寧ろ、こいつらが働いた時の方が面倒ごとが増える」と仕事を抱えてしまうため、側からみれば国王達……という名の不良達に弄ばれるパシリ君に見えてしまうのだが。
ローザもアーネストと同じように仕事を抱えるタイプだが、アーネストは「仕事を減らして自分が快適に仕事ができるように」とネガティブ寄りな気持ちで仕事を抱えているのに対し、ローザは仕事中毒者を絵に描いたように、仕事を増やされれば嫌な顔をするものの、休んでいる時まで別の仕事をするという典型的な仕事大好き人間タイプである。
その多くが自分の趣味と直結しているため、仕事と趣味の線引きが曖昧だが、ラインヴェルドが依頼する仕事に関しては多くの場合、趣味的な要素はない純粋な仕事として彼女の中ではカウントされているのだろう。
だが、「あ〜今回も利用されているなぁ」とあからさまな態度で抗議することが多々あるものの、きっちりと仕事をこなしてラインヴェルドに提出してくる辺り、なかなか油断はならない。
たまに自分が利用されているんじゃないか、と感じることもあるくらいだ。ローザを使って自分の理想を現実にさせたつもりが、結果としてローザ側に大きな利益をもたらしていた場合もある。
ラインヴェルドとしては、ローザの求める利益というものが自分の利益と考えるものとほぼピッタリと一致しているため、それ自体には何も思うことはないが、ローザとして対等に心理戦を繰り広げてその上で出し抜きたいと考えている身としては、あまり嬉しい話ではない。
きっと今回の模擬戦も、ローザが快諾したということは何かしらの狙いがあるのだろう。あの少女の本質は商人だ――あれだけビオラ商会から持ち出しを行っているのだから、それ相応の対価が得られるように何らかの仕掛けを施しているんだろう。
「悔しいが、さっぱり分からん。やっぱり、ローザはクソ面白い奴だな!」
ラインヴェルドは猛者を倒すために仕掛けておいたナイフを魂魄の霸気を解くことで解除すると、もうここには用がないと言わんばかりに半分ほどまで探索を終えた「溶岩の海の洞窟」の中へと入っていった。
◆
溶岩島の西側では近衛隊隊長のシモン=グスタフと宮廷魔法師団団長のメリダ=キラウェアが邂逅していた。
「…………これはまた、相性の悪過ぎる方に当たりましたね」
メリダ=キラウェア――【灼熱の雌獅子】や【焔の女帝】、【焔の拳聖】の称号を持つ苛烈極まる型破りな宮廷魔法師団団長。
武術と火魔法を掛け合わせた焔の拳聖技を極めており、区分こそ近距離型のスピードタイプだが、遠距離魔法も使いこなせるなど遠近共に隙はないに等しい。
何より、彼女の属性は溶岩島という地形と相性が良かった。ただでさえ強い上に、地形においても有利となればシモンの勝機はかなり薄まるだろう。
一方、シモン=グスタフは水魔法の使い手であり、レイピアとマン=ゴーシュを組み合わせた突きをメインにした騎士剣術を得意としている。
この火と水という属性の関係は厄介で、大量の水と火であれば相性は良いが、少量の水では火を消化することはできず、焼け石に水のまま終わることや水蒸気爆発を引き起こすこともあり、魔力の総量や魔法使いとしての実力を考えればシモンに水使いとしての勝機は薄い。
「――ごちゃごちゃ言うな。語るなら口ではなく拳で語れ!」
「あぁ……なんでこの国って脳筋のバトルジャンキーしかいないんでしょうね? 私やアーネスト宰相くらいじゃないですか?」
ラインヴェルドやローザ、バルトロメオやディランが聞けば「あの融通の効かない宮廷魔法師団団長と一緒にするな!」と叫ぶだろうが、いないことをいいことに主君達のバトルジャンキーっぷりを嘆き終えると、シモンの双眸がスーッと鋭くなった。
「――アクアリング」
シモンの身体を水のベールが覆った。光属性以外では珍しく治癒が可能な属性の一つである水属性の治癒効果を持つ魔法で、受けた傷を癒す効果がある。
「――タイダルバインド!」
続いてメリダの足元から生まれた水の触手がメリダの身体に絡みつき、拘束する。
「――効かんッ!」
メリダはその水の触手を自身の魔力を炎に変えて放出するだけの最早魔法とすら呼べない力技で焼き尽くした。
「焔獅子の腕! 焔獅子の脚!」
自身の腕に炎を纏わせるオリジナル魔法と、自身の脚に炎を纏わせるオリジナル魔法を同時に発動したメリダがシモンに迫る。
「――アクアトルネード!」
「――効かんッ! マナフィールドッ! 焔獅子の腕」
メリダの魔力が戦場に放出され、赤い光に包まれる。
シモンの手から生み出され、地面に降り立つと同時に巨大化した水の竜巻は赤い光に包まれた戦場で揺らぎ始め、赤い光の中から生まれた大量の炎の腕に殴られて蒸発した。
「…………マナフィールドですね」
アクアリングが揺らぎ、そのまま崩壊してしまったたことを視認し、シモンが冷や汗を拭いながら確信する。
――自身に勝機がなくなったことを。
「マナフィールド」は大気中の魔力を支配し、思い描くように魔力を歪め、望む形に変える「外魔法」の典型的な魔法、或いは魔法技術だ。
「マナフィールド」が発動されると、周囲一帯の魔力が支配下に置かれるため、「マナフィールド」の使用者以外の外部に放出する類の「内魔法」と「外魔法」が使用不能になる。その結果、事前に発動していた魔法も、魔力を使用したものに関しては無効化され、また「マナフィールド」のあらゆる地点から自身の魔法を発動することができるようになる。
更に、自身の魔力ではなく大気中の魔力を使うため、魔法の発動の魔力的制限が解除される――つまり、「マナフィールド」は魔法分野に限定すれば戦場を「マナフィールド」使用者の独壇場にしてしまう破格の魔法なのだ。
「――これで終わりか? 全く、近衛隊隊長が聞いて呆れるな」
「いいえ、予定は少し狂いましたが……問題はありません。Dear my homeland. For my homeland. Allegiance to my homeland. Devote to my homeland.」
四つのオリジナル身体強化魔法を発動し、一度目で魔力操作によって身体能力の底上げと筋力強化を行い、二度目で自己治癒力と耐久力を上昇させ、三度目で敏捷性を上昇させ、四度目で身体のリミッターを外し、限界を越えた力を出す。
「【献身の近衛団長】の本領発揮か?」
「えぇ……本来であれば、この力は我が祖国のために捧げるものでございますが、ここまで追い詰められてしまったのですから仕方ありません。私は国王に仕えているのではなく、我が祖国に仕えているのでございます。……あの国王陛下には忠誠心など湧きますまい」
「それについては同感だな。アイツはクソだ」
「何たる不敬!」と言われても仕方ない態度の二人だが、それがこの国の上層部のデフォルトなのだから、致し方ないだろう。
父の影響を受けたのか、王位継承権第一位のヴェモンハルト王子殿下もクソ野郎だ。
第二王子はヴェモンハルトに比べれば性格も幾分かマシで、腹黒を持ち合わせてこそいるものの仲間に対して向けられる感情は暖かなものだ。兄に続き魔法学園と魔法学院で優秀な成績を収めた後、国王の公務にも協力している戦略学、政治学にも長けた賢王子で、最も精通している薬学の分野では若くして薬学研究棟の所長となり、普段は薬学研究棟に篭って研究をしているほどの優秀な研究者としても知られている。口さがない第一王子派閥の貴族達は『毒薬学博士』な不気味な王子と陰口を叩いているが、実際は「全ての物質は毒にも薬にもなる」を心得ている人物だ。実際に彼が開発した薬や魔法薬というのも数多く存在する。
この二人の王子は国を継ぐ意思があまりないようだ。この国がまともな道を進むためにはまともに育った第三王子が王位を継ぐというプロセスを経る必要があるが、あの父親の息子なのだから腹黒な性格を受け継ぐ可能性は十分にあり得る。まあ、腹芸の一つもできなければ国王などにはなれないのだが。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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